新門紅丸
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コン、カン、コンと寒空の下に小気味良い音が響く。
「これは栗ようかんの分!」
カァンと思い切り羽子板を打ち下ろせば、羽根は一直線に地に向かう。が、落ちる寸前に地面と羽根の間に羽子板が差し込まれた。
「甘ェ! 」
「ババァの大福より甘ェ!」
ふわりと上がる羽根を見逃すほど私は甘くない。たとえ相手がひとまわりほど年下の双子であっても、だ。瞬発力と体力では敵わないけれど、羽根つき歴では負けはしない。
私は双子を左右に翻弄しつつ決して攻撃の手を緩めない。彼女たちが攻撃に転じたら私に勝ち目がないからだ。
「これはどら焼き! いちご大福! そして、ういろうの分‼︎」
次で決める。山なりに返ってくる羽根に全身全霊を込めるべく構えた瞬間、ヒカゲがニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
押しているのはこちらなのに嫌な予感がする。かすかな違和感を拭えないまま私は羽子板を振りかぶりーー。
「何してんだお前ら」
飛んでくるはずの羽根は音もなく、ヒナタにしがみつかれた我らが破壊王の手中に納まったのだった。
「多勢に無勢はずるい。あとちょっとで勝てそうだったのに」
羽根つき勝負の結果は私の負け。確かに打ち返せなかったほうが負けというルールだったけれども。抗議の申し立ては双子の「文句なら受け付けてねェぞ」という台詞に跳ね除けられた。
「見たかヒカとヒナの頭脳プレー!」
「ヒカとヒナに勝とうだなんて百億万年早ェんだよ!」
「うぅっ」
敗者には罰を。墨と筆を持った双子が不気味な笑い声とともに近づいてくる。
「今日くらいはヒカゲとヒナタに食べられたお菓子の無念を晴らせると思ったのに」
「あひぇひぇ、取られたくなきゃ名前書いとけよ」
「栗ようかんの箱にはちゃんと書いたよ!」
「うひぇひぇ、中身は名なしのごんべえだったぜ」
墨の冷たさと肌の上を筆が走る感触に思わず身縮ませる。一体何を書かれているのか、できれば想像したくない。
さて二戦目と羽子板を構えると「やっちまえわかー!」と声がして目を見開く。
いやいや、何素振りしてるんですか若。そんなに風を切る羽子板見たことがない。さすがに浅草最強に勝てるはずが……。いや、万が一ということも。
「い、いいでしょう。羽根つき歴ウン十年の私が軽く捻ってーー」
羽根つき勝負の結果は、以下略。
私は片手で顔を固定され、少しでも動こうものなら力尽くで正面に戻された。
「若、後生ですから他の人に見られても大丈夫なやつでお願いします」
双子のもそうであってほしいと願って目を瞑る。
なかなか書かれる気配がなくて薄く目を開けると、舌打ちとともに閉じてろと怒られた。
「見られて困るもん書くわけねェだろ。むしろ見せびらかしてこい」
どういう意味だろうと動かない首を気持ちだけ傾ける。左頬にさらさらと筆が動く気配に身をよじりたかったが、若がそれを許さない。
筆が止まったのを見計らって目を開けると、満足そうに目を細める若と視線が絡んでどきりと胸が鳴った。
時折、この人が何を考えているのかわからない。
向けられる表情が底知れなくて、身がすくむ。
若は書いたところを確認するように指の腹でなぞり、
「へっ」
小バカにしたように笑う声は、よく知るいつもの彼だった。
その後すぐに雑煮ができたと呼びに来た紺炉さんとは不自然なほど目が合わず、私は慌てて洗面所へと飛び込む。
鏡に写ったのは左右反転した、双子のまだ良識的な罵声とでかでかと書かれた「紅丸」の文字。
見られて困るものではないけれど、見せびらかす意味もわからない。
