保科宗四郎
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いついかなる時でも冷静であれ。
これが私のモットーだ。第3部隊に配属されてからは常にそれを意識するようにしている。特に、保科副隊長の前では。
「この前の第1との模擬戦見とったで。よう頑張ってたやん」
「ありがとうございます」
「苦手やった近接戦闘も前よりずっと上手くなっとった。第1の格上相手にあそこまでやれれば及第点や」
「いえ、私なんてまだまだです」
「こーら! そんなこと言わへんの! 君が入隊した時から面倒見とる僕が言うてんのやから素直に喜んどき」
そんなふうに言われてしまっては何も言い返せない。
もう一度ありがとうございますとお礼を伝えれば、上司である保科副隊長はそれで良いと言いたげに目を細め、会議があるからとその場を後にした。
ーーいついかなる時でも冷静であれ。
自身に言い聞かせるように心の中でそう呟く。それから二回深呼吸をして、確かめるように両手を顔に持っていく。
「……全然だめじゃん」
触れた両頬は、常に冷静でいたいという思いとは裏腹に完全に緩み切っていた。ふにゃふにゃである。
保科副隊長の前ではクールでできる部下でいたくて、日頃から感情を表に出さないように心がけているというのに。
まだまだ修行が足りない。というか結構頑張っていると思うのだけど、事あるごとに保科副隊長が褒めてくるのも良くないと思う。
褒められるのはもちろん嬉しい。でも憧れの上司にあんなふうに言われたら、飛び跳ねたくもなってしまう。
ーーいっそのこと飛び跳ねてしまおうか。
私はキョロキョロと周りを見渡した。幸い、人の気配はない。……よし。
軽く膝を曲げて、ぴょんと飛んでみる。
着地してすぐに恥ずかしくなり、私は慌ててもう一度周囲を確認した。相変わらず人の気配はなかった。
よかった。誰にも見られてはいないようだ。それから何事もなかったかのように次の現場へと足を運ぶ。
(……飛び跳ねるの、結構楽しかったな)
顔には出さないよう努めつつ、そんなことを思う。
もし今後も保科副隊長に褒められ続けたら、いつか無意識のうちに彼の目の前で感情のままに飛び跳ねてしまいそうだ。
それはまずい。非常にまずい。
このままでは理想としているクールでできる部下とはかけ離れすぎてしまう。それだけは何としてでも避けたい。
私は気合を入れるようにぺちりと両頬を叩いた。
これからはより一層、どんな時でも冷静でいられるように気をつけなければ。
いつか憧れの保科副隊長に、自慢の部下だと言ってもらえるように。あの人の隣に並んでも恥ずかしくないように。
***
率直に言えば『かわいらしい』。
けれどそれを入隊したての新人、しかも女性に言うのはいかがなものか、セクハラと言われても困るし、と口を噤んで早数年が経った。
褒めれば嬉しそうにふにゃりと緩む頬、垂れる眦。けれど彼女自身がそれを良しとしないのかすぐにきゅっと唇を引き締めてしまう。
まあそれでも嬉しさが勝るようで、引きちぎれんばかりに左右に揺れる犬の尻尾が見えるようではあるのだけれど。
そういうところも、かわいらしいと思っていた。
とはいえ僕だって手放しで彼女を褒めているわけではない。努力して努力して、結果を出しているからこそ、素直に褒めているつもりだ。
少しばかり彼女の反応を楽しみにしている部分もあることにはあるが、嘘は言っていない。
今日も先日の模擬戦について褒めれば、彼女はそっけなく答えながらも嬉しそうに表情を崩した。それからいつものようにきゅっと表情を固めてしまう。
(ほんまにかわいらしいなぁ)
それをまだ言葉にしたことはない。今のこの状況をもう少し楽しみたい自分と、口にして彼女に引かれたらどうしようかと踏みとどまる自分と。
褒めて、褒めて。これでもかと褒めて、表情を緩めたり引き締めたりを繰り返す彼女を見ていたら、もう少しこのままでいいかと思ってしまう。
「ほな、僕この後会議あるから」
「はい、ありがとうございました」
一礼した彼女からはさっきまでの嬉しそうな表情は消えていた。いつも笑っていてくれていいのに、あえてそうするのは何か理由があるのだろうか。
「あ、せや」
仕事関連で彼女に伝え忘れたことを思い出し、すぐに踵を返す。
するとキョロキョロと辺りを見渡す彼女がいて、つい癖で咄嗟に物陰に隠れてしまった。何をしているのかとこっそりと覗き見ると、次の瞬間、彼女がぴょんと膝を曲げてその場で飛び跳ねた。
それからすぐに再び周囲を確認して、何事もなかったかのように立ち去ってしまったけれど。
何だあれ、まるですごく嬉しいことがあったみたいな。
これはあくまで仮定の話だけれど、そのすごく嬉しいことが、僕がさっき褒めまくったことだったとしたらーー。
「あかん、かわいすぎるやろ!!」
思わず右手でギュッと自身の胸元を掴んでいた。いや、彼女の行動に心臓を鷲掴みにされた、が正しいか。
「……もう、言うてしまおうかな」
ついさっきまで、もうしばらくこのままでいいかと思っていたはずなのに。どうやら僕は自分が思っていた以上に辛抱強くないらしい。
僕以外の誰かが、彼女のかわいらしさに気づいてしまう前に。
想いを全部伝えたら、彼女は一体どんな反応をするだろう。
