鳴海弦
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「またやらかしたんだってね」
「やらかしてなどいない。ボクは四ノ宮と交渉しようとしただけだ」
「素直にお金借りようとしたって言いなよ。隊長がそんなTシャツまで着ちゃってさ。はい、正座もう十分追加ー」
物で溢れる隊長室。足の踏み場もないその部屋に何とか空きスペースを作り、私は鳴海を正座させていた。大きく「誠意」と書かれたTシャツをきた彼は、歯をぎりぎりさせながら悔しげに床に拳を叩きつける。
「ぐっ、こんな夜更けに先輩がボクの部屋に来るなんておかしいと思ったんだ。誰の差し金だ! はっ……あいつか、長谷川ァ‼︎」
鳴海の言う通り、私は長谷川副隊長に言われてここに来た。何でも土下座して四ノ宮隊員にお金を借りようとしたらしく、こってり絞ってやってくれと頼まれたのだ。あいつはお前の言うことなら聞くから、と。
でもそれは違います、副隊長。確かに私は入隊したての鳴海の指導係だったけど、私の言うことなんてこれっぽっちも聞かないから、鳴海は今もこうなんです。
はあ、と大きな溜め息が漏れる。
「あのね、鳴海。私だって嫌なんだよ、いつまでも後輩指導なんて。もうちょっと隊長として自覚を持って……」
「嫌、なのか?」
「え?」
「先輩が誠意のある男が好きだと言ったから、こんなTシャツまで作ったのに」
「は……? ちょ、鳴っ……」
絡んだ視線の鋭さに息を呑む。その一瞬の隙に大人しく正座をしていた鳴海が私の足を掴み、自分のほうへと引きずり込んだ。文字通り「あ」っという間に押し倒されて、どうだと言わんばかりに鳴海は鼻を鳴らした。「こら、鳴海」何とか退かそうと試みるも彼の身体はびくともしない。それどころか手首を掴まれて床に縫いとめられてしまった。
「ふ、ふざけないで」
「先輩にはボクがふざけてるように見えるのか」
私を見下ろす鳴海はいつになく真剣だ。だから彼の言葉がぐるぐると頭の中を回っている。
私が、誠意のある男が好き? そりゃああるに越したことはないけども。そんな話を鳴海にした覚えはない。じゃあ一体何のことかと考えを巡らせて、そういえば昔、鳴海が頼み事をしてきた時に誠意がないからだめだと跳ね除けたことがあったのを思い出す。
『先輩、金を貸してくれ』
『はあ⁈ 給料入ったばかりでしょう? それに人に頼むときはもっと誠意を持って……』
『それは必要か?』
『そりゃあないよりはあったほうがね』
『ふむ。なるほど、そういうものか』
そんななんてことない会話だったはず。それがどうやら彼の中で「私は誠意のある男が好き」と曲解されていたらしい。思い返せば鳴海が「誠意」Tシャツを着始めたのはその頃からだった気もしてくる。「誠意」と書かれたTシャツを着たからといって誠意のある男になるわけじゃないけども。
ーー鳴海は、私が好きだと思ったから、誠意のある男になろうとしたってこと?
