新門紅丸
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最近になって漸く、ひとり時間が楽しいと思えるようになってきた。ひとり映画、ひとり焼肉、ひとり鍋。誰かと時間を共有するのもいいけれど、ひとり時間の楽しさに気づいてからは、次は何をしようかとわくわくする時間が以前よりずっと増えたように思う。
今日はひとりすき焼き。やりたいと思っていたものの、未だできていなかったのだ。
やっと。やっとできる。
目の前の鍋はくつくつと甘い香りを漂わせている。具材には火が通り、卵も溶いた。あとは食べるだけ。ごくりと大きく喉を鳴らしてから、この日のために買った高級牛肉を箸でつまみ上げたところでーー玄関の戸を叩く音が聞こえた。
無視だ、無視無視。そう決め込むも、戸を叩く音は次第に大きく、激しくなっていく。このままでは戸が壊れかねない。はあ、と溜め息を落としてから、私は渋々玄関へと向かった。
「何?」
「お前、それ客に対する態度じゃねェだろ」
「だって呼んだ覚えないし」
玄関の戸を開けると、そこにいたのは幼馴染の紅ちゃんだった。しかもすっかり出来上がっている、にぱにぱ笑顔の愉快王だ。彼は許可してないのにずかずかと上がり込み、
「ちょっと! 私今から晩ご飯なんだけど」
「ちょうどいいじゃねェか。ほらよ、酒持ってきた」
強引に押し付けられた酒瓶が私の腕の中でたぷんと音を立てた。
「いらねェのか」
「いる」
まあお酒に罪はないし、ありがたく頂くけども。
「あーあ、せっかくのひとりすき焼きだったのに」
大げさに肩を落とすと家主より先を行く紅ちゃんが鼻で笑った。
「どうせひとりじゃ食い切れねェ癖に」
「明日も食べるからいいんですー!」
「二人いりゃあ、シメのうどんまで食えるだろうが」
それはその通りだ。でも紅ちゃんがいたら、私はいつまで経ってもひとりすき焼きができないじゃないか。
本当は、ひとりすき焼きに挑戦するのはこれが初めてじゃない。今まで何度もやろうとしてきたのに、その度に悉く紅ちゃんが現れるのだ。八百屋や肉屋で買い物をしている時に会った訳でも、ここからそれなりに距離のある詰所にすき焼きの匂いが届いた訳でもないだろうに。
博打はてんで駄目な癖に、こういう時だけ鋭いんだから。
柔らかな牛肉が私より先に紅ちゃんの口に消えていく。
「うめェな」
「でしょうね」
奮発して買ったお肉だ。そうでなくては困る。
「あ? ネギ入ってねェのかこれ」
「買い忘れたの。最悪だよ。私、あのとろっとしたネギ大好きなのに」
「ねェほうがいいだろ、あんなモン」
大好きなはずなのに、ネギを買い忘れるようになったのはいつからだろうか。甘くてとろっとした、味の染みたネギ。久々に食べたい気もするけれど、きっと私はまた買い忘れることだろう。
どっかの誰かさんが、ひとりすき焼きをさせてくれない限り。
今日はひとりすき焼き。やりたいと思っていたものの、未だできていなかったのだ。
やっと。やっとできる。
目の前の鍋はくつくつと甘い香りを漂わせている。具材には火が通り、卵も溶いた。あとは食べるだけ。ごくりと大きく喉を鳴らしてから、この日のために買った高級牛肉を箸でつまみ上げたところでーー玄関の戸を叩く音が聞こえた。
無視だ、無視無視。そう決め込むも、戸を叩く音は次第に大きく、激しくなっていく。このままでは戸が壊れかねない。はあ、と溜め息を落としてから、私は渋々玄関へと向かった。
「何?」
「お前、それ客に対する態度じゃねェだろ」
「だって呼んだ覚えないし」
玄関の戸を開けると、そこにいたのは幼馴染の紅ちゃんだった。しかもすっかり出来上がっている、にぱにぱ笑顔の愉快王だ。彼は許可してないのにずかずかと上がり込み、
「ちょっと! 私今から晩ご飯なんだけど」
「ちょうどいいじゃねェか。ほらよ、酒持ってきた」
強引に押し付けられた酒瓶が私の腕の中でたぷんと音を立てた。
「いらねェのか」
「いる」
まあお酒に罪はないし、ありがたく頂くけども。
「あーあ、せっかくのひとりすき焼きだったのに」
大げさに肩を落とすと家主より先を行く紅ちゃんが鼻で笑った。
「どうせひとりじゃ食い切れねェ癖に」
「明日も食べるからいいんですー!」
「二人いりゃあ、シメのうどんまで食えるだろうが」
それはその通りだ。でも紅ちゃんがいたら、私はいつまで経ってもひとりすき焼きができないじゃないか。
本当は、ひとりすき焼きに挑戦するのはこれが初めてじゃない。今まで何度もやろうとしてきたのに、その度に悉く紅ちゃんが現れるのだ。八百屋や肉屋で買い物をしている時に会った訳でも、ここからそれなりに距離のある詰所にすき焼きの匂いが届いた訳でもないだろうに。
博打はてんで駄目な癖に、こういう時だけ鋭いんだから。
柔らかな牛肉が私より先に紅ちゃんの口に消えていく。
「うめェな」
「でしょうね」
奮発して買ったお肉だ。そうでなくては困る。
「あ? ネギ入ってねェのかこれ」
「買い忘れたの。最悪だよ。私、あのとろっとしたネギ大好きなのに」
「ねェほうがいいだろ、あんなモン」
大好きなはずなのに、ネギを買い忘れるようになったのはいつからだろうか。甘くてとろっとした、味の染みたネギ。久々に食べたい気もするけれど、きっと私はまた買い忘れることだろう。
どっかの誰かさんが、ひとりすき焼きをさせてくれない限り。