新門紅丸
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最近、双子の間で「相手の背中に文字を書いて当てっこする」遊びが流行っているらしい。
私も何度か捕まって双子の相手をしてはお菓子を貢いだものだった。 そして今日は何とも珍しい人が捕まっている。
我らが浅草の破壊王こと紅さんだ。
遊びに付き合うまいと拒んでいるようだけれど、双子は袖を引っ張り無理やり紅さんを縁側に座らせた。
夕餉の買い出し前に面白いものが見れそうだ、と私はこっそりその様子を覗き見る。
「若いくぞー! 外れたら菓子だからな!」
「当たっても菓子寄越せよ!」
「菓子なんざ持ってねェよ」
紅さんの返答を待つ前に双子は背中に指を走らせた。
「おい待て。二人同時に書くんじゃねェ」
「「文句なら受け付けてねェぞ」」
一体何人の人が双子に泣かされたことだろうか。
最初のうちは一人ずつ書いてくれていたのだが、簡単に当てられるのが面白くなかったようで、とうとう二人同時に書き始めるという禁断の技を編み出したのだ。
しかも片方は文字、片方は絵なんてこともある。
紅さんもこの技の餌食になっているようで。
眉間に皺を寄せて「わからねェ」と呟く姿が可愛いくて、思わず笑みがこぼれる。
「で、てめェはいつまで見てるつもりだ?」
「え?」
前を向いたまま紅さんが言った。こちらを見ていないのに間違いなく私に向けて発されたものだ。
言葉の意味に気づいた双子がこちらに振り向き、すぱぁんと襖を開ける。
「「うひェひェひェひェ」」
どうしてこんなことに……。
まぁ覗き見していた私が悪いのだけれど。
双子に見つかった私はあれよあれよと引っ張られ、紅さんの背中とにらめっこする形で正座させられていた。
「ヒカゲ、ヒナタ。居間にババァの大福が死ぬほど置いてある。勝負が終わるまでの間、好きなだけ食っていい」
「だ、だめですよ! ご飯前なのにそんな……って、勝負?」
「マジか、男に二言はねェぜ若!」
「ババァの死に光食べ放題だぜ!」
いやいや待って! ご飯が食べられなくなるからヒカゲとヒナタには大福食べすぎないようにって言ってあるのに。
制止虚しく双子は居間へと走り去っていく。
「あいつらを止めたきゃ俺に勝てばいい。俺が間違えたらお前の勝ちだ。何処へなりとも行っていい」
つまり紅さんが間違えるまで私はここから動けない、ということか。ずいぶんと勝つ自信があるようだけれど、私だって負けるつもりはない。
「わかりました。受けて立ちましょう!」
双子に夕餉を残させないためにも……‼︎
人差し指でそっと紅さんの背中に触れる。
法被の上からでもじんわりと自分のものではない体温を感じて変に意識してしまう。
「では、参ります」
一呼吸置いて、指を動かす。
「だんご」
「まだ一文字目なんですけど答えるの早くないですか?」
「合ってンだろ」
「合ってますけど……」
最後まで書き終わる前に当てられるのはなかなかに悔しい。私がもう一人いれば双子の技が使えるのに。
ぐぬぬと唇を噛みながら私は文字を書き続ける。
すいか、りんご、おはぎ、わたがし。
書いた文字はことごとく当てられて、私は一向にこの場から動けない。しかもどれも最後まで書かせてもらえていない。
「食いもんばっかだな。腹減ってんのか」
「減ってますよ! 夕餉の買い出しにも行けないし」
紅さんは少しだけ顔をこちらに向けて、瞳をやわらかく細めた。
ああ、ずるいなぁ。
浅草を背負う彼の時折見せるこの表情に、私はめっぽう弱いのだ。
あたたかくて、優しくて、胸がいっぱいになる。
夕七つ。暮れゆく日も相まって紅い瞳がどうしようもなく綺麗で、思わず見惚れてしまうほどだ。
次、と催促されて我に返った私は、紅さんの顔を無理やり前に向ける。
「次は……絶対に当てられませんから」
