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「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト、ワン、ツー、……」
まだまだ茹だるような暑さが残る9月上旬、天気はいっそ恨めしい程の晴れ。そんな中4時間目の授業は体育で、正直怠くて仕方がない。体育館は蒸し返すように暑くて、張り付いたジャージが鬱陶しい。だからといってあの炎天下の校庭に行きたいかと言われるとそれはNOである。
ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト。フォークダンス実行委員の友達の掛け声に合わせて、段々覚えてきた振り付けを踊る。今日が初めての練習で、うろ覚えのため正直あまり油断は許されない状況だが、ちら、と余所見をしてしまう。
——クラスメイトの米屋陽介は、やはりまだ来ていないようだった。
# 『ゆふぐれドロップス』
ボーダーの任務があるから明日は午前中は学校ムリっぽい、とか、明日体育なのにな〜、だとか言って唇を突き出していたのを思い出す。早めに終わると良いね、と言ったら、ホントそれな〜、とへらりと笑っていた。昼休みに、ちょっと心配になってlimeでメッセージを送ってみたら、6時間目が始まる直前に「無事!」と、ピースサインのスタンプが送られて来た。とりあえず安堵したが、何かあったことは間違い無いだろうから、やっぱり少し気になった。結局米屋はその日、登校することは無かった。
家に帰り、ベッドでスマホをいじりながら米屋大丈夫かなぁとか考えていたら、突然着信が来てスマホを落としそうになった。彼からかと思ってドキリとしたが、残念ながら(すまん友よ)件のフォークダンス実行委員の彼女だった。やや脱力しながら通話ボタン、続いてスピーカーボタンとを押す。
「もしもーし」
「あ、もしもし、ナマエ? 今大丈夫だよね?」
「大丈夫じゃない可能性は無い感じ?」
「え〜? こんな早く通話取るってことは、暇してたってことなんじゃないの? てか米屋くんだと思ったんでしょ?」
「名探偵かよ……」
彼女とは小、中、高とずっと同じ学校で、気が置けない仲というやつである。今年は久しぶりに同じクラスになれてとても嬉しかったのだが、その代償に私の秘密、淡い恋心は速攻でバレた。まあ、もともと勘づいていたらしいから時間の問題だったのだろうが。
「んで?どうしたの?」
「あ、米屋くんさ、今日来て無かったじゃん?」
「あー、はいはい」
「だからフォークダンスの振り付け、教えてあげて欲しいな〜、みたいな?」
「……はい?」
思わず声が裏返った。いそいそとベッドの上で座り直し、スピーカーを切ってスマホを耳元に近づける。やけに顔が熱い。
「いやいやいや、私じゃなくていいじゃん! 男子に頼めよ!」
「いやまあそうなんけどさ〜、折角だし、ナマエちゃんの恋を応援!……みたいな?」
「不自然だって!」
「そう? 私が放課後空いてないからナマエに頼んだ〜、とか、ありそうじゃん」
「で、でも……」
放課後? 教室で?? 2人で??? いやいやムリでしょ、と口早に呟く。何も起こらないだろうけど! 遺憾ながら、なんにも起こらないだろうけど!! プチパニックに陥ったが、気を取り直し冷静になって考えてみると、授業を休んだ割と仲が良い男子に、友達の代わりに教えるだけだ。途端に別に何の問題も無いような気がし始めて、そしてそんなことで騒いだのが微妙に恥ずかしくなって、最終的に了承した。
「で? 次は?」
「こう……右、右、回って、ジャンプ」
「こう?」
「そうそう、で、Zを描くように、パンパンパンパン」
「ほうほう、Zね。それで?」
「ここからサビなんだけど、次は……」
放課後、教室、周りには誰もいない。シチュエーションとしては緊張しそうなものだが、案外平気で少しほっとした。逆に人に見られていない方が良いのかもしれない。
緊張はしてない。けれど、なんだかそわそわというかむずむずというか……とにかく落ち着かない。振り付けにはハイタッチとか、手を繋いだりとか、そういうのが含まれているから、一々意識して少し挙動不審になってしまう。なんとか取り繕ってる気だけど、バレているんじゃないかと気が気でない。
