保科宗四郎
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
これあげる、と端末のバナーにメッセージが表示され、何の気なしにタップしてすぐにそれを後悔した。ひゅっと喉が鳴り、さっきまでしていた息の仕方が途端にわからなくなる。
「え、何これ……えっ!?」
私は端末画面を二、三度見してから食い入るように知り合いが送ってきた画像を見つめた。
そこに映っていたのは面立ちのよく似た二人の少年の写真。中学生と小学生くらいだろうか、二人とも道着を着て手には竹刀を持っている。年上らしき少年はべっと舌を出し生意気そうな顔で笑っていて、もう一人の少年はやわらかそうな頬っぺたをむすりと膨らませていた。
「かっ、かわい〜!!」
私の視線は頬を膨らませ心底悔しそうな顔をする少年に釘付けだ。何このかわいい子。そのあまりの可愛さに私は勤務中というのも忘れ、胸を押さえてその場に崩れ落ちた。
何だろう、この気持ちは。むすりとした表情の少年を思いきり抱きしめて、頭を撫でて、甘やかしたい。膨れた頬を突ついたら怒られるだろうか。でもそれすらかわいいに違いない。嫌がるのも構わずぎゅっとしたい。
「もしやこれが、母性……?」
訳のわからないことを言っている自覚はある。でもそれくらい冷静ではいられなかった。
まぁ画像の少年に何を思ったところで叶わないとわかっていたし、幸い周りに誰もいなかったから、少しくらい自分の心に素直になってもいいかなって。
「何をそんなとこで膝ついてんの?」
「ぴゃっ!?」
突然背後から声がして、人生で出したことのない声が出た。聞こえたのは今一番会いたくない人の声。恐る恐る振り向けばそこには保科副隊長がいて、不思議そうに首を傾げてこちらの様子を窺っている。
「どないしたん? 体調でも悪いん?」
「いやー、そんなことはないですよ。ちょっとコンタクト落としちゃってぇ」
「そら大変やん! ってんなわけないやろ。めっちゃ目ぇ泳いどるし、君そもそも裸眼やろ。嘘つくの下手くそか」
「じゃああれですあれ! 靴紐が解けて」
「じゃあって言うてしもてるやん」
「ぐっ……」
しどろもどろになりながら言い訳を探していると、私を見やる保科副隊長の視線が段々と鋭くなっていく。注意深く観察されていると言ったほうが近いかもしれない。そして程なくして保科副隊長の視線がある一点に注がれた。
「それか」
「あっ」
抵抗する間もなくひょいと手から端末が奪われる。さぁっと血の気が引いていく私とは裏腹に、保科副隊長の顔は赤く染まりわなわなと震え始めた。
「ちょっ、何で君がこの写真持ってんの!?」
ギャーと叫び出しそうな勢いで保科副隊長が端末を持ったまま問い詰めてきた。目の前に端末に映るむくれた少年と保科副隊長が並ぶ。
二人を見比べて、ビフォーアフターだ! とうっかり声に出しそうになったけれど、何とか我慢した。
そう、送られてきた画像の少年は保科副隊長その人なのである。本人は昔の写真を私に見られたことがよっぽど恥ずかしいらしく、珍しく目に見えて動揺していたけれど。お陰で隙だらけだ。
素早く手を伸ばして保科副隊長から端末を奪い返す。今度は簡単に取られないよう端末を隊服のポケットにしまい込んだ。
「頼むから早よ消してー! てか誰やその写真送ってきたんは」
「べ、別に誰でもいいでしょう」
「よくないわ! 吐くまで離さへんぞ」
「むぐっ」
黙秘を貫こうとしたら、片手でむぎゅっと両頬を掴まれた。ぶはっと笑う気配がしたから、きっと不細工になっているのだろう。でも画像提供者との信頼関係に関わるから、簡単に口を割るわけにはいかない。
きゅっと唇を引き結んだ私を見て、これ以上は無理だと思ったのか保科副隊長が溜息をついた。しかしやっと解放してもらえるとほっとしたのも束の間、パシャリと響いたシャッター音。
見れば保科副隊長がもう片方の手で器用に端末を構えていた。そしてまたパシャリ。その後はカシャシャシャと音が連続してーー。
「連写はやめてー!!」
「強情な君が悪いんやで。僕かてこんな手は使いたなかったわ。けど、ぶふっ、なかなかええ写真が撮れたなぁ。うっかり小隊のみんなに送ってしまいそうやわ」