思っていたよりも広い背中に今までで一番大きく、ゆっくりと指を滑らす。
「くすぐってェ」
ぴくりと肩を揺らす紅さんに我慢するように言って、私は二文字目を書き終える。ゆっくりと息を吐いて指を離せば、
「あー、これはあれだ。すきやき」
夕餉にでもするのか、と紅さんが言った。
私はきゅっと口を引き結ぶ。
今日初めて、ちゃんと最後まで書けた言葉。
守るものの多い彼の重荷ににはなりたくないから一生伝えるつもりはないけれど、遊びの間くらいは許してほしい。
「さすが紅さん! また当てられちゃったなー」
何事もなかったかのように、へらりと笑ってみせる。
大丈夫、気持ちを押し隠すことには慣れている。
これはただの文字遊び。
遊びの中でしか伝えられない気持ちは、迫る夕闇に溶け込んで行くから。
だから本当の答えはどうか、当てないでーー。
「紅……さん……?」
気づくと私は紅さんに引き寄せられていた。
「ちょ、紅さん離して……!」
抵抗すればするほど逃すまいと、きつく抱きしめられる。
「俺の負け、か」
「どうして……?私、さっき合ってるって言いましたよ」
顔を上げて抗議しようとすれば、大きな手で頭を押さえつけられた。
「ンなの、顔見りゃ嘘かどうかくらいわかる」
伝わる体温が熱くて、勘違いしそうになる。
「てめェの勝ちだ。どっか行きてェなら振りほどいても構わねェが、逃げねェなら覚悟しろよ」
「そんなの……そんなの、ずるいじゃないですか」
逃げてもいいなんて言いながら、抱きしめる力は強くなる。それを知っていて彼の背に腕を回す私もずるい人間だ。
「ああ、だから『遊び』は終いだ」
そんなことを言われたら、この気持ちに歯止めが効かなくなってしまう。
それでもいいのかと問うように見上げれば、応えるように紅さんの指が頬を撫でた。
高い体温もはやる鼓動も、もはやどちらのものとも分からない。
夕闇より前に落ちてくる影に、私はゆっくりと目を閉じた。
私も何度か捕まって双子の相手をしてはお菓子を貢いだものだった。 そして今日は何とも珍しい人が捕まっている。
我らが浅草の破壊王こと紅さんだ。
遊びに付き合うまいと拒んでいるようだけれど、双子は袖を引っ張り無理やり紅さんを縁側に座らせた。
夕餉の買い出し前に面白いものが見れそうだ、と私はこっそりその様子を覗き見る。
「若いくぞー! 外れたら菓子だからな!」
「当たっても菓子寄越せよ!」
「菓子なんざ持ってねェよ」
紅さんの返答を待つ前に双子は背中に指を走らせた。
「おい待て。二人同時に書くんじゃねェ」
「「文句なら受け付けてねェぞ」」
一体何人の人が双子に泣かされたことだろうか。
最初のうちは一人ずつ書いてくれていたのだが、簡単に当てられるのが面白くなかったようで、とうとう二人同時に書き始めるという禁断の技を編み出したのだ。
しかも片方は文字、片方は絵なんてこともある。
紅さんもこの技の餌食になっているようで。
眉間に皺を寄せて「わからねェ」と呟く姿が可愛いくて、思わず笑みがこぼれる。
「で、てめェはいつまで見てるつもりだ?」
「え?」
前を向いたまま紅さんが言った。こちらを見ていないのに間違いなく私に向けて発されたものだ。
言葉の意味に気づいた双子がこちらに振り向き、すぱぁんと襖を開ける。
「「うひェひェひェひェ」」
どうしてこんなことに……。
まぁ覗き見していた私が悪いのだけれど。
双子に見つかった私はあれよあれよと引っ張られ、紅さんの背中とにらめっこする形で正座させられていた。
「ヒカゲ、ヒナタ。居間にババァの大福が死ぬほど置いてある。勝負が終わるまでの間、好きなだけ食っていい」
「だ、だめですよ! ご飯前なのにそんな……って、勝負?」
「マジか、男に二言はねェぜ若!」
「ババァの死に光食べ放題だぜ!」
