Short Story
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「めいなさんめいなさん」
「あーもう、私はに話しかける暇があるなら、一周多く周って来なよ」
「ひどいですよー。オレ、めいなさんと話すために急いだのに」
「はいはい、寝言は寝て言ってね」
「本気なんだけどなぁ」
そう言って嘘くさいほど爽やかに笑う真波を一瞥し、私は分かりやすく溜め息をついてみせた。
本気なわけがない、なんてことは分かっているつもりだ。もちろんこれといった根拠はないが、生憎、そこまで自惚れ屋でもない。騙されてはいけない、調子に乗らせてはいけない。
「あはは、先輩、眉間にシワが寄ってますよ? そんなにオレのこと好きですか?」
「人の表情曲解し過ぎじゃない?」
「またまた、照れちゃって」
「……真波のアタマには花でも詰まってんの?」
「うーん、どっちかというと、先輩のことばっかり詰まってますね」
「またそーゆーことを!」
相変わらず、サラッととんでもない発言を投下するヤツだ。しかし顔はやたら良いし、スラリとした体躯。そして甘えたような声で、その声以上に甘い言葉を私に囁くのだ。本当に勘弁してくれ。こっちの気持ちも知らないで。
正直、真波は好みのタイプど真ん中だった。幼さを感じる顔の造形や、人たらし感溢れる瞳、脳内を柔らかく溶かす綺麗な声、目が離せなくなる奔放さ、そして何より自転車に乗っている時の表情……。私がそんなだから、からかう隙を与え続けてしまうのだろう。本当は、彼の口説き文句に、心が揺れて、震えて。どうしようもないのは私の方なのだ。非常に悔しいことに。
だから彼の遊びの標的になってしまう。そして、私も本気では怒れない。遊びだと分かっていても、そんな風に言葉をかけられると、甘く胸が疼く。情けないとは思うのだけれど。
「はあ……。ヒマなら洗濯物取り込んでよ」
「いいですよ、めいなさんの頼みなら」
「はいはい、そういうのはいいから、ほら行った行った!」
シッシッ!としながら真波を睨むと、まるで反省もしてない良い笑顔で外へ出て行った。
「……はあぁぁ」
壁に背を預け、ズルズルとしゃがんだ。なんだろう、真波の相手をすると無駄に疲れる。顔を手で覆い、目を閉じた。
期待してはダメだと分かっていても想いが募ってゆくのは、どう頑張ったって止められない。でも、止めたくないとも思ってしまっていることを知るのは私だけでいい、それでいいのだ。
************************
初めてめいなさんに会ったのは、箱根学園のオープンスクールに行った時だった。正直、行く気はあまり無かったのだが、委員長に何度も念押しされたし、なにより強豪の選手を少し見てみても良いかも、と思った。面白い人、いないかなって。
その時、自転車部の説明をする役の1人だったのがめいなさんだ。といっても、彼女の場合、前ではあまり説明はせず、個別に質問対応を行う、という感じだった。その彼女に、不思議と目を吸い寄せられた。丁寧に、そして楽しげに箱根学園自転車競技部について語っていた。この場所が好きでたまらない、と目をキラキラさせて。
なんか良いな、とぼんやり思った。部活動紹介自体には別段興味をそそられず、山のことしか考えていなかったけれど、その先輩の印象は強く残った。といっても、学園の帰りに登って降りたらすっかり忘れていて、思い出したのは、箱根学園入学後に仮入部期間が始まってからだったのだが。
めいなさんは今3年生で、マネージャーの中でも特に働き者で、信頼も厚い。テキパキと仕事をこなし、皆のメニューのがどれだけ進んでいるか把握し、適切なアシストを出す。特にマッサージが得意だ。整体師をしているお父さんから学んだらしい。かつ、笑顔や掛け声で部員の士気を上げているような超優秀マネなのである。
オレはどうやら期待されているらしく、サボるとよく追いかけ回された。逃げるのは楽しかったけど、それ以上に、オレを見つけた時の表情の変化が面白い。最初は「やっと見つかった!」とホッとしたように顔を綻ばせ、そして次の瞬間、「いや待て、こいつサボってたんだった!」と眦を上げるのだ。その変わり様が面白くていつも笑ってしまって、また、「何笑ってんのよっ」と怒られる。繰り返されるその一連の流れは、ある種かけがえのない時間になった。
そうして、何気ない日常の中、オレの中を占めるめいなさんの割合は少しずつ増えていって。気がつくとその「好き」はいとも簡単に口から溢れ出るようになった。めいなさんにはもしかすると逆効果なのかもしれないが。
物干し竿には大量の白いタオル。ヒラヒラとしていて、泳いでいるみたいだ。空は快晴で、風は優しい。こういう日に登るのはすごく気持ちいいけれど、とりあえず今はお預け。よく乾いてふっくらしているタオルに手を伸ばすと、めいなさんの匂いがした気がした。
