ジョーカー ・52
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「はぁ、つっかれたー」
ぐっと両手を伸ばして仰け反れば、安物の椅子がこっちの台詞だと言わんばかりに喚き声を上げた。
会社の方針で在宅勤務を強いられ早数か月。嫌いな上司と顔を合わせなくて済むものの、整っていない勤務環境の中では仕事も思うようには進んでくれない。今日も一日のほとんどをパソコンの前で過ごし、あと数分で日付も変わりそうだ。
寝たい。けれど、まだ今日のノルマが残っている。
もう一踏ん張りと手近にあったエナジードリンクを傾けるも、落ちてきたのは数滴ばかり。机の上に立ち並ぶ缶をいくつか持ち上げてみたが、どれも同じ軽さでいつの間にかすべて飲みきってしまったらしい。
なければないで頑張るしかない。だがこのまま回らない頭で仕事をしても作業効率が落ちるだけだ。できれば何かしら糖分補給はしておきたい。
ああ、そういえば。在宅勤務になってよかったことがもうひとつあったのだった。
「ねえ、何か甘いもの持ってない?」
私の呼びかけに、ベランダで一服していたジョーカーが振り向く。
ふらりと予告なく現れる彼とは数か月に一度会えればいいほうだった。けれど、ここ最近はしょっちゅう顔を合わせている気がする。
たまたまタイミングが合っただけだとしても、一緒に過ごせる時間が前より増えたのは正直嬉しい。
「甘いもん?」
「うん、飴とかチョコとか」
「あー、あるぜ」
暗闇にぽつりと灯っていた火が消えて、湿った空気と煙草の匂いを纏わせたジョーカーが部屋に入ってくる。
「ほれ、口開けろ」
言われたとおりにすると、彼の唇が綺麗な弧を描くのが見えた。直後に口に広がったのは予想していた甘さとはかけ離れていて、思わず眉間に皺が寄る。
「……苦い」
「俺は甘かったけどなァ」
くつくつとジョーカーは楽しげに笑っていた。煙草を吸わない私にはただただ苦いだけで、彼の言う『甘さ』はわからない。
甘いものは諦めて仕事を再開しようと顔を戻すと、耳に柔らかいものが触れた。しばらく無視していたものの、軽く歯を立てられてびくりと肩が跳ね上がる。
「ジョーカー、私まだ仕事が……っ」
また彼の苦い味がした。煙草の匂いも独特な苦味も好きじゃなかったはずなのに、もっともっと欲しくなる。縋るように彼の背中に手を回すと、わざとらしくリップ音を残して離れていくのだから意地が悪い。
「お望みどおり、甘かっただろ?」
苦いか甘いかなんて、もうよくわからない。
でも頭がぼうっとするのは、きっと、まだ。
「全然足りない」
その言葉に満足したのか、ジョーカーは甘やかなキスを落として私を抱き上げた。
仕事はどうせ手につかない。
今日終わらなかった分は、明日の私が頑張ってくれることだろう。
ぐっと両手を伸ばして仰け反れば、安物の椅子がこっちの台詞だと言わんばかりに喚き声を上げた。
会社の方針で在宅勤務を強いられ早数か月。嫌いな上司と顔を合わせなくて済むものの、整っていない勤務環境の中では仕事も思うようには進んでくれない。今日も一日のほとんどをパソコンの前で過ごし、あと数分で日付も変わりそうだ。
寝たい。けれど、まだ今日のノルマが残っている。
もう一踏ん張りと手近にあったエナジードリンクを傾けるも、落ちてきたのは数滴ばかり。机の上に立ち並ぶ缶をいくつか持ち上げてみたが、どれも同じ軽さでいつの間にかすべて飲みきってしまったらしい。
なければないで頑張るしかない。だがこのまま回らない頭で仕事をしても作業効率が落ちるだけだ。できれば何かしら糖分補給はしておきたい。
ああ、そういえば。在宅勤務になってよかったことがもうひとつあったのだった。
「ねえ、何か甘いもの持ってない?」
私の呼びかけに、ベランダで一服していたジョーカーが振り向く。
ふらりと予告なく現れる彼とは数か月に一度会えればいいほうだった。けれど、ここ最近はしょっちゅう顔を合わせている気がする。
たまたまタイミングが合っただけだとしても、一緒に過ごせる時間が前より増えたのは正直嬉しい。
「甘いもん?」
「うん、飴とかチョコとか」
「あー、あるぜ」
暗闇にぽつりと灯っていた火が消えて、湿った空気と煙草の匂いを纏わせたジョーカーが部屋に入ってくる。
「ほれ、口開けろ」
言われたとおりにすると、彼の唇が綺麗な弧を描くのが見えた。直後に口に広がったのは予想していた甘さとはかけ離れていて、思わず眉間に皺が寄る。
「……苦い」
「俺は甘かったけどなァ」
くつくつとジョーカーは楽しげに笑っていた。煙草を吸わない私にはただただ苦いだけで、彼の言う『甘さ』はわからない。
甘いものは諦めて仕事を再開しようと顔を戻すと、耳に柔らかいものが触れた。しばらく無視していたものの、軽く歯を立てられてびくりと肩が跳ね上がる。
「ジョーカー、私まだ仕事が……っ」
また彼の苦い味がした。煙草の匂いも独特な苦味も好きじゃなかったはずなのに、もっともっと欲しくなる。縋るように彼の背中に手を回すと、わざとらしくリップ音を残して離れていくのだから意地が悪い。
「お望みどおり、甘かっただろ?」
苦いか甘いかなんて、もうよくわからない。
でも頭がぼうっとするのは、きっと、まだ。
「全然足りない」
その言葉に満足したのか、ジョーカーは甘やかなキスを落として私を抱き上げた。
仕事はどうせ手につかない。
今日終わらなかった分は、明日の私が頑張ってくれることだろう。