保科宗四郎
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「わ、私だってキスのひとつやふたつ、したことありますし!」
それは強がりみたいなものだった。保科副隊長が事あるごとに「ウブやなぁ」と言ってくるから、言い返したくなったのだ。たった今、保科副隊長と手を繋いだだけで顔を赤くしている私が言ったところで説得力はないかもしれないが、嘘じゃない。
高校の時、ほんの数か月付き合った彼氏とキスをした。触れるだけのささやかなものだったけれど、犬猫としたわけではないのだからカウントしてもいいだろう。保科副隊長には及ばずとも、私にだってちゃんと恋愛経験くらいある。先に進みたい彼に怖気付いた私が拒んだことで、その彼とは自然消滅に終わったけども。
言い切ってから、しん、と鎮まり返った空間に、とんでもないことをカミングアウトしてしまったのではと羞恥が遅れてやってくる。いつもなら保科副隊長からテンポよくからかいの言葉が飛んでくるのに、それもない。不思議に思ってちらりと視線を上げ、保科副隊長と目が合った瞬間に私は「ひっ」と息を呑んだ。
「……ほーん。君、経験あったんやなあ」
そこには見たことのない冷たい目をした保科副隊長がいた。知らんかったわ、と眦を下げた彼にぞくりとして、反射的に身体が逃げようとする。しかし保科副隊長のが早かった。逃げる腰に腕を回され、あっという間に抱き寄せられる。今までにない距離の近さに狼狽える私を無視して、保科副隊長がするりと頬を撫でた。
「あ、あの保科ふく……」
「いつどこで誰と何をどうしたん? 地球が何回回った?」
「ええー……」
そんなの覚えているはずがない。キスしたことも人生初だったというのが印象に残っているくらいで、高校の時の朧げな記憶だ。というか保科副隊長、真面目な顔してるけれどすごく子どもっぽいことを言っている自覚はあるんだろうか。おかげで荒ぶっていた心拍はだいぶ落ち着いたけれど。
保科副隊長はなかなか答えない私の顔をじぃっと覗き込み、「ま、ええわ」といつもの笑顔で言った。腰に回されていた腕もようやく緩み、私もほっと息を吐く。が、
「僕がぜーんぶ、上書きすればええだけの話やし」
「え?」と訊き返すより先に、保科副隊長の両手が私の頬を包み込んだ。綺麗な顔が、瞳がすぐ目の前にやってきて、唇が合わさる。経験したことのある、触れるだけのささやかなキス。でもあの時はここまで心臓が跳ねることはなかった。思わず「んっ」と声を漏らすと、僅かに顔を離した保科副隊長が満足そうに目を細めるのが見えた。その後も柔らかな口づけを何度も何度も落とされる。
キス、何回したん? どこにされたん? なあ、教えてや。
キスの合間にそう囁かれるも、私はついていくのに必死で首を横に振ることしかできなかった。保科副隊長も深く追及することはなく、口づけを再開する。私の反応を楽しんでいるだけみたいだ。そしてなかなか呼吸のタイミングが掴めず、私の肩が上がってきた頃、見計らったように唇をぺろりと舐められた。
「っ⁈」
堪らずびくりと肩が揺れる。きつく閉じていた目を開けると、ちょうど保科副隊長の赤い舌が離れていくところだった。その口元は笑っていたけれど、何も言ってはくれない。どういうことなのか、どうすべきなのか。自分で決めろということなのだろう。
私は顔を上げ、おずおずと口を開けた。保科副隊長と手を繋いだだけで真っ赤になる私が、キスまでして、それ以上を求めようとしていることに自分でも驚く。けれど、物足りないのだ。何度も触れるだけのキスをされて、心臓も壊れそうなのに、もっと欲しい、もっとされたいと思ってしまう。