そう言ってにっこりといい笑顔を向ける保科副隊長だけど、今の私には悪魔の笑みにしか見えなかった。今の不細工な顔を保科小隊のみんなに見られたら……あのメンツだ、間違いなく面白がって第3部隊全員に拡散される。
「そ、それだけはご勘弁を……」
「君次第やなぁ。で、誰なん? それ送ってきたんは」
私は心の中で画像提供者に謝罪をしてから、その名前を告げた。
「保科……隊長です」
「はぁ!? 何でそこでクソ兄貴が出てくんねん! いやけど写真持っとるんはあいつくらいか。……ちょお待って、何であいつが君の連絡先知ってんねん」
さっきまでにこにこと笑っていた保科副隊長からすとんと表情が抜け落ちた。それを見て私はびくりと肩を震わせる。
(あ、やばい……)
保科副隊長は本気でキレると無表情になるのだ。けれど彼をよく知る者にははっきりと、その顔に般若の面が見える。
思わず身を捩れば退路を断つようにドンッと壁に手を突かれた。こんな生きた心地のしない壁ドンは初めてだ。
「なぁ、いつあいつと連絡先交換したん? 僕知らんかったんやけど」
「えっと、前に基地にいらした時に迷ったから会議室まで案内してほしいと言われてその時に」
前と言っても随分前のことだ。「そこの隊員さーん」と声をかけられたと思ったら第6の保科隊長で、副隊長にはお世話になってますと言ったらそのまま話が弾んで流されるまま連絡先を交換して。別れ際「宗四郎には内緒やで」と保科隊長に言われ、実際言うほどのことでもなかったからずっと黙っていたのだけど。それが保科副隊長は心底気に入らないらしい。
「あいつ僕に隠れてコソコソと。迷うわけないやろ。何回会議やら演習やらでうちの基地来てんねん!」
どついたろかホンマに! と本当にやりかねない声音で言ってから、保科副隊長は私に向き直った。
「なぁ、さっきの君の写真消すからあいつにもらった画像消してくれへん?」
「い、嫌です! せっかくかわいいもらったのに」
「君なぁ。ほな僕も君の写真消さへんけどええの?」
私はぐっと言葉に詰まった。正直に言えば消してほしい。でもかわいいかわいい保科少年の写真と天秤にかけたら……いや、かけるまでもない。
「いい、です。でも誰かに送るのはなしです。私も誰にも送りませんから」
せっかく手に入れた貴重な写真だ。手放すつもりはさらさらなかった。例え保科副隊長の端末の写真フォルダを私の変顔が埋めようとも。
「そんな写真のどこがええの?」
呆れたように保科副隊長が溜息をつきながら言った。
「どこって全部ですよ! ちっちゃい保科副隊長悔しそうに頬っぺた膨らませてかわいいし、この頃から負けず嫌いだったんだなって。あと、私の知らない保科副隊長を知れるのは嬉しいです」
私は出会ってから今に至るまで、数年程度の保科副隊長しか知らない。それに不満があるわけではないけれど、やっぱり好きな人の過去は気になるもので。出会う前、それこそ子ども時代の保科副隊長の姿を見れたのは素直に嬉しいかった。保科副隊長はあまり昔の話をしたがらないから。
「僕の昔話なんておもんないで。ずっと剣一筋やったし、兄貴にはやられっぱなしやったし」
「そんなことないです。保科副隊長は昔から保科副隊長だなって思いましたよ」
「何やねんそれ」
照れくさそうに保科副隊長が頬を掻いた。それから真面目な顔つきで私の名前を呼んだ。基地で下の名前で呼ばれたのは初めてで少し驚く。
「そんなに気になるなら今度非番の時に一緒に行くか? 僕の実家」
「え?」
「ほら、アルバムとかあるし……やなくて! その、僕ら付き合うて長いやん。一回ちゃんと親にも紹介したいんやけど」
どうやろ、と訊ねてくる保科副隊長に、私はぽかんと口を開けた。それから少し遅れてぶわりと顔に熱が集まってくる。
保科副隊長の実家に行くということは恋人である宗四郎さんのご両親にも会うということで、紹介したいってことはーー。
「い、行きたいです。緊張しますけど」
震える声でそう答えると、保科副隊長はやわらかく目元を緩めた。
「なぁ。僕も君のご両親に挨拶に行きたいんやけど」
「う、はい……」
「アルバムも見たいなぁ。僕も君がどんな子やったか知りたいし」
「それはちょっと」
「何でや!」
