新門紅丸
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眠れない。というのも、真冬のような寒さのせいだ。
今年はどういう訳か夏が長くて、霜月だというのにちっとも秋らしくなかったから油断していたのもある。久々に雨が降ったと思ったら急に冷え込んで。慌てて押入れから冬布団を引っ張り出してきたけれど、寝巻きはまだ夏用で足先が冷えて仕方がない。
ああ、こんなことならさっさと衣替えしとくんだった。
目を閉じたまま何度目かの寝返りを打ち、冷たい空気から逃げるように頭からすっぽりと布団を被る。そんな時、ふと襖が開く気配がした。
ヒカゲとヒナタ? いや違う。畳を歩く足音は一人分だ。じゃあ、誰?
きっと詰所の誰かだろうと予想はつく。けれどこんな夜半に、女の部屋に無断でやって来る輩に心当たりはない。ドキリと心臓が嫌な音を立てる。いつでも人を呼べるようにと身構えていると、ばさりと布団を持ち上げられた。
「……っ」
冷たい空気が全身を襲う。次いで、どさりと隣に誰かが横たわる気配がした。思わず息を呑んで様子を窺うと、暗闇に慣れた目に飛び込んできたのは見知った顔だった。
「え、わか?」
人の布団に押し入りすぅすぅと寝息を立てるのは、浅草の火消したちを取りまとめる新門紅丸その人だった。酔っているのかすっかり愉快王顔で、もしかしたら私の部屋と自分の部屋を間違えたのかもしれない。何にせよ、出て行ってもらわないと困る。けれど何度揺すっても若は起きてくれなかった。それどころか若が寝返りを打った拍子に背中に腕が回り、そのまま抱き寄せられてしまい……一切身動きが取れなくなった。
あー、これは。明日なんて説明しよう。
朝餉の準備にやって来ない私を、紺炉さんが不審がって様子を見に来るかもしれない。もしくは髪を結ってもらうために若を探し回るヒカヒナに見つかるか。何にせよ同衾現場は見られてしまうだろう。若が私より先に起きてくれればいいけど、酔っぱらった次の日は昼まで寝てることが多いから望みは薄い。
変に噂が立たないといいな。
私と若の間には何もない。ただ仕事場が同じだけ。もちろん尊敬はしているけれど、そういった感情は抱いていない。私は父を弔ってくれた若に恩返しがしたかっただけで、若も溜まりがちな事務仕事ができる人間を雇っただけのこと。
けれど噂好きのおばちゃんたちに本当に何もないのかと根掘り葉掘り聞かれることはある。悪い人たちではないけれど、そういう話題が大好きなのだ。
さて、引き続き若は起こし続けるとして。それとは別で彼女たちにバレた時の言い訳を考えておかないと。そう思うのに思考がなかなかまとまらない。さっきまであんなに眠れなかったのに、どうして急に。
そうして、はたと気づく。すっかり冷たくなっていた足先がいつの間にかぽかぽかとあたたまっていることに。
私は私を抱きしめる若を見上げた。相変わらずにこにこしながら眠っている。
能力者は無能力者より体温が高いと聞くけれど、こんなのまるでゆたんぽだ。酒を飲んで酔っ払っているのもあって、余計そう感じるのかもしれないけれど。
同衾現場を誰かに見られては困る。けど、このあたたかさは正直手放し難い。
私はぐぬぬ、と唇を噛んで、ぺちぺちと若の胸板を叩くのをやめた。
どうせ若は私が何したって起きてくれない。ならいっそありがたく恩恵を受け取ろうじゃないか。
夜寒にこんなぬくい湯湯婆、よく眠れるに決まっているのだから。
今年はどういう訳か夏が長くて、霜月だというのにちっとも秋らしくなかったから油断していたのもある。久々に雨が降ったと思ったら急に冷え込んで。慌てて押入れから冬布団を引っ張り出してきたけれど、寝巻きはまだ夏用で足先が冷えて仕方がない。
ああ、こんなことならさっさと衣替えしとくんだった。
目を閉じたまま何度目かの寝返りを打ち、冷たい空気から逃げるように頭からすっぽりと布団を被る。そんな時、ふと襖が開く気配がした。
ヒカゲとヒナタ? いや違う。畳を歩く足音は一人分だ。じゃあ、誰?
きっと詰所の誰かだろうと予想はつく。けれどこんな夜半に、女の部屋に無断でやって来る輩に心当たりはない。ドキリと心臓が嫌な音を立てる。いつでも人を呼べるようにと身構えていると、ばさりと布団を持ち上げられた。
「……っ」
冷たい空気が全身を襲う。次いで、どさりと隣に誰かが横たわる気配がした。思わず息を呑んで様子を窺うと、暗闇に慣れた目に飛び込んできたのは見知った顔だった。
「え、わか?」
人の布団に押し入りすぅすぅと寝息を立てるのは、浅草の火消したちを取りまとめる新門紅丸その人だった。酔っているのかすっかり愉快王顔で、もしかしたら私の部屋と自分の部屋を間違えたのかもしれない。何にせよ、出て行ってもらわないと困る。けれど何度揺すっても若は起きてくれなかった。それどころか若が寝返りを打った拍子に背中に腕が回り、そのまま抱き寄せられてしまい……一切身動きが取れなくなった。
あー、これは。明日なんて説明しよう。
朝餉の準備にやって来ない私を、紺炉さんが不審がって様子を見に来るかもしれない。もしくは髪を結ってもらうために若を探し回るヒカヒナに見つかるか。何にせよ同衾現場は見られてしまうだろう。若が私より先に起きてくれればいいけど、酔っぱらった次の日は昼まで寝てることが多いから望みは薄い。
変に噂が立たないといいな。
私と若の間には何もない。ただ仕事場が同じだけ。もちろん尊敬はしているけれど、そういった感情は抱いていない。私は父を弔ってくれた若に恩返しがしたかっただけで、若も溜まりがちな事務仕事ができる人間を雇っただけのこと。
けれど噂好きのおばちゃんたちに本当に何もないのかと根掘り葉掘り聞かれることはある。悪い人たちではないけれど、そういう話題が大好きなのだ。
さて、引き続き若は起こし続けるとして。それとは別で彼女たちにバレた時の言い訳を考えておかないと。そう思うのに思考がなかなかまとまらない。さっきまであんなに眠れなかったのに、どうして急に。
そうして、はたと気づく。すっかり冷たくなっていた足先がいつの間にかぽかぽかとあたたまっていることに。
私は私を抱きしめる若を見上げた。相変わらずにこにこしながら眠っている。
能力者は無能力者より体温が高いと聞くけれど、こんなのまるでゆたんぽだ。酒を飲んで酔っ払っているのもあって、余計そう感じるのかもしれないけれど。
同衾現場を誰かに見られては困る。けど、このあたたかさは正直手放し難い。
私はぐぬぬ、と唇を噛んで、ぺちぺちと若の胸板を叩くのをやめた。
どうせ若は私が何したって起きてくれない。ならいっそありがたく恩恵を受け取ろうじゃないか。
夜寒にこんなぬくい湯湯婆、よく眠れるに決まっているのだから。