捧げるように、求めるように舌先を伸ばすと、「ええの?」と保科副隊長が訊いてきた。彼の目には物欲しそうな顔をする私が映っているだろうに、まだ焦らすつもりらしい。催促するように服を引っ張り、こくりと頷くと「ほな、遠慮なく」と、再び保科副隊長の顔が近づいてきた。
「上書き、ちゃーんとできた?」
「ちゃんとも何もああいうのは初めてですよ」
「ああいうのって、何のこと?」
「わかってるくせに、言わせないでください」
初めての深い口づけに、私は早々に腰砕けになった。保科副隊長もそこで止まってくれればよかったのだが、宣言通り「遠慮なく」というより「容赦なく」口内を荒らされた。おかげで未だに息が整わない。私はこんな状態なのに保科副隊長はまだ余裕があるようで、それが少し悔しい。
「君はほんま、ウブでかわええなあ」
「もう、ほっといてください!」
拗ねたようにぷいと顔を逸らすと、冷たい指先が耳を掠めた。保科副隊長が顔を見ようと私の髪を耳に掛けたらしい。
「あらー、耳まで真っ赤やん」
だから髪で隠してたのに、何故この人はわざわざ暴きにくるのか。これ以上の羞恥は堪えられそうになくて、くるりと背を向けると「こっち向いてやー!」と後ろから声がした。誰が向くもんか。少なくとも顔の熱が冷めるまでは絶対に向かない。保科副隊長はそんな私の頑なな意思を感じとったようで、背後から腕を伸ばしてきた。そのまま引き寄せられて、腕の中に閉じ込められる。
「ちょ⁈」
「はぁー、かわいい」
引きかけていた熱が再び上がる気配がした。逃げようともがくもびくともしない。
ぎゅうと抱きしめながら、保科副隊長が耳元で私の名前を呼ぶ。
「その顔、今後は僕以外には見せんといてな」
どろりとした感情を孕んだ声だった。恐らく嫉妬と呼ばれるもの。それに気づいて、私は微かに気分が高揚するのを感じた。
心配しなくても、私の全部は保科副隊長のものなのに。
しかしそれを言葉にするのは恥ずかしく代わりに小さく頷くと、私を閉じ込める腕の力が一層強くなった気がした。
それは強がりみたいなものだった。保科副隊長が事あるごとに「ウブやなぁ」と言ってくるから、言い返したくなったのだ。たった今、保科副隊長と手を繋いだだけで顔を赤くしている私が言ったところで説得力はないかもしれないが、嘘じゃない。
高校の時、ほんの数か月付き合った彼氏とキスをした。触れるだけのささやかなものだったけれど、犬猫としたわけではないのだからカウントしてもいいだろう。保科副隊長には及ばずとも、私にだってちゃんと恋愛経験くらいある。先に進みたい彼に怖気付いた私が拒んだことで、その彼とは自然消滅に終わったけども。
言い切ってから、しん、と鎮まり返った空間に、とんでもないことをカミングアウトしてしまったのではと羞恥が遅れてやってくる。いつもなら保科副隊長からテンポよくからかいの言葉が飛んでくるのに、それもない。不思議に思ってちらりと視線を上げ、保科副隊長と目が合った瞬間に私は「ひっ」と息を呑んだ。
「……ほーん。君、経験あったんやなあ」
そこには見たことのない冷たい目をした保科副隊長がいた。知らんかったわ、と眦を下げた彼にぞくりとして、反射的に身体が逃げようとする。しかし保科副隊長のが早かった。逃げる腰に腕を回され、あっという間に抱き寄せられる。今までにない距離の近さに狼狽える私を無視して、保科副隊長がするりと頬を撫でた。
「あ、あの保科ふく……」
「いつどこで誰と何をどうしたん? 地球が何回回った?」
「ええー……」
そんなの覚えているはずがない。キスしたことも人生初だったというのが印象に残っているくらいで、高校の時の朧げな記憶だ。というか保科副隊長、真面目な顔してるけれどすごく子どもっぽいことを言っている自覚はあるんだろうか。おかげで荒ぶっていた心拍はだいぶ落ち着いたけれど。
