アーサー・ボイル
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とすんと隣に落ち着く気配を感じた。誰が来たかなんてわかりきっている。私は抱える両膝に顔を埋めながら、追い払うように剥き出しの苛立ちをぶつけた。
「私、ほっといてって言ったよね」
「そうだったか?」
「一人になりたいの」
「フッ、俺も夜風に当たりに来ただけだ。気にしないでくれ」
だったらもっと離れたところに座ればいいのに。
場所を移動しようか迷って、やめた。先に座っていた私が譲る必要はない。なんなら向こうが根を上げるまで居座ってやる。
私は両膝を抱える力を一層強めた。
両膝の隙間から少しひび割れた冷たいコンクリートの地面が覗いている。人々の賑わいも、車の行き交いも夜の屋上には届かない。夜風だけが、ぽつぽつと音を運ぶ。
シンラと言い合いになっただとか、お昼のフレンチが美味しかっただとか(ナポリタンだった)、グリフォンの群れを見ただとか、内容はどれも取り留めのないものばかり。
誰に向けられたわけでもない独り言は、私が鼻をすする音と一緒に夜空に吸い込まれていく。
「今日の月は美しいな。星もよく見える」
何もかもが煩わしかったはずなのに彼の声だけが耳に馴染む。
「おお、流れ星だ! ほらまた」
「うそ……」
釣られて見上げた空は分厚い雲に覆われていて、月どころか星ひとつ見えやしない。
「アーサー」
責めるように睨めつけると、彼の手のひらが私の頬の、すっかり乾いた跡に触れた。
「やっと顔を上げたな」
よくも騙したなと怒るつもりだったのに、細められた青い夜空には確かに星が瞬いていて、何も言えなくなってしまう。
「キッチンにホットココアを用意してある。冷めないうちに戻ろう」
私は戻るなんてひとことも言っていない。それでもアーサーは当然のように跪いて手を差し出した。
「お手をどうぞ、姫」
躊躇いがちに重ねるとゆっくりと引き寄せられて、独りぼっちの要塞が音を立てて崩れ落ちていく。
弱音なんて誰にも見せたくなくて一人で閉じこもっていたのに、君はいつも、いとも簡単に壊してしまう。
「敵わないな」
どれだけ強固な要塞を築き上げようと、きっと同じことなのだろう。
私はぽつりと零した敗北宣言を見えない要塞の残骸に置いて、ひとりの夜にサヨナラをした。
「私、ほっといてって言ったよね」
「そうだったか?」
「一人になりたいの」
「フッ、俺も夜風に当たりに来ただけだ。気にしないでくれ」
だったらもっと離れたところに座ればいいのに。
場所を移動しようか迷って、やめた。先に座っていた私が譲る必要はない。なんなら向こうが根を上げるまで居座ってやる。
私は両膝を抱える力を一層強めた。
両膝の隙間から少しひび割れた冷たいコンクリートの地面が覗いている。人々の賑わいも、車の行き交いも夜の屋上には届かない。夜風だけが、ぽつぽつと音を運ぶ。
シンラと言い合いになっただとか、お昼のフレンチが美味しかっただとか(ナポリタンだった)、グリフォンの群れを見ただとか、内容はどれも取り留めのないものばかり。
誰に向けられたわけでもない独り言は、私が鼻をすする音と一緒に夜空に吸い込まれていく。
「今日の月は美しいな。星もよく見える」
何もかもが煩わしかったはずなのに彼の声だけが耳に馴染む。
「おお、流れ星だ! ほらまた」
「うそ……」
釣られて見上げた空は分厚い雲に覆われていて、月どころか星ひとつ見えやしない。
「アーサー」
責めるように睨めつけると、彼の手のひらが私の頬の、すっかり乾いた跡に触れた。
「やっと顔を上げたな」
よくも騙したなと怒るつもりだったのに、細められた青い夜空には確かに星が瞬いていて、何も言えなくなってしまう。
「キッチンにホットココアを用意してある。冷めないうちに戻ろう」
私は戻るなんてひとことも言っていない。それでもアーサーは当然のように跪いて手を差し出した。
「お手をどうぞ、姫」
躊躇いがちに重ねるとゆっくりと引き寄せられて、独りぼっちの要塞が音を立てて崩れ落ちていく。
弱音なんて誰にも見せたくなくて一人で閉じこもっていたのに、君はいつも、いとも簡単に壊してしまう。
「敵わないな」
どれだけ強固な要塞を築き上げようと、きっと同じことなのだろう。
私はぽつりと零した敗北宣言を見えない要塞の残骸に置いて、ひとりの夜にサヨナラをした。