保科宗四郎
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「宗四郎さん、ちょっと休憩しませんか?」
時刻はちょうどおやつの時間。読書に集中していた恋人は私の声にぱっと顔を上げて「せやな」と笑顔で頷いた。そろそろ集中力が切れて甘いものが欲しくなる頃合いだろうという私の予想は当たったらしい。
パッとソファから立ち上がり、キッチンへと向かう。それから前もって買っておいたお菓子たちを戸棚から引っ張り出して、いくつか見繕い皿に盛った。コーヒーのおかわりはさっき彼が淹れてくれたものがまだ残っているからひとまず大丈夫だろう。
お菓子ののった皿をテーブルに置き、小説に栞を挟んでいた宗四郎さんの隣に再び腰を下ろす。とりあえずここまでは計画通り。問題はここからどうするか、だけど。
私はコーヒーを飲むふりをして、こっそり宗四郎さんを盗み見た。彼は何を食べようか迷っているようで、右手が皿の上でふらふらしている。最初に手に取るのはクッキーか、チョコレートか。しかし彼は私の予想に反して一番遠くに置いてあったお菓子を手に取った。
「あ」
うっかり出てしまった声に宗四郎さんが怪訝な顔をする。
「どないしたん?」
「えっと……何でもない、です」
宗四郎さんが手にしたのは細長い棒状のビスケットにチョコレートがコーティングされた、誰もが知る有名で一般的なお菓子。
「懐かしいなぁ。昔よう食ったわ」なんて話してるから、好きなお菓子の一つなのだろう。でも今日はまずい。このままだとせっかく立てた計画がーー。
「そういえば学生の時にこのお菓子使ったゲーム、流行らんかった?」
その言葉に私はぎくりと肩を震わせた。
「ゲ、ゲームですか?」
「そ。こう端と端咥えて一緒に食べ進めて、先に離したほうが負けっちゅーやつ」
「知らん?」とチョコレートでコーティングされたお菓子の先端を向けられ、思わず息を呑む。
知らない訳がない。そもそも、それを利用しようと思ってわざわざ用意したお菓子だ。
宗四郎さんと恋人になってそろそろ半年が経つ。優しい彼は経験の少ない私に合わせてくれているというのに、私はいつまで経っても恋人という関係に慣れず、受け身で消極的な態度ばかり。
このままじゃいけない。私だって変わりたい。
そう思いなけなしの勇気を振り絞った結果、考えついたのがこのゲームだった。これなら自分から、キスできるんじゃないかって。
でも宗四郎さんはそんな私の浅はかな考えなど全部お見通しだったらしい。チョコレートの先端をちょんと私の下唇に当て、にこりと微笑む。
優しくて柔らかな笑顔。一見そう見えるのに眇められた瞳は鋭く、それでいて熱っぽい。
「なあ」
宗四郎さんが静かに私に問いかける。
「君は僕とゲームがしたいん? それとも他のこと?」
もうとっくにわかってるくせに、宗四郎さんは何が何でも私の口から言わせたいらしい。きゅっと唇を引き結んでいると催促するようにお菓子の先端でつんつんと唇を突かれた。
「わ、わかりました。ちゃんと言うのでそれやめてください」
降参したように両手を上げれば、宗四郎さんが納得したように頷いた。それからにこにこと目を細め、私の言葉の続きを待っている。
「……したいです」
「なんて?」
「っ、宗四郎さんにキス、したいです」
緊張と羞恥で心臓がどうにかなってしまいそうだった。きっと顔も真っ赤になっていることだろう。もう秋だというのに暑くてたまらなくて、少しでも熱を下げようと手でぱたぱたと顔を煽ぐ。そんな私を宗四郎さんは笑顔で見守りつつ、はいどうぞと言わんばかりに両腕広げた。
「ん、よう言えました」
心なしか嬉しそうな声音でそう言ってから、宗四郎さんが目を閉じる。おずおずと彼のほうへと近づけば、見えていないはずなのにゆるりと抱き寄せられてしまった。いよいよ逃げ場のなくなった私はとうとう役目を果たすことのなかったチョコレート菓子を横目に、そっと宗四郎さんへと体重をかけたのだった。
