保科宗四郎
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我ながらどうかしている。
早鐘を打つ心臓を宥めるように深呼吸を繰り返しながら、改めてそう思う。前はこんなことなかったのに、どうしてーー。
今日は久々に恋人である宗四郎さんとタイミングが合い、二人揃っての非番の日だった。
前々から行きたかったショッピングに出かけて、帰りに新しくできたケーキ屋さんでそれぞれ好きなのを買って帰宅して。ひと息つこうと宗四郎さんがコーヒーを淹れてくれるのをルンルンで待ち、ケーキを食べようとしたところまではよかった。
問題はケーキを食べようと宗四郎さんが大きく口を開けた時。いや、食べようとしたのだから口を開けるのは当たり前なのだけど。
開いた口の間から鋭い犬歯が覗いて、ドキリと心臓が跳ねた。
そのままぱくりとケーキを頬張った彼は「食わへんの?」と不思議そうに固まる私を見つめていた。
「たっ、食べます食べます!」
私は慌てて目の前のイチゴタルトにフォークを突き立てた。変に思われただろうか。
でも宗四郎さんが食べる姿にドキドキしたなんて、絶対に言えない。
その後も心臓は落ち着かないまま、せっかくのケーキも味がよくわからなかった。
コーヒーを淹れてもらったお礼に後片付けを買って出て、宗四郎さんにはゆっくりしてもらうようお願いする。手伝うで、と言ってくれたけど、それだと私がいつまでも落ち着けないのでやんわり断った。
スポンジで食器を擦り蛇口を捻る。冷たい水が泡を勢いよく流し、ついでに微かにほてった肌も一緒に冷やしていくようだった。
ーーさっきのは何だったんだろう。
思い出すだけで熱がぶり返しそうになって、慌てて頭を振る。
おかしい、前はこんなことなかったのに。
心臓を宥めるよう深呼吸しながら、布巾に手を伸ばす。けれど大きな手が邪魔をして私の手がそれに届くことはなかった。
「終わった?」
すぐ後ろで声がして肩が跳ねる。ちらりと視線だけ振り向けばいつの間に移動したのか、さっきまでソファで寛いでいたはずの宗四郎さんがいた。
「っ、濡れるから離してください」
そう言って振り解こうとすれば、構わないと言わんばかりにさらに強く手を握り込まれた。雫が二人の手のひらから肘のほうへと伝っていく。何とか離れようと身を捩るも前にはシンク、後ろには宗四郎さんがいて、逃げ場もない。
「もう、ふざけないで……」
いい加減にいしてほしいと語気を強めた時だった。ばちりと絡んだ視線が異様に熱を孕んでいて、思わず息を呑む。
嘘。本当は最初から気づいてた。触れた彼の手のひらがずっと熱かったから。
「なあ、ええ?」
さっきまでそんな素振りなかったのに、どこでスイッチが入ったのだろう。わからないけれど一心に向けられる熱を振り払うことはできなくて小さく頷く。
それを合図に目元を赤らめた宗四郎さんがぐっと体重をかけてきた。それから顎を持ち上げられて、あ、と気づく。
近づく吐息に、唇から覗く犬歯。
あの時はどうしてケーキを食べる姿にドキドキしたのかわからなかったけど、今ならわかる。私はこの状況と重ねていたのだ。彼に食べられるこの瞬間と。
そんなのと重ねるなんて、本当にどうかしている。
「そうしろ……さん」
縋るように彼の手を握る。冷えた肌は再び熱を持ち始めていた。
もしかしたら、宗四郎さんは私の気持ちなんて全部お見通しだったのだろうか。そんな考えが一瞬頭をよぎって、片隅へと流れていく。
今はただ、目の前の彼に食べてほしくて堪らない。
それしか考えられなかった。
早鐘を打つ心臓を宥めるように深呼吸を繰り返しながら、改めてそう思う。前はこんなことなかったのに、どうしてーー。
今日は久々に恋人である宗四郎さんとタイミングが合い、二人揃っての非番の日だった。
前々から行きたかったショッピングに出かけて、帰りに新しくできたケーキ屋さんでそれぞれ好きなのを買って帰宅して。ひと息つこうと宗四郎さんがコーヒーを淹れてくれるのをルンルンで待ち、ケーキを食べようとしたところまではよかった。
問題はケーキを食べようと宗四郎さんが大きく口を開けた時。いや、食べようとしたのだから口を開けるのは当たり前なのだけど。
開いた口の間から鋭い犬歯が覗いて、ドキリと心臓が跳ねた。
そのままぱくりとケーキを頬張った彼は「食わへんの?」と不思議そうに固まる私を見つめていた。
「たっ、食べます食べます!」
私は慌てて目の前のイチゴタルトにフォークを突き立てた。変に思われただろうか。
でも宗四郎さんが食べる姿にドキドキしたなんて、絶対に言えない。
その後も心臓は落ち着かないまま、せっかくのケーキも味がよくわからなかった。
コーヒーを淹れてもらったお礼に後片付けを買って出て、宗四郎さんにはゆっくりしてもらうようお願いする。手伝うで、と言ってくれたけど、それだと私がいつまでも落ち着けないのでやんわり断った。
スポンジで食器を擦り蛇口を捻る。冷たい水が泡を勢いよく流し、ついでに微かにほてった肌も一緒に冷やしていくようだった。
ーーさっきのは何だったんだろう。
思い出すだけで熱がぶり返しそうになって、慌てて頭を振る。
おかしい、前はこんなことなかったのに。
心臓を宥めるよう深呼吸しながら、布巾に手を伸ばす。けれど大きな手が邪魔をして私の手がそれに届くことはなかった。
「終わった?」
すぐ後ろで声がして肩が跳ねる。ちらりと視線だけ振り向けばいつの間に移動したのか、さっきまでソファで寛いでいたはずの宗四郎さんがいた。
「っ、濡れるから離してください」
そう言って振り解こうとすれば、構わないと言わんばかりにさらに強く手を握り込まれた。雫が二人の手のひらから肘のほうへと伝っていく。何とか離れようと身を捩るも前にはシンク、後ろには宗四郎さんがいて、逃げ場もない。
「もう、ふざけないで……」
いい加減にいしてほしいと語気を強めた時だった。ばちりと絡んだ視線が異様に熱を孕んでいて、思わず息を呑む。
嘘。本当は最初から気づいてた。触れた彼の手のひらがずっと熱かったから。
「なあ、ええ?」
さっきまでそんな素振りなかったのに、どこでスイッチが入ったのだろう。わからないけれど一心に向けられる熱を振り払うことはできなくて小さく頷く。
それを合図に目元を赤らめた宗四郎さんがぐっと体重をかけてきた。それから顎を持ち上げられて、あ、と気づく。
近づく吐息に、唇から覗く犬歯。
あの時はどうしてケーキを食べる姿にドキドキしたのかわからなかったけど、今ならわかる。私はこの状況と重ねていたのだ。彼に食べられるこの瞬間と。
そんなのと重ねるなんて、本当にどうかしている。
「そうしろ……さん」
縋るように彼の手を握る。冷えた肌は再び熱を持ち始めていた。
もしかしたら、宗四郎さんは私の気持ちなんて全部お見通しだったのだろうか。そんな考えが一瞬頭をよぎって、片隅へと流れていく。
今はただ、目の前の彼に食べてほしくて堪らない。
それしか考えられなかった。