保科宗四郎
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彼女が髪を耳にかける仕草が好きだった。その横顔はいつだって真剣で、こちらの視線に気づくことも彼女がこちらを向くこともなかったけれど、それでよかった。
「あ」
「はい?」
「いや。君、ピアス開けとったんやなって」
僕の指摘に彼女は「ああ」と自身の耳朶を指先で弄った。真面目な彼女の照れたような表情を初めて見た。
「これはその、彼氏がお揃いで着けたいから開けてほしいって」
訊けば高校時代からの付き合いだという。ピアス穴を開けたのもその頃らしい。それはそれは、随分と長い付き合いで。
「あ、もちろん休みの日しか着けてないですよ」
「わかっとるわかっとる。そこは個人の自由やから。ただ意外やなと思って」
「そうですか?」
「だって君、痛いの苦手やろ」
彼女はいつだって真面目で真剣で、顔に出さないようにしているけれど、それくらい見ていればわかる。
「まぁ得意ではないですけど。怪獣討伐で怪我するのに比べればなんてことないですよ」
「ほーん」
「保科副隊長も開けます?」
「嫌や! 絶対開けへん!」
「えー」
くすくすと笑う彼女の耳を、落ちてきた横髪が隠す。それを残念に思った自分がいてほとほと呆れてしまった。そこにあるのは自分以外の男の、執着とも独占欲ともとれる跡なのに。
***
彼女が髪を耳にかけた。現れたのは真剣な横顔とそれからーー。
「あ」
「はい?」
「いや、それ……」
口にしてしまった以上取り消すこともできず、かといってどう言葉にしたものか迷っているうちに彼女が「ああ」と自身の耳朶を指先で弄った。そこにあるはずの穴は、塞がっていた。
「彼氏と別れたんです。もう結構前ですけど」
そう言って彼女は困ったように眉を下げて笑った。気にしないでくださいとも。
仕事にプライベートを持ち込むことを良しとしない彼女のことだ。きっと誰にも気取られないよう注意していたのだろう。実際僕は、彼女のピアス穴が塞がるまでそのことに気づけなかった。
一体いつ別れたのか。原因は何だったのか。彼女は傷ついたのか。それとももう、穴が塞がるのと一緒にその傷も癒えたのか。そう見えるよう振る舞っているだけなのか。僕には知りようもない。ただ、せっかく開けたピアス穴が塞がっても構わないと彼女が思ったのは確かで。
「もうせぇへんの、ピアス」
「……しません。塞がっちゃったし、もういいかなって。痛いのも嫌なんで」
一度だけ、非番の日に彼女と街で出くわしたことがある。人を待っているとのことだったが誰を待っているかは化粧や服装から一目瞭然で、その耳には普段見ることのないピアスが光っていた。認めたくはないが、彼女によく似合っていたのを覚えている。
「ほなイヤリングは?」
「え?」
「イヤリングなら穴開けんでもできるやろ。せや、今度一緒に買いに行かへん? 僕が君にぴったりなの選んだるわ」
デートに誘いたかったのか、彼女にまたアクセサリーを着けてほしかったのか。自分でもよくわからないまま、気づけばそう口にしていた。前者だとしたら誘うのが下手すぎて穴があったら入りたいレベルなのだが。
僕の言葉にポカンとしていた彼女がくすくすと笑い出す。
「私まだイヤリング着けるって言ってないのに」
「それはほんまにそう。すまん早まったわ」
「ふふ、冗談ですよ。でもいいですね。元彼は好きなの着けさせてくれなかったし、色々買いたいかも」
彼女がこぼれ落ちた髪を耳にかけ直し、ゆるりと目元を緩める。柔らかな表情で正面から見つめられ、思わずどきりとした。
「行きたいお店があるんですけど付き合ってもらってもいいですか? 私、あまりセンスがいいほうじゃないので、保科副隊長にアドバイスしてもらえる助かります」
正直僕もセンス云々はわからない。けれど不思議と彼女に似合うものを選ぶ自信はあった。もちろん、彼女が気に入ったものを身につけるのが一番だけども。
