鳴海弦
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「せいぜいボクの足を引っ張るなよ、後輩」
初めて会ったその日に、彼は私にそう言い放った。
まさに尊大という言葉が服を着て歩いているような人で、第一印象は言わずもがな。せっかく憧れの第1部隊に所属したというのに、こんな人に教えを乞わないといけないだなんて。本当に最悪だ。
「おい、聞いてるのか!」
「は、はい……よろしくお願いします」
私が頭を下げると、彼は付いて来いと言わんばかりに顎をしゃくった。
慌ててその背中を追いかけると私を気遣ってか、周囲からは頑張れだとかどんまいだとかそんな言葉が聞こえてきた。その時の私は、きっと誰よりもかわいそうな新人だった。
第1部隊では新人隊員の教育を先輩隊員がマンツーマンでおこなうことになっていた。ここ第1部隊は隊員ひとりひとりが小隊長クラスの実力を持つエリート集団。そこに所属する優秀な先輩に個人指導してもらえるなんて、なんて贅沢でありがたいことなんだろうと入隊したばかりの頃の私は思っていた。
けど、今は違う。
「……マンツーマンなんて悪しき風習は即刻なくなれぇ」
泥だらけのよれよれになりながら更衣室になだれ込む。その様子をたまたまいた同期が苦笑しながら見ていた。
「また鳴海先輩にしごかれたの?」
「まあね。あの人本っ当に加減ってものを知らないんだから」
疲れ切って緩んだ口からは止めどなく愚痴と鬱憤が溢れた。嫌がらずに聞いてくれるのは、彼女が私の苦悩を知っているからだろう。
私の指導係になったのは、鳴海弦という人だった。
彼は若くして第1部隊に入隊し、入隊当初から解放戦力や戦闘能力は群を抜いていたらしい。それがただの噂ではないことは私もこの目で確認している。あの人の強さは間違いなく本物だ。ただーー。
「大変だね。指導してくれる先輩があの“問題児”で」
同期の言葉に私は溜め息しか出てこなかった。そう、私の指導係である鳴海先輩は優秀さより素行の悪さが圧倒的に目立つ『問題児』なのだ。遅刻欠席は当たり前、規則違反も今月だけですでに数え切れないほど。隊員たちのあいだではいつ除籍されてもおかしくないと噂されているのだが、首の皮一枚繋がっているようで噂は今も噂のままだ。
私としてはたとえ問題児であろうと指導さえしてくれればそれでよかったのだけど、期待するだけ無駄だった。鳴海先輩には私を指導する気が全くなかったのだ。新人教育の時間に隠し持っていたゲームをやり始めるのは当たり前。私が下手に出て教えを乞えばごく稀に相手をしてくれることもあるけれど、その際に指導してくれたことは今まで一度だってなかった。鳴海先輩はいつも私をボロボロになるまで打ち負かして、満足げに笑うだけだ。
今日も散々しごかれたせいで、スーツを着ているにも関わらず身体中が悲鳴を上げていた。早く着替えて座学に向かわなければいけないのに疲れてなかなか立ち上がれない。
新人に対して容赦がなさすぎでしょ、あの人。もしかして憂さ晴らし感覚でやってない?
