保科宗四郎
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「はっ……くしょい!」
花粉か、黄砂か。原因はわからないけれどむずむずする鼻に堪えられず思い切りくしゃみをすれば、隣から非難する声が飛んできた。
「おま、こっち向いてすんなや!」
「くしゃみした先にいたあんたが悪いんでしょ」
「はぁ?! 何言うてんねん。お前、くしゃみする直前まで前向いとったやろ」
「そんなことないですー。たまたまですー」
隣を歩く男、保科宗四郎はまだ文句を言い足りない様子だったが、全く聞く耳を持とうとしない私には何を言っても無駄だと判断したらしい。これ見よがしにため息をついてから、視線を前方に移した。
向かうは有明りんかい基地、第二会議室。今日はそこで全支部の副隊長会議が行われる予定だ。私は第6部隊の副隊長……ではないのだけれど、副隊長が急用で来れなくなったので代理で参加することになっている。その道中でばったり出くわしたのが第3の副隊長である保科だった。
彼との付き合いはそれなりに長い。部隊こそ違えど同時期に入隊した私たちは訓練や演習で顔を合わせることが多いのだ。それも二人して得意なのが小型怪獣討伐となれば張り合うのは必然で、昔は演習後にしょっちゅう戦闘訓練を申し込んだものだった。勝てたことは今まで一度もない。だから悔しくて負けた後に悪態ばかりついてたら、いつからか向こうも遠慮なくどついてくるようになった。
本来なら一小隊長である私が副隊長である保科に対してこんなふざけた態度を取っていいはずがない。しかし保科はそれを咎めることはしなかった。だから気をつけなければと思うものの、二人きりの時はつい軽々しく話してしまう。
「っと、保科副隊長も会議に出る……んですよね」
「何や急に改まって気持ち悪い。お前、変なもんでも食うたんか? あれほど拾い食いはやめえ言うたのに」
「んなっ、拾い食いなんてしてないし! 人がせっかく立場を弁えようとしてんのに……。本当最低!」
「お前がらしくないことするからやろ。二人の時は敬語やめろ。なんやこう、背中がゾワゾワすんねん」
「はあ〜?!」
こんな口の悪い男が女の子たちから人気があるなんて本当に信じられない。まあ、彼女たちは保科のこの一面を知らないから好きなんだろうけど。
「私は断然、保科隊長派だな」
「何がやねん」
「だから、彼氏にするなら保科より保科隊長がいいって……はぶしゅい!」
やば、またくしゃみ出ちゃった。
今度こそ怒られるかなと身構えるも、保科は何も言ってこなかった。それどころか目を見開いて、時間が止まったかのようにぴしりと固まっている。
「保科?」
おそるおそる様子を窺うと、ぽつりと言葉が降ってきた。
「……ほんまに好きなん?」
何がと訊きかけて、目尻を赤くした保科と目が合った。今まで見たことのない表情にどきりと心臓が跳ねる。
きっといつもだったら軽い口調でそうだよと冗談で返していたことだろう。私と保科は悪態をついたり悪ノリしたりする仲で、顔を合わせればふざけるのが当たり前みたいになっていて。
でも今はちゃんと答えないといけない気がして、私は慌てて首を横に振った。
「え、えっと、保科隊長にはいつもお世話になってるし尊敬してるから、どちらかと言えばで言っただけで。もちろん好きだけどそもそも恋愛の好きじゃなくて……」
しどろもどろとはまさにこのことだろう。変に説明しすぎてこれでは本当に保科隊長のことを好きみたいだ。じとりと疑うように睨めつけてくる保科の視線が痛い。
「ほんなら僕は?」
「へ?」
「僕のことは嫌い?」
「それは……」
ぱくぱくと口が言葉を探す。難しい。保科のことは決して嫌いじゃない。友人として、同僚として、もちろん好きだ。けれど真面目な雰囲気の中でその言葉を口にするのは、恋愛的な意味じゃなくてもさすがに恥ずかしい。
ちらりと保科を見やると、彼は答えを待つようにじっと私を見つめていた。もう勘弁してほしいのに、ふざけて逃げられる空気じゃない。
「ほ、保科のことは」
「うん」
「えと、その……す…………ぶっくしょん!」
タイミング悪く出たくしゃみに恥ずかしくて顔を上げられないでいると、聞こえてきたのは保科の吹き出す声だった。
