野火丸
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整った横顔、その頬に刻まれた赤い一線。
「野火丸さん、怪我してる」
「あー、今日糞お……上司の機嫌が悪かったんですよねー。これくらいほっとけば治るんで大丈夫ですよ」
怪物である野火丸さんは人間の私よりずっと怪我の治りが早いらしい。だからその言葉も嘘ではないのだろう。でも彼を見るたびに視界に入る赤い線が、私はどうしても気になって。
「何してるんです?」
「あ」
気づけばその頬に、ぺたりと持っていた絆創膏を貼り付けていた。しかも寄りにも寄ってネコ柄の、とてもキュートなやつを。やってしまった。けれど、今更どうすることもできない。
「全く、貴女って人は。ほっとけば治るって言ったの、聞いてなかったんですかー?」
野火丸さんは頬杖ついて「お馬鹿さんですねぇ」と笑った。
「だって、痛そうだったし」
「平気です。怪物は人間とは違いますから」
「野火丸さんは平気でも、私が平気じゃないんですよ」
私の言葉に絆創膏を剥がそうとしていた野火丸さんの手がぴたりと止まる。ぱちくりと金色の瞳を瞬かせて、何を言われるのかとドキドキしていたら、目の前で「はぁ」と盛大に溜息を吐かれた。人の顔を見て溜息を吐くなんて失礼にも程がある。
文句の一つでも言ってやろう、そう思ってたのに。野火丸さんが「わかりました」と私をその長い腕と足の中に閉じ込めたから、それもできなくなってしまった。
「仕方ないので、今日はこのままにしといてあげます」
ぎゅうっと抱きしめてぐりぐりと頭を擦りつけてくる野火丸さんは、大人の姿なのに、なんだかとても可愛かった。
***
そんなに痛くなくとも「痛っ」と反射的に声が出てしまう時がある。紙で指先を切ってしまった時なんかがそう。この傷は地味に痛いところが厄介だ。
うっすらと滲む赤をぼんやり見つめていると「どうかしました?」と野火丸さんの声が聞こえてきて、思わず顔を上げた。
そこには当たり前のように野火丸さんがいてびっくりする。さっきまでこの部屋には私しかいなかったのに、一体いつの間に……。
目を丸くする私に「狐は耳がいいんですよー」と彼は自分の耳を指先でつついて見せた。
「そんなことより怪我、見せてください」
「怪我なんて、野火丸さん大げさだなぁ。ちょっと切れただけですよ。これくらい舐めとけば治ります」
私の手を取って切れた指先をまじまじと見ていた野火丸さんが「そうですか」と静かな声で言った。そしてそのまま腰を屈めたと思ったらーーぱくり、と私の指先を口に放り込んだ。
「ちょ、野火丸さん⁈」
熱くてざらりとした舌が私の指先に絡みつく。切れたところがひりりと痛んで、でも、それも最初だけ。執拗に指を舐め上げられてびくりと身体を震わせると、指先に絡む熱と同等、いやそれ以上の温度を孕んだ瞳が、私を溶かすように見つめてきた。
「野火丸さん、もう、やめてください」
「えー、貴女が言ったんじゃないですかー。舐めとけば治るって」
「それは……」
「おや、治ってないですね。ダメですよー、嘘吐いちゃ」
確かに舐めておけば治るとは言ったけど、本当に治るはずがない。野火丸さんもそれくらいわかってるくせに。何でこんな意地悪なことを言うんだろう。
「……嘘じゃないです。治ってないけど、これくらい平気です」
「貴女は平気でも、僕が平気じゃないんですよ」
聞き覚えのあるその言葉にハッとする。見上げた先の野火丸さんは緩く目を細めて、その顔は笑っているのに、どこか寂しげだった。
「人間は怪物よりずっと脆いんですから。そこんとこ、よーく理解しておいてくださいね」
貴女は忘れっぽいので今からみっちりその身体に叩き込んであげます! と不穏な台詞とともに私を抱き上げた野火丸さんは、もういつもの彼に戻っていた。
「珍しいですね。逃げないなんて」
「逃してくれるんですか?」
「あっはは、そんなわけないでしょう」
「ですよね。でも今日はこのままでいいです。野火丸さんの傍にいたい気分なので」
彼の首に腕を回してその胸に擦り寄る。野火丸さんからの返事はなくて、そこで会話は途切れてしまったけれど、伝わってくる心音が心なしか速くなったように思えたのは、多分気のせいじゃない。
