棘くんといっしょ
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ベッドの上でごろんと寝返りを打つ。
寮全体がしんとしていて、物音ひとつない、静かな週末だった。
真希ちゃんとパンダくんは任務。一年の子たちは朝早くに出かけて、まだ帰った様子はない。
今高専にいるのは多分、私と棘くんだけだ。
朝、念のため家入先生の診察を受けに行った時、棘くんはまだ医務室のベッドで眠っていた。あの後再び治療を受けて怪我はほとんど治り、痕に残るようなものはないらしい。今は体力回復のため眠っているだけだ、と。それを聞いてやっとひと息つけた気がした。
あれから随分と時間が経って、もう夜だ。棘くんは目を覚ましただろうか。
そんな私の心を見透かしたように、枕元に置いていたスマホがブーブーと震えた。画面に表示されていたのは棘くんの名前で、突然の電話にうっかり落としそうになりながらも、慌てて通話ボタンを押す。
「も、もしもし?」
『こんぶ』
「おはよう。って、夜なんだけどね。身体は大丈夫そう?」
『しゃけ。すじこ、明太子』
「自分の部屋に戻ったんだね。お腹空いたの? でもこの時間だと食堂やってないかも」
『高菜ー』
声だけでもがっくり肩を落とす棘くんが想像できて思わず笑ってしまった。食事が提供される時間帯はとっくに過ぎている。任務などで食べ損ねた人用に自由に使っていい食材も一応あるにはあるのだけど。
「よかったら、私作ろうか?」
「いくら⁈」
「簡単なものしか作れないけど、それでもいいなら」
「しゃけ!」
「食べたいものとかある?」
できるかどうかは食材の有無によるけれど、折角なら棘くんの食べたいものを作ってあげたかった。私の質問に棘くんは電話の向こうでしばらく考えて、
「塩むすび」
「しおむすび?」
別の意図を含んだものではなく、言葉通りのその単語に、私はつい聞き返してしまった。
***
棘くんのリクエストである『塩むすび』を持って、私は彼の部屋を訪れていた。出迎えてくれた棘くんはスウェット姿で、頭に巻かれていた包帯も今はなく、昨日の怪我が嘘みたいだ。
「すじこー」
「お邪魔します」
適当な所に腰を下ろし、テーブルに持ってきた塩むすびを置く。ついでに余っていた食材で作ったお味噌汁のポットも。
「いくら?」
その様子を見ていた棘くんが、待ちきれない子どものように目をキラキラさせて「食べていい?」と訊いてきた。私が頷くと「こんぶ」と手を合わせ、すぐに近くにあった塩むすびに手を伸ばす。もぐもぐと口いっぱいに頬張る姿がリスみたいだ。
「誰も取らないから慌てなくて大丈夫だよ」
「高菜」
「味はどう? おいしい?」
「しゃけしゃけ」
男の子がどれくらいの量を食べるのかわからなくて、足りないよりはいいだろうと多めに作ってきたけれど、いっぱいあった塩むすびはあっという間に棘くんの口に吸い込まれていった。一体あの身体のどこに入っているのか。不思議だなと思うと同時に、あれだけ食べているのに太らないのが羨ましい。
塩むすびもお味噌汁も、全部ぺろりと平らげて、棘くんは満足そうにご馳走さまでしたと手を合わせた。
「お粗末様でした」
こんなに綺麗に食べてもらえると、作った側も嬉しいもので。でも、もっと欲張ってくれてもよかったのに、とも思う。
「本当に塩むすびなんかでよかったの?」
「しゃけ」
「ならいいけど。私に気を遣わずに、食べたいもの言ってくれてよかったんだよ」
「こんぶ?」
いいの? と棘くんが訊ねる。やっぱり私に気を遣ってくれてたんだ。その優しさはありがたいけれど、気を遣われすぎるのはどうにも居心地が悪かった。
「本当は何が食べたかったの?」
私の問いかけに、棘くんは無言で指を差す。
彼の人差し指の先にいるのは、私。
「え」
「……おかか?」
嫌? と訊きながら、棘くんが距離を詰めてくる。私を見つめる彼の目は妙に熱っぽくて、触れていないのに溶かされるような心地がした。
「嫌じゃ、ないよ」
棘くんとなら、嫌じゃない。