それとこれとは話が別だ。けれど私に保科隊長という画像提供者がいたように、保科副隊長にも恋バナ大好きな母が提供者として味方につきそうだなと容易に想像ができた。
「え、何これ……えっ!?」
私は端末画面を二、三度見してから食い入るように知り合いが送ってきた画像を見つめた。
そこに映っていたのは面立ちのよく似た二人の少年の写真。中学生と小学生くらいだろうか、二人とも道着を着て手には竹刀を持っている。年上らしき少年はべっと舌を出し生意気そうな顔で笑っていて、もう一人の少年はやわらかそうな頬っぺたをむすりと膨らませていた。
「かっ、かわい〜!!」
私の視線は頬を膨らませ心底悔しそうな顔をする少年に釘付けだ。何このかわいい子。そのあまりの可愛さに私は勤務中というのも忘れ、胸を押さえてその場に崩れ落ちた。
何だろう、この気持ちは。むすりとした表情の少年を思いきり抱きしめて、頭を撫でて、甘やかしたい。膨れた頬を突ついたら怒られるだろうか。でもそれすらかわいいに違いない。嫌がるのも構わずぎゅっとしたい。
「もしやこれが、母性……?」
訳のわからないことを言っている自覚はある。でもそれくらい冷静ではいられなかった。
まぁ画像の少年に何を思ったところで叶わないとわかっていたし、幸い周りに誰もいなかったから、少しくらい自分の心に素直になってもいいかなって。
「何をそんなとこで膝ついてんの?」
「ぴゃっ!?」
突然背後から声がして、人生で出したことのない声が出た。聞こえたのは今一番会いたくない人の声。恐る恐る振り向けばそこには保科副隊長がいて、不思議そうに首を傾げてこちらの様子を窺っている。
「どないしたん? 体調でも悪いん?」
「いやー、そんなことはないですよ。ちょっとコンタクト落としちゃってぇ」
「そら大変やん! ってんなわけないやろ。めっちゃ目ぇ泳いどるし、君そもそも裸眼やろ。嘘つくの下手くそか」
「じゃああれですあれ! 靴紐が解けて」
「じゃあって言うてしもてるやん」
「ぐっ……」
しどろもどろになりながら言い訳を探していると、私を見やる保科副隊長の視線が段々と鋭くなっていく。注意深く観察されていると言ったほうが近いかもしれない。そして程なくして保科副隊長の視線がある一点に注がれた。
「それか」
「あっ」
抵抗する間もなくひょいと手から端末が奪われる。さぁっと血の気が引いていく私とは裏腹に、保科副隊長の顔は赤く染まりわなわなと震え始めた。
「ちょっ、何で君がこの写真持ってんの!?」
ギャーと叫び出しそうな勢いで保科副隊長が端末を持ったまま問い詰めてきた。目の前に端末に映るむくれた少年と保科副隊長が並ぶ。
二人を見比べて、ビフォーアフターだ! とうっかり声に出しそうになったけれど、何とか我慢した。
そう、送られてきた画像の少年は保科副隊長その人なのである。本人は昔の写真を私に見られたことがよっぽど恥ずかしいらしく、珍しく目に見えて動揺していたけれど。お陰で隙だらけだ。
素早く手を伸ばして保科副隊長から端末を奪い返す。今度は簡単に取られないよう端末を隊服のポケットにしまい込んだ。
「頼むから早よ消してー! てか誰やその写真送ってきたんは」
「べ、別に誰でもいいでしょう」
「よくないわ! 吐くまで離さへんぞ」
「むぐっ」
黙秘を貫こうとしたら、片手でむぎゅっと両頬を掴まれた。ぶはっと笑う気配がしたから、きっと不細工になっているのだろう。でも画像提供者との信頼関係に関わるから、簡単に口を割るわけにはいかない。
きゅっと唇を引き結んだ私を見て、これ以上は無理だと思ったのか保科副隊長が溜息をついた。しかしやっと解放してもらえるとほっとしたのも束の間、パシャリと響いたシャッター音。
見れば保科副隊長がもう片方の手で器用に端末を構えていた。そしてまたパシャリ。その後はカシャシャシャと音が連続してーー。
「連写はやめてー!!」
「強情な君が悪いんやで。僕かてこんな手は使いたなかったわ。けど、ぶふっ、なかなかええ写真が撮れたなぁ。うっかり小隊のみんなに送ってしまいそうやわ」
そう言ってにっこりといい笑顔を向ける保科副隊長だけど、今の私には悪魔の笑みにしか見えなかった。今の不細工な顔を保科小隊のみんなに見られたら……あのメンツだ、間違いなく面白がって第3部隊全員に拡散される。
