保科宗四郎
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
いつもはわざわざ観ないけど、たまたま目に入った星座占いで、自分の星座が最下位だった。
こういうのは信じていなくても運勢が悪いと言われれば、それだけで少しテンションが下がる。内容は確か、何をやってもダメな日、落ち着いて過ごしましょうとか何とか。ラッキーアイテムはハンドミキサー。……そんなもの持ち歩けない。けれど今から本気で買いに行こうか迷うほど、今日の私はついてなかった。
朝は余裕を持って出たのに電車が遅延して遅刻ギリギリ、お昼は何もないところで躓いてお弁当をひっくり返した。休憩がてら自販機に行けばなぜかボタンが反応しなくてお金だけ吸い込まれ、肩を落として戻ってきたら報告書の作成途中だというのにパソコンがフリーズ。あと少し、あと少しで完成だったのに。追い討ちをかけるようにプツンと電源の落ちた黒い画面には、今にも泣きそうな顔をした私が映っていた。
最悪だ。本当についてない。
はあ、と盛大なため息とともに力なくデスクにうつ伏せる。すると程なくしてガチャリと背後のドアが開いた。
「あれ、まだおったん?」
のそのそと顔を上げ振り向くと、そこにいたのは上司である保科副隊長だった。
「うう、副隊長」
聞いてくださいよ〜、と泣きつくように今日一日の出来事を話せば、聞き終えた彼はそら災難やったなあと眉を下げた。それからことりと私の前にカフェオレの缶を置く。
「さっき自販機で当たってんけど、僕二本も飲めんし、もらったってくれる?」
「え、いいんですか?」
「ええよええよ。あと報告書の内容どこまで覚えとる? 僕も手伝うし、これ飲んで落ち着いたら取り掛かろか」
「でもパソコンが動かなくて……」
「僕の使い。やること終わって帰ろ思ってたとこやし、今日はもう使わへんから」
ああ、だめだ。人のやさしさや気遣いは、つらい時ほどよく染みる。私はありがとうございますと頭を下げ、保科副隊長にもらったカフェオレを呷るように飲んだ。本当はもっとゆっくり味わいたかったけれど、こうでもしないとうっかり涙が溢れてしまいそうだったから。保科副隊長のことだから、それすら気付いて見ないふりをしてくれていた気もするけれど。
「せや、これ終わったら一緒に飯行こか。一日頑張ったご褒美に僕が奢ったる。駅の近くにめっちゃ美味い焼き鳥屋があってな」
「焼き鳥……!」
「そこ、デザートのプリンも絶品なんやて」
「行く! 行きます! 行きたいです!」
「よっしゃ! ほなもうひと息、頑張ろか」
保科副隊長の手助けもあって、それから程なくして報告書は無事完成した。彼の助力がなければきっと私はまだ基地にいて、半泣きで壊れたパソコンと睨めっこしていたことだろう。本当に保科副隊長さまさまだ。
「副隊長が来てくれなかったら、今日が私史上最悪の一日になるところでした」
どん、とビールジョッキをテーブルに置き、改めて今日一日を振り返ってみる。星座占いから始まった最下位の一日はその順位にふさわしくついてなくて、思い返しただけで口の中にビールとは違う苦味が広がっていくようだった。まさに最悪の一日。けれど、それだけじゃなかった。保科副隊長が、それだけで終わらないようにしてくれた。優しい言葉をかけてくれて、助けてくれて、美味しいご飯とお酒まで。確かについてない一日だったけれど、今ではそこまで悪くなかったんじゃないかと思えてきている。むしろ、いい日だなとさえ。
口の中の苦味を払拭するようにつくねを頬張れば、ふわふわの食感と甘すぎないタレが絶妙で思わず口元が緩む。保科副隊長が太鼓判を押すお店なだけあって、本当に美味しい。
「僕は特に何もしとらんけど、君がちょっとでもええ日やって思えたならよかったわ」
ビールジョッキを傾けながら、保科副隊長がにこりと微笑む。その笑顔に心臓をぎゅっと掴まれたような心地になって、さすができる上司は部下の心を掴むのが上手いなと感心してしまう。
「何もしてないなんてことないですよ! むしろしてもらってばかりというか。保科副隊長が来てくれなかったら、私絶対あの星座占い一生許さんってなってましたし」
「星座占いって、朝のニュース番組の?」
「はい。私の星座、今日最下位で……」
「あー、それ僕も観たわ」
「え、保科副隊長何位でした?」
「僕? 一位」