「野火丸さん、怪我してる」
「あー、今日糞お……上司の機嫌が悪かったんですよねー。これくらいほっとけば治るんで大丈夫ですよ」
怪物である野火丸さんは人間の私よりずっと怪我の治りが早いらしい。だからその言葉も嘘ではないのだろう。でも彼を見るたびに視界に入る赤い線が、私はどうしても気になって。
「何してるんです?」
「あ」
気づけばその頬に、ぺたりと持っていた絆創膏を貼り付けていた。しかも寄りにも寄ってネコ柄の、とてもキュートなやつを。やってしまった。けれど、今更どうすることもできない。
「全く、貴女って人は。ほっとけば治るって言ったの、聞いてなかったんですかー?」
野火丸さんは頬杖ついて「お馬鹿さんですねぇ」と笑った。
「だって、痛そうだったし」
「平気です。怪物は人間とは違いますから」
「野火丸さんは平気でも、私が平気じゃないんですよ」
私の言葉に絆創膏を剥がそうとしていた野火丸さんの手がぴたりと止まる。ぱちくりと金色の瞳を瞬かせて、何を言われるのかとドキドキしていたら、目の前で「はぁ」と盛大に溜息を吐かれた。人の顔を見て溜息を吐くなんて失礼にも程がある。
文句の一つでも言ってやろう、そう思ってたのに。野火丸さんが「わかりました」と私をその長い腕と足の中に閉じ込めたから、それもできなくなってしまった。
「仕方ないので、今日はこのままにしといてあげます」
ぎゅうっと抱きしめてぐりぐりと頭を擦りつけてくる野火丸さんは、大人の姿なのに、なんだかとても可愛かった。
***
そんなに痛くなくとも「痛っ」と反射的に声が出てしまう時がある。紙で指先を切ってしまった時なんかがそう。この傷は地味に痛いところが厄介だ。
うっすらと滲む赤をぼんやり見つめていると「どうかしました?」と野火丸さんの声が聞こえてきて、思わず顔を上げた。
そこには当たり前のように野火丸さんがいてびっくりする。さっきまでこの部屋には私しかいなかったのに、一体いつの間に……。
目を丸くする私に「狐は耳がいいんですよー」と彼は自分の耳を指先でつついて見せた。
「そんなことより怪我、見せてください」
「怪我なんて、野火丸さん大げさだなぁ。ちょっと切れただけですよ。これくらい舐めとけば治ります」
私の手を取って切れた指先をまじまじと見ていた野火丸さんが「そうですか」と静かな声で言った。そしてそのまま腰を屈めたと思ったらーーぱくり、と私の指先を口に放り込んだ。
「ちょ、野火丸さん⁈」
熱くてざらりとした舌が私の指先に絡みつく。切れたところがひりりと痛んで、でも、それも最初だけ。執拗に指を舐め上げられてびくりと身体を震わせると、指先に絡む熱と同等、いやそれ以上の温度を孕んだ瞳が、私を溶かすように見つめてきた。
「野火丸さん、もう、やめてください」
「えー、貴女が言ったんじゃないですかー。舐めとけば治るって」
「それは……」
「おや、治ってないですね。ダメですよー、嘘吐いちゃ」
確かに舐めておけば治るとは言ったけど、本当に治るはずがない。野火丸さんもそれくらいわかってるくせに。何でこんな意地悪なことを言うんだろう。
「……嘘じゃないです。治ってないけど、これくらい平気です」
「貴女は平気でも、僕が平気じゃないんですよ」
聞き覚えのあるその言葉にハッとする。見上げた先の野火丸さんは緩く目を細めて、その顔は笑っているのに、どこか寂しげだった。
「人間は怪物よりずっと脆いんですから。そこんとこ、よーく理解しておいてくださいね」
貴女は忘れっぽいので今からみっちりその身体に叩き込んであげます! と不穏な台詞とともに私を抱き上げた野火丸さんは、もういつもの彼に戻っていた。
「珍しいですね。逃げないなんて」
「逃してくれるんですか?」
「あっはは、そんなわけないでしょう」
「ですよね。でも今日はこのままでいいです。野火丸さんの傍にいたい気分なので」
彼の首に腕を回してその胸に擦り寄る。野火丸さんからの返事はなくて、そこで会話は途切れてしまったけれど、伝わってくる心音が心なしか速くなったように思えたのは、多分気のせいじゃない。