野火丸
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「ねぇ、ちゅーしましょうよ」
突然の野火丸『くん』の来訪。それからきゅるんと擬音が付きそうな眼差しとポーズに、私は思わず飲んでいた缶チューハイを吹き出しそうになった。うそ、少しだけ出た。それを袖で拭いながら、目の前のいたいけな少年に問いかける。
「何言ってるんですか、野火丸さん」
部下を弄るにもほどがある。笑えない冗談だ。
「誰ですか、その野火丸さんってのは。僕は見ての通り、かわいいかわいい少年です」
「ならなおさらキスなんてできないんですが」
片やチューハイ片手に晩酌をするくたびれ成人女狐、片や見た目十三歳のいたいけな少年化狐である。いくら化けた姿であったとしても絵面的に問題がありすぎる。傍から見たら少年を襲ったようにしか見えなくて私が捕まってしまうじゃないか。嫌だ、お縄につきたくない。
そしてそんな私の心を読んだかのように野火丸さんが言った。
「大丈夫、捕まりませんよ。だってあなた警察でしょう」
「それは、そうですけど……」
「ほら、問題ありませんね」
じり、と野火丸さんが笑顔で距離を詰めてくる。私はいやいやいやと首を横に振った。確かに問題を揉み消すことはできるけどそういう問題じゃない。
「そんなに嫌ですか?」
「嫌っていうか、キスをする理由がないというか」
「ぐすん。ひどいなぁ。僕今日誕生日なのに、あなたから何ももらってないんですよー。どうせプレゼントも用意してないんでしょう?」
「え……初耳なんですけど」
他のひとたちも知ってたんだろうか。ああでも小紅羅ちゃんたちがケーキ屋がどうのこうのって話してた気もする。
「やっぱり用意してないんですね。悲しいなぁ、しくしく……」
「ご、ごめんなさい」
私が謝ると野火丸さんは目を擦っていた手を止めにこりと微笑んだ。
「別にいいんです。今もらえれば」
「えっと、今は用意がなくで……」
「だから言ってるじゃないですか。ちゅーしましょ、って」
昏い月を溶かしたような瞳が微かに細まった。
「っ!」
背筋がぞくりと震えたのは、それが捕食者の目だったからだ。私より細くて小さな身体が近づいてくる。大人の私と子ども姿の野火丸さん。それなりに体格差があるはずなのに、逃げられる気がしない。
すぐ目の前の金色がゆっくりと閉ざされた。それと同時に唇に柔らかいものが触れる。
ほんの数秒の短い時間だった。
離れた野火丸さんがふわりと子どもらしい笑顔を浮かべて言った。
「ちゅー、しちゃいましたね」
「……はぁ、これで満足ですか」
上司に逆らえなかったとはいえ背徳感がすごい。恥ずかしさで顔から火が出そうだ。少しでも体温を下げようとチューハイを一気飲みして、ちらりと隣を見やれば野火丸さんがにこにことこちらを見ていた。
「ふふ、まさか」
「え」
ふっと顔に影がかかった。そして再び唇に柔らかなものが触れる。何度も角度を変えて押し付けられ、小さな口が唇を喰み、閉ざしたあわいをぬるりとした舌で突かれる。
「っ、んぅ」
あんなにかわいいと自称していたくせに、まるで獣のようだと思う。まぁ、実際狐なのだけど。
子どもとは思えないギラついた目に気圧されて、震えるように僅かに開いた唇の隙間に舌を差し込まれた。小さな舌が咥内を味わうように這っていく。
くすぐったいような、もどかしいような。けれど着実に溜まっていく熱にどうにかなりそうだった。
「ぁ、や、のびまるさ……っ」
縋るように伸ばした手が彼のイヤーマフを引っかけた。その拍子にぴょこっと大きな狐耳があらわになる。
「あー、取れちゃいましたか」
垂れた唾液を舐め取りながら野火丸さんが目を細めた。子ども姿なのに色気がすごくてアンバランスだ。
床に転がったイヤーマフを手に取り、丁寧にローテーブルに置く。その姿をぼんやりと見つめていると、私の視線に気づいた野火丸さんが子どもっぽく微笑んだ。
「それ、桃味だったんですねー」
それ、と言われ野火丸さんの視線を追う。そこには飲みかけのチューハイが置いてあって、そういえばそうだったと思い出す。
「甘くて美味しいですね。僕も早く飲めるようになりたいです」
「はぁ」
そういえば、本来の野火丸さんは十九歳だったっけ。化狐に人間の法律は関係ないけれど、人間の年齢でいえばまだ未成年だ。
「じゃあその時はお酒をプレゼントしますよ」
「いいんですか? ふふ、約束ですよ」
あどけなく笑う姿はさっきとはまるで別人だった。
「さて今年のプレゼントは無事もらいましたし、できる部下にはごほうびをあげないといけませんね」
あの野火丸さんが、ご褒美? 私はぱちぱちと目を瞬いた。彼の部下の中では誰よりも付き合いが短いけれど、それでも野火丸さんがそういうことをしないタイプということは知っている。だからこそ、嫌な予感しかしなかった。
「け、結構です!」
「えー、つれないですねー。もっと喜んでくれてもいいのに」
ぐっと野火丸さんとの距離が縮まる。……違う、これ野火丸さんが大きくなってるんだ。
気づけば狐耳を生やした少年の姿はどこにもなく、整った顔立ちの青年が目の前にいた。
そのまま後退りすら許されず、その場に押し倒される。
「あの、野火丸さん……」
冷や汗の流れる私の頬を大きな掌がそっと撫でた。とろりと溶けた金色は未だ昏いまま、けれど確かな熱を持って私を見下ろしている。
