野火丸
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久々に何の予定もない休日だった。そういう日は一日中部屋着のまま、録画したドラマでも観てダラダラ過ごすに限る。人に会う予定もないからすっぴんでいいし、気が楽だ。けれどそういう時に限って突然の来客があったりする。それも、嵐のような来客が。
「わー、気の抜けた格好」
嵐のような来訪者、もとい野火丸さんは私を見るなりそう言った。そんなのってない。私だって連絡さえあれば、きちんと化粧をして可愛い服に着替えて出迎えるくらいのことはした。
カチンときて無言のままドアを閉める。すると閉まる直前に高そうな革靴が差し込まれ、「もう、冗談じゃないですかー」と無理矢理中に押し入られた。どこの悪徳セールスマンか。
「ここは涼しくていいですね。外はもう暑くて暑くて」
私の許可なく家に上がり、ソファに腰掛けた野火丸さんがネクタイを緩めながらパタパタと手で扇ぐ。私は一歩も外に出ていないし、朝からずっと冷房をつけていたから汗ひとつかいていないけども、今朝見た天気予報によれば今日も猛暑日。いつも涼しげな顔をしている野火丸さんも、この暑さはさすがに堪えるらしい。彼の汗が引くまで、と温度を数度下げると生暖かい眼差しが向けられていることに気付く。
「言っておきますけど、何のお構いもできませんからね」
百均で買った安物のグラスに氷を山盛り。そこに少し前に作った麦茶をやかんから直接注ぐ。一応タライに水を張って冷やしておいたけど、中身はまだぬるかったようで、あっという間に氷が溶けていった。氷を二、三個追加して野火丸さんに差し出す。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
ごくごくと、白い喉仏が上下する。良い飲みっぷりについジッと見つめてしまい、それに気付いた野火丸さんの瞳が意地悪く細められた。
「ふふ、そんなに見られると照れるじゃないですか」
「べ、別に見てなんか……」
「へえ。あ、お茶。もう一杯もらえます?」
野火丸さんから空のグラスを受け取って再びキッチンへと向かう。冷凍庫を開けて氷をいくつか。これくらいでいっか、とグラスを持ち上げて傾けていると、背後からパタンと音がした。振り向くとそこにいたのは野火丸さんで、聞こえた音は彼が開いていた冷凍庫を閉めたものだった。
「どうかしました?」
「ああ、氷は結構ですって言いにきたんですけど」
「ごめんなさい、もう入れちゃいました」
「それならそれで構いません。ただ、今入れたって意味がないのになーと思っただけで」
グラスに麦茶を注いでいた手が止まる。グラスの中の氷は先程とは違い、すぐには溶けなかった。一度カランと音を立て、緩やかに少しずつ溶けていく。
「意味が、ない?」
そんなことはないはずだ。現に氷はぬるい麦茶を冷やしつつある。
「ええ。だって、そうでしょう? どうせぬるくなってますよ。終わる頃には、ね」
微かに口端を上げた野火丸さんの顔が急に近くなった。そう認識した時にはすでに唇が塞がれていて、思わず逃げ腰になる私を遮るように腕が回される。
「っ、……ふっ」
吐息ごと飲み込まれるような、容赦のない口づけだった。苦しくて、酷く熱くて。クラクラする。
ぷつり、と繋がりが切れると同時に私も力尽き、その場に崩れそうになるのを野火丸さんが抱き止める。
「身体、冷えてますね。でも冷房はそのままにしておきましょうか。すぐ熱くなるでしょうし」
私を横抱きにして、野火丸さんが艶やかに笑う。向かうは寝室。そして全てが終わったその後で、私はすっかり汗をかいたぬるい麦茶を飲む羽目になるのだった。
「わー、気の抜けた格好」
嵐のような来訪者、もとい野火丸さんは私を見るなりそう言った。そんなのってない。私だって連絡さえあれば、きちんと化粧をして可愛い服に着替えて出迎えるくらいのことはした。
カチンときて無言のままドアを閉める。すると閉まる直前に高そうな革靴が差し込まれ、「もう、冗談じゃないですかー」と無理矢理中に押し入られた。どこの悪徳セールスマンか。
「ここは涼しくていいですね。外はもう暑くて暑くて」
私の許可なく家に上がり、ソファに腰掛けた野火丸さんがネクタイを緩めながらパタパタと手で扇ぐ。私は一歩も外に出ていないし、朝からずっと冷房をつけていたから汗ひとつかいていないけども、今朝見た天気予報によれば今日も猛暑日。いつも涼しげな顔をしている野火丸さんも、この暑さはさすがに堪えるらしい。彼の汗が引くまで、と温度を数度下げると生暖かい眼差しが向けられていることに気付く。
「言っておきますけど、何のお構いもできませんからね」
百均で買った安物のグラスに氷を山盛り。そこに少し前に作った麦茶をやかんから直接注ぐ。一応タライに水を張って冷やしておいたけど、中身はまだぬるかったようで、あっという間に氷が溶けていった。氷を二、三個追加して野火丸さんに差し出す。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
ごくごくと、白い喉仏が上下する。良い飲みっぷりについジッと見つめてしまい、それに気付いた野火丸さんの瞳が意地悪く細められた。
「ふふ、そんなに見られると照れるじゃないですか」
「べ、別に見てなんか……」
「へえ。あ、お茶。もう一杯もらえます?」
野火丸さんから空のグラスを受け取って再びキッチンへと向かう。冷凍庫を開けて氷をいくつか。これくらいでいっか、とグラスを持ち上げて傾けていると、背後からパタンと音がした。振り向くとそこにいたのは野火丸さんで、聞こえた音は彼が開いていた冷凍庫を閉めたものだった。
「どうかしました?」
「ああ、氷は結構ですって言いにきたんですけど」
「ごめんなさい、もう入れちゃいました」
「それならそれで構いません。ただ、今入れたって意味がないのになーと思っただけで」
グラスに麦茶を注いでいた手が止まる。グラスの中の氷は先程とは違い、すぐには溶けなかった。一度カランと音を立て、緩やかに少しずつ溶けていく。
「意味が、ない?」
そんなことはないはずだ。現に氷はぬるい麦茶を冷やしつつある。
「ええ。だって、そうでしょう? どうせぬるくなってますよ。終わる頃には、ね」
微かに口端を上げた野火丸さんの顔が急に近くなった。そう認識した時にはすでに唇が塞がれていて、思わず逃げ腰になる私を遮るように腕が回される。
「っ、……ふっ」
吐息ごと飲み込まれるような、容赦のない口づけだった。苦しくて、酷く熱くて。クラクラする。
ぷつり、と繋がりが切れると同時に私も力尽き、その場に崩れそうになるのを野火丸さんが抱き止める。
「身体、冷えてますね。でも冷房はそのままにしておきましょうか。すぐ熱くなるでしょうし」
私を横抱きにして、野火丸さんが艶やかに笑う。向かうは寝室。そして全てが終わったその後で、私はすっかり汗をかいたぬるい麦茶を飲む羽目になるのだった。