新門紅丸
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晴れて成人した日に連れてきてもらったのは、幼馴染の紅のお気に入りの店だった。
浅草のみんなに誘われてわいのわいのとお酒を飲んでいる印象が強かったから、少し寂れた居酒屋に連れて来られたのは予想外だった。
紅曰く、一人で静かに飲みたいときもある、のだそうだ。
今まではみんなに囲まれて楽しそうに飲む紅を眺めているだけだったから、そうだったのかとまた驚く。
すたすたと先を行く紅が座ったのは、他に客もいないのに店のカウンターの一番奥だった。
どうやらここが彼の定位置らしい。
人生初の居酒屋にドキドキしながら紅の隣に腰を下ろす。
店内が見渡せて、調理場も見える。なるほど、これはこれで楽しいかもしれない。
よく見ようと覗き込もうとすれば、店主が何も言わずにおしぼりを差し出した。
紅に負けず劣らずの愛想のなさだ。温かいおしぼりで手を拭いて、ちらりと隣を盗み見ると「何見てやがる」と額を小突かれた。
いつも思うけど、私の視線に気付くの早すぎない? 目が合うと同時に毎度小突かれている気がしてならない。
痛む額をさすっていると、店主がお通しを持ってきた。この時期には嬉しいふろふき大根だ。
それと一緒に運ばれてきたのはいつの間に頼んでいたのか大きな酒瓶とお猪口が二つ。
「これは?」
「成人の祝いだ。やる」
「ありがとう。でも初めてだし、こんなに飲めないよ」
「この紙に名前書いときゃ店に置いとける。一年かけて飲めばいいだろ」
差し出された紙には紐が付いていて、この紐を酒瓶に括り付けて保管する仕組みなのだろうか。
自分の名前を書こうとすれば、先に見慣れた名前が書いてある。
「紅、このお酒私にくれたんじゃないの?」
「お前だけだと一年経っても飲みきれねェだろうからな」
それはそうかもしれない、けど。
「今日以外にも、一緒に来てくれるの?」
そう聞くと紅は一瞬目を丸くしてばつが悪そうにがしがしと頭を掻いた。
「……まぁ、気が向いたらな」
お酒を片口に移して二人分のお猪口に注ぐ。
美味しそうに並ぶ紅の選んだ料理を前に軽く乾杯をして、人生初のお酒をひとくち。
「何これ辛っ! 喉熱い‼︎」
「ヘッ……ガキ」
慌てて店主にお冷やをお願いして、一気に飲み干す。
みんなが美味しそうに飲むものだから、もっと甘くて美味しいものだと思っていた。
いや、普通初心者にはもっと飲みやすいお酒があるはずだ。
「もう、紅……‼︎」
隣からくつくつと笑う声が聞こえて振り向くと、そこには満面の笑みの幼馴染がいた。
「ぶふっ‼︎」
「何笑ってやがる」
「笑ってるのは紅のほうでしょ! 前から思ってたけど、ふふっ、その顔はやばい」
「あァ⁈」
美味しくないお酒の味も吹き飛ぶ破壊力の愉快王の笑顔にひとしきり笑って、試しにもうひとくち飲んでみる。
これを美味しいと感じられる日は果たして来るのだろうか。顔をしかめながらそんなことを考えていたけれど。
*
「やる」
「ありがとう! 私これ好きなんだよね」
あれから数年、紅は毎年私の誕生日に同じお酒を贈ってくれる。
最初の一年はやっとの思いで飲みきったのに、同じお酒を贈られて、飲んでも飲んでも減らなくて。
苦手だった味も彼が美味しそうに飲むから、美味しい気がしてきてしまって。
甘いお酒も飲んだりしたけれど、なんとなく物足りなくて、今では一番これが好きだ。
「ねぇ、紅。なんで毎年このお酒なの?」
私は贈られた酒瓶のラベルをなぞる。
ちらりと隣を見れば、紅は言いたくなさそうに眉を寄せた。
彼の口から聞きたくて見つめれば、観念したかのように溜息を吐く。
「俺がお前にくれてやりてェと思ったからだ」
不器用すぎて気付くのにだいぶかかってしまったけれど、
「私もだよ、紅」