「そ、それだけはご勘弁を……」
「君次第やなぁ。で、誰なん? それ送ってきたんは」
私は心の中で画像提供者に謝罪をしてから、その名前を告げた。
「保科……隊長です」
「はぁ!? 何でそこでクソ兄貴が出てくんねん! いやけど写真持っとるんはあいつくらいか。……ちょお待って、何であいつが君の連絡先知ってんねん」
さっきまでにこにこと笑っていた保科副隊長からすとんと表情が抜け落ちた。それを見て私はびくりと肩を震わせる。
(あ、やばい……)
保科副隊長は本気でキレると無表情になるのだ。けれど彼をよく知る者にははっきりと、その顔に般若の面が見える。
思わず身を捩れば退路を断つようにドンッと壁に手を突かれた。こんな生きた心地のしない壁ドンは初めてだ。
「なぁ、いつあいつと連絡先交換したん? 僕知らんかったんやけど」
「えっと、前に基地にいらした時に迷ったから会議室まで案内してほしいと言われてその時に」
前と言っても随分前のことだ。「そこの隊員さーん」と声をかけられたと思ったら第6の保科隊長で、副隊長にはお世話になってますと言ったらそのまま話が弾んで流されるまま連絡先を交換して。別れ際「宗四郎には内緒やで」と保科隊長に言われ、実際言うほどのことでもなかったからずっと黙っていたのだけど。それが保科副隊長は心底気に入らないらしい。
「あいつ僕に隠れてコソコソと。迷うわけないやろ。何回会議やら演習やらでうちの基地来てんねん!」
どついたろかホンマに! と本当にやりかねない声音で言ってから、保科副隊長は私に向き直った。
「なぁ、さっきの君の写真消すからあいつにもらった画像消してくれへん?」
「い、嫌です! せっかくかわいいもらったのに」
「君なぁ。ほな僕も君の写真消さへんけどええの?」
私はぐっと言葉に詰まった。正直に言えば消してほしい。でもかわいいかわいい保科少年の写真と天秤にかけたら……いや、かけるまでもない。
「いい、です。でも誰かに送るのはなしです。私も誰にも送りませんから」
せっかく手に入れた貴重な写真だ。手放すつもりはさらさらなかった。例え保科副隊長の端末の写真フォルダを私の変顔が埋めようとも。
「そんな写真のどこがええの?」
呆れたように保科副隊長が溜息をつきながら言った。
「どこって全部ですよ! ちっちゃい保科副隊長悔しそうに頬っぺた膨らませてかわいいし、この頃から負けず嫌いだったんだなって。あと、私の知らない保科副隊長を知れるのは嬉しいです」
私は出会ってから今に至るまで、数年程度の保科副隊長しか知らない。それに不満があるわけではないけれど、やっぱり好きな人の過去は気になるもので。出会う前、それこそ子ども時代の保科副隊長の姿を見れたのは素直に嬉しいかった。保科副隊長はあまり昔の話をしたがらないから。
「僕の昔話なんておもんないで。ずっと剣一筋やったし、兄貴にはやられっぱなしやったし」
「そんなことないです。保科副隊長は昔から保科副隊長だなって思いましたよ」
「何やねんそれ」
照れくさそうに保科副隊長が頬を掻いた。それから真面目な顔つきで私の名前を呼んだ。基地で下の名前で呼ばれたのは初めてで少し驚く。
「そんなに気になるなら今度非番の時に一緒に行くか? 僕の実家」
「え?」
「ほら、アルバムとかあるし……やなくて! その、僕ら付き合うて長いやん。一回ちゃんと親にも紹介したいんやけど」
どうやろ、と訊ねてくる保科副隊長に、私はぽかんと口を開けた。それから少し遅れてぶわりと顔に熱が集まってくる。
保科副隊長の実家に行くということは恋人である宗四郎さんのご両親にも会うということで、紹介したいってことはーー。
「い、行きたいです。緊張しますけど」
震える声でそう答えると、保科副隊長はやわらかく目元を緩めた。
「なぁ。僕も君のご両親に挨拶に行きたいんやけど」
「う、はい……」
「アルバムも見たいなぁ。僕も君がどんな子やったか知りたいし」
「それはちょっと」
「何でや!」
それとこれとは話が別だ。けれど私に保科隊長という画像提供者がいたように、保科副隊長にも恋バナ大好きな母が提供者として味方につきそうだなと容易に想像ができた。