新門紅丸
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今日はたまたま朝早くに目が覚めて、その流れでいつもより早く庭の草木に水をやった。今はちょうど、コデマリが可愛らしい花を咲かせている。くるりと、広くはない庭に水をやり終えると、お天道様に照らされて青々しい葉が気持ちよさそうにきらきらと光っていた。
そういえば、今日も暑くなるんだっけ。
春は私の好きな季節だ。けれど毎年、早足で駆けて行く。もしかしたら、せっかちな夏に後ろからせっつかれているのかもしれない。それなら納得がいく。私はそんなことを考えながら、玄関先に打ち水をした。
「っ!」
「へ」
人の声にハッと我に返る。そこにいたのは紅丸さん。こんなに天気がいいというのに頭から水を被ったかのようにびしょ濡れで……私は恐る恐る持っていた柄杓に目を遣った。もしかして、いやもしかしなくても。
「随分と威勢の良い打ち水だったなァ」
「ご、ごめんなさい! ちょっとぼうっとしてて」
私は慌てて頭を下げ、家へと戻った。それからすぐに手拭いを持って、再び外へ。
よかったら使ってください、そういう意味で手拭いを差し出したのだけど、紅丸さんは何を思ったのか軽くしゃがんで、頭をこちらに近づけてきた。これは、拭けってことだよね。私はどうしようか少し迷って、彼の頭に手拭いを被せた。そのままわしゃわしゃと濡れた髪を拭う。
紅丸さんはしばらくじっと目を閉じていたけれど、不意にぽつりと口を開いた。
「お前、朝早いんだな」
「え? ああ、今日はたまたま早く目が覚めて。紅丸さんこそ、早起きなんですね」
「俺は賭場の帰りだ。今から詰所で寝る。つってもさっきので目ェ覚めたけどな」
「うっ、それはすみません」
紅丸さんは手拭いの下でクツクツ笑っていた。完全に面白がられてるなあ。水かけたの私だし、何も言い返せないけど。
あらかた水気を拭き取って、手拭いを紅丸さんの頭から退ける。この陽気だし、これくらいなら風邪をひくこともないだろう。
「ありがとよ」
紅丸さんはお礼を言って、私の頭をぽんと撫でた。それと同時に「ぐう」とお腹の鳴る音が響く。私はもう食べたから、私のじゃない。ちらりと紅丸さんを見上げると、ばつが悪そうに目を逸らされた。
「紅丸さん、お腹空いてるんですか?」
「……酒しか飲んでねェからな」
「よかったら家で食べていきませんか。実は早起きして作りすぎちゃって」
いつもは簡単に済ます朝餉だけれど、時間があったからつい作りすぎてしまった。一人で食べきれないくらい作ってしまって、下手したら昼も夜も同じものを食べることになるかもと思っていたのだ。
「こんなんじゃお詫びにもならないですけど、どうでしょう?」
言ってから、紺炉さんが用意しているのではと気づいたけれど、私が言い直すより先に紅丸さんが首を立てに振った。
「お前がいいなら、食う」
その後、紅丸さんは作りすぎた朝餉をぺろりと平らげて、目が覚めたと言った癖に昼寝(朝寝?)までしていった。これも今日限りだろうと思っていたのだけど、この日を境にちょくちょく紅丸さんが家に入り浸ることを、この時の私はまだ知らないのだった。
そういえば、今日も暑くなるんだっけ。
春は私の好きな季節だ。けれど毎年、早足で駆けて行く。もしかしたら、せっかちな夏に後ろからせっつかれているのかもしれない。それなら納得がいく。私はそんなことを考えながら、玄関先に打ち水をした。
「っ!」
「へ」
人の声にハッと我に返る。そこにいたのは紅丸さん。こんなに天気がいいというのに頭から水を被ったかのようにびしょ濡れで……私は恐る恐る持っていた柄杓に目を遣った。もしかして、いやもしかしなくても。
「随分と威勢の良い打ち水だったなァ」
「ご、ごめんなさい! ちょっとぼうっとしてて」
私は慌てて頭を下げ、家へと戻った。それからすぐに手拭いを持って、再び外へ。
よかったら使ってください、そういう意味で手拭いを差し出したのだけど、紅丸さんは何を思ったのか軽くしゃがんで、頭をこちらに近づけてきた。これは、拭けってことだよね。私はどうしようか少し迷って、彼の頭に手拭いを被せた。そのままわしゃわしゃと濡れた髪を拭う。
紅丸さんはしばらくじっと目を閉じていたけれど、不意にぽつりと口を開いた。
「お前、朝早いんだな」
「え? ああ、今日はたまたま早く目が覚めて。紅丸さんこそ、早起きなんですね」
「俺は賭場の帰りだ。今から詰所で寝る。つってもさっきので目ェ覚めたけどな」
「うっ、それはすみません」
紅丸さんは手拭いの下でクツクツ笑っていた。完全に面白がられてるなあ。水かけたの私だし、何も言い返せないけど。
あらかた水気を拭き取って、手拭いを紅丸さんの頭から退ける。この陽気だし、これくらいなら風邪をひくこともないだろう。
「ありがとよ」
紅丸さんはお礼を言って、私の頭をぽんと撫でた。それと同時に「ぐう」とお腹の鳴る音が響く。私はもう食べたから、私のじゃない。ちらりと紅丸さんを見上げると、ばつが悪そうに目を逸らされた。
「紅丸さん、お腹空いてるんですか?」
「……酒しか飲んでねェからな」
「よかったら家で食べていきませんか。実は早起きして作りすぎちゃって」
いつもは簡単に済ます朝餉だけれど、時間があったからつい作りすぎてしまった。一人で食べきれないくらい作ってしまって、下手したら昼も夜も同じものを食べることになるかもと思っていたのだ。
「こんなんじゃお詫びにもならないですけど、どうでしょう?」
言ってから、紺炉さんが用意しているのではと気づいたけれど、私が言い直すより先に紅丸さんが首を立てに振った。
「お前がいいなら、食う」
その後、紅丸さんは作りすぎた朝餉をぺろりと平らげて、目が覚めたと言った癖に昼寝(朝寝?)までしていった。これも今日限りだろうと思っていたのだけど、この日を境にちょくちょく紅丸さんが家に入り浸ることを、この時の私はまだ知らないのだった。