ヴィクトル・リヒト
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細くて長い指が耳を掠めて、その冷たさに思わず身動ぐ。苦言を呈するも先輩はうっとりとした表情を浮かべるばかりで耳を傾ける気はなさそうだ。
「ふふ、かわいい」
触れる指先も、向けられる視線も、注がれる声も。正直全部嬉しいけれど、その言葉だけは頂けない。
*
「……もふもふが足りない」
パソコン越しに聞こえた呟きにもうそんな時間かと壁に掛けられた時計を見る。時計の針は二時を少し過ぎたあたりを指していて、勿論お昼ではなく深夜である。
「もふもふが足りないと思わないか、リヒト」
「思わないっすね」
「リヒト」
「嫌ですよ」
「後生だから!」
先輩のこの台詞を今まで何度聞いてきたことだろう。惚れた弱みというやつか、僕もつい聞き入れてしまうのだけど。
「……ちょっとだけっすからね」
僕の言葉に先輩の顔がぱぁっと明るくなる。すごく。すごく可愛い。普段表情が乏しい分、時折見せる笑顔の破壊力は凄まじく、僕は両目をぎゅっと閉じ耐えるように唇を噛んだ。
一方そんな僕の状態異常を知りもしない先輩は三徹目とは思えない足取りで鼻歌まじりに隣へとやって来た。わざわざ椅子まで引っ張ってきて、これは確実に『ちょっと』で済まない。
「ではでは」
先輩が気合いを入れ直すように腕まくりをした。白衣からほっそりとした腕が顔を出す。わきわきと妖しく指が動き、
「もふらせて頂きます」
先輩の指がゆっくりと近付いてくる。上から順に、左右、下の方、余すことなくもふられ撫でられる。くすぐったい。触れられている場所よりも、胸の奥が。
先輩は見た目に反し、もふもふしたものが大好きな人だ。研究が行き詰まったり徹夜が続くといつもこうなる。「ネコスイタイ、モフモフシタイ」この呪文が聞こえてきたら末期症状。研究に支障が出始める。けれど研究室で動物を飼うわけにもいかずどうしたものかと思っていたところ、
「リヒト、試しにちょっともふらせてくれないか?」
「はい?」
勿論何度も断った。でも先輩も諦めなかった。結果、好きな人に上目遣いで(僕の方が身長が高いので当然といえば当然だが)お願いされ続けた僕が折れた。まあ一回くらいならいいだろうと。まさかこんなに気に入られるとは思ってなかったけれど。
「相変わらず良いもふもふだ。ふふ、かわいい」
こういう形であっても先輩に触れられるのを嬉しく思ってしまう僕がいる。だけど年頃の女性はそう易々と大人の男に触れないものだろう。つまるところ、僕は先輩に男として見られていないのだ。わかってはいたけれど『かわいい』と言われるたびに相手にされていないのだと思い知らされるようで、胃の辺りがむかむかする。かわいいと言われて喜ぶ男はいない、まさしくその通りだ。
「ふう、ありがとうリヒト。もう充分だ」
長い長い『ちょっと』を堪能した先輩は満足そうな顔をして僕に礼を言った。
するりと僕の頭から先輩の手が離れていく。その手を片方だけ摑まえると、先輩が不思議そうに僕を見つめた。
ずっと思ってたんだ、先輩だけずるいって。
先輩がもふもふがないとやってられないのと同じように、僕だって何もなしではやってられない。だからーー。
掴んだ先輩の手のひらに頬ずりをして唇を寄せる。わざとらしくリップ音を立てると、ガタリと先輩の椅子が大きく揺れた。
「リっ、ひと……⁈」
あーあ、真っ赤になっちゃって。本当に、
「可愛いですね、先輩」
「ふふ、かわいい」
触れる指先も、向けられる視線も、注がれる声も。正直全部嬉しいけれど、その言葉だけは頂けない。
*
「……もふもふが足りない」
パソコン越しに聞こえた呟きにもうそんな時間かと壁に掛けられた時計を見る。時計の針は二時を少し過ぎたあたりを指していて、勿論お昼ではなく深夜である。
「もふもふが足りないと思わないか、リヒト」
「思わないっすね」
「リヒト」
「嫌ですよ」
「後生だから!」
先輩のこの台詞を今まで何度聞いてきたことだろう。惚れた弱みというやつか、僕もつい聞き入れてしまうのだけど。
「……ちょっとだけっすからね」
僕の言葉に先輩の顔がぱぁっと明るくなる。すごく。すごく可愛い。普段表情が乏しい分、時折見せる笑顔の破壊力は凄まじく、僕は両目をぎゅっと閉じ耐えるように唇を噛んだ。
一方そんな僕の状態異常を知りもしない先輩は三徹目とは思えない足取りで鼻歌まじりに隣へとやって来た。わざわざ椅子まで引っ張ってきて、これは確実に『ちょっと』で済まない。
「ではでは」
先輩が気合いを入れ直すように腕まくりをした。白衣からほっそりとした腕が顔を出す。わきわきと妖しく指が動き、
「もふらせて頂きます」
先輩の指がゆっくりと近付いてくる。上から順に、左右、下の方、余すことなくもふられ撫でられる。くすぐったい。触れられている場所よりも、胸の奥が。
先輩は見た目に反し、もふもふしたものが大好きな人だ。研究が行き詰まったり徹夜が続くといつもこうなる。「ネコスイタイ、モフモフシタイ」この呪文が聞こえてきたら末期症状。研究に支障が出始める。けれど研究室で動物を飼うわけにもいかずどうしたものかと思っていたところ、
「リヒト、試しにちょっともふらせてくれないか?」
「はい?」
勿論何度も断った。でも先輩も諦めなかった。結果、好きな人に上目遣いで(僕の方が身長が高いので当然といえば当然だが)お願いされ続けた僕が折れた。まあ一回くらいならいいだろうと。まさかこんなに気に入られるとは思ってなかったけれど。
「相変わらず良いもふもふだ。ふふ、かわいい」
こういう形であっても先輩に触れられるのを嬉しく思ってしまう僕がいる。だけど年頃の女性はそう易々と大人の男に触れないものだろう。つまるところ、僕は先輩に男として見られていないのだ。わかってはいたけれど『かわいい』と言われるたびに相手にされていないのだと思い知らされるようで、胃の辺りがむかむかする。かわいいと言われて喜ぶ男はいない、まさしくその通りだ。
「ふう、ありがとうリヒト。もう充分だ」
長い長い『ちょっと』を堪能した先輩は満足そうな顔をして僕に礼を言った。
するりと僕の頭から先輩の手が離れていく。その手を片方だけ摑まえると、先輩が不思議そうに僕を見つめた。
ずっと思ってたんだ、先輩だけずるいって。
先輩がもふもふがないとやってられないのと同じように、僕だって何もなしではやってられない。だからーー。
掴んだ先輩の手のひらに頬ずりをして唇を寄せる。わざとらしくリップ音を立てると、ガタリと先輩の椅子が大きく揺れた。
「リっ、ひと……⁈」
あーあ、真っ赤になっちゃって。本当に、
「可愛いですね、先輩」