保科宗四郎
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所用を終え執務室に戻ってきた私は、すぐにぱちくりと瞬きをした。飛び込んできた光景がとてもじゃないけれど信じられないものだったからだ。
夢かと思って頬をつねってみるもちゃんと痛い。これは紛れもない現実だ。私は息を潜め、もう一度視線を前へと移す。
あの保科副隊長が、すぅすぅと微かな寝息を立てて眠っている。
(う、うわー!)
声を漏らさないよう口元を手で押さえ、忍び足でそっと副隊長のデスクに近づく。隊員の前では普段砕けた態度を取っているように見えて、その実一切隙を見せない保科副隊長のことだから、もしかしたら起きてしまうかもしれないと思ったものの、そんな様子は微塵もない。椅子にもたれ腕を組み、規則正しい寝息を立てている。
(このところ、働き詰めだったしなぁ)
珍しいけれど無理もないことだった。保科副隊長はただでさえ忙しい。そこに怪獣の活発化や8号、9号の出現と続いたため、ここしばらくは休日返上で働いていたのだ。絶対に大変なのに顔にはこれっぽっちも出さないで。
亜白隊長も当然それには気づいていて、少しは休めと注意していた。けれど「わかりました」と頷いたはずの保科副隊長がその後こっそりトレーニングルームに向かったのを私は知っている。
その時は純粋に、すごいなぁと思った。この人は何でもやってのけてしまうんだなって。それが少し、心配でもあったけど。
私はあどけない寝顔を見せる保科副隊長に目を細めた。当然のことながら、この人もちゃんと人の子なのだ。何だってできる超人なんかじゃない。頑張りすぎたら疲れて眠くなっちゃう、私と同じ一人の人間。そう思ったら、ずっとつっかえていたものがすとんと落ちた気分だった。
ーーそれにしても。
私はそっと保科副隊長の寝顔を盗み見た。
「……かわいい」
何でだろう。普段しっかりしている保科副隊長にはそんなこと思わないのに。私の中で副隊長は頼り甲斐があってかっこいい人という印象だ。それなのにこうして無防備な寝顔を晒す彼は年齢よりいくらか幼く見えて、きゅっと心臓の辺りがくすぐったいような心地になる。絶対にそんな必要はないのだけど、守ってあげたくなる的な。
「……ちょっとくらいならいいよね」
気づけば私は自身のスマートフォンを手にしていた。そしてカメラアプリを立ち上げ、そっとシャッターに指を這わす。このアプリの良いところはシャッター音が鳴らないところだ。これなら保科副隊長を起こす心配もないし、何ならもう一枚別の角度からもーー。
そうしてスマートフォンを構え直した私は、画面を覗き込んで「ひっ」と息を呑んだ。咄嗟にその場から逃げ出そうとして、がっちりと手首を掴まれていることに気づく。必死に引っ張れどびくともしない。
「ひどいやん、人の顔見るなり逃げるなんて」
私はふるふると首を振りながら、手首を掴むその人を見つめた。一体いつの間に起きたのだろう。さっきまですやすやと眠っていたはずの保科副隊長が、私ににっこりと笑顔を向けている。
「お、おはよーございます……」
「ん、おはよーさん。僕としたことがうっかり寝てしもたみたいやわ。恥ずいからこのこと他の奴らには内緒にしといてな。で、君はここで何してんの」
「私はその、これから射撃訓練にでも行こうかなと!」
一刻も早くこの場から立ち去りたかった私はそう口走った。本当は報告書をまとめないといけなかったのだけど、それはもう後回し。実際に射撃訓練に行ってしまえば嘘をついたことにもならないし。
「ほーん。そら練習熱心やなぁ。僕はてっきり君が僕の寝顔隠し撮りしとったんかと思ったわ」
「え?」
核心をつく言葉にぎくりと心臓が鳴る。
「やってそうやろ? ちょっとくらいええかなーってスマホ構えてパシャパシャと。違かった?」
「まだ一枚しか撮ってないです! って、あ……」
最初から狸寝入りだったのか、はたまた鎌をかけられたのか。どちらにせよ自身の犯行をうっかり白状してしまったことに気づき、さぁっと血の気が引いていく。私のばか!
