新門紅丸
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目の前には眠たげに欠伸する『私』が胡座をかいていて、慌ててはだけた胸元と開いた足を閉じさせる。
「ちょっと紅ちゃん、私の姿でそんなはしたない格好しないでよ!」
「ア? お前こそ俺のナリでそんな情けねェ面してンじゃねェ」
部屋に飛び交うのは裏声で話す男とドスの利いた声で話す女の会話。声の主はもちろん紅ちゃんこと新門紅丸とこの私、なのだけど……。挙動はいつもとまるで逆。紺兄さんが見たら卒倒するかもしれない。状況を説明しようにも、朝起きたら入れ替わってました、と言ったところで誰が信じるだろう。それにしても、
「なんでこんなことに……」
物事には必ず原因がある。だからこの入れ替わりにも何かしら原因があるはずで、私は必死に昨日の記憶を呼び起こした。起きて、ご飯を作って、掃除して。普段とそう変わらない一日だったと思う。
「あ」
あった、いつもと違うこと。
「昨日の夜、紅ちゃんに頭突きされたんだった」
「覚えてねェな」
「あれすっごく痛かった」
寝る前に、しこたまお酒を飲んで帰ってきた紅ちゃんに捕まって、ゴツンと頭をやられた。本人的にはすり寄ったつもりだったみたいだけど、酔っ払いに力加減なんてあったものじゃない。たんこぶが出来たんじゃないかと思うくらい痛かった。多分、いや間違いなくあれが原因だ。
「おい、何してる」
無言で『私』ーーこの場合は紅ちゃん? ややこしいなーーの両肩を掴むと何かを察したのか、ぴくりと片眉が上がった。
頭突きで入れ替わったのなら、もう一度頭突きをすればいい。
なんて、そんな単純な話ではないのかもしれないけれど、これが一番戻る可能性が高い方法だと思う。でも紅ちゃんはそれが心底嫌らしく、何とか逃げようと必死に身を捩っていた。
「駄目だよ逃げちゃ」
「離せ、やめろ」
逃げられたらどうしようかと思ったが杞憂だった。流石は『紅ちゃん』と言うべきか、どれだけ『私』が暴れようと簡単に押さえ込めてしまう。紅ちゃんも無駄だとわかったようで、盛大に舌打ちをして、すぐに抵抗しなくなった。あとは頭突きをするだけ。痛いのは嫌だけど、昨日と同じくらいの力で……このくらい?
ごちん、と鈍い音がすると同時に呻き声が聞こえた。顔を上げると『私』が蹲っていて、「ちったぁ手加減しろ、馬鹿力が」と悪態を吐かれた。紅ちゃんの身体なんだけど。
「ごめん、強すぎた⁈」
紅ちゃんの頑丈さまでは考慮してなかった。『私』のおでこが赤くなっている。これは腫れそうだな、なんて思っていると予想は的中し、時間が経つにつれて『私』のおでこは痛々しく腫れ上がった。昨日はなかったたんこぶだ。
「……戻らねェな」
おでこを抑えながら紅ちゃんが言う。あれから半刻、戻る気配は一向にない。頭突きが原因じゃないとすれば他に何がーー。けれど考えても考えてもそれらしいものには思い当たらない。
もし戻れなかったら。一生このままだったらどうしよう。
不安で胸がいっぱいになる。じわりと視界が滲み耐えるように唇を噛んでいると、頭にふわりとあたたかさを感じた。
「辛気臭ェ面してンじゃねェ。一晩寝たら戻るかもしれねェだろ」
慰めにしては少しばかり乱暴に頭を撫でられる。わしゃわしゃと、まるで犬を撫でるような撫で方に思わず吹き出すと、より容赦がなくなった。その顔には彼らしい笑みが浮かんでいて、さっきまでの不安が嘘みたいに解けていく。ただ『私』の表情筋は紅ちゃんが思っている以上にゆるゆるなので、傍から見たらものすごい笑顔なのだけど。それを言ったら無表情になってしまいそうなので内緒にしておこう。『私』の身体ではあるけれど、こんな風に笑う紅ちゃんは貴重だ。
「ありがと、紅ちゃん。元気出た」
「ン」
「これからどうしよっか?」
「考えたってなるようにしかならねェだろ」
それもそうだ。信じてもらえるかはわからないけど、取り敢えず紺兄さんに事情を伝えれば上手いこと取り計らってくれるだろうし。
「じゃあ今日はこのまま詰所で大人しく……って、紅ちゃんどこ行くの?」
「あー……風呂」