「先輩」
するりと鳴海の手が私の頬を撫でる。
「好きだ」
「っ!」
まとまらない思考に答えを突きつけるように、静かな声で鳴海が言った。その一言に私はまたすぐに頭がいっぱいになって、口をぱくぱくさせるしかなかった。
「真っ赤だな、先輩」
「う、うるさい!」
誰のせいでと睨みつけるも、鳴海は気にしないどころか何故か満足げで。ぐっと身を屈めたかと思うと、私の耳元に唇を寄せ、
「返事は今すぐじゃなくていいが、ボクは誠意のある告白をしたんだ。先輩も相応の誠意を見せてくれ」
「わ、わかった。わかったから。お願いだからそろそろ退いて!」
「それなんだが、残念ながら足が痺れて動けない。腕も疲れてきたから今にも倒れ込みそうだ」
「あ、ちょっと、こら! 鳴海ー‼︎」
何が誠意のある男だ。ニヤリと口端を吊り上げた鳴海に、誠意なんてものは欠片もなかった。
「やらかしてなどいない。ボクは四ノ宮と交渉しようとしただけだ」
「素直にお金借りようとしたって言いなよ。隊長がそんなTシャツまで着ちゃってさ。はい、正座もう十分追加ー」
物で溢れる隊長室。足の踏み場もないその部屋に何とか空きスペースを作り、私は鳴海を正座させていた。大きく「誠意」と書かれたTシャツをきた彼は、歯をぎりぎりさせながら悔しげに床に拳を叩きつける。
「ぐっ、こんな夜更けに先輩がボクの部屋に来るなんておかしいと思ったんだ。誰の差し金だ! はっ……あいつか、長谷川ァ‼︎」
鳴海の言う通り、私は長谷川副隊長に言われてここに来た。何でも土下座して四ノ宮隊員にお金を借りようとしたらしく、こってり絞ってやってくれと頼まれたのだ。あいつはお前の言うことなら聞くから、と。
でもそれは違います、副隊長。確かに私は入隊したての鳴海の指導係だったけど、私の言うことなんてこれっぽっちも聞かないから、鳴海は今もこうなんです。
はあ、と大きな溜め息が漏れる。
「あのね、鳴海。私だって嫌なんだよ、いつまでも後輩指導なんて。もうちょっと隊長として自覚を持って……」
「嫌、なのか?」
「え?」
「先輩が誠意のある男が好きだと言ったから、こんなTシャツまで作ったのに」
「は……? ちょ、鳴っ……」
絡んだ視線の鋭さに息を呑む。その一瞬の隙に大人しく正座をしていた鳴海が私の足を掴み、自分のほうへと引きずり込んだ。文字通り「あ」っという間に押し倒されて、どうだと言わんばかりに鳴海は鼻を鳴らした。「こら、鳴海」何とか退かそうと試みるも彼の身体はびくともしない。それどころか手首を掴まれて床に縫いとめられてしまった。
「ふ、ふざけないで」
「先輩にはボクがふざけてるように見えるのか」
私を見下ろす鳴海はいつになく真剣だ。だから彼の言葉がぐるぐると頭の中を回っている。
私が、誠意のある男が好き? そりゃああるに越したことはないけども。そんな話を鳴海にした覚えはない。じゃあ一体何のことかと考えを巡らせて、そういえば昔、鳴海が頼み事をしてきた時に誠意がないからだめだと跳ね除けたことがあったのを思い出す。
『先輩、金を貸してくれ』
『はあ⁈ 給料入ったばかりでしょう? それに人に頼むときはもっと誠意を持って……』
『それは必要か?』
『そりゃあないよりはあったほうがね』
『ふむ。なるほど、そういうものか』
そんななんてことない会話だったはず。それがどうやら彼の中で「私は誠意のある男が好き」と曲解されていたらしい。思い返せば鳴海が「誠意」Tシャツを着始めたのはその頃からだった気もしてくる。「誠意」と書かれたTシャツを着たからといって誠意のある男になるわけじゃないけども。
ーー鳴海は、私が好きだと思ったから、誠意のある男になろうとしたってこと?
「先輩」
するりと鳴海の手が私の頬を撫でる。
「好きだ」
「っ!」
まとまらない思考に答えを突きつけるように、静かな声で鳴海が言った。その一言に私はまたすぐに頭がいっぱいになって、口をぱくぱくさせるしかなかった。
「真っ赤だな、先輩」
「う、うるさい!」
誰のせいでと睨みつけるも、鳴海は気にしないどころか何故か満足げで。ぐっと身を屈めたかと思うと、私の耳元に唇を寄せ、
「返事は今すぐじゃなくていいが、ボクは誠意のある告白をしたんだ。先輩も相応の誠意を見せてくれ」
「わ、わかった。わかったから。お願いだからそろそろ退いて!」
「それなんだが、残念ながら足が痺れて動けない。腕も疲れてきたから今にも倒れ込みそうだ」
「あ、ちょっと、こら! 鳴海ー‼︎」
何が誠意のある男だ。ニヤリと口端を吊り上げた鳴海に、誠意なんてものは欠片もなかった。
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