新門紅丸
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まだ二十年そこそこしか生きてないけれど、それなりに恋多き人生を送ってきた。
初めて恋をしたのは三歳の時、お相手は友達みよちゃんのお兄ちゃん。当然相手にされなかったけど、それからは息を吸うように恋をしてきた。きっと私は根っからの恋愛体質なのだろう。
今までお付き合いしてきた人数はもはや両手じゃ足りないほど。常に誰かしらとお付き合いをして、楽しいカップルライフを満喫していた。つい、最近までは。
「紅ちゃんのバカ! おたんちん!」
涙でぐしゃぐしゃになりながら、紅ちゃんこと新門紅丸の胸板をポカポカと殴る。けれど流石は最強の消防官というべきか、結構強めに殴っているのに全く効いている気がしない。そして紅ちゃんはそんな私を止めるでもなく、ただただ見下ろしていた。仏頂面の奥で一体何を考えているのか、その表情からは読み取れない。
「……紅ちゃんなんか、紅ちゃんなんか、大っ嫌い‼︎」
「あァ?」
地を這うような低い声に思わず息を呑む。なんなら怖くて涙も引っ込んだ。さっきまでだんまりを決め込んでいた癖に、どうして急に機嫌が悪くなったのか。さっぱりわからない。
今すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られたが、負けてなるものかと奥歯を噛み締めてなんとか踏み止まる。
「紅ちゃんがいけないのよ。紅ちゃんのせいで私はフラれたんだから」
今までたくさんの恋をしてきた。
ここ数年は恋人が途切れることもなかった。けれどそれは恋してきたのと同じ数だけ、別の恋を終わらせてきたということでもあって。
そしてその原因のほとんどがこの男、新門紅丸にあった。歳も近く弟のように接してきた彼は、私のことも姉として大事に思ってくれているらしく、彼氏ができるたびに俺が見極めてやるから連れて来いと言うのだ。
すると、どうなるか。新門紅丸をよく知る浅草の人たちは「嬢ちゃんを泣かせたら紅ちゃんが怖いからよ」と、まず私と恋人になりたがらない。
では皇国で彼氏をつくると、どうなるか。「新門紅丸」の名前を出した途端にその名を知る人間は、何かと理由をつけて私と疎遠になっていく。知らない場合は会ってくれることもあるけれど、いざ紅ちゃんと対面すると破壊王の威圧にやられて逃げるように私の前からいなくなってしまうのだ。
今日もそうだった。新しくできた恋人は「結婚を前提に」と告白の時に言ってくれるような誠実な人。だからこそ私は結婚するまで紅ちゃんに会わせる気がなかった。私も気づけばいつ結婚してもおかしくない年齢、同じく結婚願望のあるお相手をやすやすと逃すわけにはいかなかったのだ。
そして秘密の逢瀬を重ねて、相手から念願のプロポーズを受けることに成功し、私の両親に挨拶をしたいという彼とともに実家に向かっていた途中。
「おう、久しぶりじゃねェか」
後ろから飛んできた声に、びくりと肩を震わせる。今日私がここに来ることは家族以外誰にも言っていない。なのに何故彼がここにいるのか。ギギギと錆びついたからくりみたいな音を立てながら振り向くと、浅草の破壊王は酔っていないのに口元にうっすらと笑みを浮かべて立っていた。嫌な予感しかしない。しかし隣の恋人はその笑みを好意的に受け取ったらしい。初めましての挨拶に始まり、今日何のためにここに来たのか、全て紅ちゃんに話してしまった。
「へェ、そうかい。そりゃあおめでたいことで。ああ、立ち話も何だから挨拶前に詰所寄ってけよ。色々聞きてェこともあるしな」
そこからはいつも通り。私は紅ちゃんと話す恋人の顔が次第に青くなっていくのを見守ることしかできず、そして彼は「ちょっと御手洗いに」と席を立ったきり、戻ってくることはなかった。きっともう、二度と会うことはないだろう。
「何で邪魔ばっかするのよ」
胸ぐらを掴んで睨みつけるくらいのことをしてやればよかった。けれど思い出したらまた涙が溢れそうになって、紅ちゃんの法被を握りしめたまま俯くことしかできない。
「邪魔じゃねェ。見極めてやってるだけだ。あんな腑抜け、どの道長続きしねェよ」
紅ちゃんの大きな手が伸びてきて、私の頭を引き寄せる。そのまま雑に撫でられて、慰めのつもりだろうか、そもそも私がフラれた原因は君にあるのだけど。怖いんだか、意地悪なんだか、優しいんだか。私はこの弟みたいな幼馴染のことが未だによくわからない。
「じゃあ、どういう人なら紅ちゃんは認めてくれるの?」
「そいつァお前……」
紅ちゃんの厳しすぎる見極め。その基準がわからなければ、私はこのまま一生独り身の可能性もある。じっと紅ちゃんの言葉の続きを待っていると、彼は何か言いたげに口を動かした後、ふいと視線を逸らして呟いた。
「俺より強ェ奴」
「はあ⁈」
そんな人、この世界にいるわけがない。浅草の破壊王。最強の消防官。その強さを目にしたことのある人間なら、それが如何に無理難題かわかるだろう。ふざけないで、とガクガク紅ちゃんを揺するも、彼は「ふざけてねェ」の一点張り。でも口元は笑っている。彼は私を揶揄って楽しんでいるのだ。
「もういい!」
「おい……」
「次こそは紅ちゃんも認めるサイキョーの彼氏を連れてきてやるんだから!」
捨て台詞を吐いて、紅ちゃんの腕から脱出する。
まだ出会ってないだけで、きっとどこかにいるはずだ。紅ちゃんに負けないくらい強い、サイキョーの彼氏候補。
