保科宗四郎
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「トリックオアトリート!」
二人きりの執務室に私の声だけが虚しく響く。あ、あれ? 保科副隊長なら乗ってくれると思ったんだけど……。予想に反して彼は黙ったままこちらを見つめるばかり。それがまたいたたまれなくて、私は心底言ったことを後悔した。
今日は十月三十一日、ハロウィン。そんなことを微塵も意識していなかった私は当然お菓子なんか持ってなくて、ついさっきお決まりのセリフを言ってきた中之島小隊長に散々擽られたところだ。
その腹いせにというわけではないけれど、ちょっとだけイタズラ心が湧いて。ひと息つこうとコーヒーを淹れに立ち上がった保科副隊長に仕掛けてみたのだ。彼ならノリがいいし、普段から飴をポケットに入れていること知っていたから。
なのに、どうしてこんな空気に。せめて沈黙はやめてほしい。何も言われないと、私一人が浮かれてるみたいで一気に恥ずかしくなる。
「あー、えっと今のは冗談で……」
しどろもどろになりながら、自分が言ったことの取り消しをはかる。そう、流してしまえばいいのだ。
けど、私が話題をすげ替えるより先に保科副隊長がさわさわと自身の身体に触れた。彼の手が這うのはちょうど隊服のポケット辺り。何かを探すように往復して、しかし目当てのものはなかったようで、保科副隊長は大げさなほど肩を落としてから私を見つめた。
「あかんわー。今日に限ってお菓子持ってへんわ」
「えっ」
保科副隊長がいつも飴を入れているポケットに手を突っ込んだ時、かさかさと音がしていたはずだけど。それを目で訴えるもしらを切るつもりなのか、保科副隊長は「ん?」と不思議そうに首を傾げていた。しかし目だけはニコニコと愉しげだ。
「しゃあないなー。お菓子ないならイタズラされるしかないなぁ」
そう言って、保科副隊長がパッと両手を大きく開いた。まるで今すぐイタズラしてくださいと言わんばかりに。
「し、しませんよ!」
私は慌てて首を振った。最初から保科副隊長にイタズラするつもりなんて微塵もない。不意をつけたらいいな、くらいのつもりで。中之島小隊長みたいに、保科副隊長を擽るなんて絶対にできないし。
「えー、トリックオアトリート言うたんそっちやん。こわいなぁ、どんなイタズラされるんやろ」
そんなわくわくした顔で言われても……。私はイタズラするのを回避すべく壁にかけられた時計を指差した。
「だからしませんって! ほら、まだ勤務中ですし。ね!」
こう言えば、真面目な保科副隊長は言い返せない、はず。ノリはいいけれど、締めるところは締めるのが彼だ。
「せやなぁ」
よし! 真面目な表情に戻った保科副隊長の言葉に私は心の中でガッツポーズした。これでもうイタズラを催促されることもないだろう。しかしほっと息を吐いたのも束の間、ぐっと距離を詰めてきた保科副隊長が耳元で低く囁いた。
「ほなイタズラは夜までお預けやな」
「え」
「今日来るやろ、僕んち」
触れてもいないのに、じわりと耳が熱くなる。
明日は非番。その前日は、恋人である保科副隊長の家に泊まるのが常だった。
「楽しみやなぁ、君のイタズラ」
「……しないって言ったら?」
恐る恐る、保科副隊長を見上げる。すると意地悪な恋人は「そん時は僕がトリックオアトリートって言うだけや」と一層笑みを深くした。
二人きりの執務室に私の声だけが虚しく響く。あ、あれ? 保科副隊長なら乗ってくれると思ったんだけど……。予想に反して彼は黙ったままこちらを見つめるばかり。それがまたいたたまれなくて、私は心底言ったことを後悔した。
今日は十月三十一日、ハロウィン。そんなことを微塵も意識していなかった私は当然お菓子なんか持ってなくて、ついさっきお決まりのセリフを言ってきた中之島小隊長に散々擽られたところだ。
その腹いせにというわけではないけれど、ちょっとだけイタズラ心が湧いて。ひと息つこうとコーヒーを淹れに立ち上がった保科副隊長に仕掛けてみたのだ。彼ならノリがいいし、普段から飴をポケットに入れていること知っていたから。
なのに、どうしてこんな空気に。せめて沈黙はやめてほしい。何も言われないと、私一人が浮かれてるみたいで一気に恥ずかしくなる。
「あー、えっと今のは冗談で……」
しどろもどろになりながら、自分が言ったことの取り消しをはかる。そう、流してしまえばいいのだ。
けど、私が話題をすげ替えるより先に保科副隊長がさわさわと自身の身体に触れた。彼の手が這うのはちょうど隊服のポケット辺り。何かを探すように往復して、しかし目当てのものはなかったようで、保科副隊長は大げさなほど肩を落としてから私を見つめた。
「あかんわー。今日に限ってお菓子持ってへんわ」
「えっ」
保科副隊長がいつも飴を入れているポケットに手を突っ込んだ時、かさかさと音がしていたはずだけど。それを目で訴えるもしらを切るつもりなのか、保科副隊長は「ん?」と不思議そうに首を傾げていた。しかし目だけはニコニコと愉しげだ。
「しゃあないなー。お菓子ないならイタズラされるしかないなぁ」
そう言って、保科副隊長がパッと両手を大きく開いた。まるで今すぐイタズラしてくださいと言わんばかりに。
「し、しませんよ!」
私は慌てて首を振った。最初から保科副隊長にイタズラするつもりなんて微塵もない。不意をつけたらいいな、くらいのつもりで。中之島小隊長みたいに、保科副隊長を擽るなんて絶対にできないし。
「えー、トリックオアトリート言うたんそっちやん。こわいなぁ、どんなイタズラされるんやろ」
そんなわくわくした顔で言われても……。私はイタズラするのを回避すべく壁にかけられた時計を指差した。
「だからしませんって! ほら、まだ勤務中ですし。ね!」
こう言えば、真面目な保科副隊長は言い返せない、はず。ノリはいいけれど、締めるところは締めるのが彼だ。
「せやなぁ」
よし! 真面目な表情に戻った保科副隊長の言葉に私は心の中でガッツポーズした。これでもうイタズラを催促されることもないだろう。しかしほっと息を吐いたのも束の間、ぐっと距離を詰めてきた保科副隊長が耳元で低く囁いた。
「ほなイタズラは夜までお預けやな」
「え」
「今日来るやろ、僕んち」
触れてもいないのに、じわりと耳が熱くなる。
明日は非番。その前日は、恋人である保科副隊長の家に泊まるのが常だった。
「楽しみやなぁ、君のイタズラ」
「……しないって言ったら?」
恐る恐る、保科副隊長を見上げる。すると意地悪な恋人は「そん時は僕がトリックオアトリートって言うだけや」と一層笑みを深くした。