「ぶっ、くく、おま……ほんま空気読まんやつやな」
「そ、そんな笑わないでよ! そう、きっとどっかの誰かが私のこと噂してんのよ!」
「あいつほんまアホやなーって?」
「違う!」
さっきまでの真面目な様子が嘘みたいに保科はけらけら笑っていた。それを見てほっと息を吐く。やっぱり私はこの空気感が好きみたいだ。さっきみたいな雰囲気は、どうにも心臓が落ち着かない。
「けど、あながち間違いやないかもしれんなあ」
「何が?」
「誰かが噂しとるかは知らんけど、よく言うやろ。一誹りニ笑い三惚れって」
「いや知らないけど。おじいちゃんの知恵袋的な?」
「そこはわー、物知り! って言うとこやろ。僕まだピチピチの二十代やで」
私にデコピンを食らわせながら、保科はさっきのことわざらしき言葉を説明し始めた。
なんでもくしゃみが一回ならば誰かが悪口を言っていて、二回なら笑われていて、三回ならば誰かに惚れられているというのだ。
「ってことは、どこかに私のことを好きな人がいるってこと?」
「そうなるなあ」
「やった! 私にも春到来!」
「こんな悪態ばっかつきよるお前を好きになるやつ、早々おらんで」
「うっさい! でももしその人と結婚したら、保科に友人代表のスピーチ頼んであげてもいいよ」
「そんなん絶対にお断りや」
「何でよ?! 痛っ!」
何が気に食わなかったのか、眉間に皺を寄せた保科にさっきよりも強力なデコピンをお見舞いされた。おでこがジンジンする。
でも、私に惚れてる人か。そんな人がいると思えばこんな痛み何のそのだ。
「ふふ、ついに私にもモテ期が……」
「だからその笑顔やめろ。……おっても、せいぜい一人や」
「いいよ、一人でも嬉しいし、っくしゅん!」
「あ」
一誹りニ笑い三惚れ。そういえばくしゃみが四回出た場合を聞いてなかった。そもそも続きがあるのかもわからない。
「あのさ、保科。念のため聞くんだけど、四回出た場合は……」
「せやな。とりあえず薬飲んであったかくして寝るのが一番やと思うわ」
曰く、一誹りニ笑い三惚れ、そして四風邪。
私が次の日、熱を出して寝込んだことは言うまでもない。
花粉か、黄砂か。原因はわからないけれどむずむずする鼻に堪えられず思い切りくしゃみをすれば、隣から非難する声が飛んできた。
「おま、こっち向いてすんなや!」
「くしゃみした先にいたあんたが悪いんでしょ」
「はぁ?! 何言うてんねん。お前、くしゃみする直前まで前向いとったやろ」
「そんなことないですー。たまたまですー」
隣を歩く男、保科宗四郎はまだ文句を言い足りない様子だったが、全く聞く耳を持とうとしない私には何を言っても無駄だと判断したらしい。これ見よがしにため息をついてから、視線を前方に移した。
向かうは有明りんかい基地、第二会議室。今日はそこで全支部の副隊長会議が行われる予定だ。私は第6部隊の副隊長……ではないのだけれど、副隊長が急用で来れなくなったので代理で参加することになっている。その道中でばったり出くわしたのが第3の副隊長である保科だった。
彼との付き合いはそれなりに長い。部隊こそ違えど同時期に入隊した私たちは訓練や演習で顔を合わせることが多いのだ。それも二人して得意なのが小型怪獣討伐となれば張り合うのは必然で、昔は演習後にしょっちゅう戦闘訓練を申し込んだものだった。勝てたことは今まで一度もない。だから悔しくて負けた後に悪態ばかりついてたら、いつからか向こうも遠慮なくどついてくるようになった。
本来なら一小隊長である私が副隊長である保科に対してこんなふざけた態度を取っていいはずがない。しかし保科はそれを咎めることはしなかった。だから気をつけなければと思うものの、二人きりの時はつい軽々しく話してしまう。
「っと、保科副隊長も会議に出る……んですよね」
「何や急に改まって気持ち悪い。お前、変なもんでも食うたんか? あれほど拾い食いはやめえ言うたのに」
「んなっ、拾い食いなんてしてないし! 人がせっかく立場を弁えようとしてんのに……。本当最低!」
「お前がらしくないことするからやろ。二人の時は敬語やめろ。なんやこう、背中がゾワゾワすんねん」
「はあ〜?!」
