保科宗四郎
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十一月二十一日。
この日のために幼馴染である亜白に無理を言って貸し切った訓練場には、地面や壁を覆うようにブルーシートが敷かれている。そして静かにその時を待つのは、日比野カフカ、市川レノ、古橋伊春、出雲ハルイチ、神楽木葵の五人。そのうち三人はカフカ、伊春の企てに巻き込まれた被害者とも言えるのだが、ここに立っている時点ですでに共犯だろう。
そしてーーそれから数分もしないうちに、その人物は現れた。
「何やお前ら、急にこんな紙寄越して」
ざり、と土を踏み締めて訓練場へとやって来たのは、彼らの上司にあたる保科宗四郎だった。
その手には『果たし状』と大きく書かれた書状がある。カフカが筆ペンで日時と場所をしたため副隊長室にこっそり置いておいたもので、それを見た保科がこの場に来るかどうかは賭けに近かったが、彼が部下の戯れに律儀に付き合ってくれたことにカフカは密かに安堵する。
今からここで行うことは、保科がいなければ始まらないのだ。
「保科副隊長、今日が何の日か知ってますか?」
「今日?」
はてと首を傾げる保科を尻目にカフカは他のメンバーに目配せする。予想通り、多忙の保科は今日が何の日かわかっていないらしい。
カフカはこくりとひとつ頷き、それを合図に全員が後ろに隠し持っていたあるものを構える。
「「「「「ハッピーバースデー、保科副隊長!!」」」」」
ヒュッと風を切る音とともに保科に向かって投げつけられたのはクリームたっぷりのパイだった。そのうち一つが保科の顔のすぐ真横をかすめ、理解が追いつかないのか「は!?」と素っ頓狂な声が上がる。
「ちょ、何すんねん⁉︎」
動揺を露わにしながらも次々と投げられるパイを避け切る様はさすがは第3部隊の副隊長である。
「何って、俺たちなりに保科副隊長の誕生日を祝ってるんすよ!」
そう言ってカフカは手にしたクリームパイを大きく振りかぶった。
カフカが保科副隊長の誕生日を知ったのは一週間ほど前のこと。
いつものようにレノたちと昼食をとっていた時に、うっかり近くに座っていた女性隊員たちの会話を聞いてしまったのだ。もちろん盗み聞きをしようなどとはこれっぽっちも思っていない。ただ聞こえてきたのが同じ保科小隊の先輩隊員、それも保科がいない時に代役を務める人の声となれば、癖で耳が声を拾ってしまうのも仕方なかった。
「え、アンタまだプレゼント決まってないの? 保科副隊長の誕生日、来週じゃなかったっけ」
「うう、だって何が欲しいのかわからなくて」
「あの人、アンタからのプレゼントだったら何でも喜びそうだけどね」
「そうですかねぇ」
「うんうん、何ならプレゼントは私ってのが一番喜ぶわよ」
「もう揶揄わないでくださいよ、中之島小隊長! 保科副隊長が苦笑いする姿が目に浮かぶんですけど」
「えー、そんなことないと思うけどなぁ」
カレーを掻き込みながら聞かないようにしよう聞かないようにしようと心がけたカフカだったが、結局伊春に「どうしたおっさん?」と声を掛けられるまでほとんどの会話を聞いてしまった。内緒話というわけではなさそうだが罪悪感がすごい。ぐっと胸を押さえていると、レノまで心配そうに顔を覗き込んできた。
