Short Story
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(まさかこんな大量にあるなんて……結構時間掛かっちゃったな)
タオルで重くなったカゴを抱えてめいなさんのもとへ戻る。マネージャーの仕事は体力が必要なものも多い。あの細い体で自分たちの為に頑張ってくれているのか、と嬉しくなった。
「めいなさーん、取り込んできましたよ〜」
呼び掛けても返事が無い。
見ると、彼女は壁にもたれて眠っていた。疲れているのだろうか。でも座っているのは冷たい床。これでは体が冷えてしまう。しかし起こしてしまうのもかわいそうだ。
数拍の間考えた後、長椅子に寝かせるのが良いだろうと、彼女の体に手を伸ばす。
(よいしょっ、と)
そんなに重くなさそうだとは思っていたが、まさかここまで軽いとは。よく見ると顔色も良くない。もしかすると体調を崩しているのではないか、と不安が加速する。
そっと椅子に横たえると、んん、と小さく、艶めかしい呻き声が聞こえた。
今部屋には自分たち2人だけ。そんな空間で、無防備にも寝顔を晒しているめいな先輩はなんて不用心なのだろう。もしかして、他の男もこんな姿を見たことがあるのだろうか?ーー考えて、自分で悲しくなった。
そうだ、タオルをかけてあげよう。乾きたてホカホカのタオルの山から大きめのものを一枚抜きとって、先輩に掛ける。
(可愛い寝顔だな)
自然と頬が緩む。もちろんそんな意図などないことは分かっているが、なんだか気が許されているみたいで、少し嬉しい。だけど。
「……めいなさん」
そっと囁く。
「早く起きないと、悪いオオカミに襲われちゃいますよ……?」
……全く、先輩は無用心すぎるのだ。
************************
何か音が聞こえて、ああ、これはチャイムが鳴っているんだな、と思った瞬間、目が覚めた。部室の天井だ、と思いながらとりあえず腕時計を見る。もう6時だった。誰も戻って来ていないのが不思議である。
「ん……」
小さく響いた声に一瞬固まって、恐る恐る体を起こし、見てみる。真波だ。私のすぐ近くで壁にもたれて寝ている。この感じ……もしかして寝顔、見られた……?
すうすう、と安らかな寝息をたてている彼は、さながら天使のようで、普段の小憎たらしい言動が吹っ飛ぶほど、純粋な愛らしさだ。
「……こんにゃろ、可愛い寝顔しやがって」
呟きながら頬をつつく。
「真波、起きて。起きなさい」
「んん……もうちょっと……」
「もうちょっとじゃありません。珍しく遅刻せず早めにノルマ終わらせたのは知ってるけど、こんな長く寝てたら意味ないでしょ」
「ん〜」
「そりゃ、運んでくれたことには感謝してるけど……」
そう呟くと、薄く瞳を開いた真波はふふ、と笑って「どういたしまして」と上目がちにこちらを見つめる。寝起きだからだろうか、トロンと蕩けた瞳に色気がある。ああもう、やめてくれ。少し息が詰まった。
「って、二度寝しようとするな!」
「……バレました?」
「バレるわ!」
「えー、そうだなぁ……あ、先輩がキスしてくれたらちゃんと起きます」
「なっ、」
とんでもない爆弾発言である。言葉が出ず口をパクパクさせてる私を楽しげに見る真波の唇が、なだらかな弧を描いた。ああ、何意識してしまっているんだろう。
「あは、先輩かわいい」
「……からかうんじゃありません」
やっとのことで出た言葉はあまりにありふれた文句で。余裕が無いことがバレバレである。
「ふふ、たしかにそうですね」
氷を呑み込んだような心地がした。分かってたつもりだったのに。
「……やっぱりからかってるんだ」
「はい」
なんでそんな楽しそうな顔をするんだ。天使の皮を被った悪魔、なんて言葉が似合い過ぎて逆に悲しい。……やっぱり悲しいんだ。分かっていても、それでも。
「好きな人ってからかいたくなるって言うじゃないですか」
「……っ⁉︎」
「でも、先輩があまりに可愛い反応するのも悪いですよ?」
「真波……まだそういうこと言い続けるわけ?」
「はい」
決まってるじゃないですか、なんて軽やかに返される。
でも、そんな訳。頭が機能を停止したように混沌としている。じっと私を見ていた真波は、よっこいしょ、と隣に座り、優しく私の手を取った。
