掟破りな恋をしよう
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ナイトレイブンカレッジは男子校である。
それはこの学校における鉄の掟。しかし。
「大変な所に来てしまった……」
オンボロ寮のベッドの上で、彼女は恨めしそうに呟いた。ベッドに広がる髪は長く、今は少し眉根を寄せた顔もいつもはなかなか愛らしい。だが、いかんせん「女子が闇の鏡に選ばれる」なんて前例が無かった。
そう、彼女こそナイトレイブンカレッジの鉄の掟を破る……いや、破らざるを得なかった学内唯一の生徒だった。
男子校だと気付いた時、急いで学園長に女子だと伝えると嘘でしょう、と頭を抱えられた。
「しかし闇の鏡に選ばれたことには変わりないですし……受け入れましょう。私、優しいので」
そう言って認識歪曲グッズをかき集めてくれたために、彼女はこの学園に留まることが出来たのである。
しかしキラさん、今渡した魔道具は気休め程度の物です。きちんとしたモノをまた用意しておきますので、くれぐれもそれまでに気づかれないよう努力してくださいーー学園長の言葉を思い出しながら、深い溜め息をつく。やはり男子校に、女子がいてはいけないのだ、と。
認識歪曲グッズを貰っているため、男子として過ごすことに障害がある訳ではない。が、一つ小さな、しかし彼女にとっては重大な問題ができてしまった。
彼女は恋心を抱いていたのだ、このナイトレイブンカレッジ生の1人、ルール遵守の厳格な女王、リドル・ローズハートに。
きっかけは図書館でのこと。まだこの世界に来たばかりで友人も(特に頼りがいのある人が)少なかった頃、こちらの常識や知識を身につけるべく、とりあえず彼女は本を読むことにした。図書館は入ってみると想像以上に広く、本の分類の仕方は彼女が前の世界で慣れ親しんでいたものとは少し違った。さて、どこから手をつけるべきか、と思案していると、不意に声を掛けられた。
「何か探しているのかい?」
叫び声をすんでのところで喉の奥に押し込み、右に目を向けた。そう、声の主はリドル・ローズハートだった。
「その……この世界での常識っていうか、そういうのを知りたくて。特にこれ、と決めて探しに来た訳ではないんです」
「なるほど、そういえばキミは異世界から来たと言っていたね。……そうなると、基本的なものが良いかな」
ついておいで、と導かれた棚には分厚い百科事典がズラリ。え、まさかこれ全部読めと……⁉︎ いやこの人なら言いかねない……!! と顔を蒼くしたが、リドルがするりと棚から抜いたのはたった一冊。A4サイズで大判ではあるが、その場にあった本の中では1番薄いものだった。
「はい、とりあえずこれを読むといい。幅広い知識を得られるはずだよ。ミドルスクールの時に目を通したことがあるけれど、文体は平易で説明も丁寧。写真や図が多く挿入されているから読みやすい」
「わぁ、ありがとうございます」
「その本は広く浅く、といった感じだ。でもご覧、各章の終わりに作者おすすめの本がリストアップされているんだ。気になることがあったらすぐに調べられる」
便利だろう?と微笑むリドルの背景に後光が見えた。礼を言い、早速読んでみると、確かに読みやすく、美麗な画像が随所に散りばめられていて思わず見入った。書いてある内容は歴史や文化、地理などの社会系と生物や植物などの理科系、そして魔法や錬金術などの……空想科学系、とでもいえようか、この世界独特のものの説明もあった。
「(魔法使えなかったり魔力が少なかったりする人の方が多いんだ……。でも、魔導式の日用品とかも結構あるよね?魔法使えない分電気を使うからお金がかかる、とか無いのかな……)」
各学問の教科書の基礎部分を軽く攫ったようなこの本の感じは、おそらく元の世界だと「バカでも分かる!ツイステッドワンダーランドについて」とか「ツイステッドワンダーランドの世界を初めから」だとか、とにかく基礎の基礎!というノリで銘打たれそうなものだった。つまり、彼女にとっては文句無しに最高の教科書だった。
夢中で読み進めていたら、とんとん、と机を叩く指が見えた。はっと気付き顔を上げるとリドルがいた。