「先輩、大丈夫ですか?」
「お、おう、何でもねーよ! 次射撃訓練だろ。早く行こうぜ」
そうしてその後の訓練を全て終え、食堂での出来事は忘れかけていたのだが。もはや恒例となっている風呂場での我慢比べの最中に、カフカは不意にそれを思い出した。
「そういえば保科副隊長、来週誕生日なんだってよ」
「へー、てか何でおっさんが知ってんだよ!」
「それはまぁ色々あんだけどよ。保科副隊長には世話になってるし何かできねぇかなって」
「先輩にしては良いこと言いますね」
「市川は俺のこと何だと思ってるんだよ」
普段から世話になっている保科に何かしたいという気持ちはその場にいる全員の総意だった。問題は何をするか、だが。
「保科副隊長の好きなものって何でしたっけ?」
「モンブランは好きって聞いたことがあるな。あとコーヒーもこだわってるらしい」
「でもそれだと誰かと被らねぇ?」
「お前らわかってねぇな! 保科副隊長といえば面白いもの好きだろ。お笑い枠で俺を入れたくらいなんだから」
「あー」
「そこで俺から提案なんだが……」
かつて基地でのことは筒抜けだと思えと保科本人に言われたことが頭をよぎったが、確か保科は午後から他部隊で会議があると出かけて行ったはず。恐らくまだ帰って来ていないだろうから聞かれる心配もない。カフカは他の四人に自信満々に自分の考えを話した。伊春以外が険しい顔をしていたのは言うまでもない。
ただ全員湯船で我慢比べをしている最中で、それなりに時間も経っていて、思考力は著しく低下していた。色々と問答はあったものの、五人がふらふらと風呂を出る頃にはカフカの案で決定していた。
カフカは亜白に頼み込み訓練場の使用許可を、クリームパイはハルイチの知り合いの店で調達、途中キコルたちに怪しまれもしたが何とかバレずに当日を迎えることができた。
「お前らこんなことしてタダで済むと思うなよ!」
「そんなん覚悟の上ですよ!」
ブルーシートがクリームで白く染まっていく中、未だに保科は綺麗なままだった。それどころか着地場所すら器用にクリームのない場所を選んでいるようで余裕すら感じられる。
ここまで準備したからには当てたい。けれど用意したパイの数には限りがある。
「いい加減大人しく当たってくださいよ、保科副隊長!!」
「アホか! そんなん言われてはいどうぞってなるわけないやろ!!」
保科は軽々とパイを躱し、訓練場の門のほうへと移動していく。そのまま逃げ切るつもりらしい。
「カフカ、これで最後だ!」
ハルイチが最後のパイをカフカに手渡す。保科はすでに門近くにいる。
絶対に当てなければ……! カフカは渾身の力で保科に向かってパイを投げた。そして保科は当然のごとくそれを避ける。しかしーー。
「保科副隊長、こちらにいらしたんですね!」
ひょこっと覗き込むように門に現れた小柄な影、そして耳に届く聞き慣れた声。カフカが投げたパイの軌道上にいたのは、保科小隊の先輩隊員だった。保科を探していたのだろう。会議でもあるのかその両腕にたくさんの書類やファイルを抱えている。
「やべっ!!」
カフカは咄嗟に前に出た。だが間に合わない。先輩隊員が避けてくれればいいが、あの荷物では難しいだろう。飛んでくるパイに目を丸くする彼女の姿が見えた。
(すんません、先輩!)