「先輩、こっち来て」
「え、わっ」
ぐい、と引っ張られ、思わず真波に寄りかかる。え、なに、この至近距離、なんかいい匂いがする、なんて思っていたら、そっと私の手を自分の胸に置いた。
細身な割に厚い筋肉の、その下ーー心臓がドクドクと拍動している。それは、寝起きの平常なタイミングにしてはあまりに早くて。
「……ね?」
砂糖を煮詰めたような甘い声、蕩けた瞳。
「分かってもらえました?」
全部が全部憎たらしくて、肝心な部分だけはぼかされて、何が何だか分からなくなる。
「……分かんないよ」
つっけんどんな私の一言に、真波はクスクス笑った。
「酷いなぁ、可愛い後輩がここまで頑張って想いを伝えているのに」
「……ていうか、私、その『想い』ってやつ、ちゃんとハッキリ伝えて貰ったっけ?」
「え? 毎日全力でアピールしてますよ?」
「そうじゃなくて……こう、その……好きです、とか、付き合って貰えませんか、とか……結局どうしたいの、真波は」
それを聞いた真波は瞳を輝かせ、ぱぁっと、花が咲いたような笑顔を見せた。
「なるほど、だから先輩は頑なだったんですね」
「いやだからってわけじゃ……」
退路を作ろうとする私のことは構わず、目の前の後輩はわざとらしい咳払いをした。それから、澄んだスカイブルーの瞳で、私を見つめる。
これは、ダメだ。直感的にそう思った。
「……先輩、好きです。すごく好きです、愛しています」
「……っ」
そっと、右手に指を絡ませてくる。大切で大切でたまらない、と言わんばかりの、宝物に触れるような手付き。
「だから、オレの彼女になってもらえませんか?」
繋いだ私の手に頬ずりをするように頬を寄せる、その光景を、私は一生忘れないと思った。
「ダメ、ですか?」
「ダメじゃ、ない」
「じゃあ、いいですか?」
ああ、とんだ小悪魔だ。でも、魂を売り渡してでも一緒にいたい。
「はい……っ」
手だけでは足りないとばかりに、背に回った腕が私をぎゅっと抱きしめた。彼の肩に額を乗せ、涙を隠す。少しの汗の匂いと、左頬を照らす夕陽、私の涙に気がついて笑っている真波と、そして、きっと、幸せな涙に濡れた、私の笑顔。
アイラブ、ユーの先は君しかいないの「で」
タオルで重くなったカゴを抱えてめいなさんのもとへ戻る。マネージャーの仕事は体力が必要なものも多い。あの細い体で自分たちの為に頑張ってくれているのか、と嬉しくなった。
「めいなさーん、取り込んできましたよ〜」
呼び掛けても返事が無い。
見ると、彼女は壁にもたれて眠っていた。疲れているのだろうか。でも座っているのは冷たい床。これでは体が冷えてしまう。しかし起こしてしまうのもかわいそうだ。
数拍の間考えた後、長椅子に寝かせるのが良いだろうと、彼女の体に手を伸ばす。
(よいしょっ、と)
そんなに重くなさそうだとは思っていたが、まさかここまで軽いとは。よく見ると顔色も良くない。もしかすると体調を崩しているのではないか、と不安が加速する。
そっと椅子に横たえると、んん、と小さく、艶めかしい呻き声が聞こえた。
今部屋には自分たち2人だけ。そんな空間で、無防備にも寝顔を晒しているめいな先輩はなんて不用心なのだろう。もしかして、他の男もこんな姿を見たことがあるのだろうか?ーー考えて、自分で悲しくなった。
そうだ、タオルをかけてあげよう。乾きたてホカホカのタオルの山から大きめのものを一枚抜きとって、先輩に掛ける。
(可愛い寝顔だな)
自然と頬が緩む。もちろんそんな意図などないことは分かっているが、なんだか気が許されているみたいで、少し嬉しい。だけど。
「……めいなさん」
そっと囁く。
「早く起きないと、悪いオオカミに襲われちゃいますよ……?」
……全く、先輩は無用心すぎるのだ。
************************
何か音が聞こえて、ああ、これはチャイムが鳴っているんだな、と思った瞬間、目が覚めた。部室の天井だ、と思いながらとりあえず腕時計を見る。もう6時だった。誰も戻って来ていないのが不思議である。
「ん……」
小さく響いた声に一瞬固まって、恐る恐る体を起こし、見てみる。真波だ。私のすぐ近くで壁にもたれて寝ている。この感じ……もしかして寝顔、見られた……?