これが私のモットーだ。第3部隊に配属されてからは常にそれを意識するようにしている。特に、保科副隊長の前では。
「この前の第1との模擬戦見とったで。よう頑張ってたやん」
「ありがとうございます」
「苦手やった近接戦闘も前よりずっと上手くなっとった。第1の格上相手にあそこまでやれれば及第点や」
「いえ、私なんてまだまだです」
「こーら! そんなこと言わへんの! 君が入隊した時から面倒見とる僕が言うてんのやから素直に喜んどき」
そんなふうに言われてしまっては何も言い返せない。
もう一度ありがとうございますとお礼を伝えれば、上司である保科副隊長はそれで良いと言いたげに目を細め、会議があるからとその場を後にした。
ーーいついかなる時でも冷静であれ。
自身に言い聞かせるように心の中でそう呟く。それから二回深呼吸をして、確かめるように両手を顔に持っていく。
「……全然だめじゃん」
触れた両頬は、常に冷静でいたいという思いとは裏腹に完全に緩み切っていた。ふにゃふにゃである。
保科副隊長の前ではクールでできる部下でいたくて、日頃から感情を表に出さないように心がけているというのに。
まだまだ修行が足りない。というか結構頑張っていると思うのだけど、事あるごとに保科副隊長が褒めてくるのも良くないと思う。
褒められるのはもちろん嬉しい。でも憧れの上司にあんなふうに言われたら、飛び跳ねたくもなってしまう。
ーーいっそのこと飛び跳ねてしまおうか。
私はキョロキョロと周りを見渡した。幸い、人の気配はない。……よし。
軽く膝を曲げて、ぴょんと飛んでみる。
着地してすぐに恥ずかしくなり、私は慌ててもう一度周囲を確認した。相変わらず人の気配はなかった。
よかった。誰にも見られてはいないようだ。それから何事もなかったかのように次の現場へと足を運ぶ。
(……飛び跳ねるの、結構楽しかったな)
顔には出さないよう努めつつ、そんなことを思う。
もし今後も保科副隊長に褒められ続けたら、いつか無意識のうちに彼の目の前で感情のままに飛び跳ねてしまいそうだ。
それはまずい。非常にまずい。
このままでは理想としているクールでできる部下とはかけ離れすぎてしまう。それだけは何としてでも避けたい。
私は気合を入れるようにぺちりと両頬を叩いた。
これからはより一層、どんな時でも冷静でいられるように気をつけなければ。
いつか憧れの保科副隊長に、自慢の部下だと言ってもらえるように。あの人の隣に並んでも恥ずかしくないように。
***
率直に言えば『かわいらしい』。
けれどそれを入隊したての新人、しかも女性に言うのはいかがなものか、セクハラと言われても困るし、と口を噤んで早数年が経った。
褒めれば嬉しそうにふにゃりと緩む頬、垂れる眦。けれど彼女自身がそれを良しとしないのかすぐにきゅっと唇を引き締めてしまう。
まあそれでも嬉しさが勝るようで、引きちぎれんばかりに左右に揺れる犬の尻尾が見えるようではあるのだけれど。
そういうところも、かわいらしいと思っていた。
とはいえ僕だって手放しで彼女を褒めているわけではない。努力して努力して、結果を出しているからこそ、素直に褒めているつもりだ。
少しばかり彼女の反応を楽しみにしている部分もあることにはあるが、嘘は言っていない。
今日も先日の模擬戦について褒めれば、彼女はそっけなく答えながらも嬉しそうに表情を崩した。それからいつものようにきゅっと表情を固めてしまう。
(ほんまにかわいらしいなぁ)
それをまだ言葉にしたことはない。今のこの状況をもう少し楽しみたい自分と、口にして彼女に引かれたらどうしようかと踏みとどまる自分と。
褒めて、褒めて。これでもかと褒めて、表情を緩めたり引き締めたりを繰り返す彼女を見ていたら、もう少しこのままでいいかと思ってしまう。
「ほな、僕この後会議あるから」
「はい、ありがとうございました」
一礼した彼女からはさっきまでの嬉しそうな表情は消えていた。いつも笑っていてくれていいのに、あえてそうするのは何か理由があるのだろうか。
「あ、せや」
仕事関連で彼女に伝え忘れたことを思い出し、すぐに踵を返す。
するとキョロキョロと辺りを見渡す彼女がいて、つい癖で咄嗟に物陰に隠れてしまった。何をしているのかとこっそりと覗き見ると、次の瞬間、彼女がぴょんと膝を曲げてその場で飛び跳ねた。
それからすぐに再び周囲を確認して、何事もなかったかのように立ち去ってしまったけれど。
何だあれ、まるですごく嬉しいことがあったみたいな。
これはあくまで仮定の話だけれど、そのすごく嬉しいことが、僕がさっき褒めまくったことだったとしたらーー。
「あかん、かわいすぎるやろ!!」
思わず右手でギュッと自身の胸元を掴んでいた。いや、彼女の行動に心臓を鷲掴みにされた、が正しいか。
「……もう、言うてしまおうかな」
ついさっきまで、もうしばらくこのままでいいかと思っていたはずなのに。どうやら僕は自分が思っていた以上に辛抱強くないらしい。
僕以外の誰かが、彼女のかわいらしさに気づいてしまう前に。
想いを全部伝えたら、彼女は一体どんな反応をするだろう。
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