新門紅丸
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かすかに鼓膜を震わせる声に目を覚ました。
寝返りを打って見上げれば、愛おしそうに細められた瞳がこちらを向いていて、ヒカゲやヒナタに向けられるそれとは違う眼差しに気を良くする。
「何笑ってやがる」
「ごめん、起こしちゃった?ふふ、幸せだなと思って」
そう言って、こいつは細い指で俺の髪を梳いた。
卵を割ったら双子だったとか、味噌汁が上手く作れただとか、八百屋でまけてもらっただとか。
ほんのささいな幸せを唄うように語るのを聴きながら、俺は再び寝返りを打ち、ぼんやりと何もない裏庭を見つめた。
「紅ちゃんは、どうだった?」
降ってくる声に今日という日を遡る。
ヒカゲとヒナタに朝っぱらから起こされた。そのあとは町を散歩して、昼間から銭湯に行って、飲んで、賭場で紺炉に連れ戻されて。
酔いが醒めるまで付き合えと、縁側で居合わせたこいつの膝を枕にして、すっかり寝こけていたらしい。
こいつの抱えていた洗濯物はとっくに畳み終わって積まれているし、日も暮れかけている。
どんな日だったと問われれば、
「何もしてねェ」
その一言に尽きる。
今もだらりと横になるだけで、そろそろ足が痺れたと小言を言われてもおかしくないのだが、こいつはくすくす笑って俺の頭を撫でてくる。
「そっか。それはよかった」
遠くで暮れ六つを告げる鐘が鳴った。そろそろヒカゲとヒナタが帰ってくる頃だ。
台所のほうから小気味良い音が聞こえてきて、紺炉が夕餉は親子丼だと言っていたのを思い出す。
夕暮れ時の少し肌寒いくらいの風に身を縮めると、あたたかな手のひらが頬を撫でた。
花とも香とも違う甘い香りがふわりと漂ってきてやっと、『何もしていない』ことを実感する。ざらついた灰も、燻る焦げ臭さも。今日は何もなかった。
「明日もいい日だといいね」
「あァ、そうだな」
祈りのように囁かれた言葉を耳に、目を閉じる。
明日も明後日も、その先もそうであったなら。いつかは、くだらないことで笑って、気が済むまで酒を飲める日が来るだろうか。
ヒカゲとヒナタ、紺炉が揃って呼びに来るまでの少しのあいだ。
俺はありふれた、けれどいまだ手の届かない日常の夢を見た。
寝返りを打って見上げれば、愛おしそうに細められた瞳がこちらを向いていて、ヒカゲやヒナタに向けられるそれとは違う眼差しに気を良くする。
「何笑ってやがる」
「ごめん、起こしちゃった?ふふ、幸せだなと思って」
そう言って、こいつは細い指で俺の髪を梳いた。
卵を割ったら双子だったとか、味噌汁が上手く作れただとか、八百屋でまけてもらっただとか。
ほんのささいな幸せを唄うように語るのを聴きながら、俺は再び寝返りを打ち、ぼんやりと何もない裏庭を見つめた。
「紅ちゃんは、どうだった?」
降ってくる声に今日という日を遡る。
ヒカゲとヒナタに朝っぱらから起こされた。そのあとは町を散歩して、昼間から銭湯に行って、飲んで、賭場で紺炉に連れ戻されて。
酔いが醒めるまで付き合えと、縁側で居合わせたこいつの膝を枕にして、すっかり寝こけていたらしい。
こいつの抱えていた洗濯物はとっくに畳み終わって積まれているし、日も暮れかけている。
どんな日だったと問われれば、
「何もしてねェ」
その一言に尽きる。
今もだらりと横になるだけで、そろそろ足が痺れたと小言を言われてもおかしくないのだが、こいつはくすくす笑って俺の頭を撫でてくる。
「そっか。それはよかった」
遠くで暮れ六つを告げる鐘が鳴った。そろそろヒカゲとヒナタが帰ってくる頃だ。
台所のほうから小気味良い音が聞こえてきて、紺炉が夕餉は親子丼だと言っていたのを思い出す。
夕暮れ時の少し肌寒いくらいの風に身を縮めると、あたたかな手のひらが頬を撫でた。
花とも香とも違う甘い香りがふわりと漂ってきてやっと、『何もしていない』ことを実感する。ざらついた灰も、燻る焦げ臭さも。今日は何もなかった。
「明日もいい日だといいね」
「あァ、そうだな」
祈りのように囁かれた言葉を耳に、目を閉じる。
明日も明後日も、その先もそうであったなら。いつかは、くだらないことで笑って、気が済むまで酒を飲める日が来るだろうか。
ヒカゲとヒナタ、紺炉が揃って呼びに来るまでの少しのあいだ。
俺はありふれた、けれどいまだ手の届かない日常の夢を見た。