何はともあれ、この機会を逃す手はない。
僕は浮き立つ心を抑えつつ、「もちろんええよ」と彼女の提案に頷いた。
「あ」
「はい?」
「いや。君、ピアス開けとったんやなって」
僕の指摘に彼女は「ああ」と自身の耳朶を指先で弄った。真面目な彼女の照れたような表情を初めて見た。
「これはその、彼氏がお揃いで着けたいから開けてほしいって」
訊けば高校時代からの付き合いだという。ピアス穴を開けたのもその頃らしい。それはそれは、随分と長い付き合いで。
「あ、もちろん休みの日しか着けてないですよ」
「わかっとるわかっとる。そこは個人の自由やから。ただ意外やなと思って」
「そうですか?」
「だって君、痛いの苦手やろ」
彼女はいつだって真面目で真剣で、顔に出さないようにしているけれど、それくらい見ていればわかる。
「まぁ得意ではないですけど。怪獣討伐で怪我するのに比べればなんてことないですよ」
「ほーん」
「保科副隊長も開けます?」
「嫌や! 絶対開けへん!」
「えー」
くすくすと笑う彼女の耳を、落ちてきた横髪が隠す。それを残念に思った自分がいてほとほと呆れてしまった。そこにあるのは自分以外の男の、執着とも独占欲ともとれる跡なのに。
***
彼女が髪を耳にかけた。現れたのは真剣な横顔とそれからーー。
「あ」
「はい?」
「いや、それ……」
口にしてしまった以上取り消すこともできず、かといってどう言葉にしたものか迷っているうちに彼女が「ああ」と自身の耳朶を指先で弄った。そこにあるはずの穴は、塞がっていた。
「彼氏と別れたんです。もう結構前ですけど」
そう言って彼女は困ったように眉を下げて笑った。気にしないでくださいとも。
仕事にプライベートを持ち込むことを良しとしない彼女のことだ。きっと誰にも気取られないよう注意していたのだろう。実際僕は、彼女のピアス穴が塞がるまでそのことに気づけなかった。
一体いつ別れたのか。原因は何だったのか。彼女は傷ついたのか。それとももう、穴が塞がるのと一緒にその傷も癒えたのか。そう見えるよう振る舞っているだけなのか。僕には知りようもない。ただ、せっかく開けたピアス穴が塞がっても構わないと彼女が思ったのは確かで。
「もうせぇへんの、ピアス」
「……しません。塞がっちゃったし、もういいかなって。痛いのも嫌なんで」
一度だけ、非番の日に彼女と街で出くわしたことがある。人を待っているとのことだったが誰を待っているかは化粧や服装から一目瞭然で、その耳には普段見ることのないピアスが光っていた。認めたくはないが、彼女によく似合っていたのを覚えている。
「ほなイヤリングは?」
「え?」
「イヤリングなら穴開けんでもできるやろ。せや、今度一緒に買いに行かへん? 僕が君にぴったりなの選んだるわ」
デートに誘いたかったのか、彼女にまたアクセサリーを着けてほしかったのか。自分でもよくわからないまま、気づけばそう口にしていた。前者だとしたら誘うのが下手すぎて穴があったら入りたいレベルなのだが。
僕の言葉にポカンとしていた彼女がくすくすと笑い出す。
「私まだイヤリング着けるって言ってないのに」
「それはほんまにそう。すまん早まったわ」
「ふふ、冗談ですよ。でもいいですね。元彼は好きなの着けさせてくれなかったし、色々買いたいかも」
彼女がこぼれ落ちた髪を耳にかけ直し、ゆるりと目元を緩める。柔らかな表情で正面から見つめられ、思わずどきりとした。
「行きたいお店があるんですけど付き合ってもらってもいいですか? 私、あまりセンスがいいほうじゃないので、保科副隊長にアドバイスしてもらえる助かります」
正直僕もセンス云々はわからない。けれど不思議と彼女に似合うものを選ぶ自信はあった。もちろん、彼女が気に入ったものを身につけるのが一番だけども。
何はともあれ、この機会を逃す手はない。
僕は浮き立つ心を抑えつつ、「もちろんええよ」と彼女の提案に頷いた。