新門紅丸
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ふと足を止めてしまったのは、聞き慣れない鐘の音がしたからだった。浅草で聞くものより高く、軽やかな音。その音は皇国の教会から聞こえてきた。次いで、色とりどりのドレスを着た女性たちが笑顔で出てくる。彼女たちの視線の先には純白のドレスを着た一人の女性。ああ、あれは知っている。皇国の結婚衣装だ。どうやら祝いの式の最中だったらしい。
「おい」
紅ちゃんが少し離れたところから私を呼ぶ。
「ご、ごめん」
花嫁さんが綺麗で、幸せそうで、つい見惚れてしまっていた。慌てて彼の元へ向かおうとすると、スーツを着た女性に声をかけられた。今からブーケトスが行われるからよかったらご参加くださいと。
全く面識のない他人なのだけど、花嫁の意向らしい。ちらりと紅ちゃんに目をやると、好きにしろと言わんばかりに顎で送り出された。
私はおずおずと綺麗に着飾った女性たちの後ろに待機する。花嫁が背を向け、手にしていたブーケを投げた。ふわりと高く、宙を舞う花束。私も女性たちも、幸せのお裾分けに必死に手を伸ばす。しかしーー。花束は私たちを飛び越えて、ある人の元へ。その場にいた全員が注目し、花束を手にしたその人は気まずそうに視線を逸らした。
「ふっ、くく」
誰が漏らしたのか、その笑いをきっかけにみんなが笑い出した。ブーケを勝ち取ったのは、列に並んですらいなかった紅ちゃん。予想外の展開に空気が悪くなるかと思いきや、場は楽しげな笑い声に包まれた。紅ちゃんだけは、複雑な顔をしてたけど。
「よかったね、紅ちゃん」
「よかねェよ」
「えーなんで? ブーケを受け取った人は次に結婚できるんだよ」
ブーケトス憧れるなぁ、とうっとりした表情で語っていた第八の茉希ちゃんを思い出す。ブーケトスでブーケを受け取った女性は次に結婚できるらしい。そういうジンクスがあるのなら、確かにブーケに手を伸ばしたくなるのも頷ける。でもあれって女性限定だったっけ。男性が受け取った場合はどうなるんだろう。
一人そんなことを考えていると、いつの間にか立ち止まっていた紅ちゃんの背に思い切りぶつかった。痛む鼻を摩りながら文句の一つでも言ってやろうと思って顔を上げると、
「ならお前が持ってろ」
振り向いた彼に、持っていた花束を押し付けられる。危うく落としそうになって慌てて両手で抱えるも、その間に紅ちゃんはすたすたと私を置いて歩いて行ってしまっていた。
「待って、紅ちゃん」
私の声に彼は振り向かず、立ち止まりもしない。私は何とかその背中に追いつこうとして、気づいてしまった。黒髪から覗く彼の耳が、赤く染まっていることに。
急に心臓がドキドキし始めて、私は誤魔化すように花束を抱え直した。隣に並んだ紅ちゃんと私の間に流れるのは、不自然なほどの沈黙。
ーーねえ、紅ちゃん。さっきのどういう意味?
聞きたかったけれど、聞けなかった。紅ちゃんの顔もまともに見られない。だって今顔を上げたら、私がどんな顔をしているか紅ちゃんにバレてしまうから。
顔を伏せると、抱えた花束からふわりと甘い香りが漂ってきた。
気になる、けれど。今はいっか。きっとさっきの言葉の意味を知る日は、そう遠くないはずだから。
「おい」
紅ちゃんが少し離れたところから私を呼ぶ。
「ご、ごめん」
花嫁さんが綺麗で、幸せそうで、つい見惚れてしまっていた。慌てて彼の元へ向かおうとすると、スーツを着た女性に声をかけられた。今からブーケトスが行われるからよかったらご参加くださいと。
全く面識のない他人なのだけど、花嫁の意向らしい。ちらりと紅ちゃんに目をやると、好きにしろと言わんばかりに顎で送り出された。
私はおずおずと綺麗に着飾った女性たちの後ろに待機する。花嫁が背を向け、手にしていたブーケを投げた。ふわりと高く、宙を舞う花束。私も女性たちも、幸せのお裾分けに必死に手を伸ばす。しかしーー。花束は私たちを飛び越えて、ある人の元へ。その場にいた全員が注目し、花束を手にしたその人は気まずそうに視線を逸らした。
「ふっ、くく」
誰が漏らしたのか、その笑いをきっかけにみんなが笑い出した。ブーケを勝ち取ったのは、列に並んですらいなかった紅ちゃん。予想外の展開に空気が悪くなるかと思いきや、場は楽しげな笑い声に包まれた。紅ちゃんだけは、複雑な顔をしてたけど。
「よかったね、紅ちゃん」
「よかねェよ」
「えーなんで? ブーケを受け取った人は次に結婚できるんだよ」
ブーケトス憧れるなぁ、とうっとりした表情で語っていた第八の茉希ちゃんを思い出す。ブーケトスでブーケを受け取った女性は次に結婚できるらしい。そういうジンクスがあるのなら、確かにブーケに手を伸ばしたくなるのも頷ける。でもあれって女性限定だったっけ。男性が受け取った場合はどうなるんだろう。
一人そんなことを考えていると、いつの間にか立ち止まっていた紅ちゃんの背に思い切りぶつかった。痛む鼻を摩りながら文句の一つでも言ってやろうと思って顔を上げると、
「ならお前が持ってろ」
振り向いた彼に、持っていた花束を押し付けられる。危うく落としそうになって慌てて両手で抱えるも、その間に紅ちゃんはすたすたと私を置いて歩いて行ってしまっていた。
「待って、紅ちゃん」
私の声に彼は振り向かず、立ち止まりもしない。私は何とかその背中に追いつこうとして、気づいてしまった。黒髪から覗く彼の耳が、赤く染まっていることに。
急に心臓がドキドキし始めて、私は誤魔化すように花束を抱え直した。隣に並んだ紅ちゃんと私の間に流れるのは、不自然なほどの沈黙。
ーーねえ、紅ちゃん。さっきのどういう意味?
聞きたかったけれど、聞けなかった。紅ちゃんの顔もまともに見られない。だって今顔を上げたら、私がどんな顔をしているか紅ちゃんにバレてしまうから。
顔を伏せると、抱えた花束からふわりと甘い香りが漂ってきた。
気になる、けれど。今はいっか。きっとさっきの言葉の意味を知る日は、そう遠くないはずだから。