新門紅丸
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今日は私の、はたちの誕生日だった。
初めて飲むお酒に浮かれて、雰囲気に飲まれて。だから、あんなことを言ってしまったのも、多分、酔っていたからだ。
「紅さんは好きな人いないの?」
「あ?」
ふわふわしていた。恐らく、人生初の「酔い」というものだ。心の奥の、かたく閉ざした部分まで緩くなって、だから、そんなことを聞いてしまった。否、聞くなら今しかないと思ったのだ。今なら全部、酔っ払いの戯言で済ませられる、と。
私の質問に隣の愉快王は眉根を寄せて、静かに答えた。
「いる」
その一言が胸に深く突き刺さる。紅さんがモテるのは知っていたし、恋しく思う相手がいてもおかしくはない。でももしかしたら「いない」と答えてくれるんじゃないか、と期待もしていた。
だってそんな素振り、今まで一度だって見たことがなかったから。そんな風に思う相手がいるならば、ずっと紅さんを見てきた私が気づかないはずがない。
けれど、その予想は大きく外れた。紅さんには好きな人がいるらしい。それも一日やそこらの恋情ではなさそうな、想い人が。
「そっ、か。そうなんだ」
かろうじて絞り出した声は枯れていた。
私は喉を潤すようにお猪口に入ったお酒を呷った。初めて飲んだお酒は日本酒。甘口と聞いていたのに、私の思っていた甘口と全然違って、喉が焼けるような大人の味だった。美味しいかどうかはよくわからない。でも胸のもやもやを打ち消せるなら何でもよかった。
水のようにゴクゴクと飲み干すと身体の内側から熱くなって、頭がぼうっとして、色んなことを考えなくて済む。
「お前は?」
「え?」
「お前はいねェのか」
「私は……」
貴方のことが好き、と言ってしまえれば楽だったのかもしれない。振られても、酔っていて覚えていないと言ってしまえばそれでいい。
でもまだそこまで酔いきれなくて、私はお酒に強いほうなのだと初めて知った。
「私は、私のことを可愛いって言ってくれる人が好き」
「ンだそりゃ」
「紅さんはそういうこと絶対に言わないでしょう? でも好きな子には言わないとダメよ。女は行動よりも言葉が欲しい生き物なの。私はちゃんと言葉で伝えてくれる人がいい」
私は臆病者だ。臆病者でずるい人間。だから気持ちを伝えて振られるより、今の気安い関係を続けるほうを取った。
紅さんは「可愛い」なんて絶対言わない人だから、私の言う好きな人には当てはまらない。そう嘘を吐いておけば、たとえ紅さんに想い人がいようと、私たちは良い友人を続けられる。そう、思ってたのに。
「……可愛い」
ぽつりと呟かれたその言葉に、思わずお酒を零しそうになる。隣を見やると、紅さんは少しだけ目を開けて私を見返していた。ゆっくりと顔を上げて紅い瞳が私を真っ直ぐに見据える。
「お前は可愛い。昔からずっとそう思ってた」
「え、ちょ、紅さん……?」
「可愛い。本当は他の誰にも見せたくねェ」
ちりちりと焼け付くような視線と言葉が浴びせられる。お酒の回りも急に早くなったのか、一気に体温が上がるのを感じた。掴まれた手首も熱くて、その熱も自分のものなのか、彼のものなのか最早判断がつかない。
「お前、言ったよな。自分のこと可愛いって言ってくれる奴が好きだって。足りねェならいくらでも言ってやる。どれくらい言えばお前は俺のことを好きになる?」
逃げ腰の私を引き寄せて紅さんが言う。その瞳に映る私は酷く真っ赤。その理由を彼の瞳の色のせいだけにできないのは明白だった。
「も、もう、とっくに好きだから」
勘弁して欲しい、と紅い視線から逃れるように彼の胸に顔を埋めると、紅さんは満足そうに笑って、追い討ちをかけるように「可愛い」を私の耳に何度も吹き込んでくるのだった。
