野火丸
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家に帰ったら化粧を落としてシャワーを浴びて、ご飯を食べて、それからーー。仕事を終え、帰宅するまでの道中に頭の中でやるべきことを順序立てる。絶対に座ったらだめと心に誓うものの、家に着いた瞬間にそんな誓いは紙切れのごとく吹き飛んでしまった。我ながら自分に甘い。
床にバッグを放り投げ、一目散に向かったのはリビングのソファ。無意識にテレビをつけてそこにどかりと腰を下ろす。
「はぁ、疲れた」
溜息とともに零れ落ちた独り言は、テレビに映っていたお笑い芸人のコントに即座に掻き消された。観客の笑い声を遠くに聞きながらソファに体重を預け脱力する。
そんなに高価なソファを買ったわけではないのに、一日働いた後に座るとこうも離れがたくなるのはなぜだろう。あぁだめ、まだ化粧も落としてないのに動けない。こうなるのがわかりきっていたから座らないように気をつけていたのに。習慣とは早々変えられないものらしい。
そうして数分もしないうちにまばたきの回数が減り、気づけば私は意識を手放していた。
***
ふわふわと心地よい睡魔からゆっくりと意識が浮上する。もっとこのまま揺蕩っていたかったけれど、瞼の向こうが眩しくて逃げるように寝返りを打った。その拍子にぐらりと身体が傾く感覚がしてはっと息を呑む。
「おっと」
落ちかけた身体を誰かが元の位置に戻した。
え、誰……? 覚醒し切らない頭で何とか瞼を持ち上げ、声のほうを見やる。
「あ、やっと起きたんですかー?」
聞き覚えのある声、さらりと流れる金髪、それからとろりとした蜂蜜色の瞳。
「野火丸、くん?」
そこにいたのは以前酔っ払いに絡まれていた時に私を助けてくれ、それをきっかけに仲良くなった青年だった。どうやら彼はソファで寝落ちた私の枕になってくれていたらしい。
「ごめん、重かったでしょ」
「大丈夫ですよー、そんなに時間も経ってませんし。それにしてもぐっすりでしたね」
「あー、最近忙しくてね」
それだけ言えば、野火丸くんはそれ以上詮索して来なかった。この距離感が心地よいと思う。
私たちはお互いプライベートは詮索しないことを条件に、そういう意味で仲良くなったお友達でもある。多忙でいつ予定が合うかわからないからと合鍵を渡すくらいには関係も続いている。彼が私より歳下と知った時はさすがに驚いたけれど。
「久しぶりだね」
眠い目を擦りながら野火丸くんの膝から上半身を起こす。彼が来たということは、そういうことをするためだ。私たちはそういう名目のお友達だから。
「ごめん、化粧落としてなくて。あとシャワー浴びてきていい?」
「あなたが寝てる間に化粧は落としておきましたよ。シャワーは朝でもいいでしょう。時間になったら起こしますし、疲れているならベッドで寝たほうがいい」
「え」
「なんです?」
「いや、その、てっきりしに来たのかなって」
私の言葉に野火丸くんがにこりと笑った。
「僕、そんな男だと思われてたんですねー」
「や、あの……」
「ふふ、いいですよー。そんなにしたいなら足腰立たなくなるまでしてあげます」
その顔が全然笑ってなくて、私はぶんぶん首を横に振った。明日も仕事だ。それは困る。
「じゃあベッドに行きましょうか。今なら特別に僕の添い寝付きです」
ソファから上体を起こした私はそのまま野火丸くんに抱え直され、寝室へと連れて行かれた。お姫様抱っこだ、などと感動する間もなくベッドに下ろされ、慣れた手付きでスーツを脱がされる。ただポイポイと床に放り投げられたので明日にはスーツは皺くちゃになっていることだろう。野火丸くんは意外と大雑把なのだ。
「よいしょっと」
下着姿になった私を抱きかかえ、野火丸くんがベッドに横になる。
「寒くないですか?」
「あったかい」
「ならよかったです」
野火丸くんの体温と匂いに包まれるうちに、再び睡魔が押し寄せてきた。このまま意識を手放したい気持ちと、久々に会った野火丸くんともう少し話したい気持ちで揺れていると、寝ない子どもをあやすように野火丸くんが私の額に軽く唇を押し当てた。おやすみのキスだ。