聞けば、私とは全く真逆の、それこそ誰が聞いてもラッキーと思えるようなことばかりの一日だったらしい。もしかして自販機でジュースが当たったのもその影響だったりして。占いの信憑性が一気に増して、ぞくりと背筋が寒くなる。いやいやないない、所詮占いだし。
「当たることもあるんですね、ああいうの。いやでもあの星座占い、ラッキーアイテム難しくないですか? 私ハンドミキサーだったんですけど」
「何それおもろいやん! 何で持ってへんの」
「はは、さすがにそれは……」
本気で買おうか迷っていたことについては黙っておいた。言ったら絶対に笑われる。お腹を抱えて笑われるのが目に見えている。
「そ、そういう保科副隊長は何だったんです?」
「僕?」
私の質問に、保科副隊長が「知りたいん?」と顔を覗き込んできた。カウンター席だからか距離が近くて、変に意識してしまう。軽く触れた肩が熱い。私はほんの少し身体を引いて、それからこくこくと頷いた。じぃっと私の様子を窺っていた保科副隊長が、ふっと目を細める。
「好きな子」
「へ?」
「僕のラッキーアイテム、好きな子やってん」
空になったジョッキを置いて、テーブルに頬杖をつきながら改めてそう告げられる。その目は変わらず私を捉えていて、どんな反応が返ってくるのか待っているみたいだった。正直面白い返しはできる気がしない。
それにしても、ラッキーアイテムが好きな子か。私のハンドミキサーもなかなかの難題だったけれど。
「それはまた……難しそうですね」
結局面白い返しは何ひとつ思い浮かばなくて、出てきたのは素の感想。全然面白くない、つまらない。これはさすがにダメ出しのひとつやふたつ飛んでくるかと思いきや、なぜか保科副隊長はにこりと口角を上げていて、
「そうでもないで」
低く囁かれた声は、不思議と楽しげだった。
好きな子なんて簡単に傍に置いておけないと思うけど、確かに保科副隊長にかかれば難題でもなんでもないのかもしれない。すごくモテるし、この前も告白されたみたいだし。
「さすが保科副隊長」
言ってからジョッキの底に少しだけ残っていたビールを一気に呷る。心なしかさっきよりも苦いような気がして首を傾げていると「せやろ」と嬉しそうな声が聞こえてきた。
「現に今、隣におるからなあ」
「…………………………えっ」
こういうのは信じていなくても運勢が悪いと言われれば、それだけで少しテンションが下がる。内容は確か、何をやってもダメな日、落ち着いて過ごしましょうとか何とか。ラッキーアイテムはハンドミキサー。……そんなもの持ち歩けない。けれど今から本気で買いに行こうか迷うほど、今日の私はついてなかった。
朝は余裕を持って出たのに電車が遅延して遅刻ギリギリ、お昼は何もないところで躓いてお弁当をひっくり返した。休憩がてら自販機に行けばなぜかボタンが反応しなくてお金だけ吸い込まれ、肩を落として戻ってきたら報告書の作成途中だというのにパソコンがフリーズ。あと少し、あと少しで完成だったのに。追い討ちをかけるようにプツンと電源の落ちた黒い画面には、今にも泣きそうな顔をした私が映っていた。
最悪だ。本当についてない。
はあ、と盛大なため息とともに力なくデスクにうつ伏せる。すると程なくしてガチャリと背後のドアが開いた。
「あれ、まだおったん?」
のそのそと顔を上げ振り向くと、そこにいたのは上司である保科副隊長だった。
「うう、副隊長」
聞いてくださいよ〜、と泣きつくように今日一日の出来事を話せば、聞き終えた彼はそら災難やったなあと眉を下げた。それからことりと私の前にカフェオレの缶を置く。
「さっき自販機で当たってんけど、僕二本も飲めんし、もらったってくれる?」
「え、いいんですか?」
「ええよええよ。あと報告書の内容どこまで覚えとる? 僕も手伝うし、これ飲んで落ち着いたら取り掛かろか」
「でもパソコンが動かなくて……」
「僕の使い。やること終わって帰ろ思ってたとこやし、今日はもう使わへんから」
ああ、だめだ。人のやさしさや気遣いは、つらい時ほどよく染みる。私はありがとうございますと頭を下げ、保科副隊長にもらったカフェオレを呷るように飲んだ。本当はもっとゆっくり味わいたかったけれど、こうでもしないとうっかり涙が溢れてしまいそうだったから。保科副隊長のことだから、それすら気付いて見ないふりをしてくれていた気もするけれど。