「遠慮はいりませんよー。優秀な部下にはたぁーっぷり、ごほうびをあげますからね」
突然の野火丸『くん』の来訪。それからきゅるんと擬音が付きそうな眼差しとポーズに、私は思わず飲んでいた缶チューハイを吹き出しそうになった。うそ、少しだけ出た。それを袖で拭いながら、目の前のいたいけな少年に問いかける。
「何言ってるんですか、野火丸さん」
部下を弄るにもほどがある。笑えない冗談だ。
「誰ですか、その野火丸さんってのは。僕は見ての通り、かわいいかわいい少年です」
「ならなおさらキスなんてできないんですが」
片やチューハイ片手に晩酌をするくたびれ成人女狐、片や見た目十三歳のいたいけな少年化狐である。いくら化けた姿であったとしても絵面的に問題がありすぎる。傍から見たら少年を襲ったようにしか見えなくて私が捕まってしまうじゃないか。嫌だ、お縄につきたくない。
そしてそんな私の心を読んだかのように野火丸さんが言った。
「大丈夫、捕まりませんよ。だってあなた警察でしょう」
「それは、そうですけど……」
「ほら、問題ありませんね」
じり、と野火丸さんが笑顔で距離を詰めてくる。私はいやいやいやと首を横に振った。確かに問題を揉み消すことはできるけどそういう問題じゃない。
「そんなに嫌ですか?」
「嫌っていうか、キスをする理由がないというか」
「ぐすん。ひどいなぁ。僕今日誕生日なのに、あなたから何ももらってないんですよー。どうせプレゼントも用意してないんでしょう?」
「え……初耳なんですけど」
他のひとたちも知ってたんだろうか。ああでも小紅羅ちゃんたちがケーキ屋がどうのこうのって話してた気もする。
「やっぱり用意してないんですね。悲しいなぁ、しくしく……」
「ご、ごめんなさい」
私が謝ると野火丸さんは目を擦っていた手を止めにこりと微笑んだ。
「別にいいんです。今もらえれば」
「えっと、今は用意がなくで……」
「だから言ってるじゃないですか。ちゅーしましょ、って」
昏い月を溶かしたような瞳が微かに細まった。
「っ!」
背筋がぞくりと震えたのは、それが捕食者の目だったからだ。私より細くて小さな身体が近づいてくる。大人の私と子ども姿の野火丸さん。それなりに体格差があるはずなのに、逃げられる気がしない。
すぐ目の前の金色がゆっくりと閉ざされた。それと同時に唇に柔らかいものが触れる。
ほんの数秒の短い時間だった。
離れた野火丸さんがふわりと子どもらしい笑顔を浮かべて言った。
「ちゅー、しちゃいましたね」
「……はぁ、これで満足ですか」
上司に逆らえなかったとはいえ背徳感がすごい。恥ずかしさで顔から火が出そうだ。少しでも体温を下げようとチューハイを一気飲みして、ちらりと隣を見やれば野火丸さんがにこにことこちらを見ていた。
「ふふ、まさか」
「え」
ふっと顔に影がかかった。そして再び唇に柔らかなものが触れる。何度も角度を変えて押し付けられ、小さな口が唇を喰み、閉ざしたあわいをぬるりとした舌で突かれる。
「っ、んぅ」
あんなにかわいいと自称していたくせに、まるで獣のようだと思う。まぁ、実際狐なのだけど。
子どもとは思えないギラついた目に気圧されて、震えるように僅かに開いた唇の隙間に舌を差し込まれた。小さな舌が咥内を味わうように這っていく。
くすぐったいような、もどかしいような。けれど着実に溜まっていく熱にどうにかなりそうだった。
「ぁ、や、のびまるさ……っ」
縋るように伸ばした手が彼のイヤーマフを引っかけた。その拍子にぴょこっと大きな狐耳があらわになる。
「あー、取れちゃいましたか」
垂れた唾液を舐め取りながら野火丸さんが目を細めた。子ども姿なのに色気がすごくてアンバランスだ。
床に転がったイヤーマフを手に取り、丁寧にローテーブルに置く。その姿をぼんやりと見つめていると、私の視線に気づいた野火丸さんが子どもっぽく微笑んだ。
「それ、桃味だったんですねー」
それ、と言われ野火丸さんの視線を追う。そこには飲みかけのチューハイが置いてあって、そういえばそうだったと思い出す。
「甘くて美味しいですね。僕も早く飲めるようになりたいです」
「はぁ」
そういえば、本来の野火丸さんは十九歳だったっけ。化狐に人間の法律は関係ないけれど、人間の年齢でいえばまだ未成年だ。
「じゃあその時はお酒をプレゼントしますよ」
「いいんですか? ふふ、約束ですよ」
あどけなく笑う姿はさっきとはまるで別人だった。
「さて今年のプレゼントは無事もらいましたし、できる部下にはごほうびをあげないといけませんね」
あの野火丸さんが、ご褒美? 私はぱちぱちと目を瞬いた。彼の部下の中では誰よりも付き合いが短いけれど、それでも野火丸さんがそういうことをしないタイプということは知っている。だからこそ、嫌な予感しかしなかった。
「け、結構です!」
「えー、つれないですねー。もっと喜んでくれてもいいのに」
ぐっと野火丸さんとの距離が縮まる。……違う、これ野火丸さんが大きくなってるんだ。
気づけば狐耳を生やした少年の姿はどこにもなく、整った顔立ちの青年が目の前にいた。
そのまま後退りすら許されず、その場に押し倒される。
「あの、野火丸さん……」
冷や汗の流れる私の頬を大きな掌がそっと撫でた。とろりと溶けた金色は未だ昏いまま、けれど確かな熱を持って私を見下ろしている。
「遠慮はいりませんよー。優秀な部下にはたぁーっぷり、ごほうびをあげますからね」