例えば、触れた手が少しゴツくて、明らかに自分のそれと違うと気付いたり。例えば、ふとした瞬間に目が合った時に吸い込まれそうになったり。ああ、今、私の顔赤くないかな? 夕陽に照らされてるからというには、少し熱すぎるかもしれない。動いてるからって言ったら言い訳っぽいかな?いやいや、まずこの男が気にするわけないか。
ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト。回数を重ねる度に米屋はどんどん上手くなる。この調子なら、あと2、3回でほぼ完璧に踊れるようになるだろう。
「うん、殆ど覚えたんじゃない?」
「まあ大体?」
「あとは曲に合わせて踊れるかだね。ちょっと待ってね、今流すから……」
近くの机に置いていたスマホを取って、友達から送ってもらった音源データを開く。3分34秒。2回踊れたら、7分か。こんなに長く独占できることなんて有り得ないから、貴重な時間だ。
音楽が始まる。最初は手を交差させて繋ぎ、ステップして前に進む。そしてくるりと回って向かい合って、ハイタッチ。目が合って、少し微笑んだ、気がした。
「ミョウジさ、」
「ん?」
「入場する時のペアってもう決めてる?」
「!……き、まってないけど」
声は平静を保ったつもりだったが、振り付けのタイミングがワンテンポ遅れた。動揺しているのが丸分かりだったのだろう、米屋は悪戯っ子のように笑って、こっち、と私の腕を引く。
「よ……米屋はどうなの?」
「オレもまだ決まってないんだよなぁ〜」
間奏の時はバルソビアナポジション。すぐ後ろ、耳の近くから声が聞こえて来て、思わずドキリとした。左手を中心にターン、米屋の隣に並ぶ。
「ってことで、どう?」
触れていた左手の指が優しく引かれる。あまりに優しい触れ方に気を取られ、足が絡まりバランスを崩した。
「おっと」
「!!」
——米屋の、匂いがする。彼らしい陽だまりみたいな暖かな匂いに、少し汗の匂いが混ざっているのが分かった。眼前に広がる学ランの黒と、自分の背中に回された腕を認識して初めて、抱き止められたのだと理解した。
「悪りぃ、からかいすぎた」
「か、からかいすぎたって、」
「ちょっとお前、さっきから可愛すぎんだけど、踊ってる時は誰に対してもこんな感じなワケ?」
「かわっ」
ぶわっ、と顔が熱くなり、とっさに腕で顔を覆った。米屋は照れたように目を逸らして、頬をかいていた。余裕綽々という感じの言葉とは裏腹な、今までに見たことの無い表情に目を奪われる。
「……あんま見んなって」
拗ねたように唇を尖らせる様子も、なんだかいつもとは違うように見える。胸がドキドキとうるさくて、頭がふわふわして上手く言葉が出てこなくてもどかしい。
「相手が誰でもはしゃぐわけじゃ、ないよ」
そう言ってから、これじゃ一緒に踊れたからはしゃいでましたって言ってるようなもんじゃん!と心の中で頭を抱えた。でも口に出してしまったものは仕方がない。上目がちに米屋の顔を覗いた。
「それってさ、両想い……ってことでいい?」
「!」
予想だにしなかった言葉に目を見開く。こくり、と頷くと米屋は嬉しそうに、——そう、嬉しそうにふわりと微笑んで、両腕を広げた。おいで、と言われたような気がして、その胸に飛び込む。今度は、事故じゃなくて、本物の「ハグ」だ。
「あー、良かった」
「……何、が?」
「ん……正直なんかミョウジはオレのって勝手に思っててさ」
「そうだったの?」
「そうだったんです。んで、今踊っててさ、本当はオレ以外とも踊るんだよなぁ〜って思ったら、なんかさ、……独占欲?みたいな?」
「なんか、分かるかも」
「へぇ?」
「私だって、米屋が他の子と踊るのは、ちょっとだけやだったから……」
自分で言っていて恥ずかしくなって、語尾が小さくなる。私ってこんなだったっけ、おかしくなってる気がする。
「お前さ〜分かって言ってんの?」
「わ!?」
「んじゃ、今度こそ最初から通して踊ろうぜ」
ぐい、と引っ張られて最初のポーズ……手をクロスさせて繋ぐ。さっきまでとは比にならないくらい胸が高鳴った。
「2人でさ」
きっと、私の思い出は、体育祭本番のフォークダンスじゃなくて、この教室で米屋と2人踊ったことなんだろうな、なんて頭の隅っこで考えた。今は6時。下校時刻のチャイムまでは、まだ早い。
