保科宗四郎
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とん、と両手を壁について、保科副隊長が私を見下ろす。ああ、これは。いわゆる壁ドンというやつだ。王道の少女漫画的な展開に私はドキドキしながら顔を上げ、しかし目が合った瞬間にそのドキドキはときめきとは程遠いものへと変貌した。いつもと変わらずにこにこ顔の保科副隊長。なのにどうしてだろう、目がこれっぽっちも笑っていない。
「ほ、保科副隊長?」
「名前」
「へ?」
「僕ら付き合うとるんやし、そろそろ名前で呼んでや」
すっと開かれた目には、私にしか見せない熱が灯っていた。その熱にあてられたのか、私自身の熱もぐっと上がったような錯覚に陥る。
保科副隊長と恋人になってしばらく、私は未だに彼を名前で呼べずにいた。プライベートの時はちゃんと下の名前で呼ぼうと思っていたのに長年彼の部下としてやってきたからか、なかなか「副隊長」呼びが抜けないのだ。度々こうして恋人として二人きりの時間を過ごしてきたけれど、その間も保科副隊長は特に指摘してこなかったから、てっきり気にしていないのかと思っていた。
当然そんなことはなく、私は彼の優しさに甘えていただけなのだとたった今判明したのだけど。その優しさにもとうとう限界がきたらしい。
「ほら、早う」
「えと……保科、さん」
「へえ。君は恋人を名字で呼ぶん?」
「うっ。そ、そう……」
「んー、聞こえんなあ。もっとおっきい声で言うて」
じりじりと追い詰めるように保科副隊長が身を屈めてくる。距離の近さに思わず顔を逸らすと、咎めるように片手で顔を正面に向けられた。
「なあ、ちゃんと呼んでや」
吐息のかかる距離で低く囁かれ、ぞくりと背中が震えるのを感じた。気を抜けばその場にへたり込んでしまいそうで、堪えるように唇を引き結べば催促するように保科副隊長が親指の腹で私の唇をなぞっていく。
ここを開けて、声を出すだけ。簡単やろ? 細められた目はわかりやすくそう語っていた。
「……ろ、さん」
「ん?」
「宗四郎、さん」
やっと、言えた。今度はちゃんと保科副隊長の耳にも届いたはず。
うるさい心臓を宥めるように息を吐いてから確認するように保科副隊長を見つめると、彼はよくできましたと言わんばかりににこりと私に微笑みかけた。しかし、
「んぅ?!」
突然さっきまでふにふにと唇を弄っていた親指が口内に入り込み、無理やり開かれた口にぬるりとした舌が押し入ってきた。心の準備も何もできていなかった私はただただいつもより激しく執拗な口付けに翻弄され、早々に自力で立てなくなった。くたりと身体から力が抜けていく。けれど保科副隊長はそれを許してくれなかった。私の腰を抱き、壁に押し付け、なおも深い口付けを続けた。
「も、や……そうしろ、さん」
息苦しさと頭の奥が痺れるような感覚の中、絞り出した声は言葉になっていたか怪しいところだった。しかし保科副隊長の耳には届いたようで、私はようやく長い口付けから解放された。
「まだ堅っ苦しいけど、今はええか」
今は……? へたり込む私の耳元で保科副隊長が恐ろしいことを呟く。どうやら、さん付けではまだ不満らしい。どんな呼び方なら満足するのだろう。私としては早めに知って呼び慣れておきたいところだけど。
「あの、ほし……」
「せや。これからプライベートの時はちゃあんと名前で呼んでな。また副隊長なんて呼んだらお仕置きやから」
「え」
「はは、冗談やって」
保科副隊長は笑っていたけれど、全然冗談に聞こえなかった。私はこの時絶対に呼び間違えないよう心に決めたのだけど、今まで呼べていなかったものが急に呼べるはずもなくーーあの保科副隊長の言葉が冗談ではなかったことを後日身をもって知るのだった。
「ほ、保科副隊長?」
「名前」
「へ?」
「僕ら付き合うとるんやし、そろそろ名前で呼んでや」
すっと開かれた目には、私にしか見せない熱が灯っていた。その熱にあてられたのか、私自身の熱もぐっと上がったような錯覚に陥る。
保科副隊長と恋人になってしばらく、私は未だに彼を名前で呼べずにいた。プライベートの時はちゃんと下の名前で呼ぼうと思っていたのに長年彼の部下としてやってきたからか、なかなか「副隊長」呼びが抜けないのだ。度々こうして恋人として二人きりの時間を過ごしてきたけれど、その間も保科副隊長は特に指摘してこなかったから、てっきり気にしていないのかと思っていた。
当然そんなことはなく、私は彼の優しさに甘えていただけなのだとたった今判明したのだけど。その優しさにもとうとう限界がきたらしい。
「ほら、早う」
「えと……保科、さん」
「へえ。君は恋人を名字で呼ぶん?」
「うっ。そ、そう……」
「んー、聞こえんなあ。もっとおっきい声で言うて」
じりじりと追い詰めるように保科副隊長が身を屈めてくる。距離の近さに思わず顔を逸らすと、咎めるように片手で顔を正面に向けられた。
「なあ、ちゃんと呼んでや」
吐息のかかる距離で低く囁かれ、ぞくりと背中が震えるのを感じた。気を抜けばその場にへたり込んでしまいそうで、堪えるように唇を引き結べば催促するように保科副隊長が親指の腹で私の唇をなぞっていく。
ここを開けて、声を出すだけ。簡単やろ? 細められた目はわかりやすくそう語っていた。
「……ろ、さん」
「ん?」
「宗四郎、さん」
やっと、言えた。今度はちゃんと保科副隊長の耳にも届いたはず。
うるさい心臓を宥めるように息を吐いてから確認するように保科副隊長を見つめると、彼はよくできましたと言わんばかりににこりと私に微笑みかけた。しかし、
「んぅ?!」
突然さっきまでふにふにと唇を弄っていた親指が口内に入り込み、無理やり開かれた口にぬるりとした舌が押し入ってきた。心の準備も何もできていなかった私はただただいつもより激しく執拗な口付けに翻弄され、早々に自力で立てなくなった。くたりと身体から力が抜けていく。けれど保科副隊長はそれを許してくれなかった。私の腰を抱き、壁に押し付け、なおも深い口付けを続けた。
「も、や……そうしろ、さん」
息苦しさと頭の奥が痺れるような感覚の中、絞り出した声は言葉になっていたか怪しいところだった。しかし保科副隊長の耳には届いたようで、私はようやく長い口付けから解放された。
「まだ堅っ苦しいけど、今はええか」
今は……? へたり込む私の耳元で保科副隊長が恐ろしいことを呟く。どうやら、さん付けではまだ不満らしい。どんな呼び方なら満足するのだろう。私としては早めに知って呼び慣れておきたいところだけど。
「あの、ほし……」
「せや。これからプライベートの時はちゃあんと名前で呼んでな。また副隊長なんて呼んだらお仕置きやから」
「え」
「はは、冗談やって」
保科副隊長は笑っていたけれど、全然冗談に聞こえなかった。私はこの時絶対に呼び間違えないよう心に決めたのだけど、今まで呼べていなかったものが急に呼べるはずもなくーーあの保科副隊長の言葉が冗談ではなかったことを後日身をもって知るのだった。