「こら」
しれっと出て行こうとする『私』の首根っこを掴んで部屋に引きずり込む。全く、油断も隙もない。
「ちょっと紅ちゃん、私の姿でそんなはしたない格好しないでよ!」
「ア? お前こそ俺のナリでそんな情けねェ面してンじゃねェ」
部屋に飛び交うのは裏声で話す男とドスの利いた声で話す女の会話。声の主はもちろん紅ちゃんこと新門紅丸とこの私、なのだけど……。挙動はいつもとまるで逆。紺兄さんが見たら卒倒するかもしれない。状況を説明しようにも、朝起きたら入れ替わってました、と言ったところで誰が信じるだろう。それにしても、
「なんでこんなことに……」
物事には必ず原因がある。だからこの入れ替わりにも何かしら原因があるはずで、私は必死に昨日の記憶を呼び起こした。起きて、ご飯を作って、掃除して。普段とそう変わらない一日だったと思う。
「あ」
あった、いつもと違うこと。
「昨日の夜、紅ちゃんに頭突きされたんだった」
「覚えてねェな」
「あれすっごく痛かった」
寝る前に、しこたまお酒を飲んで帰ってきた紅ちゃんに捕まって、ゴツンと頭をやられた。本人的にはすり寄ったつもりだったみたいだけど、酔っ払いに力加減なんてあったものじゃない。たんこぶが出来たんじゃないかと思うくらい痛かった。多分、いや間違いなくあれが原因だ。
「おい、何してる」
無言で『私』ーーこの場合は紅ちゃん? ややこしいなーーの両肩を掴むと何かを察したのか、ぴくりと片眉が上がった。
頭突きで入れ替わったのなら、もう一度頭突きをすればいい。
なんて、そんな単純な話ではないのかもしれないけれど、これが一番戻る可能性が高い方法だと思う。でも紅ちゃんはそれが心底嫌らしく、何とか逃げようと必死に身を捩っていた。
「駄目だよ逃げちゃ」
「離せ、やめろ」
逃げられたらどうしようかと思ったが杞憂だった。流石は『紅ちゃん』と言うべきか、どれだけ『私』が暴れようと簡単に押さえ込めてしまう。紅ちゃんも無駄だとわかったようで、盛大に舌打ちをして、すぐに抵抗しなくなった。あとは頭突きをするだけ。痛いのは嫌だけど、昨日と同じくらいの力で……このくらい?
ごちん、と鈍い音がすると同時に呻き声が聞こえた。顔を上げると『私』が蹲っていて、「ちったぁ手加減しろ、馬鹿力が」と悪態を吐かれた。紅ちゃんの身体なんだけど。
「ごめん、強すぎた⁈」
紅ちゃんの頑丈さまでは考慮してなかった。『私』のおでこが赤くなっている。これは腫れそうだな、なんて思っていると予想は的中し、時間が経つにつれて『私』のおでこは痛々しく腫れ上がった。昨日はなかったたんこぶだ。
「……戻らねェな」
おでこを抑えながら紅ちゃんが言う。あれから半刻、戻る気配は一向にない。頭突きが原因じゃないとすれば他に何がーー。けれど考えても考えてもそれらしいものには思い当たらない。
もし戻れなかったら。一生このままだったらどうしよう。
不安で胸がいっぱいになる。じわりと視界が滲み耐えるように唇を噛んでいると、頭にふわりとあたたかさを感じた。
「辛気臭ェ面してンじゃねェ。一晩寝たら戻るかもしれねェだろ」
慰めにしては少しばかり乱暴に頭を撫でられる。わしゃわしゃと、まるで犬を撫でるような撫で方に思わず吹き出すと、より容赦がなくなった。その顔には彼らしい笑みが浮かんでいて、さっきまでの不安が嘘みたいに解けていく。ただ『私』の表情筋は紅ちゃんが思っている以上にゆるゆるなので、傍から見たらものすごい笑顔なのだけど。それを言ったら無表情になってしまいそうなので内緒にしておこう。『私』の身体ではあるけれど、こんな風に笑う紅ちゃんは貴重だ。
「ありがと、紅ちゃん。元気出た」
「ン」
「これからどうしよっか?」
「考えたってなるようにしかならねェだろ」
それもそうだ。信じてもらえるかはわからないけど、取り敢えず紺兄さんに事情を伝えれば上手いこと取り計らってくれるだろうし。
「じゃあ今日はこのまま詰所で大人しく……って、紅ちゃんどこ行くの?」
「あー……風呂」
「こら」
しれっと出て行こうとする『私』の首根っこを掴んで部屋に引きずり込む。全く、油断も隙もない。