こんな口の悪い男が女の子たちから人気があるなんて本当に信じられない。まあ、彼女たちは保科のこの一面を知らないから好きなんだろうけど。
「私は断然、保科隊長派だな」
「何がやねん」
「だから、彼氏にするなら保科より保科隊長がいいって……はぶしゅい!」
やば、またくしゃみ出ちゃった。
今度こそ怒られるかなと身構えるも、保科は何も言ってこなかった。それどころか目を見開いて、時間が止まったかのようにぴしりと固まっている。
「保科?」
おそるおそる様子を窺うと、ぽつりと言葉が降ってきた。
「……ほんまに好きなん?」
何がと訊きかけて、目尻を赤くした保科と目が合った。今まで見たことのない表情にどきりと心臓が跳ねる。
きっといつもだったら軽い口調でそうだよと冗談で返していたことだろう。私と保科は悪態をついたり悪ノリしたりする仲で、顔を合わせればふざけるのが当たり前みたいになっていて。
でも今はちゃんと答えないといけない気がして、私は慌てて首を横に振った。
「え、えっと、保科隊長にはいつもお世話になってるし尊敬してるから、どちらかと言えばで言っただけで。もちろん好きだけどそもそも恋愛の好きじゃなくて……」
しどろもどろとはまさにこのことだろう。変に説明しすぎてこれでは本当に保科隊長のことを好きみたいだ。じとりと疑うように睨めつけてくる保科の視線が痛い。
「ほんなら僕は?」
「へ?」
「僕のことは嫌い?」
「それは……」
ぱくぱくと口が言葉を探す。難しい。保科のことは決して嫌いじゃない。友人として、同僚として、もちろん好きだ。けれど真面目な雰囲気の中でその言葉を口にするのは、恋愛的な意味じゃなくてもさすがに恥ずかしい。
ちらりと保科を見やると、彼は答えを待つようにじっと私を見つめていた。もう勘弁してほしいのに、ふざけて逃げられる空気じゃない。
「ほ、保科のことは」
「うん」
「えと、その……す…………ぶっくしょん!」
タイミング悪く出たくしゃみに恥ずかしくて顔を上げられないでいると、聞こえてきたのは保科の吹き出す声だった。
「ぶっ、くく、おま……ほんま空気読まんやつやな」
「そ、そんな笑わないでよ! そう、きっとどっかの誰かが私のこと噂してんのよ!」
「あいつほんまアホやなーって?」
「違う!」
さっきまでの真面目な様子が嘘みたいに保科はけらけら笑っていた。それを見てほっと息を吐く。やっぱり私はこの空気感が好きみたいだ。さっきみたいな雰囲気は、どうにも心臓が落ち着かない。
「けど、あながち間違いやないかもしれんなあ」
「何が?」
「誰かが噂しとるかは知らんけど、よく言うやろ。一誹りニ笑い三惚れって」
「いや知らないけど。おじいちゃんの知恵袋的な?」
「そこはわー、物知り! って言うとこやろ。僕まだピチピチの二十代やで」
私にデコピンを食らわせながら、保科はさっきのことわざらしき言葉を説明し始めた。
なんでもくしゃみが一回ならば誰かが悪口を言っていて、二回なら笑われていて、三回ならば誰かに惚れられているというのだ。
「ってことは、どこかに私のことを好きな人がいるってこと?」
「そうなるなあ」
「やった! 私にも春到来!」
「こんな悪態ばっかつきよるお前を好きになるやつ、早々おらんで」
「うっさい! でももしその人と結婚したら、保科に友人代表のスピーチ頼んであげてもいいよ」
「そんなん絶対にお断りや」
「何でよ?! 痛っ!」
何が気に食わなかったのか、眉間に皺を寄せた保科にさっきよりも強力なデコピンをお見舞いされた。おでこがジンジンする。
でも、私に惚れてる人か。そんな人がいると思えばこんな痛み何のそのだ。
「ふふ、ついに私にもモテ期が……」
「だからその笑顔やめろ。……おっても、せいぜい一人や」
「いいよ、一人でも嬉しいし、っくしゅん!」
「あ」
一誹りニ笑い三惚れ。そういえばくしゃみが四回出た場合を聞いてなかった。そもそも続きがあるのかもわからない。
「あのさ、保科。念のため聞くんだけど、四回出た場合は……」
「せやな。とりあえず薬飲んであったかくして寝るのが一番やと思うわ」
曰く、一誹りニ笑い三惚れ、そして四風邪。
私が次の日、熱を出して寝込んだことは言うまでもない。