一方の保科副隊長は涙目になるほど大笑い。まさかここまで綺麗に白状するとは思っていなかったらしい。
「はー、おもろっ!」
「くっ、画像は消すのでこのことは誰にも言わないでください」
「別に消さんでええよ、僕も君の寝顔の写真持っとるし」
「へ?」
ぱちりと目を丸くする私に保科副隊長は得意げに続ける。
「君この前資料室で寝とったやろ。ぐっすりやったから起こさへんかったけど。それと別の日には昼休みに屋上の自販機のとこベンチでも寝とったよなぁ」
「な、なんでそれを!?」
「基地内での出来事は全部筒抜けやと思え!」
保科副隊長の情報網が恐ろしすぎる。とはいえ、
「さすがに私の寝顔写真を持ってるってのは冗談……ですよね?」
恐る恐る伺うと、保科副隊長は指を組んで今日一番の笑顔をその顔に浮かべた。
「さぁ、どっちやと思う?」
すっと細められた瞳はどこか蠱惑的で変に心臓が鳴った。表情から保科副隊長の言葉の真意を見抜けたらよかったけれど、あの笑みを長く見つめるのは心臓に悪い。
「ス、スマホ! スマホの中身見せてください」
パッと視線を逸らして、代わりに保科副隊長に手を差し出す。証拠さえ確認できればこっちのものだ。しかし保科副隊長は何を言っているのかと首を傾げた。
「え、普通に嫌やけど。プライバシーの侵害やん」
「んなっ」
それはそう、なのだけど。突然の正論に何も言い返せないでいると、不意に保科副隊長が立ち上がった。
「せや、僕これから会議やってん」
思い出したとばかりに手を叩き執務室を去ろうとする保科副隊長を、私は慌てて引き止めた。まだ話は終わっていない。
「待ってください、せめて嘘か本当かだけでも……!」
このままだと気になって何も手につかなくなってしまいそうだ。そう思い、縋る思いで保科副隊長を見つめたのだけど、返ってきたのはまたあのどきりとするような笑みだった。すっと人差し指の当てられた唇をつい目で追ってしまう。
「ナイショ。やってそっちのがおもろいやろ?」
私は全然面白くない、のだけど。
あんな保科副隊長の表情を見るのは初めてで、自分の寝顔写真の存在よりもそっちのがずっと、私の心をざわつかせていた。
夢かと思って頬をつねってみるもちゃんと痛い。これは紛れもない現実だ。私は息を潜め、もう一度視線を前へと移す。
あの保科副隊長が、すぅすぅと微かな寝息を立てて眠っている。
(う、うわー!)
声を漏らさないよう口元を手で押さえ、忍び足でそっと副隊長のデスクに近づく。隊員の前では普段砕けた態度を取っているように見えて、その実一切隙を見せない保科副隊長のことだから、もしかしたら起きてしまうかもしれないと思ったものの、そんな様子は微塵もない。椅子にもたれ腕を組み、規則正しい寝息を立てている。
(このところ、働き詰めだったしなぁ)
珍しいけれど無理もないことだった。保科副隊長はただでさえ忙しい。そこに怪獣の活発化や8号、9号の出現と続いたため、ここしばらくは休日返上で働いていたのだ。絶対に大変なのに顔にはこれっぽっちも出さないで。
亜白隊長も当然それには気づいていて、少しは休めと注意していた。けれど「わかりました」と頷いたはずの保科副隊長がその後こっそりトレーニングルームに向かったのを私は知っている。
その時は純粋に、すごいなぁと思った。この人は何でもやってのけてしまうんだなって。それが少し、心配でもあったけど。
私はあどけない寝顔を見せる保科副隊長に目を細めた。当然のことながら、この人もちゃんと人の子なのだ。何だってできる超人なんかじゃない。頑張りすぎたら疲れて眠くなっちゃう、私と同じ一人の人間。そう思ったら、ずっとつっかえていたものがすとんと落ちた気分だった。
ーーそれにしても。
私はそっと保科副隊長の寝顔を盗み見た。
「……かわいい」
何でだろう。普段しっかりしている保科副隊長にはそんなこと思わないのに。私の中で副隊長は頼り甲斐があってかっこいい人という印象だ。それなのにこうして無防備な寝顔を晒す彼は年齢よりいくらか幼く見えて、きゅっと心臓の辺りがくすぐったいような心地になる。絶対にそんな必要はないのだけど、守ってあげたくなる的な。