訓練後はいつも満足そうな顔をしてるから、あながち間違っていないのかもしれない。あの人のサンドバッグになるために防衛隊に入ったわけではないのだけど。
「辛いなら代えてもらったら?」
「何を?」
「教育係。ほら鳴海先輩って色々と問題が多いし、上に言えばさすがに別の人に代えてもらえるんじゃない?」
私はぱちりと目を瞬かせた。そんなこと思いつきもしなかったから目から鱗の気分だ。どうしてそんな当たり前のことに気づかなかったんだろう。
「……そっか。うん、そうだよね」
私は少し考えて、それから慌てて忘れかけていた座学の準備に取りかかったのだった。
***
鳴海先輩の様子がおかしい。
それに気づいたのは今朝のことだった。あの鳴海先輩が遅刻せず、何なら誰よりも早く朝礼の場に現れたのだ。天気予報では快晴と言っていたけれど、もしかしたら雨でも、いや槍でも降るかもしれない。今朝の出来事はそれくらいありえないことだった。
そしておかしなところはそれだけじゃなかった。鳴海先輩が何というか、優しいのだ。訓練中、事あるごとに「わからなかったら言え」だの「質問はないか」だの、できる先輩ムーブをかましてきて。ゲームも全くしようとしないし、まるで人が変わったみたいだ。
「あの……」
「ん? どうしたわからないことでもあったのか?! 何でも訊いていいからな!」
「鳴海先輩、変なものでも食べました?」
「は?」
「だって今日の先輩絶対おかしいですよ! 優しすぎてなんかこう、気持ち悪いです」
思ったことを正直に告げると、鳴海先輩は「はあ?!」とようやくいつもの調子で口を開いた。しかしすぐに何かに堪えるように唇が固く引き結ばれる。
「鳴海先輩?」
「……」
「どうしたんです? 黙ってたらわからないですよ」
俯く先輩の表情を窺うように下から覗き込む。その瞬間、ぱちりと合った瞳は戸惑うように揺れていた。
「っ、構わないでくれ! どうせボクはキミにとって嫌な先輩なんだろ!」
「へ?」
突然何を言い出したのかと驚く私を、先輩がとぼけるなと睨めつけた。
「昨日更衣室で話してただろ。その、ボクのこと」
「ああ、あれですか。先輩、さすがに盗み聞きはどうかと」
「違っ、ボクはたまたま前を通りかかっただけで……。じゃなくて散々大きな声で愚痴ってただろ! 上に言って教育係も代えてもらうって」
この人は一体どこからどこまで聞いていたのだろう。鳴海先輩が女子更衣室前でうろつく姿を他の人に見られていないことを祈るばかりだ。もし上に告げ口でもされていたら、先輩の除籍がまた一歩現実に近づいてしまう。それでは困るのだ。
「確かに鳴海先輩はろくに指導もしてくれないダメダメで嫌な先輩ですけど」
「ゔっ」
「教育係を別の人に代えてもらう予定は今のところありません」
「わかった。それじゃあ仕方ないな……って、は?」
鳴海先輩がぽかんと口を開けた。意味がわからないと、そんな顔をしている。
「はっ、もしかしてボクの”強者は背中で語る“指導が功を奏したのか?」
「そんなんじゃないです。というか今までのあれ、指導のつもりだったんですか?」
「ああ。ボクの強くてかっこいい姿を見せつけて、その背中に憧れたキミが……」
「あー、もういいです。先輩は教育係に向いてないので今すぐにでも辞めたほうがいい」
「ボクなりに良い先輩であろうとしたというのに……そこまで言わなくてもいいだろ!」
確かに少し言い過ぎたかもしれない。偉そうなわりに意外と打たれ弱い鳴海先輩がしゅんと肩を落とす。これ以上言うと落ち込みすぎて逆に面倒くさくなりそうで、本当に手間のかかる先輩だなと私は溜め息を吐いた。
「ここで別の人に代えてもらうのは私のプライドが許さなかったんです」
私の言葉に、うなだれていた先輩が顔を上げた。
「指導か何か知らないですけど毎日毎日好き放題ボコボコにされて、ムカつかないわけがないでしょう。だから絶対に、鳴海先輩に吠え面かかせてやるって決めたんです!」
宣戦布告をするように人差し指を鳴海先輩に突きつける。
悔しいから絶対に、ぜーったいに言ってやらないけれど、鳴海先輩の指導は私には的確だった。何度も何度もこてんぱんに打ち負かされて、地面に倒れ込んで。そこから見上げた彼の背中はいつだって、どうしようもなくかっこよくて。
私はまんまとその背中に惚れてしまった。あんなふうに強くなりたいと思うようになってしまった。
「だから、鳴海先輩にはこれからも私の教育係でいてもらわないと困ります」
