野火丸
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ぎしりとベッドが沈み込む気配に目を覚ます。
隣にやってきたぬくもりに「おかえりなさい」と声をかければ、「おや、起こしてしまいましたか」と囁く声が聴こえた。久々の恋人の帰還が嬉しくて彼のほうへと寝返りを打つと、革手袋がするりと頬を撫でた。
冷たくて硬い感触なのに、あたたかい手のひらだと思う。離れがたくて擦り寄ると、蜂蜜色の双眸がとろりと緩むのが見えた。
こちらを甘やかすようでいて甘えてくるようでもある口づけを、手を伸ばして受け入れる。
仕事で嫌なことでもあったのだろうか。どんな仕事をしているか頑なに教えてくれないけれど、あまり無理はしないでほしい。
労わるように頭を撫でると、野火丸さんは困ったように眉を下げて私を見下ろした。
「もしかして子ども扱いしてます?」
「してませんよ。これはいつも頑張ってて偉いね、のなでなでです」
「世間ではそれを子ども扱いと言うんですよー」
にこりと笑った彼が私のパジャマの中に手を滑らせる。どうやら子ども扱いされたことが不服のようで、ならば子どもではできないことをしてやろうという魂胆らしい。そういうところが子どもっぽいと思うのだけど、それを口にすると大変な目に遭うと経験で知っている。
腰から上を焦らすようにゆっくり撫でられ、革手袋の冷たい感触に身体を震わせると、野火丸さんがうっそりと目を細めた。
いま、こんなことを言うのは変かもしれないけれど。
「きれい……」
するりと零れた言葉は本心だ。
月明かりに照らされる金色の髪も、私を見つめる蜂蜜色の瞳も、全部。全部、きれいだと思う。それこそ、つい手を伸ばして触れたくなるくらいには。
「あなたって、本当に変な人ですね」
困ったような、呆れたような笑顔で野火丸さんが言って、さらりとした髪を弄る私の手を掴んでベッドに縫いとめた。
野火丸さんの笑顔はどうして悲しそうに見えるのだろう。訊きたいけれど、その疑問はいつも口に出す前に野火丸さんに塞がれてしまう。
そのまま訊くことすら忘れてしまうくらいどろどろに溶かされて、私が目を覚ます頃にはもう彼の姿は見えなくて。たぶんきっと、今日もそう。
野火丸さんが忙しいのは理解しているし、今の関係に不満はない。けれど私たちの間には見えない一線が引かれていて、野火丸さんは私がそれを越えようとするのを絶対に許さない。少しでも越えようとすればいつものあの笑顔で上手いこと躱されて、なかったことにされてしまう。それを寂しいと感じるのは、我儘だろうか。
「ん、っ……野火丸さ……」
求めるように手を伸ばせば、野火丸さんは応えるように強く握り返してくれる。
こんなに近くにいるのに。ひとつに溶け合ってしまいそうなほどなのに。
彼は途方もなく遠くて、涙が出そうだった。
***
甘い熱の余韻が残ったシーツは、お世辞にも心地よいとは言いがたい。それが一人なら尚更でいつも顔を顰めての目覚めなのだけど、今日は違った。
まだ日が昇っていない。身体は相変わらず怠くて起き上がれる気はしないけれど、カーテンの隙間からはまだ月明かりが漏れていた。
「あなたがこの時間に起きるなんて珍しいですね」
暗闇の中で野火丸さんの声がした。朝、というか毎回昼近くまで起きられないのは誰のせいだと言いたくなったけれど、声が掠れて音になりそうにない。代わりに声のしたほうへと手を伸ばせば、きゅっと指を絡めて握ってくれた。
目が覚めて隣に恋人がいる、というのは初めてで思わず笑みが零れる。
「ふふ、のびまるさんがいる」
掠れた独り言を野火丸さんは耳聡く拾ったらしい。「そんなに嬉しいんですか?」と甘い声が降ってきて、優しく頭を撫でられた。まるで小さい子にするみたいに。でもいいや。
私も野火丸さんに触りたい、と手を伸ばす。一瞬ぴくりと身体を震わせた彼は、ベッドに横たわる私が届く位置まで身を屈めてくれた。
月明かりに照らされて野火丸さんの姿が眼前に現れる。
「やっぱりきれい」
さらりとした髪に指を通し満足げに笑う私に、彼の目が見開かれる。どうして、と唇が震えた気がした。
「いいんですか。今の僕、綺麗じゃないですよ?」
その言葉に、ぱちりと瞬きする。何がだろう、そう思い月明かりに照らされる野火丸さんの姿を視界に映して、あれ? と首を傾げる。どうしてか今の彼の髪色は月光を反射するというよりは、闇夜に紛れやすい色合いに見えた。もしかしたら私はまだ寝ぼけているのかもしれない。でも、それでもーー。
「きれいですよ」
野火丸さんが何を気にしているのかわからないけれど、それは断言できる。金色でも何色でも関係ない。野火丸さんだからこそ、私はきれいだと思うのだ。
「……はは、なんですか、それ」
くしゃりと笑って野火丸さんが言った。初めて見るその笑顔はやっぱりどこか悲しそうで、泣いているようにも見えて、胸が苦しくなる。
「野火丸さん……」
「ほら、まだ夜は明けていませんよ。目を閉じて」
野火丸さんが私の両目を手のひらで隠した。
ーーああ、またこのひとは一線を越えさせてくれないんだ。
それに気づいて何か言わなきゃと口を開くも身体は言うことを聞いてくれなかった。