「……ちょっとくらいならいいよね」
気づけば私は自身のスマートフォンを手にしていた。そしてカメラアプリを立ち上げ、そっとシャッターに指を這わす。このアプリの良いところはシャッター音が鳴らないところだ。これなら保科副隊長を起こす心配もないし、何ならもう一枚別の角度からもーー。
そうしてスマートフォンを構え直した私は、画面を覗き込んで「ひっ」と息を呑んだ。咄嗟にその場から逃げ出そうとして、がっちりと手首を掴まれていることに気づく。必死に引っ張れどびくともしない。
「ひどいやん、人の顔見るなり逃げるなんて」
私はふるふると首を振りながら、手首を掴むその人を見つめた。一体いつの間に起きたのだろう。さっきまですやすやと眠っていたはずの保科副隊長が、私ににっこりと笑顔を向けている。
「お、おはよーございます……」
「ん、おはよーさん。僕としたことがうっかり寝てしもたみたいやわ。恥ずいからこのこと他の奴らには内緒にしといてな。で、君はここで何してんの」
「私はその、これから射撃訓練にでも行こうかなと!」
一刻も早くこの場から立ち去りたかった私はそう口走った。本当は報告書をまとめないといけなかったのだけど、それはもう後回し。実際に射撃訓練に行ってしまえば嘘をついたことにもならないし。
「ほーん。そら練習熱心やなぁ。僕はてっきり君が僕の寝顔隠し撮りしとったんかと思ったわ」
「え?」
核心をつく言葉にぎくりと心臓が鳴る。
「やってそうやろ? ちょっとくらいええかなーってスマホ構えてパシャパシャと。違かった?」
「まだ一枚しか撮ってないです! って、あ……」
最初から狸寝入りだったのか、はたまた鎌をかけられたのか。どちらにせよ自身の犯行をうっかり白状してしまったことに気づき、さぁっと血の気が引いていく。私のばか!
一方の保科副隊長は涙目になるほど大笑い。まさかここまで綺麗に白状するとは思っていなかったらしい。
「はー、おもろっ!」
「くっ、画像は消すのでこのことは誰にも言わないでください」
「別に消さんでええよ、僕も君の寝顔の写真持っとるし」
「へ?」
ぱちりと目を丸くする私に保科副隊長は得意げに続ける。
「君この前資料室で寝とったやろ。ぐっすりやったから起こさへんかったけど。それと別の日には昼休みに屋上の自販機のとこベンチでも寝とったよなぁ」
「な、なんでそれを!?」
「基地内での出来事は全部筒抜けやと思え!」
保科副隊長の情報網が恐ろしすぎる。とはいえ、
「さすがに私の寝顔写真を持ってるってのは冗談……ですよね?」
恐る恐る伺うと、保科副隊長は指を組んで今日一番の笑顔をその顔に浮かべた。
「さぁ、どっちやと思う?」
すっと細められた瞳はどこか蠱惑的で変に心臓が鳴った。表情から保科副隊長の言葉の真意を見抜けたらよかったけれど、あの笑みを長く見つめるのは心臓に悪い。
「ス、スマホ! スマホの中身見せてください」
パッと視線を逸らして、代わりに保科副隊長に手を差し出す。証拠さえ確認できればこっちのものだ。しかし保科副隊長は何を言っているのかと首を傾げた。
「え、普通に嫌やけど。プライバシーの侵害やん」
「んなっ」
それはそう、なのだけど。突然の正論に何も言い返せないでいると、不意に保科副隊長が立ち上がった。
「せや、僕これから会議やってん」
思い出したとばかりに手を叩き執務室を去ろうとする保科副隊長を、私は慌てて引き止めた。まだ話は終わっていない。
「待ってください、せめて嘘か本当かだけでも……!」
このままだと気になって何も手につかなくなってしまいそうだ。そう思い、縋る思いで保科副隊長を見つめたのだけど、返ってきたのはまたあのどきりとするような笑みだった。すっと人差し指の当てられた唇をつい目で追ってしまう。
「ナイショ。やってそっちのがおもろいやろ?」
私は全然面白くない、のだけど。
あんな保科副隊長の表情を見るのは初めてで、自分の寝顔写真の存在よりもそっちのがずっと、私の心をざわつかせていた。