そう告げてから遅れて羞恥がやってきて、私はゆるゆると人差し指を下げた。別の人に代えるつもりはないことだけ伝えればよかったのに、つい熱くなって余計なことまで言ってしまったと後悔する。こんなことを言うつもりじゃなかったのに。
「はは、そうか。そういうことか。つまりボクとキミは似た者同士だったってことだな」
「え?」
何がおかしいのか、突然鳴海先輩が笑い出した。それからぶつぶつと何やら呟いて、その顔に意地の悪そうな笑みが浮かぶ。
「急に教育係をやれとか言い出すから何かと思えば、あの人の考えそうなことだ。本当にムカつくなあのクソジジイ」
「鳴海先輩?」
「何でもない。こっちの話だ。さてキミごときがボクに吠え面をかかせられるとは思えんが、引き続き教育係をやるからには今まで以上に容赦しないからな。そのつもりでいろよ」
いつもの調子を取り戻し始めた鳴海先輩が挑発するように私に言った。臨むところだ。私だって鳴海先輩の吠え面を諦めるつもりはない。
「はい、もちろん」
力強く頷くと、鳴海先輩が面白そうに目を細めるのが見えた。それからこほんとわざとらしく咳払いをして言葉を続ける。
「あーあと、もっと先輩を敬うように。キミはボクに対する敬意が足りん」
「先輩、敬われたいんですか?」
「当たり前だろう!!」
至極真面目な顔をして言うものだから思わず笑ってしまった。さっきまでちょっとだけかっこいいなとか思ったのに、今ので全部台無しだ。
「なら私が尊敬できるよう、もっと先輩が頑張ってくださいね」
「ぐぬっ」
本当はちゃんと尊敬している部分もあるのだけれど、言えばきっと鳴海先輩は調子に乗るだろうから。それを見るのは何だか癪なので、もうしばらくはーー私が鳴海先輩の吠え面を拝むまでは、このまま黙っておこうと思った。
初めて会ったその日に、彼は私にそう言い放った。
まさに尊大という言葉が服を着て歩いているような人で、第一印象は言わずもがな。せっかく憧れの第1部隊に所属したというのに、こんな人に教えを乞わないといけないだなんて。本当に最悪だ。
「おい、聞いてるのか!」
「は、はい……よろしくお願いします」
私が頭を下げると、彼は付いて来いと言わんばかりに顎をしゃくった。
慌ててその背中を追いかけると私を気遣ってか、周囲からは頑張れだとかどんまいだとかそんな言葉が聞こえてきた。その時の私は、きっと誰よりもかわいそうな新人だった。
第1部隊では新人隊員の教育を先輩隊員がマンツーマンでおこなうことになっていた。ここ第1部隊は隊員ひとりひとりが小隊長クラスの実力を持つエリート集団。そこに所属する優秀な先輩に個人指導してもらえるなんて、なんて贅沢でありがたいことなんだろうと入隊したばかりの頃の私は思っていた。
けど、今は違う。
「……マンツーマンなんて悪しき風習は即刻なくなれぇ」
泥だらけのよれよれになりながら更衣室になだれ込む。その様子をたまたまいた同期が苦笑しながら見ていた。
「また鳴海先輩にしごかれたの?」
「まあね。あの人本っ当に加減ってものを知らないんだから」
疲れ切って緩んだ口からは止めどなく愚痴と鬱憤が溢れた。嫌がらずに聞いてくれるのは、彼女が私の苦悩を知っているからだろう。
私の指導係になったのは、鳴海弦という人だった。
彼は若くして第1部隊に入隊し、入隊当初から解放戦力や戦闘能力は群を抜いていたらしい。それがただの噂ではないことは私もこの目で確認している。あの人の強さは間違いなく本物だ。ただーー。
「大変だね。指導してくれる先輩があの“問題児”で」
同期の言葉に私は溜め息しか出てこなかった。そう、私の指導係である鳴海先輩は優秀さより素行の悪さが圧倒的に目立つ『問題児』なのだ。遅刻欠席は当たり前、規則違反も今月だけですでに数え切れないほど。隊員たちのあいだではいつ除籍されてもおかしくないと噂されているのだが、首の皮一枚繋がっているようで噂は今も噂のままだ。
私としてはたとえ問題児であろうと指導さえしてくれればそれでよかったのだけど、期待するだけ無駄だった。鳴海先輩には私を指導する気が全くなかったのだ。新人教育の時間に隠し持っていたゲームをやり始めるのは当たり前。私が下手に出て教えを乞えばごく稀に相手をしてくれることもあるけれど、その際に指導してくれたことは今まで一度だってなかった。鳴海先輩はいつも私をボロボロになるまで打ち負かして、満足げに笑うだけだ。
今日も散々しごかれたせいで、スーツを着ているにも関わらず身体中が悲鳴を上げていた。早く着替えて座学に向かわなければいけないのに疲れてなかなか立ち上がれない。
新人に対して容赦がなさすぎでしょ、あの人。もしかして憂さ晴らし感覚でやってない?
