新門紅丸
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「「とりっくおあとりーとだコラァ‼︎」」
黄色の髪帯の代わりにピンと立つのは三角の耳、両頬には三本ずつ描かれた可愛らしいヒゲ。せがむように双子の子狐がぴょんぴょんと跳ねている。それに合わせてふわふわのしっぽが揺れるのが何とも可愛らしい。
「「菓子よこさねェと燃やしちまうぞ!」」
「はいはい、ちょっと待ってね」
長い袖に隠れた手のひらに今朝作ったクッキーの包みを乗せると、ヒカゲとヒナタの顔がぱぁっと明るくなる。
「うひェひェ、菓子だ菓子」
「あひェひェ、いいもん持ってンじゃねェか」
「「燃やすのは勘弁しといてやらァ!」」
よかった。火縄さんに作り方を教わって初めて作ってみたけれど、喜んでくれたみたいだ。二人は大事そうに紙包みを抱え、恐らく他にも押しかけるつもりなのだろう、にんまり悪戯っぽく顔を見合わせて詰所を飛び出して行った。
さすがに本当に燃やしたりはしないよね。でもあの双子たちならやりかねない。若い衆たちの仕事が増えないことを祈りながら私は余ったクッキーを齧った。初めてにしては上手く出来たと思う。でもどうしても焼きムラはあるもので、残っているのは少し焦げてしまったものだ。食べられないことはないけれど、ちょっぴり苦い。
「甘ェ匂いがするな」
「紅ちゃん」
いつの間に散歩から帰ってきたのか、台所に顔を出した彼が怪訝な表情で私の手元を覗く。
「菓子か」
「皇国のクッキーっていうお菓子だよ。今日はハロウィンとかいうお祭りらしいから特別にね」
皇国と聞いて彼の眉間に寄った皺がぐっと深くなる。予想通りの反応に苦笑していると「ン」と手が伸びてきて、思わず目を丸くする。
「皇国のお菓子だよ?」
「あァ」
「甘いよ? あと焦げてる」
「いいから寄越せ」
大丈夫だろうか。でも忠告はした。紅ちゃんの手のひらに一枚、なるべく焦げてないものを渡す。ぱくりと一口でいった彼はゆっくりと咀嚼し、あろうことかまた手を伸ばしてきた。そのまま数枚食べ続け、
「甘ェ」
「だから言ったのに。無理しなくても……」
一枚手に取った彼がもう一枚を私の手のひらに乗せた。
「なに?」
「それで最後だろ。食うかどうかはお前が決めろ」
そう言って彼は自分のクッキーを平らげた。懲りずに「甘ェ」と零して。指に付いた菓子屑を舐めとる彼と目が合って、柔く下がる目尻に、瞳の奥に宿る熱に心臓が跳ねる。
なんてタチの悪い宣戦布告だ。しかも私に決めさせるだなんて。
私は逃げるように手に持ったクッキーに視線を落とした。最後の一枚。もうお菓子はない。これがなくなったらーー。
ガリッと硬い音が響く。硬くて苦い。苦すぎて嫌になる。だから、
「酷くしないでね」
「約束はしてやれねェ」
甘ェのは嫌いだからな、そう告げる彼の口付けはくらくらする程甘かった。
黄色の髪帯の代わりにピンと立つのは三角の耳、両頬には三本ずつ描かれた可愛らしいヒゲ。せがむように双子の子狐がぴょんぴょんと跳ねている。それに合わせてふわふわのしっぽが揺れるのが何とも可愛らしい。
「「菓子よこさねェと燃やしちまうぞ!」」
「はいはい、ちょっと待ってね」
長い袖に隠れた手のひらに今朝作ったクッキーの包みを乗せると、ヒカゲとヒナタの顔がぱぁっと明るくなる。
「うひェひェ、菓子だ菓子」
「あひェひェ、いいもん持ってンじゃねェか」
「「燃やすのは勘弁しといてやらァ!」」
よかった。火縄さんに作り方を教わって初めて作ってみたけれど、喜んでくれたみたいだ。二人は大事そうに紙包みを抱え、恐らく他にも押しかけるつもりなのだろう、にんまり悪戯っぽく顔を見合わせて詰所を飛び出して行った。
さすがに本当に燃やしたりはしないよね。でもあの双子たちならやりかねない。若い衆たちの仕事が増えないことを祈りながら私は余ったクッキーを齧った。初めてにしては上手く出来たと思う。でもどうしても焼きムラはあるもので、残っているのは少し焦げてしまったものだ。食べられないことはないけれど、ちょっぴり苦い。
「甘ェ匂いがするな」
「紅ちゃん」
いつの間に散歩から帰ってきたのか、台所に顔を出した彼が怪訝な表情で私の手元を覗く。
「菓子か」
「皇国のクッキーっていうお菓子だよ。今日はハロウィンとかいうお祭りらしいから特別にね」
皇国と聞いて彼の眉間に寄った皺がぐっと深くなる。予想通りの反応に苦笑していると「ン」と手が伸びてきて、思わず目を丸くする。
「皇国のお菓子だよ?」
「あァ」
「甘いよ? あと焦げてる」
「いいから寄越せ」
大丈夫だろうか。でも忠告はした。紅ちゃんの手のひらに一枚、なるべく焦げてないものを渡す。ぱくりと一口でいった彼はゆっくりと咀嚼し、あろうことかまた手を伸ばしてきた。そのまま数枚食べ続け、
「甘ェ」
「だから言ったのに。無理しなくても……」
一枚手に取った彼がもう一枚を私の手のひらに乗せた。
「なに?」
「それで最後だろ。食うかどうかはお前が決めろ」
そう言って彼は自分のクッキーを平らげた。懲りずに「甘ェ」と零して。指に付いた菓子屑を舐めとる彼と目が合って、柔く下がる目尻に、瞳の奥に宿る熱に心臓が跳ねる。
なんてタチの悪い宣戦布告だ。しかも私に決めさせるだなんて。
私は逃げるように手に持ったクッキーに視線を落とした。最後の一枚。もうお菓子はない。これがなくなったらーー。
ガリッと硬い音が響く。硬くて苦い。苦すぎて嫌になる。だから、
「酷くしないでね」
「約束はしてやれねェ」
甘ェのは嫌いだからな、そう告げる彼の口付けはくらくらする程甘かった。