初めて飲むお酒に浮かれて、雰囲気に飲まれて。だから、あんなことを言ってしまったのも、多分、酔っていたからだ。
「紅さんは好きな人いないの?」
「あ?」
ふわふわしていた。恐らく、人生初の「酔い」というものだ。心の奥の、かたく閉ざした部分まで緩くなって、だから、そんなことを聞いてしまった。否、聞くなら今しかないと思ったのだ。今なら全部、酔っ払いの戯言で済ませられる、と。
私の質問に隣の愉快王は眉根を寄せて、静かに答えた。
「いる」
その一言が胸に深く突き刺さる。紅さんがモテるのは知っていたし、恋しく思う相手がいてもおかしくはない。でももしかしたら「いない」と答えてくれるんじゃないか、と期待もしていた。
だってそんな素振り、今まで一度だって見たことがなかったから。そんな風に思う相手がいるならば、ずっと紅さんを見てきた私が気づかないはずがない。
けれど、その予想は大きく外れた。紅さんには好きな人がいるらしい。それも一日やそこらの恋情ではなさそうな、想い人が。
「そっ、か。そうなんだ」
かろうじて絞り出した声は枯れていた。
私は喉を潤すようにお猪口に入ったお酒を呷った。初めて飲んだお酒は日本酒。甘口と聞いていたのに、私の思っていた甘口と全然違って、喉が焼けるような大人の味だった。美味しいかどうかはよくわからない。でも胸のもやもやを打ち消せるなら何でもよかった。
水のようにゴクゴクと飲み干すと身体の内側から熱くなって、頭がぼうっとして、色んなことを考えなくて済む。
「お前は?」
「え?」
「お前はいねェのか」
「私は……」
貴方のことが好き、と言ってしまえれば楽だったのかもしれない。振られても、酔っていて覚えていないと言ってしまえばそれでいい。
でもまだそこまで酔いきれなくて、私はお酒に強いほうなのだと初めて知った。
「私は、私のことを可愛いって言ってくれる人が好き」
「ンだそりゃ」
「紅さんはそういうこと絶対に言わないでしょう? でも好きな子には言わないとダメよ。女は行動よりも言葉が欲しい生き物なの。私はちゃんと言葉で伝えてくれる人がいい」
私は臆病者だ。臆病者でずるい人間。だから気持ちを伝えて振られるより、今の気安い関係を続けるほうを取った。
紅さんは「可愛い」なんて絶対言わない人だから、私の言う好きな人には当てはまらない。そう嘘を吐いておけば、たとえ紅さんに想い人がいようと、私たちは良い友人を続けられる。そう、思ってたのに。
「……可愛い」
ぽつりと呟かれたその言葉に、思わずお酒を零しそうになる。隣を見やると、紅さんは少しだけ目を開けて私を見返していた。ゆっくりと顔を上げて紅い瞳が私を真っ直ぐに見据える。
「お前は可愛い。昔からずっとそう思ってた」
「え、ちょ、紅さん……?」
「可愛い。本当は他の誰にも見せたくねェ」
ちりちりと焼け付くような視線と言葉が浴びせられる。お酒の回りも急に早くなったのか、一気に体温が上がるのを感じた。掴まれた手首も熱くて、その熱も自分のものなのか、彼のものなのか最早判断がつかない。
「お前、言ったよな。自分のこと可愛いって言ってくれる奴が好きだって。足りねェならいくらでも言ってやる。どれくらい言えばお前は俺のことを好きになる?」
逃げ腰の私を引き寄せて紅さんが言う。その瞳に映る私は酷く真っ赤。その理由を彼の瞳の色のせいだけにできないのは明白だった。
「も、もう、とっくに好きだから」
勘弁して欲しい、と紅い視線から逃れるように彼の胸に顔を埋めると、紅さんは満足そうに笑って、追い討ちをかけるように「可愛い」を私の耳に何度も吹き込んでくるのだった。