すうすう、と安らかな寝息をたてている彼は、さながら天使のようで、普段の小憎たらしい言動が吹っ飛ぶほど、純粋な愛らしさだ。
「……こんにゃろ、可愛い寝顔しやがって」
呟きながら頬をつつく。
「真波、起きて。起きなさい」
「んん……もうちょっと……」
「もうちょっとじゃありません。珍しく遅刻せず早めにノルマ終わらせたのは知ってるけど、こんな長く寝てたら意味ないでしょ」
「ん〜」
「そりゃ、運んでくれたことには感謝してるけど……」
そう呟くと、薄く瞳を開いた真波はふふ、と笑って「どういたしまして」と上目がちにこちらを見つめる。寝起きだからだろうか、トロンと蕩けた瞳に色気がある。ああもう、やめてくれ。少し息が詰まった。
「って、二度寝しようとするな!」
「……バレました?」
「バレるわ!」
「えー、そうだなぁ……あ、先輩がキスしてくれたらちゃんと起きます」
「なっ、」
とんでもない爆弾発言である。言葉が出ず口をパクパクさせてる私を楽しげに見る真波の唇が、なだらかな弧を描いた。ああ、何意識してしまっているんだろう。
「あは、先輩かわいい」
「……からかうんじゃありません」
やっとのことで出た言葉はあまりにありふれた文句で。余裕が無いことがバレバレである。
「ふふ、たしかにそうですね」
氷を呑み込んだような心地がした。分かってたつもりだったのに。
「……やっぱりからかってるんだ」
「はい」
なんでそんな楽しそうな顔をするんだ。天使の皮を被った悪魔、なんて言葉が似合い過ぎて逆に悲しい。……やっぱり悲しいんだ。分かっていても、それでも。
「好きな人ってからかいたくなるって言うじゃないですか」
「……っ⁉︎」
「でも、先輩があまりに可愛い反応するのも悪いですよ?」
「真波……まだそういうこと言い続けるわけ?」
「はい」
決まってるじゃないですか、なんて軽やかに返される。
でも、そんな訳。頭が機能を停止したように混沌としている。じっと私を見ていた真波は、よっこいしょ、と隣に座り、優しく私の手を取った。
「先輩、こっち来て」
「え、わっ」
ぐい、と引っ張られ、思わず真波に寄りかかる。え、なに、この至近距離、なんかいい匂いがする、なんて思っていたら、そっと私の手を自分の胸に置いた。
細身な割に厚い筋肉の、その下ーー心臓がドクドクと拍動している。それは、寝起きの平常なタイミングにしてはあまりに早くて。
「……ね?」
砂糖を煮詰めたような甘い声、蕩けた瞳。
「分かってもらえました?」
全部が全部憎たらしくて、肝心な部分だけはぼかされて、何が何だか分からなくなる。
「……分かんないよ」
つっけんどんな私の一言に、真波はクスクス笑った。
「酷いなぁ、可愛い後輩がここまで頑張って想いを伝えているのに」
「……ていうか、私、その『想い』ってやつ、ちゃんとハッキリ伝えて貰ったっけ?」
「え? 毎日全力でアピールしてますよ?」
「そうじゃなくて……こう、その……好きです、とか、付き合って貰えませんか、とか……結局どうしたいの、真波は」
それを聞いた真波は瞳を輝かせ、ぱぁっと、花が咲いたような笑顔を見せた。
「なるほど、だから先輩は頑なだったんですね」
「いやだからってわけじゃ……」
退路を作ろうとする私のことは構わず、目の前の後輩はわざとらしい咳払いをした。それから、澄んだスカイブルーの瞳で、私を見つめる。
これは、ダメだ。直感的にそう思った。
「……先輩、好きです。すごく好きです、愛しています」
「……っ」
そっと、右手に指を絡ませてくる。大切で大切でたまらない、と言わんばかりの、宝物に触れるような手付き。
「だから、オレの彼女になってもらえませんか?」
繋いだ私の手に頬ずりをするように頬を寄せる、その光景を、私は一生忘れないと思った。
「ダメ、ですか?」
「ダメじゃ、ない」
「じゃあ、いいですか?」
ああ、とんだ小悪魔だ。でも、魂を売り渡してでも一緒にいたい。
「はい……っ」
手だけでは足りないとばかりに、背に回った腕が私をぎゅっと抱きしめた。彼の肩に額を乗せ、涙を隠す。少しの汗の匂いと、左頬を照らす夕陽、私の涙に気がついて笑っている真波と、そして、きっと、幸せな涙に濡れた、私の笑顔。
アイラブ、ユーの先は君しかいないの「で」
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