ジョーカー ・52
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頬を撫でるあたたかさと懐かしい匂いに目を覚ます。
「……ジョーカー?」
寝起きの掠れた声で名前を呼べば「起こしたか」と優しい声が降ってきた。夢でも見ているのかと手を伸ばすと応えるように指先が絡み合う。夢じゃない。会えたのはどれくらい振りだろうか。微睡みに身を任せたいのをぐっと堪えて身体を起こすと額にひとつ、キスを落とされた。
「まだ寝てりゃいいのに」
「そういうわけにもいかないんだ」
仕事が忙しくて滅多に家に帰れず、久々に帰れたと思ったら仕事着を脱ぎ捨てて気絶するように寝落ちだなんて、やりたいことが山ほどあるというのに。
「とりあえずお風呂を……」
「やっといた。もうすぐ沸くと思うぜ」
「洗濯……」
「回して干した。明日の朝飯の心配もしなくていい」
「すごいな君は」
お互いのタイミングが合わない限りない一緒に過ごすことはないのだが、会う時はいつも至れり尽くせりで私の立場がない。
「君がいないと生きていけなくなりそうだ」
「そうなってくれても良いんだがな」
「冗談はよしてくれ」
野良猫のように気ままな同居人の彼は予告なくふらりとやって来ては煙のように消えてしまう。彼なしでは生きていけないなんてことになったら、彼がここに帰って来なかったときに自分がどうなってしまうのか、できれば考えたくもない。
「煙草、吸ってくる」
お風呂が沸くまでにまだすこし時間がある。手探りでサイドテーブルから煙草の箱を引っ掴んでベランダに出た。
月のない静かな夜だった。深夜ということもあってか町も寝静まっていて、久々に仰いだ空には星がいくつも瞬いていた。
肺いっぱいに空気を吸って、透き通る夜空に薄雲をかけてやる。
「なぁ、俺の煙草知らねぇか?」
「切らしてたみたいだから買っておいた。そのへんに置いてないか?」
どうやら彼も私の一服に付き合ってくれるらしい。目当てのものを見つけてベランダにやって来る。
「開いてんじゃねぇかこれ」
「すまない、ちょっと吸ってみたくなってね」
そんな嘘はすぐにバレるだろうが、今は許してほしい。
箱を開けて一本取り出して、煙草を咥えて自身の炎で火を点ける。そんな彼のルーティンが煙草を咥えたところで止まる。紫微の瞳が瞬いて煙草の箱を覗き込んだ。
「可愛いことしてくれるじゃねぇか」
ジョーカーの煙草を箱から全部取り出して煙草型のチョコレートに入れ替える、そんなサプライズを用意してみたのだが無事成功したようだ。いつ会えるかわからないからと前もって準備しておいて本当に良かった。
「バレンタインには少し早いが受け取ってくれるかい?」
そう伝えると、当たり前だと目元に唇を寄せられた。どうにも人の視線が集まるからあまり好きではなかったが、ジョーカーは私の泣きぼくろを気に入ってくれているらしい。事あるごとにくちづけてくるのでこそばゆくてつい身をすくめてしまう。
煙草型のチョコレートを食む唇は綺麗な弧を描いていて、一応喜んでくれているのだろうか。
「中身の煙草はどこやったんだ?」
「さてどうしたかな。これを機に禁煙なんてどうだい?」
私にしては珍しく悪戯心に火が点いたのだが慣れないことはするものじゃない。振り向いたジョーカーが目を細めたと思ったら口から煙草奪われて、代わりにジョーカーの咥えていたチョコレートをねじ込まれる。
「ちょうどいいところに煙草があったなぁ」
くつくつと喉を鳴らして心底楽しそうだ。私のほうは食べかけのチョコレートがあっという間に溶けていき、
「……甘い」
苦手な味にげんなりしているとジョーカーに煙を吹きかけられた。
「目に染みるからやめてくれ」
「そこは甘い夜が始まるって喜ぶとこだろうが」
そういえばそんな意味もあったんだったか。引き寄せられた腰に絡む手を剥がして寒いからと部屋に戻る。
「つれねぇな」
拗ねた声がすぐ後ろから聞こえてきた。私は不貞腐れた可愛い恋人のほうを振り向いて思い切り襟元を引き寄せる。爪先立ちは辛いからほんの一瞬触れるだけーー。
ゆっくりとかかとを地つけると呆気に取られたジョーカーの顔が視界に入る。
「……おま、どこでそんなの覚えてきやがった」
おかしい。軽くキスをして、お風呂に入っている間にベッドで待っててもらおうと思っていたのだが、どこかで計画が破綻したみたいだ。熱っぽい視線が近付いてくる。
「どこって、先生はどっかの道化師さんしかいないが……ん、」
爪先が宙に浮く。がしりと頭と腰を固定されて逃げることは許されず、彼が満足するまで貪るようなくちづけは終わらない。
「は、まっ、待ってくれジョーカー、お風呂……」
「誰が待つかよ。俺がそんなお利口さんに見えるのか?」
息も絶え絶えになりながら絞り出した言葉は当然のごとく却下された。
せっかくジョーカーが沸かしてくれたから温かいうちに入りたかったのだが、言ったところで今の彼には聞き入れられないだろう。
ベッドに降ろされて再び噛みつくようなキスが降ってくる。
