夕餉の支度をしていると、紅ちゃんが台所に入ってきた。

「おかえり、お夕飯もう少しでできるからね」
「ああ」

小腹でも空いたのだろうか。くつくつと音を立てるお鍋を覗いたり、野菜を切る私の手元を見つめたり。しばらく居続けるものだから不思議に思っていると、ちょうど私の手が空いたタイミングで紅ちゃんが近づいてきた。そして武骨な手が伸びてきて、突然わしゃわしゃと頭を撫でられる。

「えっ、何⁈」
「お疲れさん」

その言葉にびっくりする。どうやら私は労られているらしい。乱された髪を直しながら顔を上げると、余程マヌケな顔をしてたのか「へっ」と笑われた。
もう！ ボサボサにしたの、紅ちゃんじゃない。
文句を言ってもどこ吹く風で、乱暴に撫でられ続けた私の頭はひどいもの。きっとヒカヒナちゃんたちが見たら大爆笑だ。

「お前はよくやってる」

ぽつりと零された一言がとん、と胸に落ちる。誰でも言える一言、でもその温度はちゃんと見てくれている人のものだった。

「あんま気負いすぎンなよ」
「うん、ありがと」

ふ、と息を吐くように表情を緩めて、紅ちゃんは台所を後にした。最後の最後に、一等やさしく頭を撫でて。