「やっぱり、何考えてるかわからないや」
私がこのときの若の真意を知るのは、気が遠くなるほど先の話。
「これは栗ようかんの分!」
カァンと思い切り羽子板を打ち下ろせば、羽根は一直線に地に向かう。が、落ちる寸前に地面と羽根の間に羽子板が差し込まれた。
「甘ェ! 」
「ババァの大福より甘ェ!」
ふわりと上がる羽根を見逃すほど私は甘くない。たとえ相手がひとまわりほど年下の双子であっても、だ。瞬発力と体力では敵わないけれど、羽根つき歴では負けはしない。
私は双子を左右に翻弄しつつ決して攻撃の手を緩めない。彼女たちが攻撃に転じたら私に勝ち目がないからだ。
「これはどら焼き! いちご大福! そして、ういろうの分‼︎」
次で決める。山なりに返ってくる羽根に全身全霊を込めるべく構えた瞬間、ヒカゲがニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
押しているのはこちらなのに嫌な予感がする。かすかな違和感を拭えないまま私は羽子板を振りかぶりーー。
「何してんだお前ら」
飛んでくるはずの羽根は音もなく、ヒナタにしがみつかれた我らが破壊王の手中に納まったのだった。
「多勢に無勢はずるい。あとちょっとで勝てそうだったのに」
羽根つき勝負の結果は私の負け。確かに打ち返せなかったほうが負けというルールだったけれども。抗議の申し立ては双子の「文句なら受け付けてねェぞ」という台詞に跳ね除けられた。
「見たかヒカとヒナの頭脳プレー!」
「ヒカとヒナに勝とうだなんて百億万年早ェんだよ!」
「うぅっ」
敗者には罰を。墨と筆を持った双子が不気味な笑い声とともに近づいてくる。
「今日くらいはヒカゲとヒナタに食べられたお菓子の無念を晴らせると思ったのに」
「あひぇひぇ、取られたくなきゃ名前書いとけよ」
「栗ようかんの箱にはちゃんと書いたよ!」
「うひぇひぇ、中身は名なしのごんべえだったぜ」
墨の冷たさと肌の上を筆が走る感触に思わず身縮ませる。一体何を書かれているのか、できれば想像したくない。
さて二戦目と羽子板を構えると「やっちまえわかー!」と声がして目を見開く。
いやいや、何素振りしてるんですか若。そんなに風を切る羽子板見たことがない。さすがに浅草最強に勝てるはずが……。いや、万が一ということも。
「い、いいでしょう。羽根つき歴ウン十年の私が軽く捻ってーー」
羽根つき勝負の結果は、以下略。
私は片手で顔を固定され、少しでも動こうものなら力尽くで正面に戻された。
「若、後生ですから他の人に見られても大丈夫なやつでお願いします」
双子のもそうであってほしいと願って目を瞑る。
なかなか書かれる気配がなくて薄く目を開けると、舌打ちとともに閉じてろと怒られた。
「見られて困るもん書くわけねェだろ。むしろ見せびらかしてこい」
どういう意味だろうと動かない首を気持ちだけ傾ける。左頬にさらさらと筆が動く気配に身をよじりたかったが、若がそれを許さない。
筆が止まったのを見計らって目を開けると、満足そうに目を細める若と視線が絡んでどきりと胸が鳴った。
時折、この人が何を考えているのかわからない。
向けられる表情が底知れなくて、身がすくむ。
若は書いたところを確認するように指の腹でなぞり、
「へっ」
小バカにしたように笑う声は、よく知るいつもの彼だった。
その後すぐに雑煮ができたと呼びに来た紺炉さんとは不自然なほど目が合わず、私は慌てて洗面所へと飛び込む。
鏡に写ったのは左右反転した、双子のまだ良識的な罵声とでかでかと書かれた「紅丸」の文字。
見られて困るものではないけれど、見せびらかす意味もわからない。
「やっぱり、何考えてるかわからないや」
私がこのときの若の真意を知るのは、気が遠くなるほど先の話。