チョコレートのように甘く蕩けるような夜は、今日は望めないかもしれないと頭の片隅で思った。
「……ジョーカー?」
寝起きの掠れた声で名前を呼べば「起こしたか」と優しい声が降ってきた。夢でも見ているのかと手を伸ばすと応えるように指先が絡み合う。夢じゃない。会えたのはどれくらい振りだろうか。微睡みに身を任せたいのをぐっと堪えて身体を起こすと額にひとつ、キスを落とされた。
「まだ寝てりゃいいのに」
「そういうわけにもいかないんだ」
仕事が忙しくて滅多に家に帰れず、久々に帰れたと思ったら仕事着を脱ぎ捨てて気絶するように寝落ちだなんて、やりたいことが山ほどあるというのに。
「とりあえずお風呂を……」
「やっといた。もうすぐ沸くと思うぜ」
「洗濯……」
「回して干した。明日の朝飯の心配もしなくていい」
「すごいな君は」
お互いのタイミングが合わない限りない一緒に過ごすことはないのだが、会う時はいつも至れり尽くせりで私の立場がない。
「君がいないと生きていけなくなりそうだ」
「そうなってくれても良いんだがな」
「冗談はよしてくれ」
野良猫のように気ままな同居人の彼は予告なくふらりとやって来ては煙のように消えてしまう。彼なしでは生きていけないなんてことになったら、彼がここに帰って来なかったときに自分がどうなってしまうのか、できれば考えたくもない。
「煙草、吸ってくる」
お風呂が沸くまでにまだすこし時間がある。手探りでサイドテーブルから煙草の箱を引っ掴んでベランダに出た。
月のない静かな夜だった。深夜ということもあってか町も寝静まっていて、久々に仰いだ空には星がいくつも瞬いていた。
肺いっぱいに空気を吸って、透き通る夜空に薄雲をかけてやる。
「なぁ、俺の煙草知らねぇか?」
「切らしてたみたいだから買っておいた。そのへんに置いてないか?」
どうやら彼も私の一服に付き合ってくれるらしい。目当てのものを見つけてベランダにやって来る。
「開いてんじゃねぇかこれ」
「すまない、ちょっと吸ってみたくなってね」
そんな嘘はすぐにバレるだろうが、今は許してほしい。
箱を開けて一本取り出して、煙草を咥えて自身の炎で火を点ける。そんな彼のルーティンが煙草を咥えたところで止まる。紫微の瞳が瞬いて煙草の箱を覗き込んだ。
「可愛いことしてくれるじゃねぇか」
ジョーカーの煙草を箱から全部取り出して煙草型のチョコレートに入れ替える、そんなサプライズを用意してみたのだが無事成功したようだ。いつ会えるかわからないからと前もって準備しておいて本当に良かった。
「バレンタインには少し早いが受け取ってくれるかい?」
そう伝えると、当たり前だと目元に唇を寄せられた。どうにも人の視線が集まるからあまり好きではなかったが、ジョーカーは私の泣きぼくろを気に入ってくれているらしい。事あるごとにくちづけてくるのでこそばゆくてつい身をすくめてしまう。
煙草型のチョコレートを食む唇は綺麗な弧を描いていて、一応喜んでくれているのだろうか。
「中身の煙草はどこやったんだ?」
「さてどうしたかな。これを機に禁煙なんてどうだい?」
私にしては珍しく悪戯心に火が点いたのだが慣れないことはするものじゃない。振り向いたジョーカーが目を細めたと思ったら口から煙草奪われて、代わりにジョーカーの咥えていたチョコレートをねじ込まれる。
「ちょうどいいところに煙草があったなぁ」
くつくつと喉を鳴らして心底楽しそうだ。私のほうは食べかけのチョコレートがあっという間に溶けていき、
「……甘い」
苦手な味にげんなりしているとジョーカーに煙を吹きかけられた。
「目に染みるからやめてくれ」
「そこは甘い夜が始まるって喜ぶとこだろうが」
そういえばそんな意味もあったんだったか。引き寄せられた腰に絡む手を剥がして寒いからと部屋に戻る。
「つれねぇな」
拗ねた声がすぐ後ろから聞こえてきた。私は不貞腐れた可愛い恋人のほうを振り向いて思い切り襟元を引き寄せる。爪先立ちは辛いからほんの一瞬触れるだけーー。
ゆっくりとかかとを地つけると呆気に取られたジョーカーの顔が視界に入る。
「……おま、どこでそんなの覚えてきやがった」
おかしい。軽くキスをして、お風呂に入っている間にベッドで待っててもらおうと思っていたのだが、どこかで計画が破綻したみたいだ。熱っぽい視線が近付いてくる。
「どこって、先生はどっかの道化師さんしかいないが……ん、」
爪先が宙に浮く。がしりと頭と腰を固定されて逃げることは許されず、彼が満足するまで貪るようなくちづけは終わらない。
「は、まっ、待ってくれジョーカー、お風呂……」
「誰が待つかよ。俺がそんなお利口さんに見えるのか?」
息も絶え絶えになりながら絞り出した言葉は当然のごとく却下された。
せっかくジョーカーが沸かしてくれたから温かいうちに入りたかったのだが、言ったところで今の彼には聞き入れられないだろう。
ベッドに降ろされて再び噛みつくようなキスが降ってくる。
チョコレートのように甘く蕩けるような夜は、今日は望めないかもしれないと頭の片隅で思った。