新門紅丸
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「若、はここにもいねェか」
部屋をいくつか見て回ったが、どこにも若の姿はなかった。出かけた様子はねェから詰所のどっかにいるはずなんだが。あと見てねェのは……縁側くらいか。春と言えど、夜はまだ肌寒い。この時間になっても部屋に戻ってねェってことは、大方酒を飲んで寝ちまってるんだろう。ガキの頃はよかったが、デカくなった若を運ぶのは一苦労だ。すんなり起きてくれればいいんだが、まあそうはいかないことは容易に想像できた。
縁側に足を運ぶと予想通り若はそこにいた。柱にもたれて、隣には酒瓶が置かれている。
「おい若。こんなところで寝るんじゃ……」
いつものように声を掛けようとして、途中で口を噤む。眠っていると思っていた若がくるりとこちらに顔を向けたからだ。困り眉をさらに下げ、これでもかと眉間に皺を寄せた若が俺を睨んでいる。怒らせるようなことをした覚えはねェが……。いや、違ェ。あれは無言で俺に助けを求めている顔だ。
一体何があったのかと近づくと、その隣には若に隠れてもう一人。そいつは若にもたれかかってすやすやと寝息を立てていて、浅草の破壊王を枕にするなんてなかなかできることじゃねェ。どこのどいつだと覗き込むと、その怖いもの知らずの正体は、俺もよく知る、若の幼馴染だった。
「なんだ。嬢ちゃん、来てたのか」
気持ちよさそうに眠る嬢ちゃんを起こさねェよう小声で話しかけると、若も詰めていた息を吐くように話し始めた。
「良い酒が手に入ったから付き合えって言っときながら先に潰れやがった。こいつのせいで動けねェ。おい紺炉、何とかしろ」
「本当に何とかしちまっていいんで?」
「あ?」
若が低く唸ると隣の嬢ちゃんが僅かに身動いだ。若はそれきりピタリと動かなくなっちまって、険しい視線だけを俺に寄越した。
これが惚れた弱みというやつか、浅草の破壊王が女一人に何もできないでいる。その様子が可笑しくて、俺はとうとう声を押し殺しつつも笑い出してしまった。
随分とデカくなったが、若は、紅は、まだまだだなァ。
若は昔から嬢ちゃんを好いていた。それは俺の目にも明らかで、いつくっ付くか楽しみにしてたもんだったが、この様子じゃもうしばらくかかりそうだ。
「おい紺炉、どこに行くつもりだ」
「今日は冷えるんで膝掛けでも持って来やす」
立ち上がった俺に若はまだ何か言いたげだったが、気づかないふりをしてその場を後にした。
春の夜はまだ肌寒い。だが若の隣ならよっぽど風邪はひかねェだろう。本当に寒くなったらきっと若が、抱えてでも中に連れ帰る。それにしてもーー。
「本当に、誰に似たンだかなァ」
かつて、あの縁側で同じような光景を見た。あれも確か今日みてェに肌寒い春の夜で。厳つい顔したあの人が、その時ばかりは酷く優しい顔をして「動けねェんだ」と隣を見遣ったのを、俺は今も鮮明に覚えている。
部屋をいくつか見て回ったが、どこにも若の姿はなかった。出かけた様子はねェから詰所のどっかにいるはずなんだが。あと見てねェのは……縁側くらいか。春と言えど、夜はまだ肌寒い。この時間になっても部屋に戻ってねェってことは、大方酒を飲んで寝ちまってるんだろう。ガキの頃はよかったが、デカくなった若を運ぶのは一苦労だ。すんなり起きてくれればいいんだが、まあそうはいかないことは容易に想像できた。
縁側に足を運ぶと予想通り若はそこにいた。柱にもたれて、隣には酒瓶が置かれている。
「おい若。こんなところで寝るんじゃ……」
いつものように声を掛けようとして、途中で口を噤む。眠っていると思っていた若がくるりとこちらに顔を向けたからだ。困り眉をさらに下げ、これでもかと眉間に皺を寄せた若が俺を睨んでいる。怒らせるようなことをした覚えはねェが……。いや、違ェ。あれは無言で俺に助けを求めている顔だ。
一体何があったのかと近づくと、その隣には若に隠れてもう一人。そいつは若にもたれかかってすやすやと寝息を立てていて、浅草の破壊王を枕にするなんてなかなかできることじゃねェ。どこのどいつだと覗き込むと、その怖いもの知らずの正体は、俺もよく知る、若の幼馴染だった。
「なんだ。嬢ちゃん、来てたのか」
気持ちよさそうに眠る嬢ちゃんを起こさねェよう小声で話しかけると、若も詰めていた息を吐くように話し始めた。
「良い酒が手に入ったから付き合えって言っときながら先に潰れやがった。こいつのせいで動けねェ。おい紺炉、何とかしろ」
「本当に何とかしちまっていいんで?」
「あ?」
若が低く唸ると隣の嬢ちゃんが僅かに身動いだ。若はそれきりピタリと動かなくなっちまって、険しい視線だけを俺に寄越した。
これが惚れた弱みというやつか、浅草の破壊王が女一人に何もできないでいる。その様子が可笑しくて、俺はとうとう声を押し殺しつつも笑い出してしまった。
随分とデカくなったが、若は、紅は、まだまだだなァ。
若は昔から嬢ちゃんを好いていた。それは俺の目にも明らかで、いつくっ付くか楽しみにしてたもんだったが、この様子じゃもうしばらくかかりそうだ。
「おい紺炉、どこに行くつもりだ」
「今日は冷えるんで膝掛けでも持って来やす」
立ち上がった俺に若はまだ何か言いたげだったが、気づかないふりをしてその場を後にした。
春の夜はまだ肌寒い。だが若の隣ならよっぽど風邪はひかねェだろう。本当に寒くなったらきっと若が、抱えてでも中に連れ帰る。それにしてもーー。
「本当に、誰に似たンだかなァ」
かつて、あの縁側で同じような光景を見た。あれも確か今日みてェに肌寒い春の夜で。厳つい顔したあの人が、その時ばかりは酷く優しい顔をして「動けねェんだ」と隣を見遣ったのを、俺は今も鮮明に覚えている。