「あーもう、私はに話しかける暇があるなら、一周多く周って来なよ」
「ひどいですよー。オレ、めいなさんと話すために急いだのに」
「はいはい、寝言は寝て言ってね」
「本気なんだけどなぁ」
そう言って嘘くさいほど爽やかに笑う真波を一瞥し、私は分かりやすく溜め息をついてみせた。
本気なわけがない、なんてことは分かっているつもりだ。もちろんこれといった根拠はないが、生憎、そこまで自惚れ屋でもない。騙されてはいけない、調子に乗らせてはいけない。
「あはは、先輩、眉間にシワが寄ってますよ? そんなにオレのこと好きですか?」
「人の表情曲解し過ぎじゃない?」
「またまた、照れちゃって」
「……真波のアタマには花でも詰まってんの?」
「うーん、どっちかというと、先輩のことばっかり詰まってますね」
「またそーゆーことを!」
相変わらず、サラッととんでもない発言を投下するヤツだ。しかし顔はやたら良いし、スラリとした体躯。そして甘えたような声で、その声以上に甘い言葉を私に囁くのだ。本当に勘弁してくれ。こっちの気持ちも知らないで。
正直、真波は好みのタイプど真ん中だった。幼さを感じる顔の造形や、人たらし感溢れる瞳、脳内を柔らかく溶かす綺麗な声、目が離せなくなる奔放さ、そして何より自転車に乗っている時の表情……。私がそんなだから、からかう隙を与え続けてしまうのだろう。本当は、彼の口説き文句に、心が揺れて、震えて。どうしようもないのは私の方なのだ。非常に悔しいことに。
だから彼の遊びの標的になってしまう。そして、私も本気では怒れない。遊びだと分かっていても、そんな風に言葉をかけられると、甘く胸が疼く。情けないとは思うのだけれど。
「はあ……。ヒマなら洗濯物取り込んでよ」
「いいですよ、めいなさんの頼みなら」
「はいはい、そういうのはいいから、ほら行った行った!」
シッシッ!としながら真波を睨むと、まるで反省もしてない良い笑顔で外へ出て行った。
「……はあぁぁ」
壁に背を預け、ズルズルとしゃがんだ。なんだろう、真波の相手をすると無駄に疲れる。顔を手で覆い、目を閉じた。
期待してはダメだと分かっていても想いが募ってゆくのは、どう頑張ったって止められない。でも、止めたくないとも思ってしまっていることを知るのは私だけでいい、それでいいのだ。
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初めてめいなさんに会ったのは、箱根学園のオープンスクールに行った時だった。正直、行く気はあまり無かったのだが、委員長に何度も念押しされたし、なにより強豪の選手を少し見てみても良いかも、と思った。面白い人、いないかなって。
その時、自転車部の説明をする役の1人だったのがめいなさんだ。といっても、彼女の場合、前ではあまり説明はせず、個別に質問対応を行う、という感じだった。その彼女に、不思議と目を吸い寄せられた。丁寧に、そして楽しげに箱根学園自転車競技部について語っていた。この場所が好きでたまらない、と目をキラキラさせて。
なんか良いな、とぼんやり思った。部活動紹介自体には別段興味をそそられず、山のことしか考えていなかったけれど、その先輩の印象は強く残った。といっても、学園の帰りに登って降りたらすっかり忘れていて、思い出したのは、箱根学園入学後に仮入部期間が始まってからだったのだが。
めいなさんは今3年生で、マネージャーの中でも特に働き者で、信頼も厚い。テキパキと仕事をこなし、皆のメニューのがどれだけ進んでいるか把握し、適切なアシストを出す。特にマッサージが得意だ。整体師をしているお父さんから学んだらしい。かつ、笑顔や掛け声で部員の士気を上げているような超優秀マネなのである。
オレはどうやら期待されているらしく、サボるとよく追いかけ回された。逃げるのは楽しかったけど、それ以上に、オレを見つけた時の表情の変化が面白い。最初は「やっと見つかった!」とホッとしたように顔を綻ばせ、そして次の瞬間、「いや待て、こいつサボってたんだった!」と眦を上げるのだ。その変わり様が面白くていつも笑ってしまって、また、「何笑ってんのよっ」と怒られる。繰り返されるその一連の流れは、ある種かけがえのない時間になった。
そうして、何気ない日常の中、オレの中を占めるめいなさんの割合は少しずつ増えていって。気がつくとその「好き」はいとも簡単に口から溢れ出るようになった。めいなさんにはもしかすると逆効果なのかもしれないが。
物干し竿には大量の白いタオル。ヒラヒラとしていて、泳いでいるみたいだ。空は快晴で、風は優しい。こういう日に登るのはすごく気持ちいいけれど、とりあえず今はお預け。よく乾いてふっくらしているタオルに手を伸ばすと、めいなさんの匂いがした気がした。