「そろそろ閉館だよ」
「えっ、もうそんな時間だったんですか。すみません、ありがとうございます」
「構わないよ。……その本は役に立ちそうかな?」
「はい、すごく!本当にありがとうございました」
「それは良かった。借りて行くかい?」
「そうしようと思います」
「じゃあついておいで。カウンターまで案内しよう」
無事に本を借り終え、荷物を持って外に出ると、辺りはかなり暗くなっており、リドルはさも当然のようにオンボロ寮まで送ってくれた。といっても、「送った」というより、「見送った」、つまり女性扱いしたものでは無かったのだが。しかし紳士的な態度だと心がときめくのも仕方あるまい。しかも図書館でも親切にしてもらった直後なのだ。そりゃときめく。
その後も何度もお世話になり、その度に想いは募っていった。でも、その想いを伝えることは出来ない。男子と偽っているわけだし、男子校に女子がいるなんて知ったら……リドルにやや頭が固い所があるのは彼女もよく分かっている。もしかするとタチの悪い冗談と認識されるかもしれないし、「男子校に女子がいるなど言語道断!」と言われてしまうかもしれない。そうなるとキラはナイトレイブンカレッジから離れ、2度とリドルや他の友人達に会えなくなる可能性だってある。……なんて考えると、どうしても、この恋は「無理ゲー」とかいうやつなのではないかと思わずにはいられないのだ。
もしこの姿で恋が実ったら、というやや都合の良いことを考えてみても、それはそれで複雑である。つまり男として認識されたまま思いが通じるということだ、その場合もしかすると彼の恋愛志向は……(考えたくない……)。
今日何度目か分からない溜め息を吐く。瞳を閉じれば、浮かぶのは鮮やかな赤髪と、理知的なブルーグレーの瞳、揶揄うとむっと引き結ばれる薔薇色の唇。キラは頭をぶんぶんと振って、それらを頭から追い出そうとする。けれど、何度振り払おうとしても、残念ながら数秒後には舞い戻って来るのだ。
そして、奇しくも女子高生in男子校の恋愛奮闘記が始まりを告げたのだった。
それはこの学校における鉄の掟。しかし。
「大変な所に来てしまった……」
オンボロ寮のベッドの上で、彼女は恨めしそうに呟いた。ベッドに広がる髪は長く、今は少し眉根を寄せた顔もいつもはなかなか愛らしい。だが、いかんせん「女子が闇の鏡に選ばれる」なんて前例が無かった。
そう、彼女こそナイトレイブンカレッジの鉄の掟を破る……いや、破らざるを得なかった学内唯一の生徒だった。
男子校だと気付いた時、急いで学園長に女子だと伝えると嘘でしょう、と頭を抱えられた。
「しかし闇の鏡に選ばれたことには変わりないですし……受け入れましょう。私、優しいので」
そう言って認識歪曲グッズをかき集めてくれたために、彼女はこの学園に留まることが出来たのである。
しかしキラさん、今渡した魔道具は気休め程度の物です。きちんとしたモノをまた用意しておきますので、くれぐれもそれまでに気づかれないよう努力してくださいーー学園長の言葉を思い出しながら、深い溜め息をつく。やはり男子校に、女子がいてはいけないのだ、と。
認識歪曲グッズを貰っているため、男子として過ごすことに障害がある訳ではない。が、一つ小さな、しかし彼女にとっては重大な問題ができてしまった。
彼女は恋心を抱いていたのだ、このナイトレイブンカレッジ生の1人、ルール遵守の厳格な女王、リドル・ローズハートに。
きっかけは図書館でのこと。まだこの世界に来たばかりで友人も(特に頼りがいのある人が)少なかった頃、こちらの常識や知識を身につけるべく、とりあえず彼女は本を読むことにした。図書館は入ってみると想像以上に広く、本の分類の仕方は彼女が前の世界で慣れ親しんでいたものとは少し違った。さて、どこから手をつけるべきか、と思案していると、不意に声を掛けられた。
「何か探しているのかい?」
叫び声をすんでのところで喉の奥に押し込み、右に目を向けた。そう、声の主はリドル・ローズハートだった。
「その……この世界での常識っていうか、そういうのを知りたくて。特にこれ、と決めて探しに来た訳ではないんです」
