保科宗四郎
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ーーやってしまった。
担当医が病室から出て行くのを見送った後で、ベッドに横たわりながらはぁぁぁと長い溜息をつく。ついでに両手で頭を抱えようとしたけれど、それは叶わなかった。右腕がギプスでガチガチに固定されていたからだ。
思うように動かせない利き腕を見て、私は再び溜息をこぼす。
思い出すのは先の討伐作戦でのこと。亜白隊長、保科副隊長が不在の中、現れた怪獣を複数小隊合同で討伐したところまではよかった。しかし問題はその後溢れ出た余獣で、数は少なく一体一体は強くないものの、行動に一貫性がなく攻撃予測が立てづらいという難点があった。
オペレーターと密に連絡を取っていたが後手に回ってしまい、隊員たちとの連携も次第に崩れ始める。そしてある余獣と対峙していたところに他の余獣が突っ込んできて、私はその余獣もろとも近くのビルに思い切り打ち付けられた。
その後余獣同士で縄張り争いをするかのように戦い始め、その隙を狙って駆けつけた他隊員が討伐してくれたのだけど、シールドを張るのが遅れた私は頭も打っていて、そのまま気を失ったのだ。
そうして次に目を覚ました時には病院のベッドの上。ぼんやりと目を開けた私に担当医はにこりと笑って言った。「綺麗にポッキリいったねぇ」と私の腕を指差しながら。
その瞬間、一気に覚醒したのは言うまでもない。血の気が引き、どうしようと思考がぐるぐる回る。やったのは利き腕。担当医は若いからすぐ治ると言っていたけれど、これでは任務に就くのはしばらく不可能だ。
「あの、これって今日明日じゃ治らないですよね」
「はは、だといいんだけどね。今の医療技術では難しいかな」
「ですよねー」
あれだけ派手にビルに突っ込んだ割に、怪我は軽いほうなのだという。今日は念のため検査入院とのことだけど、頭も外傷だけで跡が残ることもないらしい。
運が良かったのだろう。でも、それでもと思わずにはいられない。
あの時もっと早くシールドを張れていたら。もっと上手く受け身を取れていたら。
今さら考えてもどうしようもないたらればを並べては、未熟な自分が嫌になる。
ふぅと今日何度目かの溜息をつき、顔を上げる。
「今から鍛えて左利きになればワンチャン……」
「いや、そうはならんやろ」
「え」
独り言に返ってきたツッコミに私は思わず目を丸くした。見れば病室の入口に、いつからいたのか保科副隊長と亜白隊長が立っている。
慌てて敬礼しようとすれば利き腕は当然動かず、痛みに顔を顰める私に亜白隊長が必要ないと手で合図してくれた。
「怪我のほうは大丈夫か?」
「はい、治るのにそうかからないだろうと。今日は一日検査入院ですが頭部の傷も浅いそうです」
「そうか。ならよかった」
そう言って僅かに表情を緩めた亜白隊長に胸が苦しくなる。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
頭を下げると亜白隊長は不思議そうに首を傾げた。
「何を言っている。心配はしたが、迷惑はしていない」
「せやな。連携の取りにくい中、君が各小隊に指示を出してくれとったって聞いとるで。ほんまようやってくれたわ」
「副隊長……」
自分はまだまだ未熟だ。けれど二人にそう言ってもらえると少しだけ心が軽くなったような気がした。
「ただ……」
「ただ?」
「安静にするよう言われとるはずやのに、筋トレし始めるのはいただけんな」
「うっ、」
「見とったでー、君がぶつぶつ言いながら左腕で腕立てしようとしとるとこ。ねえ、亜白隊長」
「ああ。それだと治るものも治らないぞ」
「でも……」
「焦る気持ちもわかる。けど今はしっかり休みや。ほら、君の好きなゼリーも買うて来たし」
そう言って保科副隊長が差し出してきたのはちょっといいとこの果物ゼリーだ。私が頑張ったご褒美に買うと話していたのを覚えてくれていたらしい。
けれどこの腕でスプーンを持つことは難しく、治ったらいただきますねと伝えれば、「任せとき」といい返事が返ってきた。え、任せとき?