いやいや待って! ご飯が食べられなくなるからヒカゲとヒナタには大福食べすぎないようにって言ってあるのに。
制止虚しく双子は居間へと走り去っていく。
「あいつらを止めたきゃ俺に勝てばいい。俺が間違えたらお前の勝ちだ。何処へなりとも行っていい」
つまり紅さんが間違えるまで私はここから動けない、ということか。ずいぶんと勝つ自信があるようだけれど、私だって負けるつもりはない。
「わかりました。受けて立ちましょう!」
双子に夕餉を残させないためにも……‼︎
人差し指でそっと紅さんの背中に触れる。
法被の上からでもじんわりと自分のものではない体温を感じて変に意識してしまう。
「では、参ります」
一呼吸置いて、指を動かす。
「だんご」
「まだ一文字目なんですけど答えるの早くないですか?」
「合ってンだろ」
「合ってますけど……」
最後まで書き終わる前に当てられるのはなかなかに悔しい。私がもう一人いれば双子の技が使えるのに。
ぐぬぬと唇を噛みながら私は文字を書き続ける。
すいか、りんご、おはぎ、わたがし。
書いた文字はことごとく当てられて、私は一向にこの場から動けない。しかもどれも最後まで書かせてもらえていない。
「食いもんばっかだな。腹減ってんのか」
「減ってますよ! 夕餉の買い出しにも行けないし」
紅さんは少しだけ顔をこちらに向けて、瞳をやわらかく細めた。
ああ、ずるいなぁ。
浅草を背負う彼の時折見せるこの表情に、私はめっぽう弱いのだ。
あたたかくて、優しくて、胸がいっぱいになる。
夕七つ。暮れゆく日も相まって紅い瞳がどうしようもなく綺麗で、思わず見惚れてしまうほどだ。
次、と催促されて我に返った私は、紅さんの顔を無理やり前に向ける。
「次は……絶対に当てられませんから」
思っていたよりも広い背中に今までで一番大きく、ゆっくりと指を滑らす。
「くすぐってェ」
ぴくりと肩を揺らす紅さんに我慢するように言って、私は二文字目を書き終える。ゆっくりと息を吐いて指を離せば、
「あー、これはあれだ。すきやき」
夕餉にでもするのか、と紅さんが言った。
私はきゅっと口を引き結ぶ。
今日初めて、ちゃんと最後まで書けた言葉。
守るものの多い彼の重荷ににはなりたくないから一生伝えるつもりはないけれど、遊びの間くらいは許してほしい。
「さすが紅さん! また当てられちゃったなー」
何事もなかったかのように、へらりと笑ってみせる。
大丈夫、気持ちを押し隠すことには慣れている。
これはただの文字遊び。
遊びの中でしか伝えられない気持ちは、迫る夕闇に溶け込んで行くから。
だから本当の答えはどうか、当てないでーー。
「紅……さん……?」
気づくと私は紅さんに引き寄せられていた。
「ちょ、紅さん離して……!」
抵抗すればするほど逃すまいと、きつく抱きしめられる。
「俺の負け、か」
「どうして……?私、さっき合ってるって言いましたよ」
顔を上げて抗議しようとすれば、大きな手で頭を押さえつけられた。
「ンなの、顔見りゃ嘘かどうかくらいわかる」
伝わる体温が熱くて、勘違いしそうになる。
「てめェの勝ちだ。どっか行きてェなら振りほどいても構わねェが、逃げねェなら覚悟しろよ」
「そんなの……そんなの、ずるいじゃないですか」
逃げてもいいなんて言いながら、抱きしめる力は強くなる。それを知っていて彼の背に腕を回す私もずるい人間だ。
「ああ、だから『遊び』は終いだ」
そんなことを言われたら、この気持ちに歯止めが効かなくなってしまう。
それでもいいのかと問うように見上げれば、応えるように紅さんの指が頬を撫でた。
高い体温もはやる鼓動も、もはやどちらのものとも分からない。
夕闇より前に落ちてくる影に、私はゆっくりと目を閉じた。
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