アーサー・ボイル
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「もしかしたら、風邪をひいたかもしれない」
「……えっ?!」
同期の申告に私は大袈裟なくらい驚いてしまった。だってアーサーが風邪をひいたところなんて一度も見たことがなかったから。訓練校時代からの付き合いだけど、彼はシンラ共々丈夫で、何なら私のほうが風邪で訓練を休むことが多かったくらいだ。
だからアーサーが風邪なんて俄かに信じがたいのだけど。
「ちょっとごめんね」
私は片手を自身の額に当て、もう片方をアーサーの額へと伸ばした。彼は髪を頭のてっぺんで括っているから測りやすくて助かる。手のひらが形の良い額に触れると、アーサーはぴくりと肩を揺らした。無能力者の私の体温は彼に比べて低いから驚かせてしまったのかもしれない。
熱は……どうだろう? 私よりずっと高いけど、能力者はこれくらいが平熱な気もする。夏だし連日暑い日が続いてるから、もしかしたらそれにやられたのかも。
とりあえず水分を摂らせて、身体を冷やして。まだ暑がるようなら病院に連れて行ったほうがいいかもしれない。上司にも確認を取らないと。
頭の中でやるべきことを順序立てて、アーサーの額から手を離す。しかし、私の手はすぐに引き戻されてしまった。見ればアーサーがじっと目を閉じて、私の手のひらに頬を寄せている。
「ア、アーサー?」
「お前の手は冷たくて気持ちいいな」
ゆっくりと持ち上がる瞼、そしてそこから覗く青い瞳は熱っぽく潤んで私を映していた。その表情に思わずドキリとしてしまったけれど、本人はそれどころじゃないだろう。何だかさっきより顔も赤いし、苦しそうだ。風邪だとしたら熱が上がってきたのかもしれない。
「大丈夫、アーサー?」
「わからない。ずっとこうなんだ。最近は特にひどい」
「ずっと? そんな、いつから……」
「訓練校時代からだな」
まさかそんな前から体調が悪かっただなんて。一緒にいたのに今まで全然気づいてあげられなかった。
「言ってくれれば、よかったのに」
私はぎゅっと片手を握りしめた。私に何ができるわけでもないけれど、相談くらいしてほしかったと思うのは傲慢だろうか。でも言ってくれれば、病院に行くなり教官や上司に相談するなり、もっと早く対応できたはずだ。
もしアーサーが大きな病気だったらーー。そんな嫌な考えが頭をよぎる。
「そんな顔をするな。いつもこうってわけじゃない」
「でも……」
「問題ない。心臓が痛くなって、苦しくて、急激に熱が上がるだけだ」
それはかなり重症なのでは。私の知ってる風邪の症状とかけ離れてるし。
「だが、できれば治したいと思っている」
「ならすぐにでも病院に行こう! 第6の黄大隊長ならきっと治してくれるよ」
「だといいんだが。お前と会うたびにこうなるから困ってたんだ。うつすといけないからな」
「え?」
今、なんて? ぱちぱちと瞬きをする私に、アーサーが不思議そうに首を傾げた。
「言ってなかったか? この症状が出るのは決まってお前といる時だけだ」
脈が速くなって、心臓がぎゅっと締め付けられて、全身が熱くなるのだと、アーサーは症状をこと細かに語った。
「もしかして、どんな病気か知ってるのか?!」
「ええっと……」
知っている、かもしれない。断言はできないけれどアーサーのそれは、恐らく大災害前から今に至るまで、多くの人々がわずらってきたものだ。
そしてそれが、私といる時だけ起こるということはーー。
「どうした? 顔が赤いぞ」
黙り込む私を心配するようにアーサーが顔を覗き込んできた。その距離が近くて、いや今までは気にもしてなかったけれど、意識してしまえば顔に熱が集中するのは当然で。
「はっ、もしや風邪をうつしてしまったか?!」
「ちがっ……いや、そう! 風邪ひいたかも! ちょっと私、部屋で休んでくるね!」
心配そうな表情を浮かべるアーサーに心の内でごめんと謝りながら、私はその場から逃げ出した。
古くから多くの人々がわずらってきた、未だ特効薬のない病。まさかその『恋煩い』が、人から人へうつるものだったなんて。どうして誰も教えてくれなかったのだろう。
私は逸る心臓を押さえながら大きく深呼吸をした。
次からどんな顔でアーサーに会えばいいのだろう。
考えても考えても答えは出なくて、それどころか一層顔が熱くなった気がした。