「ほら、あーん」
「……えっ!?」
保科副隊長がいい笑顔でゼリーを掬ったスプーンを差し出してくる。どうしてこんなことに!?
助けを求めるように亜白隊長を見れば、彼女も珍しく目元を緩めていた。そして助ける気もないらしい。
これはもしかしてもしかしなくても。
「私が怪我してるのに筋トレしようとした罰ですか?」
「人聞き悪いなぁ。僕らは好きなもん食って君に早よようなってほしいなって思っただけやで」
絶対に嘘だ。そう顔に書いてある。言うなればこれは安静にする気のない私への「おしおき」なのだろう。それも隊長、副隊長二人掛かりの。そんなの逃げられるわけがない。
私は羞恥に唇を噛みながらも、そっと口を開けた。よくできましたと言わんばかりに保科副隊長の笑みが深くなる。
プラスチックのスプーンを口に含めば、するりとゼリーと桃が舌の上を滑っていった。
「どう? 美味い?」
「おいひいれす」
正直に言えば恥ずかしすぎて味なんてわからなかった。ただ顔が熱を持っているのだろう。ゼリーの冷たさがいつもより身に染みた。
でもこの恥ずかしさを堪えてしまえば、おしおきは終わる、はずで……。
「あの、亜白隊長?」
「どうした」
「なぜゼリーをもう一つ開けてるんですか?」
私の質問に亜白隊長が微かに口端を上げた。その微笑みはどこか悪戯をする子どものようにも見えて、普段とのギャップにドキリとする。
「ぶどうは嫌いだったか?」
そう言って頬に手を添えられ、口元にスプーンを持って来られては拒否できるはずもなく。
「んぐっ、好きです!!」
私は真っ赤になりながら亜白隊長からの「あーん」を受け取り、結局そのまま二人からのゼリーを完食し、もう二度と無茶はしないと心に誓ったのだった。
担当医が病室から出て行くのを見送った後で、ベッドに横たわりながらはぁぁぁと長い溜息をつく。ついでに両手で頭を抱えようとしたけれど、それは叶わなかった。右腕がギプスでガチガチに固定されていたからだ。
思うように動かせない利き腕を見て、私は再び溜息をこぼす。
思い出すのは先の討伐作戦でのこと。亜白隊長、保科副隊長が不在の中、現れた怪獣を複数小隊合同で討伐したところまではよかった。しかし問題はその後溢れ出た余獣で、数は少なく一体一体は強くないものの、行動に一貫性がなく攻撃予測が立てづらいという難点があった。
オペレーターと密に連絡を取っていたが後手に回ってしまい、隊員たちとの連携も次第に崩れ始める。そしてある余獣と対峙していたところに他の余獣が突っ込んできて、私はその余獣もろとも近くのビルに思い切り打ち付けられた。
その後余獣同士で縄張り争いをするかのように戦い始め、その隙を狙って駆けつけた他隊員が討伐してくれたのだけど、シールドを張るのが遅れた私は頭も打っていて、そのまま気を失ったのだ。
そうして次に目を覚ました時には病院のベッドの上。ぼんやりと目を開けた私に担当医はにこりと笑って言った。「綺麗にポッキリいったねぇ」と私の腕を指差しながら。
その瞬間、一気に覚醒したのは言うまでもない。血の気が引き、どうしようと思考がぐるぐる回る。やったのは利き腕。担当医は若いからすぐ治ると言っていたけれど、これでは任務に就くのはしばらく不可能だ。
「あの、これって今日明日じゃ治らないですよね」
「はは、だといいんだけどね。今の医療技術では難しいかな」
「ですよねー」
あれだけ派手にビルに突っ込んだ割に、怪我は軽いほうなのだという。今日は念のため検査入院とのことだけど、頭も外傷だけで跡が残ることもないらしい。
運が良かったのだろう。でも、それでもと思わずにはいられない。
あの時もっと早くシールドを張れていたら。もっと上手く受け身を取れていたら。