加えてぽんぽんと背中を優しくさすられてしまってはもう私には打つ手がなくて、大人しく瞼を閉じて、野火丸くんの胸に顔を埋めたのだった。
床にバッグを放り投げ、一目散に向かったのはリビングのソファ。無意識にテレビをつけてそこにどかりと腰を下ろす。
「はぁ、疲れた」
溜息とともに零れ落ちた独り言は、テレビに映っていたお笑い芸人のコントに即座に掻き消された。観客の笑い声を遠くに聞きながらソファに体重を預け脱力する。
そんなに高価なソファを買ったわけではないのに、一日働いた後に座るとこうも離れがたくなるのはなぜだろう。あぁだめ、まだ化粧も落としてないのに動けない。こうなるのがわかりきっていたから座らないように気をつけていたのに。習慣とは早々変えられないものらしい。
そうして数分もしないうちにまばたきの回数が減り、気づけば私は意識を手放していた。
***
ふわふわと心地よい睡魔からゆっくりと意識が浮上する。もっとこのまま揺蕩っていたかったけれど、瞼の向こうが眩しくて逃げるように寝返りを打った。その拍子にぐらりと身体が傾く感覚がしてはっと息を呑む。
「おっと」
落ちかけた身体を誰かが元の位置に戻した。
え、誰……? 覚醒し切らない頭で何とか瞼を持ち上げ、声のほうを見やる。
「あ、やっと起きたんですかー?」
聞き覚えのある声、さらりと流れる金髪、それからとろりとした蜂蜜色の瞳。
「野火丸、くん?」
そこにいたのは以前酔っ払いに絡まれていた時に私を助けてくれ、それをきっかけに仲良くなった青年だった。どうやら彼はソファで寝落ちた私の枕になってくれていたらしい。
「ごめん、重かったでしょ」
「大丈夫ですよー、そんなに時間も経ってませんし。それにしてもぐっすりでしたね」
「あー、最近忙しくてね」
それだけ言えば、野火丸くんはそれ以上詮索して来なかった。この距離感が心地よいと思う。
私たちはお互いプライベートは詮索しないことを条件に、そういう意味で仲良くなったお友達でもある。多忙でいつ予定が合うかわからないからと合鍵を渡すくらいには関係も続いている。彼が私より歳下と知った時はさすがに驚いたけれど。
「久しぶりだね」
眠い目を擦りながら野火丸くんの膝から上半身を起こす。彼が来たということは、そういうことをするためだ。私たちはそういう名目のお友達だから。
「ごめん、化粧落としてなくて。あとシャワー浴びてきていい?」
「あなたが寝てる間に化粧は落としておきましたよ。シャワーは朝でもいいでしょう。時間になったら起こしますし、疲れているならベッドで寝たほうがいい」
「え」
「なんです?」
「いや、その、てっきりしに来たのかなって」
私の言葉に野火丸くんがにこりと笑った。
「僕、そんな男だと思われてたんですねー」
「や、あの……」
「ふふ、いいですよー。そんなにしたいなら足腰立たなくなるまでしてあげます」
その顔が全然笑ってなくて、私はぶんぶん首を横に振った。明日も仕事だ。それは困る。
「じゃあベッドに行きましょうか。今なら特別に僕の添い寝付きです」
ソファから上体を起こした私はそのまま野火丸くんに抱え直され、寝室へと連れて行かれた。お姫様抱っこだ、などと感動する間もなくベッドに下ろされ、慣れた手付きでスーツを脱がされる。ただポイポイと床に放り投げられたので明日にはスーツは皺くちゃになっていることだろう。野火丸くんは意外と大雑把なのだ。
「よいしょっと」
下着姿になった私を抱きかかえ、野火丸くんがベッドに横になる。
「寒くないですか?」
「あったかい」
「ならよかったです」
野火丸くんの体温と匂いに包まれるうちに、再び睡魔が押し寄せてきた。このまま意識を手放したい気持ちと、久々に会った野火丸くんともう少し話したい気持ちで揺れていると、寝ない子どもをあやすように野火丸くんが私の額に軽く唇を押し当てた。おやすみのキスだ。
加えてぽんぽんと背中を優しくさすられてしまってはもう私には打つ手がなくて、大人しく瞼を閉じて、野火丸くんの胸に顔を埋めたのだった。
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