訓練後はいつも満足そうな顔をしてるから、あながち間違っていないのかもしれない。あの人のサンドバッグになるために防衛隊に入ったわけではないのだけど。
「辛いなら代えてもらったら?」
「何を?」
「教育係。ほら鳴海先輩って色々と問題が多いし、上に言えばさすがに別の人に代えてもらえるんじゃない?」
私はぱちりと目を瞬かせた。そんなこと思いつきもしなかったから目から鱗の気分だ。どうしてそんな当たり前のことに気づかなかったんだろう。
「……そっか。うん、そうだよね」
私は少し考えて、それから慌てて忘れかけていた座学の準備に取りかかったのだった。
***
鳴海先輩の様子がおかしい。
それに気づいたのは今朝のことだった。あの鳴海先輩が遅刻せず、何なら誰よりも早く朝礼の場に現れたのだ。天気予報では快晴と言っていたけれど、もしかしたら雨でも、いや槍でも降るかもしれない。今朝の出来事はそれくらいありえないことだった。
そしておかしなところはそれだけじゃなかった。鳴海先輩が何というか、優しいのだ。訓練中、事あるごとに「わからなかったら言え」だの「質問はないか」だの、できる先輩ムーブをかましてきて。ゲームも全くしようとしないし、まるで人が変わったみたいだ。
「あの……」
「ん? どうしたわからないことでもあったのか?! 何でも訊いていいからな!」
「鳴海先輩、変なものでも食べました?」
「は?」
「だって今日の先輩絶対おかしいですよ! 優しすぎてなんかこう、気持ち悪いです」
思ったことを正直に告げると、鳴海先輩は「はあ?!」とようやくいつもの調子で口を開いた。しかしすぐに何かに堪えるように唇が固く引き結ばれる。
「鳴海先輩?」
「……」
「どうしたんです? 黙ってたらわからないですよ」
俯く先輩の表情を窺うように下から覗き込む。その瞬間、ぱちりと合った瞳は戸惑うように揺れていた。
「っ、構わないでくれ! どうせボクはキミにとって嫌な先輩なんだろ!」
「へ?」
突然何を言い出したのかと驚く私を、先輩がとぼけるなと睨めつけた。
「昨日更衣室で話してただろ。その、ボクのこと」
「ああ、あれですか。先輩、さすがに盗み聞きはどうかと」
「違っ、ボクはたまたま前を通りかかっただけで……。じゃなくて散々大きな声で愚痴ってただろ! 上に言って教育係も代えてもらうって」
この人は一体どこからどこまで聞いていたのだろう。鳴海先輩が女子更衣室前でうろつく姿を他の人に見られていないことを祈るばかりだ。もし上に告げ口でもされていたら、先輩の除籍がまた一歩現実に近づいてしまう。それでは困るのだ。
「確かに鳴海先輩はろくに指導もしてくれないダメダメで嫌な先輩ですけど」
「ゔっ」
「教育係を別の人に代えてもらう予定は今のところありません」
「わかった。それじゃあ仕方ないな……って、は?」
鳴海先輩がぽかんと口を開けた。意味がわからないと、そんな顔をしている。
「はっ、もしかしてボクの”強者は背中で語る“指導が功を奏したのか?」
「そんなんじゃないです。というか今までのあれ、指導のつもりだったんですか?」
