ジョーカー ・52
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ソファに横たわりながら、そういえばこの辺りも梅雨入りしたんだっけ、と思い出す。偏頭痛持ちには嫌な季節の始まりだ。薬は飲んだけど、頭の奥がまだズキズキと痛む。休みたいのになかなか眠れなくて寝返りを打つと、「大丈夫か」と不安そうな声が降ってきた。瞼が重くて半分くらいしか上がらない。けれど私の好きなアメジストは大きくはっきりと、綺麗に見えた。
「いつものことだから大丈夫だよ、52」
すぐそばで私を覗き込んでいる彼を安心させようと笑ってみせる。でも52は相変わらず泣きそうな顔をしていた。
「痛むのか」
「平気」
「嘘つけ」
「ふふ、本当はちょっとだけ。ちょっとだけ、ね」
52はまだ何か言いたげだ。それも嘘だろ、と言いたかったのかもしれない。口を開きかけて思い止まったのか、ぐっと飲み込む姿が目に入る。「ありがと」とお礼を言うと「別に何もしてない」とそっぽを向かれてしまった。
目を閉じて、痛みを逃すようにふぅ、と長く息を吐く。52にはバレバレだったけど、本当はずっと痛い。でもそれを言ったら彼はもっと悲痛な顔をするだろう。私の痛みを私以上に痛がってくれる優しい人。だからこそ必要以上に辛そうな顔はしてほしくなかった。その意図を52は汲んでくれたらしい。あの様子では、納得はしてないみたいだけど。
会話が途切れた後も、52の気配は静かにそこにあった。だからといって痛みがどうこうなる訳ではないけれど、傍にいてくれると何となく心強い。時折様子を窺うように頭をそっと撫でられた。そしてーー。
「ふぁいぶつー?」
目を開けると、52の顔がさっきよりもずっと近くにあった。その顔は赤く染まっていて、咄嗟に飛び退いた彼は背中を強かにローテーブルに打ち付けて呻いていた。
「大丈夫?」
「お、起きてたのか」
「うん。今の……」
額に、ほんの一瞬触れた柔らかな感触。夢でも見てたのかと思ったけど、52の反応を見るに、現実の出来事だったらしい。
「違うんだ、これはその……こうすると痛みが和らぐってテレビでやってて……」
「キスで? そうなの?」
「キッ……多分」
効かなかったか? と赤い顔をした52が訊ねてくる。どうだろう、薬だってすぐに効くものじゃないし。
「わからない」
「そうか」
「だから、もう一回」
目を閉じて待っていると「えっ⁈」と悲鳴じみた52の声が聞こえた。ちょっといじめすぎただろうか。だいぶ経ってから、再び口づけが降ってきて。
「ど、どうだ?」
顔を離した52は熱があるんじゃないかと思うほど真っ赤になっていた。そしてその熱は私にも移ったみたいだ。じわじわと体温が上がっていくのを感じる。でも心の準備ができていなかったのだから仕方ない。だってまさか、そこに、『もう一回』されるなんて思ってなかったから。
「うーん、まさか口にされるとは……」
ぽつりと零した言葉は52には届かなかったらしい。純粋なのか邪なのか、もう一回するか、などと首を傾げて訊いてくる。
「あ、もう大丈夫」
薬が効いてきたのか、はたまたキスの効果なのか。熱は上がった気はするけれど、痛みはいつの間にか引いていた。ただ52は、私の言葉にあからさまにしょんぼりしていた。
「いつものことだから大丈夫だよ、52」
すぐそばで私を覗き込んでいる彼を安心させようと笑ってみせる。でも52は相変わらず泣きそうな顔をしていた。
「痛むのか」
「平気」
「嘘つけ」
「ふふ、本当はちょっとだけ。ちょっとだけ、ね」
52はまだ何か言いたげだ。それも嘘だろ、と言いたかったのかもしれない。口を開きかけて思い止まったのか、ぐっと飲み込む姿が目に入る。「ありがと」とお礼を言うと「別に何もしてない」とそっぽを向かれてしまった。
目を閉じて、痛みを逃すようにふぅ、と長く息を吐く。52にはバレバレだったけど、本当はずっと痛い。でもそれを言ったら彼はもっと悲痛な顔をするだろう。私の痛みを私以上に痛がってくれる優しい人。だからこそ必要以上に辛そうな顔はしてほしくなかった。その意図を52は汲んでくれたらしい。あの様子では、納得はしてないみたいだけど。
会話が途切れた後も、52の気配は静かにそこにあった。だからといって痛みがどうこうなる訳ではないけれど、傍にいてくれると何となく心強い。時折様子を窺うように頭をそっと撫でられた。そしてーー。
「ふぁいぶつー?」
目を開けると、52の顔がさっきよりもずっと近くにあった。その顔は赤く染まっていて、咄嗟に飛び退いた彼は背中を強かにローテーブルに打ち付けて呻いていた。
「大丈夫?」
「お、起きてたのか」
「うん。今の……」
額に、ほんの一瞬触れた柔らかな感触。夢でも見てたのかと思ったけど、52の反応を見るに、現実の出来事だったらしい。
「違うんだ、これはその……こうすると痛みが和らぐってテレビでやってて……」
「キスで? そうなの?」
「キッ……多分」
効かなかったか? と赤い顔をした52が訊ねてくる。どうだろう、薬だってすぐに効くものじゃないし。
「わからない」
「そうか」
「だから、もう一回」
目を閉じて待っていると「えっ⁈」と悲鳴じみた52の声が聞こえた。ちょっといじめすぎただろうか。だいぶ経ってから、再び口づけが降ってきて。
「ど、どうだ?」
顔を離した52は熱があるんじゃないかと思うほど真っ赤になっていた。そしてその熱は私にも移ったみたいだ。じわじわと体温が上がっていくのを感じる。でも心の準備ができていなかったのだから仕方ない。だってまさか、そこに、『もう一回』されるなんて思ってなかったから。
「うーん、まさか口にされるとは……」
ぽつりと零した言葉は52には届かなかったらしい。純粋なのか邪なのか、もう一回するか、などと首を傾げて訊いてくる。
「あ、もう大丈夫」
薬が効いてきたのか、はたまたキスの効果なのか。熱は上がった気はするけれど、痛みはいつの間にか引いていた。ただ52は、私の言葉にあからさまにしょんぼりしていた。