今さら考えてもどうしようもないたらればを並べては、未熟な自分が嫌になる。
ふぅと今日何度目かの溜息をつき、顔を上げる。
「今から鍛えて左利きになればワンチャン……」
「いや、そうはならんやろ」
「え」
独り言に返ってきたツッコミに私は思わず目を丸くした。見れば病室の入口に、いつからいたのか保科副隊長と亜白隊長が立っている。
慌てて敬礼しようとすれば利き腕は当然動かず、痛みに顔を顰める私に亜白隊長が必要ないと手で合図してくれた。
「怪我のほうは大丈夫か?」
「はい、治るのにそうかからないだろうと。今日は一日検査入院ですが頭部の傷も浅いそうです」
「そうか。ならよかった」
そう言って僅かに表情を緩めた亜白隊長に胸が苦しくなる。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
頭を下げると亜白隊長は不思議そうに首を傾げた。
「何を言っている。心配はしたが、迷惑はしていない」
「せやな。連携の取りにくい中、君が各小隊に指示を出してくれとったって聞いとるで。ほんまようやってくれたわ」
「副隊長……」
自分はまだまだ未熟だ。けれど二人にそう言ってもらえると少しだけ心が軽くなったような気がした。
「ただ……」
「ただ?」
「安静にするよう言われとるはずやのに、筋トレし始めるのはいただけんな」
「うっ、」
「見とったでー、君がぶつぶつ言いながら左腕で腕立てしようとしとるとこ。ねえ、亜白隊長」
「ああ。それだと治るものも治らないぞ」
「でも……」
「焦る気持ちもわかる。けど今はしっかり休みや。ほら、君の好きなゼリーも買うて来たし」
そう言って保科副隊長が差し出してきたのはちょっといいとこの果物ゼリーだ。私が頑張ったご褒美に買うと話していたのを覚えてくれていたらしい。
けれどこの腕でスプーンを持つことは難しく、治ったらいただきますねと伝えれば、「任せとき」といい返事が返ってきた。え、任せとき?
「ほら、あーん」
「……えっ!?」
保科副隊長がいい笑顔でゼリーを掬ったスプーンを差し出してくる。どうしてこんなことに!?
助けを求めるように亜白隊長を見れば、彼女も珍しく目元を緩めていた。そして助ける気もないらしい。
これはもしかしてもしかしなくても。
「私が怪我してるのに筋トレしようとした罰ですか?」
「人聞き悪いなぁ。僕らは好きなもん食って君に早よようなってほしいなって思っただけやで」
絶対に嘘だ。そう顔に書いてある。言うなればこれは安静にする気のない私への「おしおき」なのだろう。それも隊長、副隊長二人掛かりの。そんなの逃げられるわけがない。
私は羞恥に唇を噛みながらも、そっと口を開けた。よくできましたと言わんばかりに保科副隊長の笑みが深くなる。
プラスチックのスプーンを口に含めば、するりとゼリーと桃が舌の上を滑っていった。
「どう? 美味い?」
「おいひいれす」
正直に言えば恥ずかしすぎて味なんてわからなかった。ただ顔が熱を持っているのだろう。ゼリーの冷たさがいつもより身に染みた。
でもこの恥ずかしさを堪えてしまえば、おしおきは終わる、はずで……。
「あの、亜白隊長?」
「どうした」
「なぜゼリーをもう一つ開けてるんですか?」
私の質問に亜白隊長が微かに口端を上げた。その微笑みはどこか悪戯をする子どものようにも見えて、普段とのギャップにドキリとする。
「ぶどうは嫌いだったか?」
そう言って頬に手を添えられ、口元にスプーンを持って来られては拒否できるはずもなく。
「んぐっ、好きです!!」
私は真っ赤になりながら亜白隊長からの「あーん」を受け取り、結局そのまま二人からのゼリーを完食し、もう二度と無茶はしないと心に誓ったのだった。