まだまだ茹だるような暑さが残る9月上旬、天気はいっそ恨めしい程の晴れ。そんな中4時間目の授業は体育で、正直怠くて仕方がない。体育館は蒸し返すように暑くて、張り付いたジャージが鬱陶しい。だからといってあの炎天下の校庭に行きたいかと言われるとそれはNOである。
ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト。フォークダンス実行委員の友達の掛け声に合わせて、段々覚えてきた振り付けを踊る。今日が初めての練習で、うろ覚えのため正直あまり油断は許されない状況だが、ちら、と余所見をしてしまう。
——クラスメイトの米屋陽介は、やはりまだ来ていないようだった。
# 『ゆふぐれドロップス』
ボーダーの任務があるから明日は午前中は学校ムリっぽい、とか、明日体育なのにな〜、だとか言って唇を突き出していたのを思い出す。早めに終わると良いね、と言ったら、ホントそれな〜、とへらりと笑っていた。昼休みに、ちょっと心配になってlimeでメッセージを送ってみたら、6時間目が始まる直前に「無事!」と、ピースサインのスタンプが送られて来た。とりあえず安堵したが、何かあったことは間違い無いだろうから、やっぱり少し気になった。結局米屋はその日、登校することは無かった。
家に帰り、ベッドでスマホをいじりながら米屋大丈夫かなぁとか考えていたら、突然着信が来てスマホを落としそうになった。彼からかと思ってドキリとしたが、残念ながら(すまん友よ)件のフォークダンス実行委員の彼女だった。やや脱力しながら通話ボタン、続いてスピーカーボタンとを押す。
「もしもーし」
「あ、もしもし、ナマエ? 今大丈夫だよね?」
「大丈夫じゃない可能性は無い感じ?」
「え〜? こんな早く通話取るってことは、暇してたってことなんじゃないの? てか米屋くんだと思ったんでしょ?」
「名探偵かよ……」
彼女とは小、中、高とずっと同じ学校で、気が置けない仲というやつである。今年は久しぶりに同じクラスになれてとても嬉しかったのだが、その代償に私の秘密、淡い恋心は速攻でバレた。まあ、もともと勘づいていたらしいから時間の問題だったのだろうが。
「んで?どうしたの?」
「あ、米屋くんさ、今日来て無かったじゃん?」
「あー、はいはい」
「だからフォークダンスの振り付け、教えてあげて欲しいな〜、みたいな?」
「……はい?」
思わず声が裏返った。いそいそとベッドの上で座り直し、スピーカーを切ってスマホを耳元に近づける。やけに顔が熱い。
「いやいやいや、私じゃなくていいじゃん! 男子に頼めよ!」
「いやまあそうなんけどさ〜、折角だし、ナマエちゃんの恋を応援!……みたいな?」
「不自然だって!」
「そう? 私が放課後空いてないからナマエに頼んだ〜、とか、ありそうじゃん」
「で、でも……」
放課後? 教室で?? 2人で??? いやいやムリでしょ、と口早に呟く。何も起こらないだろうけど! 遺憾ながら、なんにも起こらないだろうけど!! プチパニックに陥ったが、気を取り直し冷静になって考えてみると、授業を休んだ割と仲が良い男子に、友達の代わりに教えるだけだ。途端に別に何の問題も無いような気がし始めて、そしてそんなことで騒いだのが微妙に恥ずかしくなって、最終的に了承した。
「で? 次は?」
「こう……右、右、回って、ジャンプ」
「こう?」
「そうそう、で、Zを描くように、パンパンパンパン」
「ほうほう、Zね。それで?」
「ここからサビなんだけど、次は……」
放課後、教室、周りには誰もいない。シチュエーションとしては緊張しそうなものだが、案外平気で少しほっとした。逆に人に見られていない方が良いのかもしれない。
緊張はしてない。けれど、なんだかそわそわというかむずむずというか……とにかく落ち着かない。振り付けにはハイタッチとか、手を繋いだりとか、そういうのが含まれているから、一々意識して少し挙動不審になってしまう。なんとか取り繕ってる気だけど、バレているんじゃないかと気が気でない。
