鳴海弦
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実家では暑くなってくると、よく猫が落ちてたりする。少しでもひんやりとした場所を求めて、廊下だったりリビングの床だったり色んなところに警戒心丸投げでぽてっと転がっているのだ。それを見ると、ああ今年も夏が来たんだなぁなんて思うのだけど。
まさか実家以外の場所で、同じような光景を目にするとは思わなかった。落ちているのは猫ではなく、人間なのだけど。
「こんなところで何してるんですか、鳴海隊長」
私は基地の床に落ちているその人に声をかけた。
「あ……あつい……」
それだけ呻いて彼はがくりと脱力した。どうやら私物化している隊長室から購買に行こうとして途中で力尽きたらしい。だるだるの部屋着のまま両手足を投げ出し、全身で廊下の冷たさを味わっている。いつもならこのまま放置するのだけど、ここは応接室にも繋がる廊下で確か今日はこの後メディア関係の来客もあったはず。
隊長のこんな姿を世間に晒すわけには……いや、もうバレてるかもしれないけれど、晒す恥はなるべく少ないほうがいいだろう。
私は鳴海隊長の放り出された腕を掴んで引っ張り上げた。
「ここにいるとほかの人の迷惑になるので移動してください」
「嫌だ。一歩も動きたくない」
「ぐっ、重っ」
今、スーツを着ていないことが心底悔やまれる。さすがの私もスーツの補助なしに成人男性を持ち上げることは不可能だ。鳴海隊長が自発的に動いてくれればそれで済むのだけど、この人はこうと決めたら梃子でも動かない。
じとりと額に汗が滲む。それを拭っている最中も、鳴海隊長は暑さに対してぐちぐちと小言を言うばかりで立ち上がろうとはしなかった。
「アイス食いたい……あとキンキンに冷えたエナドリ……コーラ……」
「もう、だったらさっさと立ち上がってくださいよ!」
言いたいことだけ言って私の言葉は無視するのだから都合のいい耳である。私はほとほと呆れてしまって、やる気も何もなくなってしまった。私の手から解放された隊長の腕が再び床に落ちる。「いてっ」と声がしたけれど、知るもんか。
「……おい、どこへ行く? ボクはまだここにいるぞ。放っておくつもりか?」
「どうぞ好きにしてください。私も暇じゃないんで」
私はくるりと踵を返して来た道を戻った。後ろからはまだ鳴海隊長の声が聞こえていたけれど、何を言ってるかまではわからなかった。
***
しばらくして戻ると、鳴海隊長はまだそこにいた。これ見よがしにごろんと寝返りをして、我が物顔で通路の真ん中を占拠している。
私はそんな彼を上から覗き込んだ。
「まだいたんですね隊長」
「むっ。キミこそまた戻ってきたのか。何度来たってボクはここから動かんからな!」
「いいですよー、別に。動きたくないなら一生そこにいてください」
そう言って、私は持っていたビニール袋から売店で買ってきたアイスを取り出した。おもむろに包装を破り口に咥える。懐かしいソーダの味がする。中にはバニラアイスが詰まっていて、それもまた美味しい。
「んなっ?!」
そんな私の様子を眺めていた鳴海隊長が目を見開いた。「よこせ!」両手が伸びてくるのをひらりと躱わす。
「あげませんよ。これは私のです」
「ぐぬぬ……」
「でもまだここにいくつかあります。ハイパーカップにゴリゴリくん、あとコーラにポテチ」
「キミ、もしかしてボクのために?」
「まさか! これはぜーんぶ私のです」
「ぬぅ……」
「でも、そうですね。もし鳴海隊長が私を捕まえることができたら分けてあげなくもないです」
どうします? と挑発するように言えば、鳴海隊長がむくりと身体を起こした。アイスに釣られず通路に寝転がり続ける可能性もあったけれど、作戦成功。思った以上に鳴海隊長がチョロくて助かる。
ジリ、ジリ。鳴海隊長が獲物に狙いを定めるように距離を詰めてくる。本当に猫みたい。けれど私にそんな余裕もなくなってくる。彼は腐っても第1部隊隊長、スーツを着ていなくても身体能力は当然高い。私は今から、この人から全力で逃げなければならないのだ。
かさりとビニール袋が揺れる。それを合図に私と鳴海隊長の全力追いかけっこが始まった。
ーーそれからどうなったかというと。私は何とか鳴海隊長を隊長室まで移動させることに成功した。けれど力尽きて隊長室の床に倒れ込む羽目になり、見上げた先にはドヤ顔で奪ったアイスとコーラを堪能する鳴海隊長の姿。
