灰島重工
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「いい加減教えてくださいよ」
「あら、何をかしら?」
「先輩の名前」
「私は天使のお姉さんよ」
このやり取りももう何度目かわからない。
最初は確か新人研修の時。「私のことは天使のお姉さんと呼んで」私の教育係になったその人は自己紹介でそう言い放った。
子どもたちの前ならそれもわかる。教育番組に出てくる大人は歌のお姉さんや体操のお兄さんと呼称されるし、その方が子どもたちも覚えやすいのだろう。でも私は大人である。歴とした社会人である。
「あの、本名は?」
「言う必要あるかしら? あなたは天使のお姉さんと呼べばいいの。それに万が一あなたが私の名前を呼んで、子どもたちが真似たらどうするの?」
どうしよう? 困りはしないと思うけど、子どもは真似したがりだから『天使のお姉さん』とは呼ばなくなるかもしれない。先輩はそれが嫌なのか。
でも隠されれば隠されるほど知りたくなるのが人間というもので。名を呼ぶことは許されずとも知るだけならいいだろうと、私はありとあらゆる手段を使って調べた。けれど結果は惨敗。誰が許可したのか社員証など記名のあるものはすべて『天使のお姉さん』名で徹底されていて、先輩の同期や上司に訊いても誰も先輩の本名を知らなかった。頼みの綱はあとーー。
「あいつの名前?」
「はい。黒野主任ならご存知かなと」
「知らんな。興味がない」
「……ですよね」
もしかしたら、という淡い期待は見事霧散した。そんな気はしてましたとも。
同じ部署だけどこの人はきっと私の名前も顔も覚えてはいないだろう。機嫌の良い時を見計らって話しかけたから、運良くいたぶられずに済んでいるだけだ。用は済んだ。主任の気が変わらないうちにここを離れなければ。
「それにしても何であいつはお姉さんなんだ? 俺はおじさんだというのに」
くるくると包帯を巻きながら黒野主任が真面目な顔で言った。本当に真面目に不思議そうな顔をしている。
「黒野主任、それ先輩には絶対言わないでくださいね」
女性には色々あるんです。色々。
「あら、何をかしら?」
「先輩の名前」
「私は天使のお姉さんよ」
このやり取りももう何度目かわからない。
最初は確か新人研修の時。「私のことは天使のお姉さんと呼んで」私の教育係になったその人は自己紹介でそう言い放った。
子どもたちの前ならそれもわかる。教育番組に出てくる大人は歌のお姉さんや体操のお兄さんと呼称されるし、その方が子どもたちも覚えやすいのだろう。でも私は大人である。歴とした社会人である。
「あの、本名は?」
「言う必要あるかしら? あなたは天使のお姉さんと呼べばいいの。それに万が一あなたが私の名前を呼んで、子どもたちが真似たらどうするの?」
どうしよう? 困りはしないと思うけど、子どもは真似したがりだから『天使のお姉さん』とは呼ばなくなるかもしれない。先輩はそれが嫌なのか。
でも隠されれば隠されるほど知りたくなるのが人間というもので。名を呼ぶことは許されずとも知るだけならいいだろうと、私はありとあらゆる手段を使って調べた。けれど結果は惨敗。誰が許可したのか社員証など記名のあるものはすべて『天使のお姉さん』名で徹底されていて、先輩の同期や上司に訊いても誰も先輩の本名を知らなかった。頼みの綱はあとーー。
「あいつの名前?」
「はい。黒野主任ならご存知かなと」
「知らんな。興味がない」
「……ですよね」
もしかしたら、という淡い期待は見事霧散した。そんな気はしてましたとも。
同じ部署だけどこの人はきっと私の名前も顔も覚えてはいないだろう。機嫌の良い時を見計らって話しかけたから、運良くいたぶられずに済んでいるだけだ。用は済んだ。主任の気が変わらないうちにここを離れなければ。
「それにしても何であいつはお姉さんなんだ? 俺はおじさんだというのに」
くるくると包帯を巻きながら黒野主任が真面目な顔で言った。本当に真面目に不思議そうな顔をしている。
「黒野主任、それ先輩には絶対言わないでくださいね」
女性には色々あるんです。色々。