例えば、触れた手が少しゴツくて、明らかに自分のそれと違うと気付いたり。例えば、ふとした瞬間に目が合った時に吸い込まれそうになったり。ああ、今、私の顔赤くないかな? 夕陽に照らされてるからというには、少し熱すぎるかもしれない。動いてるからって言ったら言い訳っぽいかな?いやいや、まずこの男が気にするわけないか。
ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト。回数を重ねる度に米屋はどんどん上手くなる。この調子なら、あと2、3回でほぼ完璧に踊れるようになるだろう。
「うん、殆ど覚えたんじゃない?」
「まあ大体?」
「あとは曲に合わせて踊れるかだね。ちょっと待ってね、今流すから……」
近くの机に置いていたスマホを取って、友達から送ってもらった音源データを開く。3分34秒。2回踊れたら、7分か。こんなに長く独占できることなんて有り得ないから、貴重な時間だ。
音楽が始まる。最初は手を交差させて繋ぎ、ステップして前に進む。そしてくるりと回って向かい合って、ハイタッチ。目が合って、少し微笑んだ、気がした。
「ミョウジさ、」
「ん?」
「入場する時のペアってもう決めてる?」
「!……き、まってないけど」
声は平静を保ったつもりだったが、振り付けのタイミングがワンテンポ遅れた。動揺しているのが丸分かりだったのだろう、米屋は悪戯っ子のように笑って、こっち、と私の腕を引く。
「よ……米屋はどうなの?」
「オレもまだ決まってないんだよなぁ〜」
間奏の時はバルソビアナポジション。すぐ後ろ、耳の近くから声が聞こえて来て、思わずドキリとした。左手を中心にターン、米屋の隣に並ぶ。
「ってことで、どう?」
触れていた左手の指が優しく引かれる。あまりに優しい触れ方に気を取られ、足が絡まりバランスを崩した。
「おっと」
「!!」
——米屋の、匂いがする。彼らしい陽だまりみたいな暖かな匂いに、少し汗の匂いが混ざっているのが分かった。眼前に広がる学ランの黒と、自分の背中に回された腕を認識して初めて、抱き止められたのだと理解した。
「悪りぃ、からかいすぎた」
「か、からかいすぎたって、」
「ちょっとお前、さっきから可愛すぎんだけど、踊ってる時は誰に対してもこんな感じなワケ?」
「かわっ」
ぶわっ、と顔が熱くなり、とっさに腕で顔を覆った。米屋は照れたように目を逸らして、頬をかいていた。余裕綽々という感じの言葉とは裏腹な、今までに見たことの無い表情に目を奪われる。
「……あんま見んなって」
拗ねたように唇を尖らせる様子も、なんだかいつもとは違うように見える。胸がドキドキとうるさくて、頭がふわふわして上手く言葉が出てこなくてもどかしい。
「相手が誰でもはしゃぐわけじゃ、ないよ」
そう言ってから、これじゃ一緒に踊れたからはしゃいでましたって言ってるようなもんじゃん!と心の中で頭を抱えた。でも口に出してしまったものは仕方がない。上目がちに米屋の顔を覗いた。
「それってさ、両想い……ってことでいい?」
「!」
予想だにしなかった言葉に目を見開く。こくり、と頷くと米屋は嬉しそうに、——そう、嬉しそうにふわりと微笑んで、両腕を広げた。おいで、と言われたような気がして、その胸に飛び込む。今度は、事故じゃなくて、本物の「ハグ」だ。
「あー、良かった」
「……何、が?」
「ん……正直なんかミョウジはオレのって勝手に思っててさ」
「そうだったの?」
「そうだったんです。んで、今踊っててさ、本当はオレ以外とも踊るんだよなぁ〜って思ったら、なんかさ、……独占欲?みたいな?」
「なんか、分かるかも」
「へぇ?」
「私だって、米屋が他の子と踊るのは、ちょっとだけやだったから……」
自分で言っていて恥ずかしくなって、語尾が小さくなる。私ってこんなだったっけ、おかしくなってる気がする。
「お前さ〜分かって言ってんの?」
「わ!?」
「んじゃ、今度こそ最初から通して踊ろうぜ」
ぐい、と引っ張られて最初のポーズ……手をクロスさせて繋ぐ。さっきまでとは比にならないくらい胸が高鳴った。
「2人でさ」
きっと、私の思い出は、体育祭本番のフォークダンスじゃなくて、この教室で米屋と2人踊ったことなんだろうな、なんて頭の隅っこで考えた。今は6時。下校時刻のチャイムまでは、まだ早い。
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