それを見て、次回は絶対に長谷川副隊長を呼んでやると私は心に決めたのだった。
まさか実家以外の場所で、同じような光景を目にするとは思わなかった。落ちているのは猫ではなく、人間なのだけど。
「こんなところで何してるんですか、鳴海隊長」
私は基地の床に落ちているその人に声をかけた。
「あ……あつい……」
それだけ呻いて彼はがくりと脱力した。どうやら私物化している隊長室から購買に行こうとして途中で力尽きたらしい。だるだるの部屋着のまま両手足を投げ出し、全身で廊下の冷たさを味わっている。いつもならこのまま放置するのだけど、ここは応接室にも繋がる廊下で確か今日はこの後メディア関係の来客もあったはず。
隊長のこんな姿を世間に晒すわけには……いや、もうバレてるかもしれないけれど、晒す恥はなるべく少ないほうがいいだろう。
私は鳴海隊長の放り出された腕を掴んで引っ張り上げた。
「ここにいるとほかの人の迷惑になるので移動してください」
「嫌だ。一歩も動きたくない」
「ぐっ、重っ」
今、スーツを着ていないことが心底悔やまれる。さすがの私もスーツの補助なしに成人男性を持ち上げることは不可能だ。鳴海隊長が自発的に動いてくれればそれで済むのだけど、この人はこうと決めたら梃子でも動かない。
じとりと額に汗が滲む。それを拭っている最中も、鳴海隊長は暑さに対してぐちぐちと小言を言うばかりで立ち上がろうとはしなかった。
「アイス食いたい……あとキンキンに冷えたエナドリ……コーラ……」
「もう、だったらさっさと立ち上がってくださいよ!」
言いたいことだけ言って私の言葉は無視するのだから都合のいい耳である。私はほとほと呆れてしまって、やる気も何もなくなってしまった。私の手から解放された隊長の腕が再び床に落ちる。「いてっ」と声がしたけれど、知るもんか。
「……おい、どこへ行く? ボクはまだここにいるぞ。放っておくつもりか?」
「どうぞ好きにしてください。私も暇じゃないんで」
私はくるりと踵を返して来た道を戻った。後ろからはまだ鳴海隊長の声が聞こえていたけれど、何を言ってるかまではわからなかった。
***
しばらくして戻ると、鳴海隊長はまだそこにいた。これ見よがしにごろんと寝返りをして、我が物顔で通路の真ん中を占拠している。
私はそんな彼を上から覗き込んだ。
「まだいたんですね隊長」
「むっ。キミこそまた戻ってきたのか。何度来たってボクはここから動かんからな!」
「いいですよー、別に。動きたくないなら一生そこにいてください」
そう言って、私は持っていたビニール袋から売店で買ってきたアイスを取り出した。おもむろに包装を破り口に咥える。懐かしいソーダの味がする。中にはバニラアイスが詰まっていて、それもまた美味しい。
「んなっ?!」
そんな私の様子を眺めていた鳴海隊長が目を見開いた。「よこせ!」両手が伸びてくるのをひらりと躱わす。
「あげませんよ。これは私のです」
「ぐぬぬ……」
「でもまだここにいくつかあります。ハイパーカップにゴリゴリくん、あとコーラにポテチ」
「キミ、もしかしてボクのために?」
「まさか! これはぜーんぶ私のです」
「ぬぅ……」
「でも、そうですね。もし鳴海隊長が私を捕まえることができたら分けてあげなくもないです」
どうします? と挑発するように言えば、鳴海隊長がむくりと身体を起こした。アイスに釣られず通路に寝転がり続ける可能性もあったけれど、作戦成功。思った以上に鳴海隊長がチョロくて助かる。
ジリ、ジリ。鳴海隊長が獲物に狙いを定めるように距離を詰めてくる。本当に猫みたい。けれど私にそんな余裕もなくなってくる。彼は腐っても第1部隊隊長、スーツを着ていなくても身体能力は当然高い。私は今から、この人から全力で逃げなければならないのだ。
かさりとビニール袋が揺れる。それを合図に私と鳴海隊長の全力追いかけっこが始まった。
ーーそれからどうなったかというと。私は何とか鳴海隊長を隊長室まで移動させることに成功した。けれど力尽きて隊長室の床に倒れ込む羽目になり、見上げた先にはドヤ顔で奪ったアイスとコーラを堪能する鳴海隊長の姿。
それを見て、次回は絶対に長谷川副隊長を呼んでやると私は心に決めたのだった。