「……えっ?!」
同期の申告に私は大袈裟なくらい驚いてしまった。だってアーサーが風邪をひいたところなんて一度も見たことがなかったから。訓練校時代からの付き合いだけど、彼はシンラ共々丈夫で、何なら私のほうが風邪で訓練を休むことが多かったくらいだ。
だからアーサーが風邪なんて俄かに信じがたいのだけど。
「ちょっとごめんね」
私は片手を自身の額に当て、もう片方をアーサーの額へと伸ばした。彼は髪を頭のてっぺんで括っているから測りやすくて助かる。手のひらが形の良い額に触れると、アーサーはぴくりと肩を揺らした。無能力者の私の体温は彼に比べて低いから驚かせてしまったのかもしれない。
熱は……どうだろう? 私よりずっと高いけど、能力者はこれくらいが平熱な気もする。夏だし連日暑い日が続いてるから、もしかしたらそれにやられたのかも。
とりあえず水分を摂らせて、身体を冷やして。まだ暑がるようなら病院に連れて行ったほうがいいかもしれない。上司にも確認を取らないと。
頭の中でやるべきことを順序立てて、アーサーの額から手を離す。しかし、私の手はすぐに引き戻されてしまった。見ればアーサーがじっと目を閉じて、私の手のひらに頬を寄せている。
「ア、アーサー?」
「お前の手は冷たくて気持ちいいな」
ゆっくりと持ち上がる瞼、そしてそこから覗く青い瞳は熱っぽく潤んで私を映していた。その表情に思わずドキリとしてしまったけれど、本人はそれどころじゃないだろう。何だかさっきより顔も赤いし、苦しそうだ。風邪だとしたら熱が上がってきたのかもしれない。
「大丈夫、アーサー?」
「わからない。ずっとこうなんだ。最近は特にひどい」
「ずっと? そんな、いつから……」
「訓練校時代からだな」
まさかそんな前から体調が悪かっただなんて。一緒にいたのに今まで全然気づいてあげられなかった。
「言ってくれれば、よかったのに」
私はぎゅっと片手を握りしめた。私に何ができるわけでもないけれど、相談くらいしてほしかったと思うのは傲慢だろうか。でも言ってくれれば、病院に行くなり教官や上司に相談するなり、もっと早く対応できたはずだ。
もしアーサーが大きな病気だったらーー。そんな嫌な考えが頭をよぎる。
「そんな顔をするな。いつもこうってわけじゃない」
「でも……」
「問題ない。心臓が痛くなって、苦しくて、急激に熱が上がるだけだ」
それはかなり重症なのでは。私の知ってる風邪の症状とかけ離れてるし。
「だが、できれば治したいと思っている」
「ならすぐにでも病院に行こう! 第6の黄大隊長ならきっと治してくれるよ」
「だといいんだが。お前と会うたびにこうなるから困ってたんだ。うつすといけないからな」
「え?」
今、なんて? ぱちぱちと瞬きをする私に、アーサーが不思議そうに首を傾げた。
「言ってなかったか? この症状が出るのは決まってお前といる時だけだ」
脈が速くなって、心臓がぎゅっと締め付けられて、全身が熱くなるのだと、アーサーは症状をこと細かに語った。
「もしかして、どんな病気か知ってるのか?!」
「ええっと……」
知っている、かもしれない。断言はできないけれどアーサーのそれは、恐らく大災害前から今に至るまで、多くの人々がわずらってきたものだ。
そしてそれが、私といる時だけ起こるということはーー。
「どうした? 顔が赤いぞ」
黙り込む私を心配するようにアーサーが顔を覗き込んできた。その距離が近くて、いや今までは気にもしてなかったけれど、意識してしまえば顔に熱が集中するのは当然で。
「はっ、もしや風邪をうつしてしまったか?!」
「ちがっ……いや、そう! 風邪ひいたかも! ちょっと私、部屋で休んでくるね!」
心配そうな表情を浮かべるアーサーに心の内でごめんと謝りながら、私はその場から逃げ出した。
古くから多くの人々がわずらってきた、未だ特効薬のない病。まさかその『恋煩い』が、人から人へうつるものだったなんて。どうして誰も教えてくれなかったのだろう。
私は逸る心臓を押さえながら大きく深呼吸をした。
次からどんな顔でアーサーに会えばいいのだろう。
考えても考えても答えは出なくて、それどころか一層顔が熱くなった気がした。
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