毎年溢れるほどの気持ちは、贈るお酒に閉じ込めて。
ちびりと飲んだ日本酒は辛口なのに、どうしようもなく甘かった。
浅草のみんなに誘われてわいのわいのとお酒を飲んでいる印象が強かったから、少し寂れた居酒屋に連れて来られたのは予想外だった。
紅曰く、一人で静かに飲みたいときもある、のだそうだ。
今まではみんなに囲まれて楽しそうに飲む紅を眺めているだけだったから、そうだったのかとまた驚く。
すたすたと先を行く紅が座ったのは、他に客もいないのに店のカウンターの一番奥だった。
どうやらここが彼の定位置らしい。
人生初の居酒屋にドキドキしながら紅の隣に腰を下ろす。
店内が見渡せて、調理場も見える。なるほど、これはこれで楽しいかもしれない。
よく見ようと覗き込もうとすれば、店主が何も言わずにおしぼりを差し出した。
紅に負けず劣らずの愛想のなさだ。温かいおしぼりで手を拭いて、ちらりと隣を盗み見ると「何見てやがる」と額を小突かれた。
いつも思うけど、私の視線に気付くの早すぎない? 目が合うと同時に毎度小突かれている気がしてならない。
痛む額をさすっていると、店主がお通しを持ってきた。この時期には嬉しいふろふき大根だ。
それと一緒に運ばれてきたのはいつの間に頼んでいたのか大きな酒瓶とお猪口が二つ。
「これは?」
「成人の祝いだ。やる」
「ありがとう。でも初めてだし、こんなに飲めないよ」
「この紙に名前書いときゃ店に置いとける。一年かけて飲めばいいだろ」
差し出された紙には紐が付いていて、この紐を酒瓶に括り付けて保管する仕組みなのだろうか。
自分の名前を書こうとすれば、先に見慣れた名前が書いてある。
「紅、このお酒私にくれたんじゃないの?」
「お前だけだと一年経っても飲みきれねェだろうからな」
それはそうかもしれない、けど。
「今日以外にも、一緒に来てくれるの?」
そう聞くと紅は一瞬目を丸くしてばつが悪そうにがしがしと頭を掻いた。
「……まぁ、気が向いたらな」
お酒を片口に移して二人分のお猪口に注ぐ。
美味しそうに並ぶ紅の選んだ料理を前に軽く乾杯をして、人生初のお酒をひとくち。
「何これ辛っ! 喉熱い‼︎」
「ヘッ……ガキ」
慌てて店主にお冷やをお願いして、一気に飲み干す。
みんなが美味しそうに飲むものだから、もっと甘くて美味しいものだと思っていた。
いや、普通初心者にはもっと飲みやすいお酒があるはずだ。
「もう、紅……‼︎」
隣からくつくつと笑う声が聞こえて振り向くと、そこには満面の笑みの幼馴染がいた。
「ぶふっ‼︎」
「何笑ってやがる」
「笑ってるのは紅のほうでしょ! 前から思ってたけど、ふふっ、その顔はやばい」
「あァ⁈」
美味しくないお酒の味も吹き飛ぶ破壊力の愉快王の笑顔にひとしきり笑って、試しにもうひとくち飲んでみる。
これを美味しいと感じられる日は果たして来るのだろうか。顔をしかめながらそんなことを考えていたけれど。
*
「やる」
「ありがとう! 私これ好きなんだよね」
あれから数年、紅は毎年私の誕生日に同じお酒を贈ってくれる。
最初の一年はやっとの思いで飲みきったのに、同じお酒を贈られて、飲んでも飲んでも減らなくて。
苦手だった味も彼が美味しそうに飲むから、美味しい気がしてきてしまって。
甘いお酒も飲んだりしたけれど、なんとなく物足りなくて、今では一番これが好きだ。
「ねぇ、紅。なんで毎年このお酒なの?」
私は贈られた酒瓶のラベルをなぞる。
ちらりと隣を見れば、紅は言いたくなさそうに眉を寄せた。
彼の口から聞きたくて見つめれば、観念したかのように溜息を吐く。
「俺がお前にくれてやりてェと思ったからだ」
不器用すぎて気付くのにだいぶかかってしまったけれど、
「私もだよ、紅」
毎年溢れるほどの気持ちは、贈るお酒に閉じ込めて。
ちびりと飲んだ日本酒は辛口なのに、どうしようもなく甘かった。