時刻はちょうどおやつの時間。読書に集中していた恋人は私の声にぱっと顔を上げて「せやな」と笑顔で頷いた。そろそろ集中力が切れて甘いものが欲しくなる頃合いだろうという私の予想は当たったらしい。
パッとソファから立ち上がり、キッチンへと向かう。それから前もって買っておいたお菓子たちを戸棚から引っ張り出して、いくつか見繕い皿に盛った。コーヒーのおかわりはさっき彼が淹れてくれたものがまだ残っているからひとまず大丈夫だろう。
お菓子ののった皿をテーブルに置き、小説に栞を挟んでいた宗四郎さんの隣に再び腰を下ろす。とりあえずここまでは計画通り。問題はここからどうするか、だけど。
私はコーヒーを飲むふりをして、こっそり宗四郎さんを盗み見た。彼は何を食べようか迷っているようで、右手が皿の上でふらふらしている。最初に手に取るのはクッキーか、チョコレートか。しかし彼は私の予想に反して一番遠くに置いてあったお菓子を手に取った。
「あ」
うっかり出てしまった声に宗四郎さんが怪訝な顔をする。
「どないしたん?」
「えっと……何でもない、です」
宗四郎さんが手にしたのは細長い棒状のビスケットにチョコレートがコーティングされた、誰もが知る有名で一般的なお菓子。
「懐かしいなぁ。昔よう食ったわ」なんて話してるから、好きなお菓子の一つなのだろう。でも今日はまずい。このままだとせっかく立てた計画がーー。
「そういえば学生の時にこのお菓子使ったゲーム、流行らんかった?」
その言葉に私はぎくりと肩を震わせた。
「ゲ、ゲームですか?」
「そ。こう端と端咥えて一緒に食べ進めて、先に離したほうが負けっちゅーやつ」
「知らん?」とチョコレートでコーティングされたお菓子の先端を向けられ、思わず息を呑む。
知らない訳がない。そもそも、それを利用しようと思ってわざわざ用意したお菓子だ。
宗四郎さんと恋人になってそろそろ半年が経つ。優しい彼は経験の少ない私に合わせてくれているというのに、私はいつまで経っても恋人という関係に慣れず、受け身で消極的な態度ばかり。
このままじゃいけない。私だって変わりたい。
そう思いなけなしの勇気を振り絞った結果、考えついたのがこのゲームだった。これなら自分から、キスできるんじゃないかって。
でも宗四郎さんはそんな私の浅はかな考えなど全部お見通しだったらしい。チョコレートの先端をちょんと私の下唇に当て、にこりと微笑む。
優しくて柔らかな笑顔。一見そう見えるのに眇められた瞳は鋭く、それでいて熱っぽい。
「なあ」
宗四郎さんが静かに私に問いかける。
「君は僕とゲームがしたいん? それとも他のこと?」
もうとっくにわかってるくせに、宗四郎さんは何が何でも私の口から言わせたいらしい。きゅっと唇を引き結んでいると催促するようにお菓子の先端でつんつんと唇を突かれた。
「わ、わかりました。ちゃんと言うのでそれやめてください」
降参したように両手を上げれば、宗四郎さんが納得したように頷いた。それからにこにこと目を細め、私の言葉の続きを待っている。
「……したいです」
「なんて?」
「っ、宗四郎さんにキス、したいです」
緊張と羞恥で心臓がどうにかなってしまいそうだった。きっと顔も真っ赤になっていることだろう。もう秋だというのに暑くてたまらなくて、少しでも熱を下げようと手でぱたぱたと顔を煽ぐ。そんな私を宗四郎さんは笑顔で見守りつつ、はいどうぞと言わんばかりに両腕広げた。
「ん、よう言えました」
心なしか嬉しそうな声音でそう言ってから、宗四郎さんが目を閉じる。おずおずと彼のほうへと近づけば、見えていないはずなのにゆるりと抱き寄せられてしまった。いよいよ逃げ場のなくなった私はとうとう役目を果たすことのなかったチョコレート菓子を横目に、そっと宗四郎さんへと体重をかけたのだった。
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