「なるほど、そういえばキミは異世界から来たと言っていたね。……そうなると、基本的なものが良いかな」
ついておいで、と導かれた棚には分厚い百科事典がズラリ。え、まさかこれ全部読めと……⁉︎ いやこの人なら言いかねない……!! と顔を蒼くしたが、リドルがするりと棚から抜いたのはたった一冊。A4サイズで大判ではあるが、その場にあった本の中では1番薄いものだった。
「はい、とりあえずこれを読むといい。幅広い知識を得られるはずだよ。ミドルスクールの時に目を通したことがあるけれど、文体は平易で説明も丁寧。写真や図が多く挿入されているから読みやすい」
「わぁ、ありがとうございます」
「その本は広く浅く、といった感じだ。でもご覧、各章の終わりに作者おすすめの本がリストアップされているんだ。気になることがあったらすぐに調べられる」
便利だろう?と微笑むリドルの背景に後光が見えた。礼を言い、早速読んでみると、確かに読みやすく、美麗な画像が随所に散りばめられていて思わず見入った。書いてある内容は歴史や文化、地理などの社会系と生物や植物などの理科系、そして魔法や錬金術などの……空想科学系、とでもいえようか、この世界独特のものの説明もあった。
「(魔法使えなかったり魔力が少なかったりする人の方が多いんだ……。でも、魔導式の日用品とかも結構あるよね?魔法使えない分電気を使うからお金がかかる、とか無いのかな……)」
各学問の教科書の基礎部分を軽く攫ったようなこの本の感じは、おそらく元の世界だと「バカでも分かる!ツイステッドワンダーランドについて」とか「ツイステッドワンダーランドの世界を初めから」だとか、とにかく基礎の基礎!というノリで銘打たれそうなものだった。つまり、彼女にとっては文句無しに最高の教科書だった。
夢中で読み進めていたら、とんとん、と机を叩く指が見えた。はっと気付き顔を上げるとリドルがいた。
「そろそろ閉館だよ」
「えっ、もうそんな時間だったんですか。すみません、ありがとうございます」
「構わないよ。……その本は役に立ちそうかな?」
「はい、すごく!本当にありがとうございました」
「それは良かった。借りて行くかい?」
「そうしようと思います」
「じゃあついておいで。カウンターまで案内しよう」
無事に本を借り終え、荷物を持って外に出ると、辺りはかなり暗くなっており、リドルはさも当然のようにオンボロ寮まで送ってくれた。といっても、「送った」というより、「見送った」、つまり女性扱いしたものでは無かったのだが。しかし紳士的な態度だと心がときめくのも仕方あるまい。しかも図書館でも親切にしてもらった直後なのだ。そりゃときめく。
その後も何度もお世話になり、その度に想いは募っていった。でも、その想いを伝えることは出来ない。男子と偽っているわけだし、男子校に女子がいるなんて知ったら……リドルにやや頭が固い所があるのは彼女もよく分かっている。もしかするとタチの悪い冗談と認識されるかもしれないし、「男子校に女子がいるなど言語道断!」と言われてしまうかもしれない。そうなるとキラはナイトレイブンカレッジから離れ、2度とリドルや他の友人達に会えなくなる可能性だってある。……なんて考えると、どうしても、この恋は「無理ゲー」とかいうやつなのではないかと思わずにはいられないのだ。
もしこの姿で恋が実ったら、というやや都合の良いことを考えてみても、それはそれで複雑である。つまり男として認識されたまま思いが通じるということだ、その場合もしかすると彼の恋愛志向は……(考えたくない……)。
今日何度目か分からない溜め息を吐く。瞳を閉じれば、浮かぶのは鮮やかな赤髪と、理知的なブルーグレーの瞳、揶揄うとむっと引き結ばれる薔薇色の唇。キラは頭をぶんぶんと振って、それらを頭から追い出そうとする。けれど、何度振り払おうとしても、残念ながら数秒後には舞い戻って来るのだ。
そして、奇しくも女子高生in男子校の恋愛奮闘記が始まりを告げたのだった。
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