優しい彼女のことだからきっと笑って許してくれるだろうが、カフカは後から土下座でも何でもしようと心に決めた。
そしてベチョ、とクリームが付着する音がする。
「え……」
今度はカフカが目を丸くする番だった。さっきパイを避けたはずの保科が先輩隊員を庇うように立っていたからだ。その背中にはべったりとクリームが付いている。
あのほんの一瞬に判断してあの距離を戻ったのか。とてもではないが人間業とは思えない。
カフカが恐ろしさすら感じていると、保科がちらりと視線を後ろに向けた。
「お前ら、ええ加減にせえよ」
今まで聞いたことのない低く冷たい声にカフカたちは思わず息を飲んだ。それから保科はふっと息を吐き、顔を戻した。
「君は? 大丈夫やった?」
「わ、私は大丈夫です。でも保科副隊長、服が……」
「服は替えあるから問題ない。それより会議行こか」
保科は彼女に訓練場を出るよう促した。それから固まったままのカフカたちに振り向き、
「ここ、綺麗にしとけよ。その後腕立て二百回、外周三十周。……まぁやり方はあかんけど、祝おうとしてくれた気持ちは受け取っておくわ。ありがとう」
「ほ、保科副隊長〜!!」
少々罰が甘過ぎたかと思いながら、保科は訓練場を後にした。なお、クリームパイはカフカたち五人で責任をもって美味しく頂き、保科には別の誕生日プレゼントを手渡した。
***
「あんまり怒らないであげてくださいね」
部下の言葉に保科は「何のこと?」と聞き返した。
「カフカさんたちのこと。ちょっとやり過ぎちゃっただけで悪気があったわけではないと思うんです」
「別に怒っとらんし、ちゃあんとわかっとるよ」
「えー、でもすごい怖い顔してましたよ」
書類を抱えながら部下が険しい顔をする。怖いというよりは面白くて思わず吹き出すと、「笑わないでくださいよ!」と今度は頬を膨らませた。本当に面白いくらいコロコロと表情が変わる部下だ。
事実、保科はカフカたちのやったことに対して怒ってはいない。怒っていたらもっと早くに嗜めている。彼女が怒っていると感じたのなら他のことに関してなのだがーー、この様子だとそこまで気づいていないだろう。
「あ、クリーム付いてるやん」
「え?」
膨らんだ部下の頬にちょんとクリームが付いているのを見つけ、指先で拭う。それを素直にありがとうございますと感謝してくるものだから、保科はほんの少し意地悪したくなってぺろりと指先に付いたクリームを舐めてやった。
「お、意外と美味いやん」
「なっ」
部下が驚いたように声を上げた。これで少しばかり照れでもしてくれれば万々歳なのだが。
「何してるんですか保科副隊長! ばっちいですよ! ペッしてください、ペッ!」
続く言葉に保科はがくりと肩を落とす。ゴールへの道のりはまだまだ長そうだ。
この日のために幼馴染である亜白に無理を言って貸し切った訓練場には、地面や壁を覆うようにブルーシートが敷かれている。そして静かにその時を待つのは、日比野カフカ、市川レノ、古橋伊春、出雲ハルイチ、神楽木葵の五人。そのうち三人はカフカ、伊春の企てに巻き込まれた被害者とも言えるのだが、ここに立っている時点ですでに共犯だろう。
そしてーーそれから数分もしないうちに、その人物は現れた。
「何やお前ら、急にこんな紙寄越して」
ざり、と土を踏み締めて訓練場へとやって来たのは、彼らの上司にあたる保科宗四郎だった。
その手には『果たし状』と大きく書かれた書状がある。カフカが筆ペンで日時と場所をしたため副隊長室にこっそり置いておいたもので、それを見た保科がこの場に来るかどうかは賭けに近かったが、彼が部下の戯れに律儀に付き合ってくれたことにカフカは密かに安堵する。
今からここで行うことは、保科がいなければ始まらないのだ。
「保科副隊長、今日が何の日か知ってますか?」
「今日?」
はてと首を傾げる保科を尻目にカフカは他のメンバーに目配せする。予想通り、多忙の保科は今日が何の日かわかっていないらしい。
カフカはこくりとひとつ頷き、それを合図に全員が後ろに隠し持っていたあるものを構える。
「「「「「ハッピーバースデー、保科副隊長!!」」」」」
ヒュッと風を切る音とともに保科に向かって投げつけられたのはクリームたっぷりのパイだった。そのうち一つが保科の顔のすぐ真横をかすめ、理解が追いつかないのか「は!?」と素っ頓狂な声が上がる。
「ちょ、何すんねん⁉︎」
動揺を露わにしながらも次々と投げられるパイを避け切る様はさすがは第3部隊の副隊長である。
「何って、俺たちなりに保科副隊長の誕生日を祝ってるんすよ!」
