ジョーカー ・52
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真っ暗な闇の中で小さな悲鳴とともに彼女の身体がびくりと震えた。
思い切り毛布に顔を埋めたかと思いきや、恐る恐る薄目で顔を上げたり、小動物みたいな鳴き声を発したり。
白々とした光に照らされる彼女の百面相が愛おしくて、薄っぺらい腹に回した腕に力を入れた。
「怖くなっちゃった?」
「それはアンタだろ。怖いなら観なきゃいいのに」
「わかってないなあ。ホラー映画ってのは怖いから観るんだよ」
そういうものなのか。映画というものを知ったのもここ最近だからか、正直よくわからない。突然大きくなる音には身構えるが、襲いかかってくるゾンビは燃やせばいいのにと思ってしまう。
彼女のいうホラー映画の良さには共感できないが、観るのを断ったことは一度もない。
怖がりな彼女にはホラー映画を観るときに必ず頭からすっぽり毛布を被る習慣があるらしく、俺がここに来てからは俺が毛布を被って、足の間に彼女が座り、抱きかかえるように包み込むのがお決まりの鑑賞スタイルとなった。
彼女は防御力が上がったと喜んでいるし、俺も……口には出さないが役得ではある。
それもあって、映画の内容に集中できないとも言えるのだが。
「うっわ、今の観た? 私だったら絶対噛まれてる。逃げて主人公‼︎」
「アンタが危なくなったら俺が助けてやる」
「それは頼もしいね。君は怖いものとかないの?」
「俺は……」
言葉を待つ彼女を抱き寄せて肩に頭を乗せた。石鹸もシャンプーも同じものを使っているはずなのに、俺とは違う甘い香りがするのは何故だろう。そのままぐりぐりと擦り付けると「くすぐったいよ」と柔らかな声が鼓膜を揺らした。
「どうしたの52?」
「ん……」
「眠くなっちゃった?」
「んー」
彼女の首元に顔を埋めたまま駄々をこねる子どものような声を出す。わざとらしすぎたかと思ったが、彼女はとくに気にしたふうでもなく、後ろに伸ばした手で俺の髪を梳いた。
「ベッドで寝なよ」
「嫌だ」
「じゃあどうするの?」
「このままがいい」
彼女が溜息を吐く気配がした。呆れられたとしても、今はこの温もりを感じていたい。
「仕方ないなあ。映画が終わったら起こすからね」
「わかった」
子どもをあやすようにぽんぽんと頭を撫でられると本当に眠たくなってくるから不思議だ。眠るつもりはこれっぽっちもなかったのに重たくなる瞼にもう抗えそうにない。
遠のく意識の中で、俺は彼女の温もりを確かめるようにきつく抱きしめた。少し苦しそうな呻き声と、とくとくと規則的に脈打つ心臓に安堵する。
俺はこの温もりを失うのが何よりも怖い。
「……どこにも行かないでくれ」
消え入りそうな祈りは彼女に届いたのかどうかわからない。ただ頭を撫でる手が温かくて、優しくて、大丈夫だと肯定されているような気がした。
思い切り毛布に顔を埋めたかと思いきや、恐る恐る薄目で顔を上げたり、小動物みたいな鳴き声を発したり。
白々とした光に照らされる彼女の百面相が愛おしくて、薄っぺらい腹に回した腕に力を入れた。
「怖くなっちゃった?」
「それはアンタだろ。怖いなら観なきゃいいのに」
「わかってないなあ。ホラー映画ってのは怖いから観るんだよ」
そういうものなのか。映画というものを知ったのもここ最近だからか、正直よくわからない。突然大きくなる音には身構えるが、襲いかかってくるゾンビは燃やせばいいのにと思ってしまう。
彼女のいうホラー映画の良さには共感できないが、観るのを断ったことは一度もない。
怖がりな彼女にはホラー映画を観るときに必ず頭からすっぽり毛布を被る習慣があるらしく、俺がここに来てからは俺が毛布を被って、足の間に彼女が座り、抱きかかえるように包み込むのがお決まりの鑑賞スタイルとなった。
彼女は防御力が上がったと喜んでいるし、俺も……口には出さないが役得ではある。
それもあって、映画の内容に集中できないとも言えるのだが。
「うっわ、今の観た? 私だったら絶対噛まれてる。逃げて主人公‼︎」
「アンタが危なくなったら俺が助けてやる」
「それは頼もしいね。君は怖いものとかないの?」
「俺は……」
言葉を待つ彼女を抱き寄せて肩に頭を乗せた。石鹸もシャンプーも同じものを使っているはずなのに、俺とは違う甘い香りがするのは何故だろう。そのままぐりぐりと擦り付けると「くすぐったいよ」と柔らかな声が鼓膜を揺らした。
「どうしたの52?」
「ん……」
「眠くなっちゃった?」
「んー」
彼女の首元に顔を埋めたまま駄々をこねる子どものような声を出す。わざとらしすぎたかと思ったが、彼女はとくに気にしたふうでもなく、後ろに伸ばした手で俺の髪を梳いた。
「ベッドで寝なよ」
「嫌だ」
「じゃあどうするの?」
「このままがいい」
彼女が溜息を吐く気配がした。呆れられたとしても、今はこの温もりを感じていたい。
「仕方ないなあ。映画が終わったら起こすからね」
「わかった」
子どもをあやすようにぽんぽんと頭を撫でられると本当に眠たくなってくるから不思議だ。眠るつもりはこれっぽっちもなかったのに重たくなる瞼にもう抗えそうにない。
遠のく意識の中で、俺は彼女の温もりを確かめるようにきつく抱きしめた。少し苦しそうな呻き声と、とくとくと規則的に脈打つ心臓に安堵する。
俺はこの温もりを失うのが何よりも怖い。
「……どこにも行かないでくれ」
消え入りそうな祈りは彼女に届いたのかどうかわからない。ただ頭を撫でる手が温かくて、優しくて、大丈夫だと肯定されているような気がした。