灰島重工
夢小説設定
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なぁ、と強請るような声色は妙に熱っぽかった。
「どうして名前を呼んでくれないんだ」
「さっきから呼んでますよ。返事をしないのは貴方のほうです」
「じゃあもう一度呼んでくれ」
「大黒部長」
「それは名前じゃない」
大黒部長をちゃんと大黒部長と呼んでいるのに、そんな風に言われてはもう何もできない。お手上げとばかりに押し黙っているとさっきより熱を含んだ声で名を呼ばれた。名字ではなく名前の方だ。じっと黙り続けているとまた呼ばれて仕方なく「はい」と小さく返事をする。部長は満足そうだ。
「俺も君に呼んで欲しいんだが」
「……」
「恥ずかしがることはない。恋人同士なら普通のことだ」
確かにその通りだ。恋人同士なら。
でも私は他部署の一事務員で、部長とは仕事以上の関わりはなくて、正直に言うと名字しか知らない。
それをそのまま伝えると大黒部長は嫌な顔を一つせず、笑みをより深くして私の耳元に顔を寄せた。
触れそうな程の距離で、低く、熱く。鼓膜を震わせたのがその人の名前だと気付いたのは、離れた彼が「さあ、呼んでくれ」と催促してきたからだ。呼べるわけがない。
「恋人じゃないからか?」
「そうですね」
断れるなら何でもいい。そういうことにしておこう。
「なら問題ない。どうせ俺たちは遅かれ早かれ恋人になるんだからな」
初耳である。貴方の人生設計に勝手に私を組み込まないで欲しい。
ちらりと時計を見ると定時まであと少し。大黒部長に印鑑をもらいに来ただけだったのにこんなことになるなんて。そしてこんなことのために残業なんてごめんだ。
私は諦めてついさっき知った部長の名前を呼んだ。
「押印お願いしますね」
「ああ……! 君の頼みならいくらでも押そうじゃないか」
「一箇所で大丈夫です」
もっと早くこうしとけばよかった。無事押印してもらい書類を受け取ろうとしたら、いくら引っ張っても部長の手から離れない。
「あの、」
「もう一度呼んでくれないか」
「お断りします」
「どうして名前を呼んでくれないんだ」
「さっきから呼んでますよ。返事をしないのは貴方のほうです」
「じゃあもう一度呼んでくれ」
「大黒部長」
「それは名前じゃない」
大黒部長をちゃんと大黒部長と呼んでいるのに、そんな風に言われてはもう何もできない。お手上げとばかりに押し黙っているとさっきより熱を含んだ声で名を呼ばれた。名字ではなく名前の方だ。じっと黙り続けているとまた呼ばれて仕方なく「はい」と小さく返事をする。部長は満足そうだ。
「俺も君に呼んで欲しいんだが」
「……」
「恥ずかしがることはない。恋人同士なら普通のことだ」
確かにその通りだ。恋人同士なら。
でも私は他部署の一事務員で、部長とは仕事以上の関わりはなくて、正直に言うと名字しか知らない。
それをそのまま伝えると大黒部長は嫌な顔を一つせず、笑みをより深くして私の耳元に顔を寄せた。
触れそうな程の距離で、低く、熱く。鼓膜を震わせたのがその人の名前だと気付いたのは、離れた彼が「さあ、呼んでくれ」と催促してきたからだ。呼べるわけがない。
「恋人じゃないからか?」
「そうですね」
断れるなら何でもいい。そういうことにしておこう。
「なら問題ない。どうせ俺たちは遅かれ早かれ恋人になるんだからな」
初耳である。貴方の人生設計に勝手に私を組み込まないで欲しい。
ちらりと時計を見ると定時まであと少し。大黒部長に印鑑をもらいに来ただけだったのにこんなことになるなんて。そしてこんなことのために残業なんてごめんだ。
私は諦めてついさっき知った部長の名前を呼んだ。
「押印お願いしますね」
「ああ……! 君の頼みならいくらでも押そうじゃないか」
「一箇所で大丈夫です」
もっと早くこうしとけばよかった。無事押印してもらい書類を受け取ろうとしたら、いくら引っ張っても部長の手から離れない。
「あの、」
「もう一度呼んでくれないか」
「お断りします」