そう言ってカフカは手にしたクリームパイを大きく振りかぶった。
カフカが保科副隊長の誕生日を知ったのは一週間ほど前のこと。
いつものようにレノたちと昼食をとっていた時に、うっかり近くに座っていた女性隊員たちの会話を聞いてしまったのだ。もちろん盗み聞きをしようなどとはこれっぽっちも思っていない。ただ聞こえてきたのが同じ保科小隊の先輩隊員、それも保科がいない時に代役を務める人の声となれば、癖で耳が声を拾ってしまうのも仕方なかった。
「え、アンタまだプレゼント決まってないの? 保科副隊長の誕生日、来週じゃなかったっけ」
「うう、だって何が欲しいのかわからなくて」
「あの人、アンタからのプレゼントだったら何でも喜びそうだけどね」
「そうですかねぇ」
「うんうん、何ならプレゼントは私ってのが一番喜ぶわよ」
「もう揶揄わないでくださいよ、中之島小隊長! 保科副隊長が苦笑いする姿が目に浮かぶんですけど」
「えー、そんなことないと思うけどなぁ」
カレーを掻き込みながら聞かないようにしよう聞かないようにしようと心がけたカフカだったが、結局伊春に「どうしたおっさん?」と声を掛けられるまでほとんどの会話を聞いてしまった。内緒話というわけではなさそうだが罪悪感がすごい。ぐっと胸を押さえていると、レノまで心配そうに顔を覗き込んできた。
「先輩、大丈夫ですか?」
「お、おう、何でもねーよ! 次射撃訓練だろ。早く行こうぜ」
そうしてその後の訓練を全て終え、食堂での出来事は忘れかけていたのだが。もはや恒例となっている風呂場での我慢比べの最中に、カフカは不意にそれを思い出した。
「そういえば保科副隊長、来週誕生日なんだってよ」
「へー、てか何でおっさんが知ってんだよ!」
「それはまぁ色々あんだけどよ。保科副隊長には世話になってるし何かできねぇかなって」
「先輩にしては良いこと言いますね」
「市川は俺のこと何だと思ってるんだよ」
普段から世話になっている保科に何かしたいという気持ちはその場にいる全員の総意だった。問題は何をするか、だが。
「保科副隊長の好きなものって何でしたっけ?」
「モンブランは好きって聞いたことがあるな。あとコーヒーもこだわってるらしい」
「でもそれだと誰かと被らねぇ?」
「お前らわかってねぇな! 保科副隊長といえば面白いもの好きだろ。お笑い枠で俺を入れたくらいなんだから」
「あー」
「そこで俺から提案なんだが……」
かつて基地でのことは筒抜けだと思えと保科本人に言われたことが頭をよぎったが、確か保科は午後から他部隊で会議があると出かけて行ったはず。恐らくまだ帰って来ていないだろうから聞かれる心配もない。カフカは他の四人に自信満々に自分の考えを話した。伊春以外が険しい顔をしていたのは言うまでもない。
ただ全員湯船で我慢比べをしている最中で、それなりに時間も経っていて、思考力は著しく低下していた。色々と問答はあったものの、五人がふらふらと風呂を出る頃にはカフカの案で決定していた。
カフカは亜白に頼み込み訓練場の使用許可を、クリームパイはハルイチの知り合いの店で調達、途中キコルたちに怪しまれもしたが何とかバレずに当日を迎えることができた。
「お前らこんなことしてタダで済むと思うなよ!」
「そんなん覚悟の上ですよ!」
ブルーシートがクリームで白く染まっていく中、未だに保科は綺麗なままだった。それどころか着地場所すら器用にクリームのない場所を選んでいるようで余裕すら感じられる。
ここまで準備したからには当てたい。けれど用意したパイの数には限りがある。
「いい加減大人しく当たってくださいよ、保科副隊長!!」
「アホか! そんなん言われてはいどうぞってなるわけないやろ!!」
保科は軽々とパイを躱し、訓練場の門のほうへと移動していく。そのまま逃げ切るつもりらしい。
「カフカ、これで最後だ!」
ハルイチが最後のパイをカフカに手渡す。保科はすでに門近くにいる。
絶対に当てなければ……! カフカは渾身の力で保科に向かってパイを投げた。そして保科は当然のごとくそれを避ける。しかしーー。
「保科副隊長、こちらにいらしたんですね!」
ひょこっと覗き込むように門に現れた小柄な影、そして耳に届く聞き慣れた声。カフカが投げたパイの軌道上にいたのは、保科小隊の先輩隊員だった。保科を探していたのだろう。会議でもあるのかその両腕にたくさんの書類やファイルを抱えている。
「やべっ!!」
カフカは咄嗟に前に出た。だが間に合わない。先輩隊員が避けてくれればいいが、あの荷物では難しいだろう。飛んでくるパイに目を丸くする彼女の姿が見えた。
(すんません、先輩!)