おやすみなさいと額に口づけを落とされる。すると途端に睡魔がやってきて、次に目を覚ました時にはそこに野火丸さんの姿はなかった。
隣にやってきたぬくもりに「おかえりなさい」と声をかければ、「おや、起こしてしまいましたか」と囁く声が聴こえた。久々の恋人の帰還が嬉しくて彼のほうへと寝返りを打つと、革手袋がするりと頬を撫でた。
冷たくて硬い感触なのに、あたたかい手のひらだと思う。離れがたくて擦り寄ると、蜂蜜色の双眸がとろりと緩むのが見えた。
こちらを甘やかすようでいて甘えてくるようでもある口づけを、手を伸ばして受け入れる。
仕事で嫌なことでもあったのだろうか。どんな仕事をしているか頑なに教えてくれないけれど、あまり無理はしないでほしい。
労わるように頭を撫でると、野火丸さんは困ったように眉を下げて私を見下ろした。
「もしかして子ども扱いしてます?」
「してませんよ。これはいつも頑張ってて偉いね、のなでなでです」
「世間ではそれを子ども扱いと言うんですよー」
にこりと笑った彼が私のパジャマの中に手を滑らせる。どうやら子ども扱いされたことが不服のようで、ならば子どもではできないことをしてやろうという魂胆らしい。そういうところが子どもっぽいと思うのだけど、それを口にすると大変な目に遭うと経験で知っている。
腰から上を焦らすようにゆっくり撫でられ、革手袋の冷たい感触に身体を震わせると、野火丸さんがうっそりと目を細めた。
いま、こんなことを言うのは変かもしれないけれど。
「きれい……」
するりと零れた言葉は本心だ。
月明かりに照らされる金色の髪も、私を見つめる蜂蜜色の瞳も、全部。全部、きれいだと思う。それこそ、つい手を伸ばして触れたくなるくらいには。
「あなたって、本当に変な人ですね」
困ったような、呆れたような笑顔で野火丸さんが言って、さらりとした髪を弄る私の手を掴んでベッドに縫いとめた。
野火丸さんの笑顔はどうして悲しそうに見えるのだろう。訊きたいけれど、その疑問はいつも口に出す前に野火丸さんに塞がれてしまう。
そのまま訊くことすら忘れてしまうくらいどろどろに溶かされて、私が目を覚ます頃にはもう彼の姿は見えなくて。たぶんきっと、今日もそう。
野火丸さんが忙しいのは理解しているし、今の関係に不満はない。けれど私たちの間には見えない一線が引かれていて、野火丸さんは私がそれを越えようとするのを絶対に許さない。少しでも越えようとすればいつものあの笑顔で上手いこと躱されて、なかったことにされてしまう。それを寂しいと感じるのは、我儘だろうか。
「ん、っ……野火丸さ……」
求めるように手を伸ばせば、野火丸さんは応えるように強く握り返してくれる。
こんなに近くにいるのに。ひとつに溶け合ってしまいそうなほどなのに。
彼は途方もなく遠くて、涙が出そうだった。
***
甘い熱の余韻が残ったシーツは、お世辞にも心地よいとは言いがたい。それが一人なら尚更でいつも顔を顰めての目覚めなのだけど、今日は違った。
まだ日が昇っていない。身体は相変わらず怠くて起き上がれる気はしないけれど、カーテンの隙間からはまだ月明かりが漏れていた。
「あなたがこの時間に起きるなんて珍しいですね」
暗闇の中で野火丸さんの声がした。朝、というか毎回昼近くまで起きられないのは誰のせいだと言いたくなったけれど、声が掠れて音になりそうにない。代わりに声のしたほうへと手を伸ばせば、きゅっと指を絡めて握ってくれた。
目が覚めて隣に恋人がいる、というのは初めてで思わず笑みが零れる。
「ふふ、のびまるさんがいる」
掠れた独り言を野火丸さんは耳聡く拾ったらしい。「そんなに嬉しいんですか?」と甘い声が降ってきて、優しく頭を撫でられた。まるで小さい子にするみたいに。でもいいや。
私も野火丸さんに触りたい、と手を伸ばす。一瞬ぴくりと身体を震わせた彼は、ベッドに横たわる私が届く位置まで身を屈めてくれた。
月明かりに照らされて野火丸さんの姿が眼前に現れる。
「やっぱりきれい」
さらりとした髪に指を通し満足げに笑う私に、彼の目が見開かれる。どうして、と唇が震えた気がした。
「いいんですか。今の僕、綺麗じゃないですよ?」
その言葉に、ぱちりと瞬きする。何がだろう、そう思い月明かりに照らされる野火丸さんの姿を視界に映して、あれ? と首を傾げる。どうしてか今の彼の髪色は月光を反射するというよりは、闇夜に紛れやすい色合いに見えた。もしかしたら私はまだ寝ぼけているのかもしれない。でも、それでもーー。
「きれいですよ」
野火丸さんが何を気にしているのかわからないけれど、それは断言できる。金色でも何色でも関係ない。野火丸さんだからこそ、私はきれいだと思うのだ。
「……はは、なんですか、それ」
くしゃりと笑って野火丸さんが言った。初めて見るその笑顔はやっぱりどこか悲しそうで、泣いているようにも見えて、胸が苦しくなる。
「野火丸さん……」
「ほら、まだ夜は明けていませんよ。目を閉じて」
野火丸さんが私の両目を手のひらで隠した。
ーーああ、またこのひとは一線を越えさせてくれないんだ。
それに気づいて何か言わなきゃと口を開くも身体は言うことを聞いてくれなかった。
おやすみなさいと額に口づけを落とされる。すると途端に睡魔がやってきて、次に目を覚ました時にはそこに野火丸さんの姿はなかった。