そう答えると、ゆっくりと彼の顔が近づいてきて、食べられるようにキスされた。
寮全体がしんとしていて、物音ひとつない、静かな週末だった。
真希ちゃんとパンダくんは任務。一年の子たちは朝早くに出かけて、まだ帰った様子はない。
今高専にいるのは多分、私と棘くんだけだ。
朝、念のため家入先生の診察を受けに行った時、棘くんはまだ医務室のベッドで眠っていた。あの後再び治療を受けて怪我はほとんど治り、痕に残るようなものはないらしい。今は体力回復のため眠っているだけだ、と。それを聞いてやっとひと息つけた気がした。
あれから随分と時間が経って、もう夜だ。棘くんは目を覚ましただろうか。
そんな私の心を見透かしたように、枕元に置いていたスマホがブーブーと震えた。画面に表示されていたのは棘くんの名前で、突然の電話にうっかり落としそうになりながらも、慌てて通話ボタンを押す。
「も、もしもし?」
『こんぶ』
「おはよう。って、夜なんだけどね。身体は大丈夫そう?」
『しゃけ。すじこ、明太子』
「自分の部屋に戻ったんだね。お腹空いたの? でもこの時間だと食堂やってないかも」
『高菜ー』
声だけでもがっくり肩を落とす棘くんが想像できて思わず笑ってしまった。食事が提供される時間帯はとっくに過ぎている。任務などで食べ損ねた人用に自由に使っていい食材も一応あるにはあるのだけど。
「よかったら、私作ろうか?」
「いくら⁈」
「簡単なものしか作れないけど、それでもいいなら」
「しゃけ!」
「食べたいものとかある?」
できるかどうかは食材の有無によるけれど、折角なら棘くんの食べたいものを作ってあげたかった。私の質問に棘くんは電話の向こうでしばらく考えて、
「塩むすび」
「しおむすび?」
別の意図を含んだものではなく、言葉通りのその単語に、私はつい聞き返してしまった。
***
棘くんのリクエストである『塩むすび』を持って、私は彼の部屋を訪れていた。出迎えてくれた棘くんはスウェット姿で、頭に巻かれていた包帯も今はなく、昨日の怪我が嘘みたいだ。
「すじこー」
「お邪魔します」
適当な所に腰を下ろし、テーブルに持ってきた塩むすびを置く。ついでに余っていた食材で作ったお味噌汁のポットも。
「いくら?」
その様子を見ていた棘くんが、待ちきれない子どものように目をキラキラさせて「食べていい?」と訊いてきた。私が頷くと「こんぶ」と手を合わせ、すぐに近くにあった塩むすびに手を伸ばす。もぐもぐと口いっぱいに頬張る姿がリスみたいだ。
「誰も取らないから慌てなくて大丈夫だよ」
「高菜」
「味はどう? おいしい?」
「しゃけしゃけ」
男の子がどれくらいの量を食べるのかわからなくて、足りないよりはいいだろうと多めに作ってきたけれど、いっぱいあった塩むすびはあっという間に棘くんの口に吸い込まれていった。一体あの身体のどこに入っているのか。不思議だなと思うと同時に、あれだけ食べているのに太らないのが羨ましい。
塩むすびもお味噌汁も、全部ぺろりと平らげて、棘くんは満足そうにご馳走さまでしたと手を合わせた。
「お粗末様でした」
こんなに綺麗に食べてもらえると、作った側も嬉しいもので。でも、もっと欲張ってくれてもよかったのに、とも思う。
「本当に塩むすびなんかでよかったの?」
「しゃけ」
「ならいいけど。私に気を遣わずに、食べたいもの言ってくれてよかったんだよ」
「こんぶ?」
いいの? と棘くんが訊ねる。やっぱり私に気を遣ってくれてたんだ。その優しさはありがたいけれど、気を遣われすぎるのはどうにも居心地が悪かった。
「本当は何が食べたかったの?」
私の問いかけに、棘くんは無言で指を差す。
彼の人差し指の先にいるのは、私。
「え」
「……おかか?」
嫌? と訊きながら、棘くんが距離を詰めてくる。私を見つめる彼の目は妙に熱っぽくて、触れていないのに溶かされるような心地がした。
「嫌じゃ、ないよ」
棘くんとなら、嫌じゃない。
そう答えると、ゆっくりと彼の顔が近づいてきて、食べられるようにキスされた。