優しい彼女のことだからきっと笑って許してくれるだろうが、カフカは後から土下座でも何でもしようと心に決めた。
そしてベチョ、とクリームが付着する音がする。
「え……」
今度はカフカが目を丸くする番だった。さっきパイを避けたはずの保科が先輩隊員を庇うように立っていたからだ。その背中にはべったりとクリームが付いている。
あのほんの一瞬に判断してあの距離を戻ったのか。とてもではないが人間業とは思えない。
カフカが恐ろしさすら感じていると、保科がちらりと視線を後ろに向けた。
「お前ら、ええ加減にせえよ」
今まで聞いたことのない低く冷たい声にカフカたちは思わず息を飲んだ。それから保科はふっと息を吐き、顔を戻した。
「君は? 大丈夫やった?」
「わ、私は大丈夫です。でも保科副隊長、服が……」
「服は替えあるから問題ない。それより会議行こか」
保科は彼女に訓練場を出るよう促した。それから固まったままのカフカたちに振り向き、
「ここ、綺麗にしとけよ。その後腕立て二百回、外周三十周。……まぁやり方はあかんけど、祝おうとしてくれた気持ちは受け取っておくわ。ありがとう」
「ほ、保科副隊長〜!!」
少々罰が甘過ぎたかと思いながら、保科は訓練場を後にした。なお、クリームパイはカフカたち五人で責任をもって美味しく頂き、保科には別の誕生日プレゼントを手渡した。
***
「あんまり怒らないであげてくださいね」
部下の言葉に保科は「何のこと?」と聞き返した。
「カフカさんたちのこと。ちょっとやり過ぎちゃっただけで悪気があったわけではないと思うんです」
「別に怒っとらんし、ちゃあんとわかっとるよ」
「えー、でもすごい怖い顔してましたよ」
書類を抱えながら部下が険しい顔をする。怖いというよりは面白くて思わず吹き出すと、「笑わないでくださいよ!」と今度は頬を膨らませた。本当に面白いくらいコロコロと表情が変わる部下だ。
事実、保科はカフカたちのやったことに対して怒ってはいない。怒っていたらもっと早くに嗜めている。彼女が怒っていると感じたのなら他のことに関してなのだがーー、この様子だとそこまで気づいていないだろう。
「あ、クリーム付いてるやん」
「え?」
膨らんだ部下の頬にちょんとクリームが付いているのを見つけ、指先で拭う。それを素直にありがとうございますと感謝してくるものだから、保科はほんの少し意地悪したくなってぺろりと指先に付いたクリームを舐めてやった。
「お、意外と美味いやん」
「なっ」
部下が驚いたように声を上げた。これで少しばかり照れでもしてくれれば万々歳なのだが。
「何してるんですか保科副隊長! ばっちいですよ! ペッしてください、ペッ!」
続く言葉に保科はがくりと肩を落とす。ゴールへの道のりはまだまだ長そうだ。