「ああ。ボクの強くてかっこいい姿を見せつけて、その背中に憧れたキミが……」
「あー、もういいです。先輩は教育係に向いてないので今すぐにでも辞めたほうがいい」
「ボクなりに良い先輩であろうとしたというのに……そこまで言わなくてもいいだろ!」
確かに少し言い過ぎたかもしれない。偉そうなわりに意外と打たれ弱い鳴海先輩がしゅんと肩を落とす。これ以上言うと落ち込みすぎて逆に面倒くさくなりそうで、本当に手間のかかる先輩だなと私は溜め息を吐いた。
「ここで別の人に代えてもらうのは私のプライドが許さなかったんです」
私の言葉に、うなだれていた先輩が顔を上げた。
「指導か何か知らないですけど毎日毎日好き放題ボコボコにされて、ムカつかないわけがないでしょう。だから絶対に、鳴海先輩に吠え面かかせてやるって決めたんです!」
宣戦布告をするように人差し指を鳴海先輩に突きつける。
悔しいから絶対に、ぜーったいに言ってやらないけれど、鳴海先輩の指導は私には的確だった。何度も何度もこてんぱんに打ち負かされて、地面に倒れ込んで。そこから見上げた彼の背中はいつだって、どうしようもなくかっこよくて。
私はまんまとその背中に惚れてしまった。あんなふうに強くなりたいと思うようになってしまった。
「だから、鳴海先輩にはこれからも私の教育係でいてもらわないと困ります」
そう告げてから遅れて羞恥がやってきて、私はゆるゆると人差し指を下げた。別の人に代えるつもりはないことだけ伝えればよかったのに、つい熱くなって余計なことまで言ってしまったと後悔する。こんなことを言うつもりじゃなかったのに。
「はは、そうか。そういうことか。つまりボクとキミは似た者同士だったってことだな」
「え?」
何がおかしいのか、突然鳴海先輩が笑い出した。それからぶつぶつと何やら呟いて、その顔に意地の悪そうな笑みが浮かぶ。
「急に教育係をやれとか言い出すから何かと思えば、あの人の考えそうなことだ。本当にムカつくなあのクソジジイ」
「鳴海先輩?」
「何でもない。こっちの話だ。さてキミごときがボクに吠え面をかかせられるとは思えんが、引き続き教育係をやるからには今まで以上に容赦しないからな。そのつもりでいろよ」
いつもの調子を取り戻し始めた鳴海先輩が挑発するように私に言った。臨むところだ。私だって鳴海先輩の吠え面を諦めるつもりはない。
「はい、もちろん」
力強く頷くと、鳴海先輩が面白そうに目を細めるのが見えた。それからこほんとわざとらしく咳払いをして言葉を続ける。
「あーあと、もっと先輩を敬うように。キミはボクに対する敬意が足りん」
「先輩、敬われたいんですか?」
「当たり前だろう!!」
至極真面目な顔をして言うものだから思わず笑ってしまった。さっきまでちょっとだけかっこいいなとか思ったのに、今ので全部台無しだ。
「なら私が尊敬できるよう、もっと先輩が頑張ってくださいね」
「ぐぬっ」
本当はちゃんと尊敬している部分もあるのだけれど、言えばきっと鳴海先輩は調子に乗るだろうから。それを見るのは何だか癪なので、もうしばらくはーー私が鳴海先輩の吠え面を拝むまでは、このまま黙っておこうと思った。