保科副隊長はなかなか答えない私の顔をじぃっと覗き込み、「ま、ええわ」といつもの笑顔で言った。腰に回されていた腕もようやく緩み、私もほっと息を吐く。が、
「僕がぜーんぶ、上書きすればええだけの話やし」
「え?」と訊き返すより先に、保科副隊長の両手が私の頬を包み込んだ。綺麗な顔が、瞳がすぐ目の前にやってきて、唇が合わさる。経験したことのある、触れるだけのささやかなキス。でもあの時はここまで心臓が跳ねることはなかった。思わず「んっ」と声を漏らすと、僅かに顔を離した保科副隊長が満足そうに目を細めるのが見えた。その後も柔らかな口づけを何度も何度も落とされる。
キス、何回したん? どこにされたん? なあ、教えてや。
キスの合間にそう囁かれるも、私はついていくのに必死で首を横に振ることしかできなかった。保科副隊長も深く追及することはなく、口づけを再開する。私の反応を楽しんでいるだけみたいだ。そしてなかなか呼吸のタイミングが掴めず、私の肩が上がってきた頃、見計らったように唇をぺろりと舐められた。
「っ⁈」
堪らずびくりと肩が揺れる。きつく閉じていた目を開けると、ちょうど保科副隊長の赤い舌が離れていくところだった。その口元は笑っていたけれど、何も言ってはくれない。どういうことなのか、どうすべきなのか。自分で決めろということなのだろう。
私は顔を上げ、おずおずと口を開けた。保科副隊長と手を繋いだだけで真っ赤になる私が、キスまでして、それ以上を求めようとしていることに自分でも驚く。けれど、物足りないのだ。何度も触れるだけのキスをされて、心臓も壊れそうなのに、もっと欲しい、もっとされたいと思ってしまう。
捧げるように、求めるように舌先を伸ばすと、「ええの?」と保科副隊長が訊いてきた。彼の目には物欲しそうな顔をする私が映っているだろうに、まだ焦らすつもりらしい。催促するように服を引っ張り、こくりと頷くと「ほな、遠慮なく」と、再び保科副隊長の顔が近づいてきた。
「上書き、ちゃーんとできた?」
「ちゃんとも何もああいうのは初めてですよ」
「ああいうのって、何のこと?」
「わかってるくせに、言わせないでください」
初めての深い口づけに、私は早々に腰砕けになった。保科副隊長もそこで止まってくれればよかったのだが、宣言通り「遠慮なく」というより「容赦なく」口内を荒らされた。おかげで未だに息が整わない。私はこんな状態なのに保科副隊長はまだ余裕があるようで、それが少し悔しい。
「君はほんま、ウブでかわええなあ」
「もう、ほっといてください!」
拗ねたようにぷいと顔を逸らすと、冷たい指先が耳を掠めた。保科副隊長が顔を見ようと私の髪を耳に掛けたらしい。
「あらー、耳まで真っ赤やん」
だから髪で隠してたのに、何故この人はわざわざ暴きにくるのか。これ以上の羞恥は堪えられそうになくて、くるりと背を向けると「こっち向いてやー!」と後ろから声がした。誰が向くもんか。少なくとも顔の熱が冷めるまでは絶対に向かない。保科副隊長はそんな私の頑なな意思を感じとったようで、背後から腕を伸ばしてきた。そのまま引き寄せられて、腕の中に閉じ込められる。
「ちょ⁈」
「はぁー、かわいい」
引きかけていた熱が再び上がる気配がした。逃げようともがくもびくともしない。
ぎゅうと抱きしめながら、保科副隊長が耳元で私の名前を呼ぶ。
「その顔、今後は僕以外には見せんといてな」
どろりとした感情を孕んだ声だった。恐らく嫉妬と呼ばれるもの。それに気づいて、私は微かに気分が高揚するのを感じた。
心配しなくても、私の全部は保科副隊長のものなのに。
しかしそれを言葉にするのは恥ずかしく代わりに小さく頷くと、私を閉じ込める腕の力が一層強くなった気がした。