新門紅丸
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第八の茉希ちゃんに「ぜひやってみてください」と渡されたのは皇国のボードゲームというものだった。
キュンとするのではと買ったらしいのだが、茉希ちゃんの表情から察するに、期待通りとはいかなかったみたいだ。それでも面白いらしいので、第七では果たしてどうなるか。
「あひぇひぇひぇ! 成金みてェ」
「うひぇひぇひぇ! こんだけありゃァ菓子がたんまり買えるなァ」
長い袖をまくって珍しく顔を出した小さな手には色とりどりの指輪がはめられている。
花より団子ならぬ、ゲームよりおもちゃの指輪。カードに書かれた漢字も全部読めるわけではないので仕方がない。
町のみんなに見せびらかすのだと詰所を飛び出す双子の後ろ姿を見送って、ゲームの説明書を読んでみる。
確かに面白そうではあるけれど、浅草には縁遠いものだ。プロポーズも指輪を贈る習慣もここにはない。
「散らかしてんじゃねェ」
「ああ、ごめんね紅ちゃん」
居間に顔を出した彼は何か踏んだと足を上げた。ひょいと拾い上げたそれは見覚えのある指輪で、はしゃいだ子狐たちが落として行ったらしい。
受け取ろうと手を伸ばすとその手を取られ、するりと指のあいだを冷たいものが掠めた。かさついた手が離れたあとに目をやると、そこには小さな赤が煌めいていた。
「わあ……!」
自分の指にはめられる日がくるとは夢にも思わなくて、子どもみたいな声が出る。
よく見ようと顔の位置まで手を上げると、指輪と同じ色の瞳がじぃ、とこちらを見つめていた。
「そんなんで喜びすぎだ」
「だって嬉しいんだもの」
「ガキかよ」
鼻で笑われようが、嬉しいものは嬉しいのだから仕方ない。好きな相手からの指輪は、たとえおもちゃであろうと特別な意味を持つ。はめられたのが左手の薬指なら尚のこと。
「ねえ、どうしてこの指に?」
薬指を彩る小さな赤を指先でなぞる。
皇国の風習を原国主義の彼が知るはずもない。だからこれは、きっと、たまたま。
「何となく」だとか、「何の話だ?」だとか。そんな答えが返ってくるのだろうなと思っていると、くいと手を引っ張られた。眼前に指輪の赤が霞むほどの鮮烈な紅が飛び込んできて息を呑む。彼の顔には酔っていないのに愉快そうな、否、不敵な笑みが浮かんでいる。
「意味なんてひとつしかねェだろうが」
知らねェなら教えてやると耳元で愛の言葉を紡ぎ始める彼に、とうに射抜かれた心臓では保たないと、私は慌てて待ったをかけるのだった。
キュンとするのではと買ったらしいのだが、茉希ちゃんの表情から察するに、期待通りとはいかなかったみたいだ。それでも面白いらしいので、第七では果たしてどうなるか。
「あひぇひぇひぇ! 成金みてェ」
「うひぇひぇひぇ! こんだけありゃァ菓子がたんまり買えるなァ」
長い袖をまくって珍しく顔を出した小さな手には色とりどりの指輪がはめられている。
花より団子ならぬ、ゲームよりおもちゃの指輪。カードに書かれた漢字も全部読めるわけではないので仕方がない。
町のみんなに見せびらかすのだと詰所を飛び出す双子の後ろ姿を見送って、ゲームの説明書を読んでみる。
確かに面白そうではあるけれど、浅草には縁遠いものだ。プロポーズも指輪を贈る習慣もここにはない。
「散らかしてんじゃねェ」
「ああ、ごめんね紅ちゃん」
居間に顔を出した彼は何か踏んだと足を上げた。ひょいと拾い上げたそれは見覚えのある指輪で、はしゃいだ子狐たちが落として行ったらしい。
受け取ろうと手を伸ばすとその手を取られ、するりと指のあいだを冷たいものが掠めた。かさついた手が離れたあとに目をやると、そこには小さな赤が煌めいていた。
「わあ……!」
自分の指にはめられる日がくるとは夢にも思わなくて、子どもみたいな声が出る。
よく見ようと顔の位置まで手を上げると、指輪と同じ色の瞳がじぃ、とこちらを見つめていた。
「そんなんで喜びすぎだ」
「だって嬉しいんだもの」
「ガキかよ」
鼻で笑われようが、嬉しいものは嬉しいのだから仕方ない。好きな相手からの指輪は、たとえおもちゃであろうと特別な意味を持つ。はめられたのが左手の薬指なら尚のこと。
「ねえ、どうしてこの指に?」
薬指を彩る小さな赤を指先でなぞる。
皇国の風習を原国主義の彼が知るはずもない。だからこれは、きっと、たまたま。
「何となく」だとか、「何の話だ?」だとか。そんな答えが返ってくるのだろうなと思っていると、くいと手を引っ張られた。眼前に指輪の赤が霞むほどの鮮烈な紅が飛び込んできて息を呑む。彼の顔には酔っていないのに愉快そうな、否、不敵な笑みが浮かんでいる。
「意味なんてひとつしかねェだろうが」
知らねェなら教えてやると耳元で愛の言葉を紡ぎ始める彼に、とうに射抜かれた心臓では保たないと、私は慌てて待ったをかけるのだった。