私はまだ見ぬ恋人に想いを馳せながら、浅草を後にした。
初めて恋をしたのは三歳の時、お相手は友達みよちゃんのお兄ちゃん。当然相手にされなかったけど、それからは息を吸うように恋をしてきた。きっと私は根っからの恋愛体質なのだろう。
今までお付き合いしてきた人数はもはや両手じゃ足りないほど。常に誰かしらとお付き合いをして、楽しいカップルライフを満喫していた。つい、最近までは。
「紅ちゃんのバカ! おたんちん!」
涙でぐしゃぐしゃになりながら、紅ちゃんこと新門紅丸の胸板をポカポカと殴る。けれど流石は最強の消防官というべきか、結構強めに殴っているのに全く効いている気がしない。そして紅ちゃんはそんな私を止めるでもなく、ただただ見下ろしていた。仏頂面の奥で一体何を考えているのか、その表情からは読み取れない。
「……紅ちゃんなんか、紅ちゃんなんか、大っ嫌い‼︎」
「あァ?」
地を這うような低い声に思わず息を呑む。なんなら怖くて涙も引っ込んだ。さっきまでだんまりを決め込んでいた癖に、どうして急に機嫌が悪くなったのか。さっぱりわからない。
今すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られたが、負けてなるものかと奥歯を噛み締めてなんとか踏み止まる。
「紅ちゃんがいけないのよ。紅ちゃんのせいで私はフラれたんだから」
今までたくさんの恋をしてきた。
ここ数年は恋人が途切れることもなかった。けれどそれは恋してきたのと同じ数だけ、別の恋を終わらせてきたということでもあって。
そしてその原因のほとんどがこの男、新門紅丸にあった。歳も近く弟のように接してきた彼は、私のことも姉として大事に思ってくれているらしく、彼氏ができるたびに俺が見極めてやるから連れて来いと言うのだ。
すると、どうなるか。新門紅丸をよく知る浅草の人たちは「嬢ちゃんを泣かせたら紅ちゃんが怖いからよ」と、まず私と恋人になりたがらない。
では皇国で彼氏をつくると、どうなるか。「新門紅丸」の名前を出した途端にその名を知る人間は、何かと理由をつけて私と疎遠になっていく。知らない場合は会ってくれることもあるけれど、いざ紅ちゃんと対面すると破壊王の威圧にやられて逃げるように私の前からいなくなってしまうのだ。
今日もそうだった。新しくできた恋人は「結婚を前提に」と告白の時に言ってくれるような誠実な人。だからこそ私は結婚するまで紅ちゃんに会わせる気がなかった。私も気づけばいつ結婚してもおかしくない年齢、同じく結婚願望のあるお相手をやすやすと逃すわけにはいかなかったのだ。
そして秘密の逢瀬を重ねて、相手から念願のプロポーズを受けることに成功し、私の両親に挨拶をしたいという彼とともに実家に向かっていた途中。
「おう、久しぶりじゃねェか」
後ろから飛んできた声に、びくりと肩を震わせる。今日私がここに来ることは家族以外誰にも言っていない。なのに何故彼がここにいるのか。ギギギと錆びついたからくりみたいな音を立てながら振り向くと、浅草の破壊王は酔っていないのに口元にうっすらと笑みを浮かべて立っていた。嫌な予感しかしない。しかし隣の恋人はその笑みを好意的に受け取ったらしい。初めましての挨拶に始まり、今日何のためにここに来たのか、全て紅ちゃんに話してしまった。
「へェ、そうかい。そりゃあおめでたいことで。ああ、立ち話も何だから挨拶前に詰所寄ってけよ。色々聞きてェこともあるしな」
そこからはいつも通り。私は紅ちゃんと話す恋人の顔が次第に青くなっていくのを見守ることしかできず、そして彼は「ちょっと御手洗いに」と席を立ったきり、戻ってくることはなかった。きっともう、二度と会うことはないだろう。
「何で邪魔ばっかするのよ」
胸ぐらを掴んで睨みつけるくらいのことをしてやればよかった。けれど思い出したらまた涙が溢れそうになって、紅ちゃんの法被を握りしめたまま俯くことしかできない。
「邪魔じゃねェ。見極めてやってるだけだ。あんな腑抜け、どの道長続きしねェよ」
紅ちゃんの大きな手が伸びてきて、私の頭を引き寄せる。そのまま雑に撫でられて、慰めのつもりだろうか、そもそも私がフラれた原因は君にあるのだけど。怖いんだか、意地悪なんだか、優しいんだか。私はこの弟みたいな幼馴染のことが未だによくわからない。
「じゃあ、どういう人なら紅ちゃんは認めてくれるの?」
「そいつァお前……」
紅ちゃんの厳しすぎる見極め。その基準がわからなければ、私はこのまま一生独り身の可能性もある。じっと紅ちゃんの言葉の続きを待っていると、彼は何か言いたげに口を動かした後、ふいと視線を逸らして呟いた。
「俺より強ェ奴」
「はあ⁈」
そんな人、この世界にいるわけがない。浅草の破壊王。最強の消防官。その強さを目にしたことのある人間なら、それが如何に無理難題かわかるだろう。ふざけないで、とガクガク紅ちゃんを揺するも、彼は「ふざけてねェ」の一点張り。でも口元は笑っている。彼は私を揶揄って楽しんでいるのだ。
「もういい!」
「おい……」
「次こそは紅ちゃんも認めるサイキョーの彼氏を連れてきてやるんだから!」
捨て台詞を吐いて、紅ちゃんの腕から脱出する。
まだ出会ってないだけで、きっとどこかにいるはずだ。紅ちゃんに負けないくらい強い、サイキョーの彼氏候補。
私はまだ見ぬ恋人に想いを馳せながら、浅草を後にした。