「せや、これ終わったら一緒に飯行こか。一日頑張ったご褒美に僕が奢ったる。駅の近くにめっちゃ美味い焼き鳥屋があってな」
「焼き鳥……!」
「そこ、デザートのプリンも絶品なんやて」
「行く! 行きます! 行きたいです!」
「よっしゃ! ほなもうひと息、頑張ろか」
保科副隊長の手助けもあって、それから程なくして報告書は無事完成した。彼の助力がなければきっと私はまだ基地にいて、半泣きで壊れたパソコンと睨めっこしていたことだろう。本当に保科副隊長さまさまだ。
「副隊長が来てくれなかったら、今日が私史上最悪の一日になるところでした」
どん、とビールジョッキをテーブルに置き、改めて今日一日を振り返ってみる。星座占いから始まった最下位の一日はその順位にふさわしくついてなくて、思い返しただけで口の中にビールとは違う苦味が広がっていくようだった。まさに最悪の一日。けれど、それだけじゃなかった。保科副隊長が、それだけで終わらないようにしてくれた。優しい言葉をかけてくれて、助けてくれて、美味しいご飯とお酒まで。確かについてない一日だったけれど、今ではそこまで悪くなかったんじゃないかと思えてきている。むしろ、いい日だなとさえ。
口の中の苦味を払拭するようにつくねを頬張れば、ふわふわの食感と甘すぎないタレが絶妙で思わず口元が緩む。保科副隊長が太鼓判を押すお店なだけあって、本当に美味しい。
「僕は特に何もしとらんけど、君がちょっとでもええ日やって思えたならよかったわ」
ビールジョッキを傾けながら、保科副隊長がにこりと微笑む。その笑顔に心臓をぎゅっと掴まれたような心地になって、さすができる上司は部下の心を掴むのが上手いなと感心してしまう。
「何もしてないなんてことないですよ! むしろしてもらってばかりというか。保科副隊長が来てくれなかったら、私絶対あの星座占い一生許さんってなってましたし」
「星座占いって、朝のニュース番組の?」
「はい。私の星座、今日最下位で……」
「あー、それ僕も観たわ」
「え、保科副隊長何位でした?」
「僕? 一位」
聞けば、私とは全く真逆の、それこそ誰が聞いてもラッキーと思えるようなことばかりの一日だったらしい。もしかして自販機でジュースが当たったのもその影響だったりして。占いの信憑性が一気に増して、ぞくりと背筋が寒くなる。いやいやないない、所詮占いだし。
「当たることもあるんですね、ああいうの。いやでもあの星座占い、ラッキーアイテム難しくないですか? 私ハンドミキサーだったんですけど」
「何それおもろいやん! 何で持ってへんの」
「はは、さすがにそれは……」
本気で買おうか迷っていたことについては黙っておいた。言ったら絶対に笑われる。お腹を抱えて笑われるのが目に見えている。
「そ、そういう保科副隊長は何だったんです?」
「僕?」
私の質問に、保科副隊長が「知りたいん?」と顔を覗き込んできた。カウンター席だからか距離が近くて、変に意識してしまう。軽く触れた肩が熱い。私はほんの少し身体を引いて、それからこくこくと頷いた。じぃっと私の様子を窺っていた保科副隊長が、ふっと目を細める。
「好きな子」
「へ?」
「僕のラッキーアイテム、好きな子やってん」
空になったジョッキを置いて、テーブルに頬杖をつきながら改めてそう告げられる。その目は変わらず私を捉えていて、どんな反応が返ってくるのか待っているみたいだった。正直面白い返しはできる気がしない。
それにしても、ラッキーアイテムが好きな子か。私のハンドミキサーもなかなかの難題だったけれど。
「それはまた……難しそうですね」
結局面白い返しは何ひとつ思い浮かばなくて、出てきたのは素の感想。全然面白くない、つまらない。これはさすがにダメ出しのひとつやふたつ飛んでくるかと思いきや、なぜか保科副隊長はにこりと口角を上げていて、
「そうでもないで」
低く囁かれた声は、不思議と楽しげだった。
好きな子なんて簡単に傍に置いておけないと思うけど、確かに保科副隊長にかかれば難題でもなんでもないのかもしれない。すごくモテるし、この前も告白されたみたいだし。
「さすが保科副隊長」
言ってからジョッキの底に少しだけ残っていたビールを一気に呷る。心なしかさっきよりも苦いような気がして首を傾げていると「せやろ」と嬉しそうな声が聞こえてきた。
「現に今、隣におるからなあ」
「…………………………えっ」